【建設費高騰】資材高・人手不足に打ち勝つ建設・鉄骨加工業界の生産性向上策
- 投稿日時
- 2026/06/11 11:33
- 更新日時
- 2026/06/12 15:28
オフサイト生産に再注目
資材高と人手不足の二重苦に直面する建設業界。中東情勢も影を落とし、数年前に取沙汰された「建てられない危機」が再開発案件の見直しという形で現実味を帯びる。鉄骨需要も落ち込む中、危機感を背景に新たな動きが広がり始めた。現場施工を工場で代替するオフサイト生産の加速やBIM活用、組立て溶接の自動化に鉄骨業界の管理工数を減らす商流横断型アプリまで、岐路に立つ業界の最前線を探る。
建設費の急激な上昇で、大型再開発案件の中止や先送り、公共工事の入札不調が頻発している。円安、世界的インフレ、さらには中東情勢に伴うエネルギー高騰や原材料不足が複合的に絡み合い、建材価格の上昇基調は終わりが見えない。若年層離れと高齢化、「2024年問題」による深刻な人手不足は労務費を大きく押し上げた。膨れ上がるコストを飲めない案件が、軒並み凍結を余儀なくされている。

建設費はどれほど高騰しているのか。(一社)日本建設業連合会の発表では、26年3月の東京の建材価格は21年1月比で平均39%上昇。600Vビニル絶縁電線(141%上昇〈※〉)、ストレートアスファルト(115%上昇〈※〉)など個別に見るとより激しく高騰する資材も多い。さらに今後は中東情勢による建材価格の値上げが追い打ちをかける懸念もある。
※(一財)建設物価調査会の建設物価 21年1月号掲載価格(東京)と26年5月号掲載価格(東京)との比較
人件費の上昇も続く。26年3月の公共工事設計労務単価は21年3月比で27.8%上がった。日建連によると材料費割合を50~60%、労務費率を30%とした場合、仮設費・経費等を含めた全建設コスト(平均)は21年1月比で28~32%も上昇した計算になる。一連の資材・労務費の高騰は構造的要因によるもので、中東情勢が緩和に向かっても安易に下がるとは見込みにくい。結果、様々な工事が全国で見送られている。
相次ぐ計画遅延で鉄骨市場は大きな煽りを受けた。25年度の国内鉄骨需要は343万㌧と前年度比6.5%減少、記録的な低水準だった。365万㌧だった24年が大底ではとささやかれていたが、底割れした形だ。Hグレードの鉄骨ファブリケーターは「今年はややマシになるのでは」と見るが、急回復は望みにくい。ファブリケーターの倒産・廃業も続き「大手と中小で繁閑が二極化している」との声も聞かれる。
■オフサイト化の機運
人手不足と利益の圧迫。これを受け、建設や鋼材加工の工数や手間を「削り尽くす」機運が高まってきた。工場で製造した建物ユニットを現場に運んで組み立て、現場施工を減らすオフサイト建築が、非住宅分野でいま一度注目されている。
配管中心に設備工事のオフサイト化を担うエフライズ(福岡市博多区)の岡本創一朗社長は「20年に事業を始めた当初は見向きされなかったが、今はどの会社もオフサイト化に注目している」と語る。同社はフレーム内に資材を収めた「モジュール」を工場で作り、現場で1カ月かかる施工を1日に縮めた例もある。自社加工の薄板軽量形鋼を用いたスチールハウス工法を展開するカケフ住建(岐阜県可児市)は、同工法を応用しコンビニなど非住宅分野で現場工期を大幅に縮めている。
フロントローディングもより重視され、建材商社の野原グループはBIMデータを設計から施工側に繋ぎ現場作業を省力化するプラットフォームを開発した。鉄骨加工では大東精機が、自動化が遅れていた梁の組立て溶接自動化システムを開発。Hグレードのファブリケーターである辰弥(大阪府泉南市)は、鉄骨業界の管理業務を効率化する商流横断型アプリを提案する。
建設業界の構造的人手不足は今後より厳しさを増すだろう。一時的な現象でない以上、人が減ることを前提とした効率化を進めねば現場は立ち行かない。大胆な発想と柔軟な判断が必要だ。
野原グループ、設計と現場のBIM「断絶」を埋める内装工事向け算出サービス
ロス率10→2%に
建設分野でのBIM活用が加速している。2029年度のBIMデータ審査の本格稼働に向け、4月からBIMデータを活用した建築確認申請「BIM図面審査」が始まったからだ。設計など上流工程でBIM活用が広がり生産性向上への期待が高まる一方、実際の現場ではいまだ紙の平面図が横行し、上流で作成されたBIMデータが下流の施工現場に届かない「断絶」が課題として残る。
そうした中で、建材商社として建設サプライチェーン全体に知見を持つ野原グループは、上流のBIM図面を下流につなぎ、内装現場を省力化するBIM活用型建設支援プラットフォーム「BuildApp(ビルドアップ)」を開発。22年の公開から地道に現場での取り組みを広げ、先行する内装仕上工事向けの「建材数量・手配サービス」では具体的な効果が表れ始めている。

同サービスは、ゼネコンが作成した施工図相当のBIMモデルを受領し、独自プログラムで解析することで工事に必要な建材数量を自動算出する仕組みだ。従来、番頭や職長が担ってきた数量拾い・発注業務は現場業務全体の約3分の1を占めるとされており、これを代替することで施工計画や安全管理といった付加価値の高い業務へ時間を振り向けることが可能になる。
特筆すべきは、実務で普及するBIMモデルが「目的に応じた簡略化」を前提とし、実際に施工される状態とは必ずしも一致しないという業界特有の課題に対応した点だ。壁高さの不整合や未表現部分、性能壁の区別といった実務上の問題を内装工事会社の視点で補正し、実際の施工に使える数量へと変換する。こうした現場の実態に寄り添う設計が、実務で使える数量精度の実現につながっている。
■揚重計画にも活用へ
実証プロジェクトでは延床約3万平方㍍の大規模物件でBuildApp算出の数量のみで資材手配を完了。石膏ボード約1・7万枚の余材率は約2%、軽量鉄骨約7000本も約6%と業界で一般的なロス率10%を大きく下回る精度を実現した。
5月26日、野原グループの協力内装工事会社などで組織する野原装栄会の総会において、同社BuildAppサービス開発統括部 副統括部長の平野洋行氏は「現場担当者から『施工に支障なく完工できた』と定性的な評価もいただき、有効性が確認できた」とBuildApp事業の手ごたえを報告した。
他にも、発注前の予測数量と実際の施工数量を建材単位ではなく施工単位(平方㍍など)で数量を可視化するサービスの展開も予定し、資材手配から原価管理に至る内装工事プロセス全体の高度化を支援する。将来的には揚重計画やサプライチェーンの最適化にも取り組みを広げ、物流をはじめとする内装工事に係る関連業種の効率化にも寄与していきたい考えだ。
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執筆:モノクエ編集部
本記事は、創刊70年超のモノづくり専門紙「日本物流新聞」の編集部が制作しています。製造業に精通した専門記者が、現場取材に基づいた正確で鮮度の高い情報をお届けします。
(日本物流新聞2026年6月10日号掲載)