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【座談会】ロボット×3Dカメラ・AI・センサーによる自動化

人手不足の解消と労働生産性の向上はロボットで解決できる――。そう信じるメーカーやシステムインテグレーター(SIer)、受託開発企業5社にオンラインで集まってもらった。3Dカメラ、AI、センサーの進化は自動化にどんな変化をもたらすのか。  餅は餅屋 ――各領域で特異技術もつ5社 ――まずはご出席者の皆さんが得意とする商材・産業分野や納入実績などを自社紹介を兼ねてお話いただけますでしょうか。 安部健一郎(ファナック) 当社はNCから事業が始まり、その後産業用ロボットが続きもう47年の歴史があります。ロボットは昨年8月に出荷台数100万台というマイルストーンを達成しました。元々は自動車向けから始まったものが航空機、一般消費財、食品、物流、薬品などの分野へと自動化が必要な産業に開発を広げ、最近ではトータル200種類ほどのロボットを展開しています。ただしロボットだけでは自動化はできません。本日お集まりの皆さんのようなパートナーさんの技術をお借りしながら、一緒に人手不足や生産性向上への対応を進めているところです。当社のロボットは大きく2つに分けることができます。白色の協働ロボットと従来型の黄色の産業用ロボットです。この区分は比較的明確で、協働ロボットはロボット導入の敷居を低くして幅広くお使いいただくという路線で世の中で非常によく受け入れられて広がりを見せています。一方で可搬重量が大きくスピードの速いザ・産業用ロボットもやはり根強い需要があり、しっかり台数も出ています。開発としては両者で同じくらい力を入れています。 下間篤(バイナス) 当社は独立系のロボットSIerです。場所は愛知県の稲沢市にあります。得意技術領域は業界問わずビジョン~アプリケーションです。また食品や医薬品の高速処理を必要とするアプリケーションの実績も豊富です。ロボット市場はやや元気がありませんが、当社は数年前からAMR(自律走行搬送ロボット)と協働ロボットを組み合わせたアプリケーション開発をどこよりも早く進めており、新設工場や新規設備を導入されるお客様向けに実績も上がってきています。SIerとしては少し変わった事業として、教育機関向けに実習装置の製造販売をしています。北は北海道から南の沖縄まで全国約450の工業高校のほぼすべてに当社の実習装置が採用されています。 泉悠和(Mech-Mind) カメラには様々なものがありますが、当社は3Dカメラの専門メーカーです。3Dに特化して開発・製造・販売を行い、10種類以上のラインナップを揃えています。同時に3Dカメラと組み合わせてワークを認識するための画像処理ソフトの開発も自社で行っています。当社の強みは画像処理においてAIディープラーニングの機能をもち、従来は認識するのが難しかったワークに対しても効果を発揮するソリューションを用意しています。納入実績としては累計で1万台以上。お客様の業界は自動車関係を中心として物流、建設機械、電気電子部品、家電関係などです。――Mech-Mindさんは中国で創業されて8年、日本法人を設立されてから2年です。海外メーカーが日本市場に参入するハードルは高いと感じていますか。 泉 そうですね、日本市場への参入当初はたしかに敷居の高さを感じました。それでも過去の実績に基づいた技術力をお客様に知っていただき、また実際に製品をご覧いただくにつれて安心して使っていただけるようになりました。技術力を強みにしつつ、トレーニングセンター(今年3月、東京・大田区に開設したMech︱Lab)なども用意してしっかりサポートしています。それとパートナー企業の皆様から当社製品をご説明いただくことで外資系企業という障壁が少し解消されているように思います。 Mech-Mindの大小様々な3Dカメラ  染田貴志(HACARUS) 当社は京都が本社のAIを専門領域にするスタートアップです。AIと言うとディープラーニングが主流ですが、当社はそれに加え、独自のアプローチによるAIも開発しています。両者の組み合わせによって幅広いユースケースに対応できます。ロボットと組み合わせた外観検査に注力し、自動車部品メーカー様を中心に航空部品、電気・電子などの分野に製品を提供しています。自動車部品の領域で差別化のポイントが2点あります。1つは少量のデータでも精度が高いAIを作れること。ワークの経時変化が大きい現場で、エンドユーザー様がAIをアップデートしやすい点をご評価いただいています。もう1つはロボットと組み合わせた多面検査が得意なこと。自動車部品メーカー様が扱う金属部品は形状が複雑で、たとえば撮像位置や照明の角度を変えないとワークのキズ等の欠陥が認識しにくいことがあります。検査員さんが工夫しながら見ているものを専用の外観検査機で置き換えるのは難しい。ところがロボットと当社の汎用性をもつAIを組み合わせることで自動化が可能です。当社が提供するのはロボットと組み合わせた検査装置と、複数のカメラ・照明の制御とAIを使えるSIer様向けのインテグレーションキットなどの各種ソフトがあります。 道本泰之(パナソニックシステムネットワークス開発研究所) 当社の本社は仙台にあり、金沢と浜松に拠点があります。最近では横浜、名古屋、大阪、福岡にも事業所を構え、受託開発を主事業とする会社です。その内容は先行研究、試作、製品開発で、社名にあるようにパナソニックからの仕事が多いのですが、自動車、機械、電機メーカーさんからの受注を増やしているところです。当社がもつコア技術としては無線、パワエレ・エネマネ、画像センシング、スマート端末の4つ。画像センシングについてはコンパクトなエッジAIを用いた3D画像の認識・処理・伝送を得意とし、最近ではこれらの技術を利用してロボティクスの分野に進出していこうとしています。受託開発を事業とするので、ご紹介できる製品というのはありませんが、開発の実績としてはステレオカメラやToFカメラを使ったビジュアルフィードバックによるボタンの制御、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping=自己位置推定と環境地図作成を同時に行う技術)を使ったAMRの制御、あとは非接触充電などがあります。 パナソニックシステムネットワークス開発研究所が提案するバーチャルフェンス 協働ロボットの広がりで厚み増すユーザー層 ――用途はますます拡大へ ――従来技術ではできなかったけれど、新たな手法でここまでできるようになったという事例はありませんか。 安部 ロボットの世界ではできることが日々増えていますが、その中でも協働ロボットにより自動化できる領域が拡大していることが大きいと思います。安全柵で囲って人との作業を分けていたものが、人の領域にロボットが入ってこれるようになりましたから。それに伴い今度はユーザー層が増えてきています。これまでロボットはプログラムが書ける作業者が扱う特別なものでしたが、製造に携わるどんな作業者でも扱うことができ、扱いの簡単さ、導入のしやすさがますます求められてきています。そこで当社はCRXという白い協働ロボットを開発してどんどん機能強化しているところです。その1つがセンシング。センシングには色々な意味合いがあると思いますが、AIを使った画像の扱いもそうですし、ロボットに内蔵されたモーターにもセンサーがあります。元々は安全を確保するためのものでしたが、外力を感じる用途にも適用できます。ロボットを直接手で動かすことによって職人さんの動きをそのままロボットに覚えさせることもセンシング技術によるものです。これは溶接、搬送、組立にも使えますし、最近ではケーキの盛り付けもできるようになりました。私達の肌感覚では用途はこれからますます広がると感じています。製造業になかなか人が集まらないなか、1人のマスターがいればはたくさんのフォロワーがいるような形で自動化を展開できるようになってきました。 ファナックの協働ロボットによるAI箱検出を用いた混載デパレタイジング。左上は3Dカメラによる撮像画像とAIによる検出の様子 下間 コロナ明け以降は、ロボットというよりはロボット周辺で新しいものがたくさん出てきたと感じてます。代表的なものとしてはハンド。従来は難しかった非常にデリケートなワークも掴めるようになりました。エアーで掴むとやはりアナログなので、正しく掴んでいるかどうかわかりませんが、サーボモーターを使ったいろんなエンドエフェクターが出てきているので、非常に正確かつスピードも速い。ひと昔前だと1個掴むのに5、6秒かかり実用性に欠けていたものが、2、3秒を狙えるようなハンドも登場し、自動化できる領域が広がっています。最近は中国製の協働ロボットの性能がかなりいいですね。少し前だと繰り返し精度はひどいし、耐久性でも不安。ところが先日、とある機関から中国製ロボットの性能テストをさせていただきました。当然いいところ、悪いところはあるのですが、驚いたのは性能テストを行った中国製ロボットは、ISOを取得しています。これまでには見られなかったことです。繰り返し精度は日本の協働ロボットと遜色ありません。エイジングに関しても1週間動かし続けてもちゃんと動きます。かつてはモーターに熱を帯び、スピードが落ちたりしたものですが。それで価格が100万円前後なので日本のメーカーさんからすると非常に脅威でしょうし、中国製ロボットを採用する機会は増えていくのではないかと思います。あとリモートでロボットを動かす技術が非常に高まってきているのを感じています。多品種や難しい形状のワークは自動化が難しいのですが、人の目で見ながらロボットをリモートで動かすと実は自動化できる工程は結構あります。その動きのデータを蓄積すれば、将来的にそれを使って自動化することもできそうです。人手不足なので、人が集まりやすい場所にオペレーターを集めて地方の工場のロボットを動かすという手もあります。 泉 カメラに関しては、反射が強い、色が黒い、大型のワーク、さらには周りからの光の影響は従来は苦手とされてきました。これに対して我々はハードやアルゴリズムの改良を重ねることで、安定した3Dデータを取ることができるようになってきました。それでも難しい対象物は、AIディープラーニングを利用して安定して検出することが技術的にできるようになりました。自動化の需要が高まっていますが、その背景として1つは自動化のニーズが複雑化してきていることがあります。多品種に対して設計で対応しようとすると工数もお金もかかってしまいます。当社のカメラを使うことによってそれを減らすことができます。AGV、AMRが運ぶ対象物にはどうしても傾きなどが発生しますので、3Dカメラが有効で、採用増に繋がっていると思います。もう1点は、人からの置き換えでは、従来の技術では防ぐのが難しいミスに対して、先ほど申し上げたような当社の技術改良により安定して検出できることが、お客様の要望に応えられているのではないかと思います。3点目として設備の安定化があります。当社のカメラは安定した3Dデータを取ることができるのでチョコ停を減らすことに繋がります。 ――先日愛知県で開かれたロボットテクノロジージャパンでは認識しづらいワークを2Dカメラを2台使うことで克服するという提案もありました。 泉 当社としては3Dカメラ1台で認識するスタンスですが、それでは目指す認識精度が達成できないというお客様に対しては、2Dカメラやセンサーを加えて補正するというケースがあるかもしれません。 染田 当社が得意とする外観検査の領域について需要が高まる背景は、すでにお話があった通りでワークの少量多品種化があります。検査用に専用機を作ってしまうと、対象物が変わるたびに画角などを全部調整し直さないといけません。だからロボットを使った検査装置の汎用性が非常にマッチします。また、検査員さんはどんどん高齢化しており、検査員さんを採用して教育したいけれども、そもそも人が集まらないという事情もあります。検査領域に大型のロボットを安全柵つけて導入するのはなかなか難しい。それに対して協働ロボットであればハードルは大きく下げられます。当社はワークの変化に追随しやすいAIを開発してきました。たとえば1日に数千個、数万個つくるアルミ鋳造の金属部品では、経年によって金型が少しずつ変化していきます。それに伴い今日の良品と明日の良品も少しずつ変わっていき、我々はこれをドリフトすると表現したりします。実は従来のAIはドリフトが苦手であることが多い。ある良品データから学習したAIは、許容範囲内にある良品でもNGだと過検出することがあります。それに対し、我々は少量データでAIを作れるので、ワークの変化をキャッチアップしやすい。製造現場に適したAIを開発したことで導入する企業が増えており、検査の自動化はこれからどんどん進んでいくのではないでしょうか。 撮像→検査を効率化するHACARUSのソリューション 道本 人とロボットの共同作業が増えているなかで、当社は3Dセンシングによって両者の位置関係を正確に把握して、接近しすぎると警告を出す「バーチャルフェンス」を提案しているところです。ToFカメラやステレオカメラは数万円からと比較的安価で購入でき、それらを複数台同時に使うことによりロボットと人を複数の方向から撮影することができます。得られた3Dの点群をキャリブレーションして合成して1つの画像にまとめる技術を持ち合わせています。従来の高価な3Dセンサーを使ってもロボットや人の周辺に見えない部分ができてしまいますが、それを防ぎ、位置関係をより正しく把握することができます。これによって作ったバーチャルフェンスに触れればロボットを停止し、人との接触事故を予防できます。 ――AIを使うにはデータ量が膨大になりがちです。また過検出問題の指摘もありました。 道本 そういう問題はたしかにあります。現場のデータを逐次入手してAIを更新し、追加学習していく取り組みも並行して行っていますが、この実現にはもう少し時間がかかると思います。 安部 当社では物流分野で箱の検出を、AIを使って行っています。これもHACARUSさんの外観検査と同じで、箱は形状だけでなく貼られたラベル、テープ、模様があり、また2つの箱がきれいに密着すると画像的には1つに見えてしまう。あるいは段ボール箱を閉じると継ぎ目ができますが、それが継ぎ目なのか、箱と箱の間の境界線なのかを識別するのが非常に難しいことがあります。それを考えると人間の目は本当に優秀です。ロボットが行う場合、たくさんの画像で学習させる必要があり、新しいものが出てくる度に補正学習が必要になります。当社ではこれらを事前に学習しておくことで、ユーザーは補正学習しなくても使える使い易さを実現しています。 染田 人間の目の凄さ。AIを扱っている私も痛感するところです。 100点目指すとロボット導入進まず ――欧米では「まず使ってみよう」 安部 当社の方向性としてはお客様が求めているものを開発しようというスタンスです。冒頭から申し上げているようにロボットで人手不足を解決していく。これはほぼすべての産業で共通のテーマです。将来的にはロボットが自発的に考えて動くことになりそうですが、その前にまず人の作業をロボットにきちんと教え込ませる必要があります。もう1つはシミュレーションの世界です。バーチャルの世界と現実の製造ラインをうまく活用することで、従来は作らなければ確認できなかったものがデジタル上でできる方向です。さらにデータの重要性がますます高まってきており、IoTを絡めたネットワークのセキュリティの重要性も上がってくると思います。また自動化システム全体として考えると、ロボットとそれ以外の装置との親和性が重要になります。多くの人がロボットを動かせるように、たとえば当社はPython(パイソン=オランダで開発され無料公開されている、少ないコードで簡単に書けるプログラム言語)のスクリプトをそのまま実行できるようにすることや、ROS(Robot Operating System=米国で開発されたオープンソースソフトウェアプラットフォーム)の利用、あるいはソフトPLC(Programmable Logic Controller=多数の機械の電気制御をデジタルで行うデバイス)をロボットコントローラーの中で実行できるようにするなど、汎用的に使えるようなオープン化を進めています。 下間 ロボットの導入にはある程度費用がかかるので、国の支援策が必要です。あと、投資に対する認識が現実離れしているお客様も多いです。「費用は、3年以内で投資効果がでること」といわれることもあります。装置は会計上、大抵10年の償却です。その考えのずれを変えていく必要があると感じています。あと、欧州のロボットメーカーさんやSIerさんと話をすると、歩留まりがほぼゼロなんていうロボットアプリケーションはやはりなくて、稼働率はせいぜい8割いけば上出来、というかたちでロボットが広く採用されているようです。100点を目指すとロボット導入は難しいので、運用面でカバーするとか、商品開発の段階から自動化しやすい仕様にするとかすればロボットはもっと導入されると思います。特に当社のある愛知県はご存知のように自動車関係の会社さんが多く、導入ハードルが非常に高い。日本は過剰に敷居が高いように感じます。 ワーク重量30㌔グラムまで対応可能なAMRと協働ロボットを組み合わせたバイナス製MoMaアプリケーション 安部 まさにおっしゃる通りで、自動化に関して欧米はとりあえずやってみよう感が非常に強くて、導入してから考えようみたいなところがあります。逆に日本はこれを入れたらちゃんと元が取れるだろうかと厳密に考え、石橋を叩いて渡らないようなところがあります。 下間 先ほどのROSなどの共通言語は非常に求められています。エンドユーザーさんもSIerさんもそうです。現状では取り扱う各メーカーさんのプログラミングを全部覚えないといけませんから。ティーチペンダントもメーカーさん毎に違います。これらを共通化すればロボットは導入しやすくなると思います。 安部 元々はロボットメーカーが独自のものを用意すればお客様を囲い込めると考えていた時代もあったと思いますが、先程申し上げましたようにPythonスクリプトなどシステム構築しやすいプラットフォームを提供しています。 泉 製品軸でお話すると、当社も使いやすさの向上が非常に課題になってくると考えます。現在も一定評価をいただいておりますが、今後さらに改良を予定しています。3Dカメラは少し専門的な製品に見えてしまうところがあるので、使いやすさを向上することでより広いお客様に使用いただけることを目指しています。たとえばソフトの操作画面。我々はある程度の専門性を満たしつつ操作しやすくするためにフローチャート方式を採用しています。それでも少し難しく感じるお客様がいらっしゃいます。そこは改善する必要があると思います。今後広いお客様に使っていただくうえで欠かせないのはやはりパートナー企業様の存在です。パートナー企業様にいかに使っていただきやすいものにしていくかは本当に重要な課題だと思っています。 染田 先ほど下間さんがおっしゃいましたが、補助金の充実には私も期待しています。当社の製品は一度使っていただけると、その良さや価値を認めていただけますが、そこに至るまでなかなか大変ですから。また我々がハードルと考えているのは、お客様が求める検査の条件がシビアになってきていることです。対象物を大きくしたい、タクトタイムを短くしたい、欠陥の基準をより厳しくしても検査できるようにしたい……と。全ての要望に対応できるハードウェア構成を整えるのは困難です。我々はAIが強みですから、撮像されてからが勝負と、その部分は自社のノウハウを最大限に発揮できますが、様々なハードウェアの構成に対応していくのはまだまだ未知の領域もあって、大きなチャレンジになります。なのでロボットコントローラーに特殊なアタッチメントをつけて高速撮像する技術をもつ会社さんや、高速で動く関節モジュールを作る会社さんと連携を進めているところです。 ――ハードウェア構成としてはほかにどんなものが考えられますか。 染田 やはりカメラ、照明、ロボットが重要です。組合せのパターンは無限にあるので、我々がすべてを装置として納める、という発想ではなく、SIerさんとパートナーシップを組んだり、デジタルツインを活用しながら外観検査の自動化に貢献したいと考えています。 道本 当社のバーチャルフェンスを実現するための3Dセンサー、カメラの精度はとても大事になってきます。ToFカメラ、ステレオカメラは近距離ほど精度は高いのですが、数㍍離れた場合の距離精度は数~10㌢の誤差がでる場合があります。その場合、バーチャルフェンスを長距離のレンジで機能させるのはなかなか難しくなります。長距離レンジでも数㌢以下の精度で測れる3Dセンサーが開発されるとよいのですが。もちろんLiDAR(Light Detection And Ranging=光を利用した距離・形状計測)を使えばできますが、当社としてはカメラの良さを追求したい。精度だけではなく、点群の密度も維持する必要があります。あと泉さんがおっしゃったように、黒いもの、反射があるものはやはり苦手で、工夫が必要です。エッジAIについては、現場で画像を追加学習することで改善していくことができると思いますが、この際PCやクラウドが介在します。究極的にはエッジAI単体で学習できることを目指したい。学習までできなくても、AIの精度が落ちたらアラームを出すくらいのことができればと考えています。 業界の地位を向上し、連携加速へ ――標準言語・プラットフォームの広がりがカギ 安部 企業間の協業は大変重要視しており、まさに今取り組んでいるところです。我々ロボットメーカー単体でできることは限られています。たとえばMech︱Mindさんの3Dカメラとの連携があります。当社にも3Dビジョンはありますが、それだけではカバーできないこともあるためです。またSIerさん、AI開発企業さんとの連携もあります。それぞれの領域で得意としているところと連携することで、これまでできなかったことができるようになると考えています。 ――この技術がもう少し向上すればこんなこともできるのにと感じていらっしゃることはありませんか。 安部 できないことは山ほどあります(笑)。人間の目や手足は本当に有能です。当社はロボットメーカーですが、人間を排除するなんていう考えは一切なく、人のパートナーとしてのロボットをどう向上すればよいか、人が一緒に仕事をしたいと思えるロボットはどうあるべきか。そんな風に考えています。 下間 ロボットSIer業界の課題はやはり人手不足です。他の製造業さんと同様ですが。SIerの地位をもう少し高め、世間の人々に知っていただきたいです。インテグレーションの仕事は楽しいということを我々が日々伝えていくしかないのかなと思ってます。ロボットを含む装置を作り上げるのにかかる費用は一般的に人の技術費、購入品代、加工品代に分かれます。このうち購入品、加工品が原価の半分以上を占めます。大半は買い物ということです。ですからSIerの仕事は各ロボットメーカーさん、カメラメーカーさんなどと協業しないと成り立たないし、メーカーさんの情報、最先端の技術などもいち早く入手していかなければ取り残されてしまいます。お客様にいい提案もできません。だから当社にとって協業は必要不可欠です。 泉 研究開発、実証実験については、中国で当社が関わった事例があります。電気自動車への自動充電を、AMRの上に載せた協働ロボットで行うものです。スーパーやホームセンターの駐車場を想定したものです。私が申し上げたいことは、製造現場以外の領域でも将来的にはロボットの利用が広がっていくということです。その領域に対して我々は製品としてどうキャッチアップできるかという課題が出てくると思いますし、そうした新しい取組みが増えていきやすい環境――法整備なども当然関わってくると思いますが――を国なりが整えてもらえるとありがたいと思います。 染田 いわゆるIT系のスタートアップの目線で期待感のような話をさせていただければと思います。AIを利用したシステムに対する敷居は一時期に比べるとかなり低くなってきていると感じます。でもやはり情報技術とハードの組合せはなかなか難しい。その要因は大きく分けると2つあり、1つは費用面。とりわけアーリーステージのスタートアップにとってはハードルが高いです。もう1つは知識の部分のギャップ。後者に関しては、先ほど安部さんからお話がありましたが、たとえばPythonやROSが標準技術として対応が進んでいけば当社にとっても取り組みやすくなります。あと技術者不足はIT系にも当てはまり、ITと様々な技術をかけ合わせることができる人材となるとなおさら少ないのが実情です。 道本 当社は受託開発の専門会社として幅広い技術を有していますので、皆様との協業体の一部になれたらと思います。すでに当社は様々な企業様と連携するのがもう日常的になっており、カメラ開発も他のメーカーさんと一緒に行っています。またそれを用いてロボット向けのビジュアルフィードバックやSLAM、ロボットアームの制御の開発も一緒にやらせていただいているところです。ただし当社には現場がありませんから、お客様と協議をしながら現場のことを色々学ばせてもらっています。一方で受託開発だけでなく、お互いに将来の種まきのために無償で連携するということもやっています。たとえば先ほどのバーチャルフェンスの開発は、お客様に現場を提供していただいてデータを取って、一緒に研究開発させていただいたりもしています。この成果はきっといろんな場面で生かせると思います。 ――多様な企業との協業は不可欠ということがはっきりしました。本座談会を機にご出席いただいた皆さんの間でもビジネスをさらに拡大していただけると幸いです。本日はありがとうございました。 (2024年9月25日号掲載)

2024年10月01日

脱炭素化は進むのか

18世紀の産業革命による工業化とともに、エネルギー消費は爆発的に増加している。産業革命以前は約6億人だった世界人口は、現在では70億人を超えるまでに膨れ上がった。それに伴う大量のエネルギー消費は、地球温暖化の弊害を引き起こした。各国が脱炭素化に向けたアクションを起こしているが、なかなか歯止めがかからないのが現状だ。 現在の気温は、産業革命前の水準から約1・2℃上昇しており、世界の排出量はまだピークに達していない。国際エネルギー機関(IEA)がまとめた公表政策シナリオ(STEPS)は、エネルギー関連のCO2排出量は2020年代半ばにピークに達すると見ている。 現状のCO2排出量は依然として高い水準のままであり、このままだと2100年の世界平均気温はプラス約2.4℃まで上がり、パリ協定の目標をはるかに上回ることになる。 また世界の人口は2050年までに約17億人増加すると予想されているが、そのほとんどがアジアとアフリカの都市部になる。特にインドは東南アジアやアフリカを抑えて世界最大のエネルギー消費国となっている。これら経済圏のエネルギー需要増を満たすための低排出方法を見つけることが、世界の化石燃料使用量の減少に直結する。だが、現状は安価な石炭火力による発電がメインとなっている国が多いのが現状だ。 IEAの年次報告書「2023年版世界エネルギー見通し」では、太陽光や風力、電気自動車、ヒートポンプなどのクリーンエネルギー技術の驚異的な台頭により、電力供給システムが再構築され、この10年間で世界のエネルギーシステムは大きく変容すると予測している。 その一方で、これらクリーンエネルギーの進歩は、各国政府の現在の政策設定によるものと評価しているが、地球温暖化を1・5℃に抑えるという目標を維持するためには、さらに強力な対策が必要であるとも指摘している。 原子力については、2011年の福島第一原子力発電所事故後の10年間は世界的に新規建設が見送られたものの、「エネルギー需給状況の変化により、原子力復活の機会が生まれつつある」と分析している。各国が中東情勢やウクライナ侵攻などの地政学リスクに端を発するエネルギーリスクにさらされた結果、主に欧州を中心に「原発=悪」から一転「原発=クリーンエネルギー」へとマインドが変化している。 その原子力発電設備容量について、STEPSでは、2022年の4億1700万kWから2050年には6億2000万kWに増加し、その伸びは主に中国とその他新興国、開発途上国が占めるとの見方を示している。 昨今のエネルギー危機への対応は、クリーンエネルギー移行を加速させつつ、エネルギー安全保障上の課題に取り組むことに重点が置かれている。最近の政策展開により、中国、EU、インド、日本、米国などの主要国で再生可能エネルギー導入が活発化している。 太陽光や風力が、エネルギー供給をより迅速に脱炭素化するための再生可能エネルギー普及の中心的技術であるが、原子力発電の利活用も主要国で進んでおり、日本、韓国、米国などの国々では既存原子炉の運転期間延長を目指し、カナダ、中国、英国、米国、EUでは新規建設の計画が進んでいる。 ■再エネ利用も着実に伸長 2023年に行われた調査によると、2022年度の全世界での総エネルギー発電量は2万9165TWh(テラワット/時)であり、そのうち再生可能エネルギーの発電量は、約3割を占める8538TWhだった。  うち太陽光発電によるものは1323TWhであり、全体の4.5%にあたる。これは石炭の1万317TWhや、天然ガスの6631TWhと比べると物足りないが、前年度に比べると約300TWh伸びており、着実に成長を遂げている。こちらの発電量は中国が首位、アメリカが2位、次いで日本となっている。 太陽光発電において日本の発電量は世界3位 欧州を中心に採用が進んでいる風力発電は2105TWhであり、全体の7.2%に留まる。地球温暖化の進展を食い止めるため、2050年までのCO2排出量実質ゼロを達成するには、2030年までに7400TWhに発電量を増やさねばならない。 水力発電によるものは4334TWh、14.9%となっている。発電量では多くの川と国土を持つ中国やブラジル、カナダが多い。バイオマス・地熱発電は777TWh、2.7%。バイオマスによる発電は、7割ほどが木質ペレットやサトウキビの搾りかすを燃焼することによって行われているため、広大な森林や農地を保有している中国やブラジルの発電量が多くなっている。一方、地熱発電は火山活動が活発な地域でのみ行えるため、国際的にはあまり導入されていない。 日本全体の年間電力需要量に対する自然エネルギーの割合は、2023年(暦年)の平均値で22.3%となり、2022年の年平均20.5%から増加した。内訳は太陽光発電が10.7% 。風力発電の1.2%と合わせて自然エネルギー割合は11.9%となった。 太陽光は2022年の9.6%から増加しており、水力発電の7.8%より割合が大きくなっている。バイオマス発電は前年の1.9%から2.3%に増えている。一方、2023年の原発の割合は9.0%となり、前年の5.9%から増加している。これらを合わせると約3割が化石燃料由来のエネルギーではない電力供給に結びついている。 政府目標では2030年までに再生可能エネルギー電源構成比率を現在の「22〜24%」から「36%〜38%」と目標を掲げているが、年率にして約2%増ならば不可能な数字ではないと言えそうだ。 (2024年9月25日号掲載)

2024年09月25日

エネルギー安定供給とGX実現へ 

ここ数年、地政学リスクや為替変動により、エネルギー価格は上昇を続けている。資源を持たない日本は、エネルギーの安定供給、脱炭素を実現しつつの経済成長という難問を抱えている。原子力から再エネまでさまざまなエネルギーのベストミックスを模索する中、新たな技術の活用も期待されている。 エネルギー自給率の低い日本は、海外から輸入する化石燃料に大きく依存している。1970年代のオイルショックでエネルギー源の多角化が進んだが、東日本大震災以降は再び化石燃料への依存度が高まっている。  一方で国際エネルギー価格はロシアのウクライナ侵攻に伴う急騰から落ち着きを見せているものの、円安基調が続いており国内での供給価格は一向に下がらない。資源エネルギー庁の試算では2022年の化石燃料の輸入金額は2019年に比べ22.4兆円増加。これが要因となり2022年は過去最大の貿易赤字(20.3兆円)を記録している。 また世界のエネルギー情勢を巡る不確実性は増加の一途を辿っている。着地点の見えないウクライナ侵攻やイスラエル・パレスチナ情勢の悪化、さらに紅海やパナマ運河といった海上輸送の要衝でも紛争や災害が発生し、安定供給への懸念が生じるなど、サプライチェーン全体の観点からも、エネルギーセキュリティの確保が難しくなっている。 今後の電力需要予測だが、電力広域的運営推進機関が2024年1月に公表した今後10年の想定では、人口減少や節電・省エネ等により、家庭部門の電力需要は減少と予測している。一方で産業部門は生成AIの伸長やDXの普及により、データセンター・半導体工場の新設が各地で行われていることから、電力需要は大幅な増加を予測している。2030年までに日本の発電電力量は約1兆㌔ワット前後と見られているが、これが2050年には1.35~1.5兆㌔ワットにまで増加する見通しだ。 エネルギーの大半を海外に頼る構造が続く限り、日本は今後も価格高騰等のリスクに晒され続ける。エネルギーを巡る不確実性が高まる中、徹底した省エネや脱炭素エネルギーへ導入を通じて、エネルギー危機に強い需給構造への転換を進めていくことが求められている。 ■太陽光発電の技術革新に期待 世界では先進国を中心にカーボンニュートラル(CN)、GXに向けた取組が加速している。日本はCNに加えて「エネルギー安定供給」「経済成長」も求められている。資源エネルギー庁の試算による2030年の発電コスト試算を見ると、東日本大震災以降「悪者」とされてきた原子力による発電コストが最も安い。近年、世界各国でも原子力発電再導入の動きが高まっているのも、コスト面やCO2排出量を鑑みての選択と言えよう。 一方で、再生可能エネルギーの多くは化石燃料による発電より高コストになりがちだ。しかしコストの低減と安定供給を目指す日本は、さまざまな選択肢をベストミックスしていかなければならない。 再生可能エネルギーの中でも、比較的低コストでの運用が可能とされているのが太陽光発電だ。このジャンルにおいてパイオニア的な存在であった日本だが、FIT制度の終了により固定買取価格が下がるとともに、太陽光電池の価格競争が激化。中国メーカーが次第に存在感を強め、国内メーカーは続々と撤退を余儀なくされている。 一方で、太陽光電池の技術革新による巻き返しも期待されている。現在、太陽光パネルの主力となっているのがシリコン系太陽電池。こちらは耐久性に優れ、変換効率も高いという特徴を持つ。しかし、太陽電池自体の重さや、屋外で耐久性確保のためのガラスの重みによる重量があるため、設置場所が限られるという問題がある。 これを解決するとされているのが、ペロブスカイト太陽電池だ。シリコン系太陽電池が重くて厚みもあるのに対し、ペロブスカイト太陽電池は小さな結晶の集合体が膜になっているため、折り曲げやゆがみに強く軽量化が可能なゆえ、設置場所を選ばない。また材料をフィルムなどに塗布・印刷して作ることが可能で、製造工程が少なく、大量生産ができるため、低コスト化も見込める。 加えてペロブスカイト太陽電池の主な原料であるヨウ素の生産量において、日本は世界2位、シェアの約3割を占めている。そのため、サプライチェーンを他国に頼らずに安定して確保できるメリットもある。 現在の課題として耐用年数の低さと大面積化が難しい点が挙げられているが、技術的なブレイクスルーが起これば、再び国内モノづくり企業による太陽光電池シェア拡大も夢ではない。 (2024年9月25日号掲載)

2024年09月25日

「ギガキャスト」の現在地

テスラが先鞭をつけた、車体パーツを一度の鋳造で製造する「ギガキャスト」。いち早く追随したのが世界一のEV大国・中国の自動車メーカー各社だ。ここ数年、外資系自動車メーカーから地場メーカーまで同技術を導入する動きが活発化する一方で、ブームに対するマイナス要因も浮上しつつある。 部品点数の大幅削減による明確な生産工程の簡略化を武器に、中国の自動車産業で爆発的なブームとなりつつあるギガキャスト。中国汽車工業協会は、ギガキャスト関連市場は2021年の85億元(約1785億円)から2025年には323億6000万元(約6800億円)に達すると予測しているほどだ。 そのギガキャストマシンにおけるトップランナーが中国の工作機械メーカー・力勁科技集団(LKテクノロジー)だ。鋳造技術に強みを持つ同社によるギガキャストマシンのグローバルシェアは9割を超える。 売り上げも右肩上がりだ。同社の売上高は2021年に3億元(約630億円)から2022年に5億元(約1050億円)を突破した。型締力6000㌧以上のダイキャストマシンの受注実績は2021年18台、2022年度28台、2023年38台と急成長している。生産能力も大幅に強化している。2023年までは月産4台体制だったが、2024年1月の杭州湾工場の竣工により、月産9台体制へと倍増。「今後は杭州湾工場の生産能力をさらに増強し、月産14台体制へ移行する」という。同工場では最大2万㌧クラスのマシンの製造も可能という。 トヨタが開発中のギガキャストパーツ テスラをはじめ、トヨタやフォルクスワーゲンなど中国に生産拠点を持つ大手自動車メーカーに加え、中国のローカルEVメーカー、Tier1クラスの部品メーカーがこぞってLK社のギガキャスト機を導入。これまでアンダーボディ中心だった鋳造から、ボディ部分の一体成形に取り組むメーカーも出始めており、「おもちゃのクルマのように」というイーロン・マスクの発想がまさしく具現化しつつある。 このギガキャストに対応する金型メーカーの間では、すでに熾烈な価格競争が始まっている。中国で事業展開する日系金型メーカー幹部は、「ギガキャスト用金型を納入し始めた2021年頃と比較すると、いまはおよそ2割安い価格じゃないと勝負できなくなってきている」と嘆息を漏らす。 ■日本国内での採用事例も 国内の工作機械メーカーもギガキャストマシン製造へ動き始めている。先鞭をつけたのはUBEマシナリーだ。同社は国内1号機となる型締力6500㌧の「UB6500iV2」を開発。こちらは静岡県のリョービ菊川工場に納入され、2025年3月の本格稼働を目指している。 また同社は型締力9000㌧の「UH9000」を開発。こちらは愛知県みよし市のトヨタ明智工場に納入される見通しだ。当面は部品や工程の削減、車体の軽量化が実現可能かを見極める試作用で、量産は想定していない模様。ちなみに型締力9000㌧クラスのギガキャスト機で製造されている車の代表格として、テスラのサイバートラックが挙げられる。このことから、トヨタも大型SUVクラスEVのアンダーボディ製造に取り組むのではないかと見られている。 UBEマシナリー「UB6500iV2」 一方で、ギガキャストマシンの導入において、大きな課題とされているのがその運搬方法だ。前述のUBEマシナリーの型締力6500㌧タイプは、全高7.9㍍、全長26.6㍍、全幅8.6㍍とかなり巨大。総重量も約600㌧と言われている。一方で日本の高速道路の重量制限は車両含め36㌧、一般道で27㌧となっている。重量物における公道運搬の代表例として新幹線車両が挙げられるが、0系の車体は約55㌧、N700系が約44㌧と重量制限を軽くオーバーしている。こちらは許可を得た上での運搬が可能となっているが、ギガキャストマシンに比べればかわいいものだ。 ある程度部品をばらした上での運搬し、現地で組みつけるのが現実的だが、それでも主要部品を運ぶとなると、運搬ルートにある所轄の警察機関から許可を取りつつの運搬になる。しかし、その許可を取得するにもかなりの時間を要するとも言われている。 それでも最新技術の導入で市場競争力を高めたい、と目論むメーカー、Tier1が水面下で着々とギガキャストマシン導入の道筋を探っている。それに応えるようにギガキャストマシンのトップメーカー、LKテクノロジーも日本法人「LKジャパン」を立ち上げ、国内メーカーへのアプローチを始めている。 だが、現状ではこちらも機械の運搬が大きな課題として挙げられている。「ギガキャストマシンを輸出するとなると、通常のコンテナ輸送では不可能。船をチャーターする必要があり、輸送コストがかなり高額になる」(中国現地機械ディーラー)という。 サプライチェーンを含め、今後のクルマ作りに大きな影響を与えるギガキャスト。だが、その先駆者・テスラではギガキャスト導入の計画が後退している。廉価な中国EVに対抗すべく、2万5000ドルの低価格モデルをメキシコで生産、北米市場を中心とした展開を画策していたが、市場環境の悪化とコスト競争が激化。計画の見直しを余儀なくされている。 「生産性の高さ」と「コストダウン」というかつてないメリットをもたらすギガキャスト。そのライン構築には付帯設備を含めて1台数十億円は下らない。供給過多で厳しい価格競争が繰り広げられているEV市場において、減価償却どころか作るたびに赤字、という状況にもなりかねない。 さらに産業用ロボットの低価格化も影響を及ぼしている。設備更新において、中国地場ロボットメーカーによる「安価でそこそこ高性能」なロボットへの置換で済ます自動車メーカーも出始めている。 ギガキャストはブームで終わるのか、スタンダードとなりうるのか。今後の動向を注視したい。 (2024年9月10日号掲載)

2024年09月11日

EVか内燃機関車か

ここ数年、工作機械業界における決まり文句は「様子見が続いていて、自動車メーカーの設備投資が進まない」。EVなのか内燃機関車なのか。世界の潮流を見るとEVに傾いているように見えるが、マクロで見た自動車市場は内燃機関車がEVを圧倒している。EVシフトがこのまま続くのか、内燃機関はまだまだ使われるのか。各国の情勢を紐解く。 国際自動車工業会(OICA)が発表した2023年のグローバル新車販売台数は、前年の8287・1万台から985.4万台増(前年比12%増)の9272・5万台と大きく伸長。一方でEV(ハイブリッド含む)の販売台数は約1400万台。うち60%が中国、25%が欧州、10%が米国で販売されており、世界のEV販売総数の約95%を占めている。 つまり次世代自動車は新車販売の2割にも満たず、一部の国や地域を除いていまだに主役は内燃機関車というのが現実だ。 EV(ハイブリッド含む)のもっとも普及率が高い国はノルウェーで93%、次いでアイスランド71%、スウェーデン60%、フィンランド54%、デンマーク46%、ベルギー41%とヨーロッパ諸国が上位を占めている。ヨーロッパ全体の普及率は21%で、2023年に販売された車の5台に1台以上がEVとなっている。 ヨーロッパ以外の国の普及率は、中国が38%ともっとも高く、次いでイスラエル19%、ニュージーランド14%。我が国日本の普及率は3.6%にとどまる。 EV普及がもっとも進んでいる欧州を見てみると、普及率の高い北欧諸国は総じて再生可能エネルギーの供給が潤沢な国々だ。「再エネでEV」こそカーボンニュートラルを目指す上で最も理想的なカタチと言える。 一方で様々な問題も浮上している。まずEV普及率首位のノルウェーだが、自国ではクリーンエネルギーを使用しているが、二酸化炭素を生み出す石油と天然ガスを他国に売って外貨を獲得している。さらに同国はEV普及を強力に推進しているものの、EVインフラ整備に腰が重く、休日になると給電ステーションは激しく混み合う。 さらに道路から発生する粉塵も問題となっている。EVは同クラスの車体のガソリン車に比べ車重はおよそ1・5倍。タイヤの摩耗に至っては4~5倍に達する。それゆえタイヤとアスファルトからの粉塵が発生しやすく、首都オスロでは健康に悪影響を与える水準にまで達している。 ■中国製EVの供給過多 他の欧州諸国を見てみると、EV販売はここにきて急失速している。最大の市場であるドイツは電気代の高騰に加え、EV購入補助金の打ち切りが追い打ちをかけ販売が低迷。加えて世界2位の販売台数を誇るフォルクスワーゲンがドイツ国内での生産工場の閉鎖を視野に入れていると発表。フォルクスワーゲングループのオリバー・ブルーメCEOは「欧州の自動車販売は深刻な状況。経済環境の厳しさが増す中、製造拠点としてのドイツは競争力の面で遅れをとりつつある」とし、工場、サプライチェーン(供給網)、人件費の削減計画を推し進める構えだ。 EV導入に積極的だったイギリス、フランスも段階的に支援を縮小しており、販売への影響が出始めている。加えて中国からの輸入、組立車は補助金の適用外とする国も出るなど、内燃機関車回帰、というよりは自国の自動車産業の保護及び中国外しという面が色濃い。 一方、EV生産、販売共に世界首位となった中国は、新車販売における新エネルギー車(NEV=EV、PHEV、FCV)の割合を2027年までに45%に引きあげることを目標にしている。もともと2025年までに20%以上、2030年までに40%以上、2035年までに50%以上に引きあげることを目標に掲げていたが、早々にこの目標を達成したため、2023年に目標値を引きあげた。さらに2035年には新車販売におけるガソリン車はすべてハイブリッド車にするとし、ガソリン車は市場から排除するとしている。 2010年から導入してきたEVの購入補助金を、段階的な削減を経て2022年末に終了したが、販売台数は伸長を続けている。2023年は補助金なしであったにもかかわらず、販売台数は前年を上回った。 これにはカラクリがある。まず販売台数の伸びに寄与したのは50万円EVとして爆売れした「宏光mini」をはじめとする100万円以下の低価格帯EV。またEVの供給過多による各社のダンピング合戦が熾烈に行われている。スマートフォン大手のシャオミもEV市場に参入し「SU7」を上市、わずか27分で5万台の予約を記録した。だが「1台売るごとに数十万円の赤字」という。シャオミ同様に市場参入したファーウェイも同様だ。「本来30万元(約600万円)以上で売らなければ元が取れないが、競争力維持のため27万元に設定した」(同社)という。これらの異常なまでの競争が働いた結果、販売が伸長している側面も見逃せない。 ■ハイブリッドシフトが進む国も 供給過多のEVに変わって、新たなユーザーを取り込もうという動きも出ている。EV中国最大手のBYDは、最低グレードの希望価格が7万9800元(約170万円)の格安ハイブリッドセダン「秦PLUS」を市場投入、さらに6月には航続距離2000㌔というハイブリッドセダン「秦L」をリリース。国内外のニーズを捉えていく構えだ。 BYDのハイブリッド車「秦PLUS」 顕著なハイブリッドシフトが見られるのが米国だ。同国内における2023年度のEV販売台数はおよそ119万台、前年度からの増加率は約47%にとどまった。一方で、ハイブリッド車は前年比65%増の124万台を記録している。 創業以来、順調な伸びを見せてきたテスラ。だが2024年4~6月期決算は売上高こそ前年同期比2・3%増の255億ドルと微増したが、最終利益は45.3%減の14億7800万ドルと2四半期連続の減益となった。在庫ばかりが積み上がる中、従来の「値引きをしない」スタイルから一転。「モデルY」は30万~50万円のディスカウントを決行している。 他の自動車メーカーもEVの急失速に頭を悩ませている。フォードはEVに120万㌦(約1兆9000億円)の新規投資を行うとしていたが、これを延期。EV向けに建設されたカナダ工場もガソリン、ハイブリッドSUV生産にシフトする見込みだ。 日本国内でもハイブリッド車、エンジン車を見直す動きが出ている。トヨタ、マツダ、スバルの3社は5月、1.5リッター直4自然吸気エンジンと1.5リッター直4過給エンジン、2リッター直4過給エンジンの3種類を新開発したと発表。いずれもコンパクトな設計で、1.5リッター直4自然吸気エンジンは、既存の1.5リッター直3エンジンより体積が10%、全高が10%低減。1.5リッター直4過給エンジンは、既存の2.5リッター直4自然吸気エンジンより体積が20%、全高が15%低減。2リッター直4過給エンジンは、既存の2.4リッター直4過給エンジンより体積が10%、全高が10%低減した。 トヨタ、スバル、マツダによる新エンジン 出力と燃費に関しては、1.5リッター直4自然吸気エンジンと2リッター直4過給エンジンについては、出力、熱効率ともに従来エンジンより向上させている。 「脱エンジン」を掲げたホンダだが、5月の決算会見において三部敏宏社長は「ハイブリッドは我々のもともとの武器。今後も技術を磨く」と発表。また藤村英司執行役常務も「まだHEVを中心とするICE(内燃機関)モデルにもかなり注力していく」と意気込む。 「自動車向け工作機械需要は底を打った」と見る向きもあるが、果たしてどのパワーユニットに積極的な投資が行われるかは依然として不透明な状況が続きそうだ。 国内EV関連事業の動向 EVの販売が減速している一方、中長期的には市場拡大という見通しの大筋は変わっていない。国際エネルギー機関(IEA)は、全販売台数に対し、2035年までのEV(PHEV含む)の販売シェアは50%を超えると予測している。国内メーカーやSIerも、EV関連事業の生産能力拡張や製品開発の動きを強めている。 自動車や航空機産業を含むモノづくり全般の自動化に、ロボットSIerとして実績を重ねてきた豊電子工業(愛知県・刈谷市)。 最近の景況感について盛田高史社長は「かなり忙しくなってきている。手がけるシステムの内容がコロナ前とかなり変わり、以前は自動車だとエンジンやトランスミッション、ハイブリッドのラインを受注することが多かったが、今はEV関連の自動化の引合いが多い」と話す。「ギガキャストやバッテリーラインの自動化の仕事やEVラインの溶接工程を含めてこの1年ほどかなり多く、すでに納めたものもある。この需要に応えるために第5工場を本社のすぐそばに作った。ここではバッテリーのリーク検査装置を作る。1システム120㌧前後とかなり大きなボリュームだが、当社は単体ロボットのハンドリングというよりはラインとして受注することが特徴で、メガインテグレーターを目指してずっと活動している」。 受注獲得に向けて独自の取組みにも力を入れている。「お客様へのプレゼン時、たとえば電池ラインはかなり長いラインになるので、VRゴーグルを装着してもらい設備のなかにバーチャルで入っていく体験をしてもらう」。 「第5工場が稼働したところだが、次に6つ目の当社としては最大規模の工場を検討中。やはり電池のラインを受注しようとすると、長い工場が必要になる。ラインビルダーは大きな工場を保有している企業が多く、積極的にこの領域にも参入チャレンジをしていく」と力を注ぐ。 ■モーターの溶接課題の解消 アマダは、神奈川県伊勢原市の本社内に昨年2月に開設した技術提案施設「アマダ・グローバルイノベーションセンター(AGIC)」について、訪問客の相談で最も多いのは溶接で、実に66%を占めると言う。関心が高い理由については「自動化率が低く、前工程の影響を大きく受けるからだろう。たとえばEVモーターには100カ所ほどのヘアピン溶接加工を速く的確に行う必要がある」(岸本和大イノベーションセンター長)と話す。この4月にアマダウエルドテックを吸収合併した同社は溶接事業を強化中だ。それを象徴するのが昨年10月のPhotonix(光・レーザー技術展)で披露した3次元レーザー統合システム「ALCIS-1008e」。4kWのブルーレーザーとファイバーレーザーの2種の発振器を切り替えられるほか、切断、積層造形もこなす。EVモーター用の72カ所のヘアピン溶接は3Dヘッドを用いて16秒で行えたことを一例として示した。 ALCIS-1008eでEVモーターのヘアピン溶接をする様子  

2024年09月10日

この治具がスゴい!

モノづくりにおける加工精度や生産性の向上に欠かすことのできない治具。多品種少量生産が求められる近年の加工現場においては、段取り替えの省力化や無人運転による自動化の実現において、治具が主役級の活躍を演じている。昨今のモノづくりに求められている治具とはどのようなものなのだろうか。 モノづくり製品における主力ユーザーである自動車業界からなかなか景気のいい話が出てこない。大阪の老舗治具メーカーは「エンジン車向け治具はあまり動きがないのが現状。EV向けも一時はバッテリー周辺の加工向け治具をいくつか開発、納入したが、こちらも国内向けはひと息といったところ」と嘆く。 一方で根強いエンジン需要があるのが二輪車や船舶、農機具、建設機械といった分野だ。船外機向け部品を手掛ける浜松市の加工会社は「ここ数年ずっと繁忙期が続いている。環境対応のエンジン新製品やハイブリッドタイプの開発・量産も進んでおり、それに合わせて多数の治具が必要になっている」と語る。 また二輪車エンジンの生産ラインに治具システムを供給しているメーカーは「コロナ禍以降、二輪需要の高まりもあって好調をキープしている。今年に入ってからもすでに多くの受注を頂いている。特に自動化を強く意識したライン構築が目立ち、工程間を繋ぐような治具やシステムへのニーズが高まっている」と話す。 EV向けやエネルギー向けでは、部品の一体化や剛性の確保を目的にワークが大型化している。そのため、加工機にかかる重量負担の軽減やワーク搬送の自動化に対応するため、治具に対して軽量化が求められている。 埼玉県内で自動車部品加工を手掛けるメーカーは「従来の鉄製の治具に変わって、アルミ製の治具や強度を担保した3Dプリンターによるカーボン製の治具を採用している。どうしても強度が必要な場合は超々ジュラルミン製の治具を使うケースもある。超々ジュラルミンはアルミ合金の中でも強度が高く、鉄とほぼ変わらないにもかかわらず重量は半分程度。治具を軽量化することで加工の幅も広がるし、リードタイムの削減にも繋がっている」という。 ■使い捨て感覚で活用 一方で、積層造形機を活用した治具の内製化も進んでいる。3Dプリンターの販売から各種ソフトまで、幅広く積層造形ソリューションを手掛けるJBMエンジニアリング。同社営業部の白原直樹氏は「3Dプリンターといえば新しい製品開発や試作への活用といったイメージがありますが、実際は治具を内製化したい、という動機で採用されるユーザーが大半です」と話す。 JBMエンジニアリング・白原直樹氏 治具製作において最も活用されているのは、樹脂による3Dプリンターだ。 「治具製作目的で導入されるユーザーの多くは、治具を恒常的に活用するというよりは使い捨てのイメージで製作なさっています。そうしたお客様には当社でも比較的安価な3Dプリンターと安価な樹脂素材をご紹介し、気軽に治具製作を行って頂けるような提案を行っています」 樹脂による治具となると、強度や耐久性といった部分で金属製の治具に劣ってしまう。だが、使い捨てならではの利点も多々あるという。 「私の実家が金属加工を行っているのですが、受注する案件に乗じてどんどん治具が増えていってしまう。実家ではそれが長年積み重なってしまい、この先いつ使うか分からないような治具がかなりのスペースを奪っています。在庫していた治具を再活用するにあたっても、どこにやったか分からないということもしばしばです。これを3Dプリンターに置き換えれば、必要な際はすぐにプリントアウトできますし、マイナーチェンジにも対応しやすい。さらに加工現場の省スペース化にもつながります」 3Dプリンターによる治具の内製化を行っている現場では、これまで年間1000万円以上かかっていた治具コストを100分の1以下に圧縮したというケースもある。さらにコストダウンだけではないメリットとして、「内製化により調達面でスピードアップできたというユーザーは多いですね。また積層造形は設計の自由度が高いので、治具屋さんにお願いするとコストや時間がかかってしまうようなものでも容易に製作できる点を魅力に感じているユーザーも少なくありません。使い慣れてきたユーザーの中には、最初に導入した廉価な3Dプリンターからワンランク上の高精度な3Dプリンターに乗り換えてより精度の高い複雑な治具の制作に取り組まれている方もいます」と白原氏は語る。 ローコストで運用可能なワイヤー方式金属3Dプリンター JBMエンジニアリングで取り扱っている金属3Dプリンターの中でも、最も廉価で造形速度に優れているのがワイヤー方式金属3Dプリンター「Meltio(メルティオ)」だ。 金属粉末を利用するパウダー方式の金属3Dプリンターは、高コストの金属粉末を使用するため、用途が限定されてしまう。また微細な粉末を使うため、厳格な環境下で運用する必要があったが、ワイヤー方式のメルティオは金属のワイヤーを使用するため、パウダー方式に比べ圧倒的にローコストで運用でき、なおかつスピーディーな造形が可能だ。 「パウダー方式にせよワイヤー方式にせよ、いずれも仕上げに切削や研削といった作業が必要になります。後工程までを考えた場合、ワイヤー方式のほうが圧倒的にメリットを感じて頂けると思います。また作りたい製品の用途に応じた材質のワイヤーを使える汎用性を持っており、異なる材料を組み合わせての製品作りも可能です」(同社営業部・白原氏) ワイヤー方式金属3Dプリンター「Meltio」 【特集:この治具がスゴい!】製品紹介 ■イズミコーポレーション、高精度汎用治具バイス 省スペース設計で多品種少量生産に 横形MCによる3面加工例 マシニングセンタ向けの治具を手がけるイズミコーポレーション。自社の生産現場の加工用治具として生まれたのが、高い加工精度と汎用性を有した「ディペンドバイス」だ。 「ディペンドバイスは、マシニングセンタの加工エリアを有効的に生かしたレイアウトができる省スペース設計。さらに口金の組み合わせの変更で、多彩なクランプ形態を可能にします。また横形マシニングセンタの場合、ワークの取り付けを正面から行えるので、スピーディな段取り替えが可能。『C4V』シリーズは、ワークを立体的に取り付けられるので、マシニングセンタの有効加工面積を広げながら省スペースを実現し、高精度かつ長時間の加工を可能にします」(同社)   油圧や電源といった動力を一切必要としないシンプルな構造の為、操作が簡単でトラブルも無くメンテナンスもかんたん。V金具のキャップボルト1本を締め付けるだけで20kN(50㍉タイプ)の締め付けトルクを実現する。複数個のワークを同時に締め付け可能。本体は削り出し一体構造としており、高い剛性を有している。 「発売当初はバイス単品での販売でしたが、最近では単体で使用されるというよりも、ユーザー様で部品を任意の形に組み合わせて使用されるケースが多くなっています」 バイスひとつでさまざまな機械加工に対応し、省スペースを実現する同製品は、多品種少量生産を求められる現場や、半導体製造装置のバルブの加工で多く導入されている。 ■カネテック、異形ワークに最適なチャックブロック 磁気の力で自在にワークを把持 フリーチャックブロック「KT―F」 チャックやホルダから搬送機器まで、マグネットを応用したモノづくり製品に強みを持つカネテックは、マグネットチャック向けのフリーチャックブロック「KT―F」シリーズを上市。段取りの簡略化を提案している。 KT―Fはマグネットチャックと併用して、丸棒や板状のワークの側面など、チャック作業面のみでは吸着し難い形状のワークを吸着させたい場合の補助具として使用する。KT―Fそのものに磁気はなく、マグネットチャックの上にのせて磁気を誘導し ワークを吸着するので、上面や側面それぞれに磁気を誘導する。 「KT―Fはより効率よくワークに磁力を誘導できる厚みを追求した製品です。部材同士を強固に接合する技術を採用しており、部品点数を抑え、はんだや樹脂などの溶材を使用しないので環境にも優しい。一体化したブロックは追加工範囲に制限がなく、穴、タップ、V溝、テーパー、切断などの加工が自在に行えます。さらに通し穴を施工してエアや油を通しても、接合部からの漏れがありません」(同社) 異形状のワークに対し、通常のバイスクランプでは単品ごとの加工しかできないが、KT―Fはワークを複数個並べて同時加工することも可能なため、作業効率の大幅向上が見込める。またワークサイズや形状に合わせて、広範囲に複数台を並べた活用も出来る。 「当社の標準的な電磁マグネットチャックKET―3060Bを使用した場合、直接吸着に相当する吸着力を発揮します。また永磁マグネットチャックRMWHシリーズにおいても従来品の2倍以上の吸着力を実現します」 ネジ穴、ザグリ穴などを施した活用例 ■北川鉄工所、チャックの手動ジョー交換を短時間で簡単に ジョー取付け位置を短時間で簡単に再現できる「BR-AJC_M」 近年、モノづくり現場の大きな課題となっている人手不足問題。北川鉄工所は「BR-AJC_M」で、旋盤用パワーチャックのジョー交換作業の「省段取り」をサポートする。BR-AJC_Mは標準BR/BRTチャックを、クイックジョーチェンジチャックに変換できるオプション部品。従来のTナットから独自の「Tnut-Plus」に交換するだけでジョー交換時のセレーション位置合わせやジョー脱着後の再形成が不要になる。 Tnut-Plusはボルトを締結するとセレーションが噛み合ってガタをなくし、把握精度を維持できるため、ジョー脱着後の再形成が必要ない。従来のTナットの段取り替え作業時間と比べ「年間あたり450時間、315万円の節約効果がある」(同社 以下同じ)と大きな効果を試算する。 BR-AJC_Mは位置決めナットにより、ジョーの取付け位置がカンタンに再現でき、短時間で誰でも容易に作業が行える。「ジョーの取付けではセレーションの数を数えるなどして同じ位置を再現しなければならなかった。BR-AJC_Mは、ジョーをあらかじめ機上成形し、位置決めナットをマスタージョーに当たるまでねじ込み、止めねじで固定したら事前のセットが完了。以降のジョー交換はマスタージョー端面に位置決めナットを突き当てればセレーション位置が簡単に再現できる」。 ジョー交換作業の大幅削減と共に、取り付け間違いなど人的ミスも防止、ロスを省く。ジョーの脱着後も把握精度は0.01 mmT.I.R.以下と、加工不良率の低減や工程能力アップにより生産性向上にも寄与する。BR/BRT06~BR/BRT12に対応する。 「既存のBR/BRTチャック、ソフトジョーをそのまま使えるため、特殊チャックと比べて導入コストを大きく抑えられる。引き合いが多いのは段取りの多い多品種少量生産の現場。『省人化や自動化したいが、多額の投資が難しく、段階的に(少しずつ)省段取りの設備を導入したい』という場合にぴったりの製品」と語る。 ■コスメック、動力源が不要なメカ式クランプ 治具からはじめるCN コスメックが提案を強化する新製品「スマートシリーズ」は、油圧やエアーなど駆動源の要らないメカ式クランプだ。90度旋回してクランプするスイングクランプや、位置決めとクランプを同時に行うロケートクランプなど6種類を展開。いずれも「よく売れておりニーズの強さを感じる」と営業部企画・広報室の佐藤直人室長は手ごたえを語る。脱炭素を進めたい製造工場の需要にマッチしている。 製品下部の突起が物理的に持ち上がる/下がることで機械的にワークを固定/解除。例えばガイドのスライド機構にカムを設けておけば、治具本体のスライドでロックと解除を切り替えられる。コンパクトさが奏功し「検査や組付けなどの後工程でロボットと共に使われることが多い」という。 中でもロケートクランプは繰り返し位置決め精度が0.01㍉と高く、後工程に向く。クランプもパレット(位置決め対象)を下に引き込む方式で、固定・位置精度出し・精度検査に必要な時間と作業者によるバラツキをなくし、瞬時にパレットや治具の交換が行える。スマートシリーズはまずは6種類からの展開だが「さらなる拡充も考えたい」と前向きだ。 ■シュンク・ジャパン、ハンドの「指先」交換で多品種対応 加工機向けフィンガーチェンジシステム フィンガークイックチェンジシステム「BSWS」 先ごろ開催されたロボットテクノロジージャパンにおいて、一風変わった加工機向けのワーク搬送ソリューションとして多くの注目を集めていたのがシュンク・ジャパンのフィンガークイックチェンジシステム「BSWS」と自動ジョークイックチェンジシステムBSWS-R-PGZN-Plusだ。 通常、サイズの異なるワークをロボットで加工機に供給する場合、ロボットハンドそのものを交換する必要があった。だが同社のフィンガークイックチェンジシステムは、ハンドではなくフィンガー部分(ジョー)のみの交換でサイズの違うワーク搬送を可能にした。 「収納ステーションにワークサイズに合わせた複数のフィンガー部分を収納しておくだけで、電気もエアも不要でわずか数秒でフィンガー部分の交換が可能です。ロボットがフィンガー部分のベースユニットを収納ステーションに収納すると、ロックボルトが作動しロックが解除され、ベースユニットからグリッパーを簡単に取り外すことが可能で、高精度のワーク搬送の無人化を実現します」(同社) また、複数のハンドを用意するのに比べ、同システムは省スペースでの運用が可能。 「フィンガー部分自体はコンパクトに設計されており、ワークに合わせた様々なフィンガーを用意し収納スタンドに複数並べておけば多品種少量生産の自動化にも対応できます。またロボットの動きを最小限に留めるので、効率性と安全性も確保できます。また複数のハンドやグリッパーを用意せずとも、異なるフィンガーを用意するだけで多くのワークに対応できるので、コストメリットにも優れます」 ■スーパーツール、用途に合わせた豊富な治具ラインナップ 在庫拡充でさらなる短納期対応へ MC用4面ジグブロック(バリュータイプ) 治工具から吊クランプ、作業工具まで幅広く手掛けるスーパーツール。マシニングセンタの加工エリアを最大限に活用する「ジグブロックシリーズ」は用途に合わせた豊富なラインナップで定評を得ている。 特注品が多い治具だが、ジグブロックシリーズのバリュータイプは充実した在庫により、短納期に対応。また、強度を維持しながら重量を軽くすることでリーズナブルな価格を実現する。また、ユーザー側の機械でタップ穴などの加工が可能で、カスタマイズ性の高さもウリだ。このたび在庫拡充により、さらなる短納期対応に力を入れている。 ジグブロックシリーズの材質は治具ベースに適した、剛性と振動吸収能が高いFC300を採用しており、熱処理は焼鈍。スタンダードタイプでは床面とエッジロケーター基準面の直角部を研削することで高精度仕上げを実現している。 また、機械の仕様や加工方法に対応した特注商品にも対応する。立ち上がり角や高さの変更、治具パーツ(加工パーツ)のサイズに合わせた取付穴を設けられる。他にも溝ピッチの変更や、スタンダードタイプのアングルプレートへT溝、ねじ穴の追加工にも対応する。 ■関連記事LINK オーケイエス 大神田 佐敏 社長 (2024年8月25日号掲載)

2024年08月27日

求められるマテハン機器

4月1日、ついに働き方改革関連法がトラックドライバーにも適用された。いわゆる「物流の2024年問題」の影響が顕在化するとの懸念もあったが、昨年度には朝の情報番組などで話題となるなど業界を挙げた周知活動によって、今のところ大きな混乱はみられていない。 一方で、全日本トラック協会が公表するトラック調達のスポット価格の動向を示す成約運賃指数(年度)において、令和6年度は126.3と過去最高水準で推移しており、懸念されていた物流コストの上昇は免れていない。6月1日には国土交通省がトラックの標準的運賃の水準を8%引き上げたことからもこの流れは止められそうにない。 運賃引き上げ=トラックドライバーの賃金上昇=人手不足解消による好循環とも考えられそうだが、実態は「人件費上昇による収益悪化」などを理由に24年上期の道路貨物運送業者の倒産件数は186件(前年同期比39.8%増)と4年連続で増加(帝国データバンクの「道路貨物運送」倒産動向から)。09年に次ぐ高い水準となっており、2024年問題関連の影響がジワリと出始めている。 現状、荷主企業による2024年問題への主な対応は、受け入れた物流コストの増加分の製品販売価格への転嫁であるが、今後更にドライバー不足が深刻化すると更なる対策が求められる。昨年は各所で「2024年問題は2024年4月で終わりではない。そこから深刻化していく問題だ」と聞いたが、まさにそうした状況が生まれつつある。 人件費高騰はドライバーだけの問題ではなく、倉庫内で働く作業者の人件費も上昇している。人手不足と相まって現場では頭の痛い問題となっている。そうした中で求められているのが自動化・省力化・高生産性を適える物流マテハン機器であり、本特集では今求められているマテハン機器を紹介する。 ■ソーター・小型自動倉庫 柔軟なロボ式仕分け機で物流危機に対応 波動処理に自動倉庫活用も 2024年問題の影響で運送会社から出荷ルールにもメスが入っている。特に出荷締切時間の前倒しは深刻で、「これまで6時集荷である程度融通が利いたにも関わらず、1~2時間程度の前倒しと時間厳守を求められるようになった」(荷主企業)といった声もある。一方で、当日・翌日配送に慣れた荷受け先からの配送に求められる品質は高く、誤配送や配送遅延には厳しい目が注がれている。 そうした中で、人の手を極力介さない自動化機器が求められているが、特に出荷締切時間に間に合わせつつギリギリまで当日受注分を処理するためには、人手による仕分けやピッキングからソーターや自動倉庫への転換が重要になる。しかし、都市部のスペースが限られた物流拠点では、従来型の重厚長大なシステムの導入が難しかった。 柔軟で小型なシステムが求められるなか、国内で140拠点以上、4800台以上のロボットを納入している+Automationが提供する仕分けロボット「t-Sort」は、床置きのパレットや架台の上に走行用マットを敷き、マットの上に小型AGVや投入シュートを設置すれば運用可能な柔軟性の高い仕分け装置。最短1日で導入・始動可能で、設置面積も従来のソーターの約3分の1から2分の1程度に抑えることができる。取り扱い品目もA5サイズからオリコン20~70㍑まで対応。契約方法もいつでも解約・プラン変更可能なサブスクリプション方式を用意するなど、仕分け作業の自動化の第一歩として定評がある。 省スペースかつ高速処理が必要な場合は、立体型ソーターが適している。Gaussyの倉庫ロボットサービス・Robowareが提供する立体型仕分けロボット「OmniSorter」は、平面型ソーターに比べて仕分けスペースを省スペース化できる。宛先100件を幅8・1×奥行3・4㍍の10坪程度で導入可能なのが大きな特徴。処理能力も毎時1200~1400ピックとロボット式ソーターの中では高い。 ■自動倉庫も小型化 荷待ちを起こさないためには庫内物流をいかに整流化した状態を保つかが重要だが、季節・時間波動による繁閑が起きてしまうのが物流現場だ。そうした波の抑制に活用できるのが自動倉庫。従来は大型な物しかなかったが、近年は小型かつ高速処理可能な製品が現れてきている。 機体上部にバッファエリアを設けることで約5坪に300以上の仕分け間口数を確保できる「ナノ・ソーター」を手掛けるROMSは、100~300平方㍍ほどの限られた空間でも高密度・高性能処理可能な自動倉庫「NFC(Nano-Fulfillment Center)」を用意する。搬送方式にはシャトルやAGVもラインナップするが、標準仕様は処理能力とコストバランスの良いスタッカークレーン方式を採用する。 「小型なため考えずに運用すると処理能力を超えて身動きが取れなくなってしまう。アルゴリズムの調整や回避プログラムを構築することで全体の信頼性を高めている」(同社担当者) ROMSの小型自動倉庫「NFC(Nano-Fulfillment Center)」 通貨処理機の世界最大手のグローリーも2017年に立ち上げたロボットSIer事業でバケット式小型自動倉庫を手掛ける。幅・高さともに最小2㍍から設置可能で、コンテナサイズや設置スペースに合わせた装置形状のカスタマイズにも柔軟に対応する。協働ロボットを活用した搬送にも強みを持ち、前後の物流工程も含めて自動化できる。 ■AGV・AMR 国内メーカー多士済々 昇降設備連携で多層階運用も 矢野経済研究所が昨年9月に発表した調査によると、2024年のAGV・AMR世界市場は、3000億円規模だった21年の約2倍の6404億円になると見る。各国でAGV・AMRの生産や導入に対する支援が継続していることなどもあり、2桁成長は続き26年には9000億円を超えると予測する。 日本市場も設備投資が旺盛で、中国をはじめとする海外勢の参入も本格化している。しかし、そうした中で国内メーカーによるジャストフィットな製品にも注目が集まっている。中小企業の集合体・エムジーホールディングス傘下のGEクリエイティブも導入しやすいAMRを昨年から提案。市場からの注目を集めている。操作の簡易さを突き詰めた牽引型の「AMRキャリ太郎」は「導入の敷居を極限まで下げ切ったAMR」(同社担当者)で、操作は物理ボタンで機器連携は前提としない誰でも使える簡易なインターフェースが特徴。食品製造分野などこれまで自動化に及び腰だった分野からの問い合わせも多いという。 GEクリエイティブのAMRキャリ太郎 福岡発のロボットベンチャーの匠も純国産にこだわったAGV・AMRの開発、製造を手掛ける。FIGグループと提携を結ぶことで、量産体制の整備から運行制御などのサービスも含めてワンストップで提供できる体制を敷く。海外勢の多い市場で、柔軟でスピーディーな体制が安心感を醸成し、「自動車メーカーはじめ大手顧客が多い」(同社担当者)という。 ■進む多層階運用 日本にある工場や倉庫が海外と大きく異なる点の一つは多層階の建物が多いことだ。平面移動を得意とするAGV・AMRだが、階をまたいだ立体的な運用には向かなかった。そんな中、エレベーターや昇降機と連携して多層階での活用を目指す取り組みが進行しつつある。 国産の搬送ロボットを手掛けるLexxPlussの「LexxHub」は、エレベーターなどのPLC制御機器と有線接続することで既存設備をネットワークに接続。同社のAGVとAMRのハイブリッド搬送ロボット「Lexx500」と直接連携できるIoTソリューション。Lexx500の動きに合わせてエレベーターを呼び出すなどの協調作業が簡単に行えるようになる。エレベーターの場合、従業員の呼び出しボタンによる信号と、LexxHubからの指示信号が同じ仕組みとなっているため、不具合が発生しづらい安心設計。 LexxPlussのハイブリッド搬送ロボット「Lexx500」 昇降機器側からの提案もある。垂直搬送機を手掛ける鈴木製機は、AGV・AMRとの連携を強化している。AGVリフターは同社のトレーリフターをベースに様々な無人搬送台車と連携できるもの。トレーリフターはパレットやかご台車を載せたカゴ(トレー)自体がリフト内に入って昇降するため、様々な荷姿の物を運べる利点がある。加えて、AGV・AMRとエレベーター連携には扉の隙間が問題となるケースが多々あるが、トレーリフターにはその心配がない。 「既存のエレベーターとの連携はメーカーから断られる場合や改修に数千万円かかったケースもあると聞く。トレーリフターは構造がシンプルなので、簡単に改修でき導入コストも抑えられる」(同社担当者) 鈴木製機のAGVリフター活用イメージ ■パレタイジング・ローディング 協働ロボットの活用も トラックローダーで荷待ち時間削減 2024年問題で問題視されているトラックドライバー不足の解消に向けて最も即効性があるとされるのが、ドライバーの荷待ち時間の削減だ。現在1運行あたり3時間程度の荷待ち・荷役作業などが発生しているとされているが、政府はそれを2時間以内に収めることを指針としており、達成企業に対してもさらなる削減を求めている。 構内の整流化にバース予約システムなどのソフトウェアの活用が進んでいるが、高いトラックへの積載効率と庫内作業の効率化を両立するパレタイジングシステムにも注目が集まっている。 Mujinのロボットパレタイザー「MujinRobotパレタイザー」は、混載や複数什器への対応をロボット知能化技術「MujinMI」によってロボットが自律的に「見て・考えて・取って・置く」ことができる。主に垂直多関節ロボットと荷姿に応じてカスタマイズ可能なMujinハンド、視覚を担うMujinビジョン3D、それらを統合制御するMujinコントローラーからなる。Mujinコントローラーが前後工程の自動化機器とも連携するため、複雑な工程を組んでも臨機応変に対応する。 Mujinのロボットパレタイザー 近年増えているのが協働ロボットを活用したシステム。可搬重量が向上したことや人と共に作業できることなどを理由にロボットの未実装分野でも採用が進む。 オークラ輸送機は1984年にパレタイジングシステム第1号機を投入して以降、これまでに8000台以上のロボットパレタイザーを納入してきた。今年6月に協働ロボット大手のユニバーサルロボット(UR)と披露したパレタイジングロボットシステム「EasyPAL(イージーパル)」は、同社の長年のノウハウが詰まったティーチング支援システム「OXPA-Qm」とURの20㌔可搬の協働ロボット「UR20」を組み合わせたもの。PC上で積付け製品のデータを入力すると、1000以上ある標準積付けパターン(パターン追加も可能)から適したパターンを提示。選択したデータをロボットに送信するだけで稼働でき、積付けパターンの変更も即座に行える。食品業界など自動化・ロボット化が十分ではない分野でも、「パレタイジングや協働ロボットといった言葉を知らない人でも簡単に使える。既に引き合いもある」(同社担当者)という。 オークラ輸送機の「EasyPAL(イージーパル)」 ■トラックの荷付け・荷下ろしも自動化 パレットを活用した荷姿の統一がなされたとしても、トラックへの積み込み、積み下ろし作業が自動化されていないと、フォークリフトなどを使ってパレット単位で積み下ろしをする必要がでてくる。荷待ち時間削減のためにもトラックローダーの活用・検討が進んでいる。 ローディングソリューションのリーディングカンパニーである英Joloda Hydrarollはあらゆるパレット積み荷を2分以内に自動でトラックに積載、積み下ろし可能なスリップチェーンパレット・ローディングシステムを手掛ける。空圧昇降のチェーンとトラック内の搬送システムを組み合わせることで、パレット化された荷物を自動で搬入出できる。搬入出の高速化と自動化による製品への損傷の最小化、安全性向上などに寄与する。「2024年問題によってトラックの荷役作業の効率化に注目が集まっており引き合いが増えている」(同社担当者)。モジュラー設計を採用しているため、様々な現場やトラックに合わせたカスタマイズも容易。 Joloda Hydrarollのスリップチェーンパレット・ローディングシステム 一方、現実はすべてがパレット化できるわけでなく、人の手で積み付けているケースも多い。そうした作業も自動化・半自動化する動きがでてきた。 中国に本社を置くXYZ Roboticsのローディングロボット「Rocky」は垂直多関節ロボットを搭載した可動式架台と伸縮式コンベヤを組み合わせたシステム。ロボット架台がトラックのコンテナ内部まで入り積まれた荷物を荷下ろしする。最大SKU重量25㌔、時間あたりの処理数は最大450サイクル。動作経路も3DビジョンとLiDARセンサーを組み合わせたシステムによって自動生成するため、事前に箱の情報などを登録する必要がない。 より簡便で柔軟なシステムとしてはアムンゼンが提供する「イージーデバン」がある。輸入コンテナからのデバンニング作業に対応したシステムで、XYZ Roboticsと同様に自走式のユニットがコンテナ内に侵入してデバンニング作業の負荷軽減に役立つもの。ユニットには真空方式バランサー「イージーリフト」を搭載しており、コンテナ内の荷物を吸着・持上げて伸縮式コンベヤで払い出す。より柔軟な対応が求められる現場で活躍する。 ■AGF フォークの自動化進む 中国系メーカーも続々参入 近年注目を集めながらも技術的な難しさから普及に一歩足が届かない印象を受けるAGF(無人フォークリフト)。実際に有人フォークリフトの年間販売台数が約8万台であるのに対しAGFは200台ほどと見られており、1%にも満たない状況だ。しかし、建物とトラックを結ぶ結節点であるフォークリフトの省力化は重要で、各所で大手フォークリフトメーカーと物流事業者との実証実験が行われるようになってきている。中国企業の日本市場への新規参入の流れの加速も相まって、さらに関心が高まってきている。 国内最多のラインナップを誇る豊田自動織機・トヨタL&FカンパニーのAGFは、運用方式に磁器誘導方式・レーザーSLAM方式・レーザーリフレクタ方式の3タイプを用意。それらを組み合わせることで日本で初めて4つの運転方式から選択を可能にしている。冷凍冷蔵にも対応しており、幅広い現場に対応できるのが特徴だ。トラック荷役に対応したAGFも開発中であり、センサーや自動運転技術を組み合わせることでトラック・パレット位置検出などを行えるようにする。 AGFのトラック荷役に関する実証で先行するのが三菱ロジネクスト。鴻池運輸と共同で行っていた実証を今年3月に完了し、鴻池運輸で実運用を始めている。所定の停車スペースに停められたトラックに2台のAGFで積載を行う自動化システムで、「実証実験下の積載条件であれば大型トラック1台に対し15分以内での満載が可能」という。一方で、トラック滞留時間削減などの影響もあり、現状は「有人フォークリフトでの作業が中心」にはなっている。 三菱ロジネクストと鴻池運輸の実証の様子 AMRを使ったピッキングソリューションで大きなシェアを持つラピュタロボティクスも昨年4月にAGF「ラピュタAFL」の販売を始めた。今年7月には3つの機能「トラック積み下ろし」「ランダムな高さに対応可能なパレット段積み」「狭いエリアでの平置き」を追加するなど開発に力を入れる。トラックの荷役作業の自動化にはトラックやパレットの停止位置のズレや処理能力に課題があるが、ズレが発生しても柔軟に対応をし直せるようなシステム構築を進めており、現状1時間に最大30パレット処理可能。 ラピュタロボティクスのAGFもトラック荷役に対応する ■中国企業の参入加速 AGFが既に1万3千台以上稼働していると見られている中国から、日本に向けて参入する企業が増えている。9月10日から行われる国際物流総合展でも10社近い企業から中国製AGFが提案されることになりそうだ。 AGF専業メーカーで中国での売上高首位のVisionNav Roboticsも近年日本市場の開拓を進めている。販売価格が低価格帯のAGFではAGVなどの無人搬送台車と同等程度と驚異的だ。壁や天井などに貼ったQRコードから自己位置推定を行うため磁気テープや反射板の設置は不要だが、車体の位置決め精度は±10㍉と高精度。高い補正アルゴリズム技術により、位置や角度がずれたパレットや多段積み、複数サイズなどにも柔軟に対応することから、国内でも採用が増えて来ている。 VisionNav Roboticsの屋外向けAGF「VNE40」 ■おすすめの製品紹介 山金工業、高さ調整と移動機能が一つになった作業台 高い強度とコストパフォーマンスを両立する山金工業の「ワークテーブル150シリーズ」。同シリーズに新たにラインナップされた「高さ調整タイプ移動式」(=写真、高さ調整のイメージ)は、高さ調整タイプと移動式、2つの機能が1つになった便利な作業台だ。 作業の種類や作業者の身長に合わせて天板の高さを685㎜から985㎜まで、25㎜ピッチで調整可能。さらに、直径75㎜のストッパー付きゴムキャスターはどの方向にも自在に動き、作業場のレイアウトが簡単に変更できる。 全体均等耐荷重は128㎏。幅と奥行きのサイズバリエーションは14 種類。足元部分に、半面棚板または、全面棚板を取り付けられ、天板下のスペースを有効活用できる。 アイコム、倉庫・スタッフ間の伝達を迅速に 情報伝達の面についても効率化を叶えたい。アイコムの無線LANトランシーバー「IP110H」は、携帯電話と異なり一度に多くの人に情報を伝えられ、ボタンを押して話すだけで素早く連絡できる。無線LANを使うため通信費が不要で、ランニングコストがかからない。無線LAN環境があれば高層階と低階層、地下など従来のトランシーバーでは電波が届きにくい場所もカバー。本体のみでも双方向で同時通話でき、インターネットVPNで遠隔地にある拠点とも通信できる。 アンテナ、バッテリーを内蔵したコンパクトボディは約146gと軽量。Bluetooth機能によるハンズフリー通話でスマートな運用が可能だ。IP67/IP54の防塵・防水性能、「セルフィール」による抗菌・抗ウイルス加工で安心して使え、USB Type-Cコネクタによる急速充電に対応している。20時間以上の利用が可能で、大音量 1000mWにより必要な情報を確実に届ける。 (2024年8月25日号掲載)

2024年08月26日

ブラザー工業「SPEEDIO」シリーズ活用事例

鹿児島精機株式会社導入機器:SPEEDIO M200Xd1 【プロフィール】本社:鹿児島県霧島市/創業:1975年 https://www.kagosima.co.jp/ 特長:ミシンの部品加工から始まり、現在は精密加工を得意とし半導体装置、産業用機器、医療装置、情報・通信機器、自動車生産関連など、幅広い分野の部品製造を行なう。近年は組立業務もスタートし、装置一式まるごとの製造にも対応、同社の強みとしている。ミシンの部品加工の歴史から「ブラザー工業さんに親近感を持っていた」という鹿児島精機様は本社工場を含め鹿児島県内に2か所の拠点を持ち、さらに中国やベトナムにも工場を展開。そのネットワークを活用し、製品の納期や難易度、コストなどをふまえ国内外から最適な生産工場を選択する「最適地生産」。 工程集約&省スペース化を叶えて、難加工も見事にクリア 【導入理由】海外工場での好評を受けて国内工場に導入 2023年に本社工場でM200Xd1を2台新規増設導入。田中様によると「旋盤加工とマシニング加工とにまたがっていた工程を一つに集約できることが非常に魅力でした」とのこと。ベトナム工場では、当時すでにMシリーズが導入され、工程集約が短納期につながり、精度面でも品質の評価が高かった。それで国内でも導入にすることになった。 (写真左から)ソリューション事業課 野田 太一 様、CFO 兼 社長室長 德永 佑太 様、次長 田中 翔 様 本社工場でSPEEDIOを扱うベトナム人社員のみなさま また、5軸加工機が欲しかったことも大きな理由。それまで国内工場には5軸加工の設備がなく、お客様のニーズからも必要性を感じていた。当時の九州エリアでは初導入だったことにも魅力を感じたと德永様。 【導入後の変化】 これまでの旋盤ベースの複合機に比べて、SPEEDIOはスペースが約1/3で、段取り時間も1/2程度に短縮できている。加工性能については、「曲面や曲線が素晴らしい。これは付加価値のある製品を生み出したいという弊社の想いと合致している」とのこと。 ほかにも現場からは、省スペースで刃物交換やワークの交換がしやすい、画面が大きく扱いやすいという声が上がっている。本社工場には現在ベトナム人社員が8名勤務し、全員が使いこなしている。ベトナム工場にも導入され、両国で同じように操作ができて非常に使いやすいとオペレーションに関するメリットも挙げた。 田中様によると「環境性能面では省電力。電気代を8割弱の低減ができ、消費電力を抑えることでCO2排出の削減に。認証を取得しているSDGsの取り組みにもつながる」とのこと。 【今後の展望】SPEEDIOを活用して付加価値の高い製品を生み出していく M200Xd1は、いろいろなことができる機械で、どう使うかを問われている感じがする。同時5軸加工でしか出せない曲面と曲線を生かして付加価値の高い製品を鹿児島からどんどん生み出していきたいとのこと。 弊社について伺うと、アフターサービスも非常にしっかりしていて試作についても気軽に相談できる。このようなフォロー体制があるのも魅力。 今後、40番の機械の更新では、大型加工向けのWシリーズも検討してみたい。30番でも問題ないと思えるほど良い削りをしていた印象があり、40番に対してどれだけ台頭できるか楽しみとの嬉しいお言葉をいただいた。 CFO 兼 社長室長 德永 佑太 様 【導入製品/活用事例】M200Xd1 導体装置や産業用機械の部品など。「思考錯誤の連続で立ち上げるまでに時間がかかったが、ある部品では非常に難しい加工を行なっている」「5軸加工を活かせるものを少しずつ増やしている。」同時5軸加工による滑らかな曲面と曲線は想像以上 同時5軸加工を用いたインペラ加工 株式会社サクラテック導入機器:SPEEDIO R650X2/U500Xd1 【プロフィール】本社:福島県白河市/設立:1947年 https://www.sacra-tech.co.jp/ 特長:半導体をはじめ、宇宙防衛関連、医療関連、産業機器関連など、幅広い分野の金属部品加工を手がける。複雑な形状を得意とし、変種変量生産を行なう。近年は軽量化へのニーズを受けて樹脂の切削加工も開始。 加工効率30%アップ、直感的な操作で教育も容易に実現 第一工場外観 70年を超える歴史を持つ株式会社サクラテックの櫻岡社長は同社の強みを「技術力」と言う。その裏付けとなるのが設備の数々。「弊社の場合、1種類しか導入されていない機械はほぼありません。最低でも2台は揃えているため、増産などに対しても柔軟に対応できます。」 株式会社サクラテック 代表取締役社長 櫻岡 敏之 様 【導入理由】製造業を取り巻く原価意識の変化と自動化提案から 最初は2017年にタッピングセンタTC-32BN。その理由は、第一にお客様を含めた製造業各社の原価意識が高まってきたこと。第二に対話式ではないプログラムを作れる人材が育ってきたこと。第三に加工物によってはムダな動きがなく、専用的な機械とすれば使い勝手が良いと感じたこと。続いて2019年には40本マガジンを搭載したSPEEDIO R650X2を、さらに2023年にはU500Xd1を追加導入。 U500Xd1には株式会社山善の川分様の提案があった。「30番の5軸MCでハードウェアからNC含めたソフトウェアを自社製造、φ500まで広い加工範囲を持ち、コストパフォーマンスの高い機械は他社ではなかなかない。アフターサービス面もすべて統一出来るのも強み。自動化の相談もあり、三和ロボティクス様のパレットチェンジャーシステム NEXSRTとドッキングさせることでご要望に応えられると考えて提案した」と言う。社内での経験も蓄積されて、これからのものづくりのために非常に効果的な導入だったとのこと。 【導入後の変化】スピードが速く加工効率が約30%向上 佐藤様によると「40番に比べて30番はコンパクトで、省スペース化され、主軸が見やすい設計で、簡単に段取りができるのは大きな利点」と評価。加工のスピードが速く、横形のMCに比べて加工効率も30%程度は向上している印象がある。最新の制御装置CNC-D00はかなり使いやすくなった印象があり、新しい担当者も覚えやすそう、若手スタッフ教育への教えやすさにもつながるとのこと。「弊社は1台で完成品を仕上げていくスタイル。30番では難しいような加工も問題なくでき、その加工スタイルが実践できている。」 製造部 生産技術係 課長 佐藤 雅泰 様は現場のまとめ役 【今後の展望】難しい仕事をこれからも追い求めて果敢にチャレンジを 「安かろうというものづくりは、あまりしたくない、付加価値のある仕事を追いかけていきたい。社員のモチベーションにつながると思うから、今までできなった仕事をやり遂げたときの達成感を与え続けていきたい」と櫻岡社長。 【ココにも注目!!】女性作業員も扱いやすいSPEEDIO 小野間様は、プログラムを組むところから段取り作業まで、ブラザーマシン4台のすべてを担当。不安なく扱うことができている、製造業は男性の職場というイメージを変えられるように頑張っていきたいと話す。 【左】製造部 生産技術係 係長 西尾 亮祐 様、【右】製造部 生産技術係 小野間 優希 様 SPEEDIOを操作する小野間様 東北江南株式会社様導入機器:SPEEDIO M200X3/M200Xd1 【プロフィール】本社:福島県二本松市/創業:1992年 https://t-kounan.co.jp/ 特長:工業用プラスチック製品の製造販売、多品種小ロットから量産まで、切削加工から各部品の曲げ、接着、溶接による組み立て加工までノンストップで対応する。 ロボットとの連携で省人化と生産量アップを実現 本社工場 東北江南株式会社様は、本社工場を含め8棟の工場を構え、300名を超える従業員が業務に励んでいる。「お客様の満足は私たちの満足」をモットーに、プラスチックの切削加工から各部品の曲げ、接着、溶接による組み立て加工までノンストップで対応する一貫生産体制を確立している。主な製品には半導体製造装置があり、そのほかにも液晶の洗浄装置や近年では消防車の樹脂タンクも需要が高まっているとのこと。設立以来、順調な業績は「弊社では風呂桶程度の大きなサイズへの対応が多くなっており、そこが差別化につながっているのではないか」と遠藤社長。 (写真右から)代表取締役 遠藤 敏晶様、生産技術部 係長 桑原 英樹様 【導入理由】社内で挙がったSPEEDIO への「いいね」の評価 現在、M200X3とM200Xd1が2台ずつ、合計4台が導入されている。 遠藤社長によると「他メーカーのMCをすでに導入していたが、それより小さいサイズで多くの仕事がこなせる機械を探していた。いろいろ検討するなかで旋削加工ができることからM200X3が候補に上がった。さらに予定していたパレットチェンジャーも使えるということから導入する流れになった。」また、2022年7月にM200X3の1台目、12月に2台目と追加導入された経緯についても「組み合わせるパレットチェンジャーの納品がズレたため、最初はM200X3を単体で使っていたが、いろいろな仕様にチャレンジするなかで『これ、いいよ』という高い評価が社内で挙がって、2台目を導入することになった」そして、2023年8月に後継機のM200Xd1を2台同時に追加導入となったとのこと。 工場のSPEEDIO M200X3 【導入後の変化】省人化を実現し新たなSPEEDIOの導入も 多関節ロボット搭載のパレットチェンジャーと連携して、ワークとツールホルダの交換なども自動化。24時間稼働の工場では、土日や夜間の加工をほぼ無人で行ない、省人化を実現している。遠藤社長よると、「製造メンバーの負担が軽くなり、1日あたりの生産量も上がっている。」さらに「コスト面のメリットも。大きな機械では1台のところを2台設置できますから。あとは短納期も良かった点です」とのこと。新たにR650X d1の導入についても「こちらも納期の早さが導入につながった。もう一つのポイントとして加工の広さも挙げられます。」 工場のSPEEDIO M200Xd1 作業を担当する桑原様は「5軸加工に加えて旋削加工ができ、かつコンパクトに収まるサイズ感に魅力を感じた。BT30でツール自体が重くないことやワークだけではなくツールの棚もあるので刃物をつけっ放しにでき、段取りが非常に楽になっている」とのこと。 【今後の課題と展望】SPEEDIOを活かしきり更なるニーズに対応 樹脂は金属に比べて柔らかい素材。その加工については「工作機械が金属加工中心に考えられているため、樹脂加工の場合は切粉の処理で若干苦労するところはある。これはどの機械にも言えるため、うまく工夫していくことが必要だと思っています。そのほかには加工時の回転と送りのバランス。あまり早く加工すると溶けてしまってひどい肌荒れを起こすことがあり、スピードの限界についても感じている」また、粗加工後の仕上げ加工をなるべく薄くするなどの工夫もしているとのこと。 「半導体製造装置メーカーからより多くの生産を求められている」と、同社の成長はまだまだとどまらない。遠藤社長は「導入したSPEEDIOについてまだ活かしきれてないところがある、もっとうまく活用していくことで様々なニーズに対応していきたい」と話す。 工業用樹脂パーツ加工の様子 (2024年8月25日号掲載)

2024年08月22日

【ベトナム】回復する経済、好調な輸出に支えられ

タンソンニャット国際空港からホーチミン市街までの約8㌔を比較的信用のおける、白地に緑のラインの入ったVINASUNタクシーで移動する。記者が7年前に来た時に車がずいぶん増えたと感じたが、さらに増え、渋滞がひどくなった印象だ。高層ビルが目につき、大きな液晶パネルが付いたものも。ここだけ見ると大都市のようだ。内需がいま少し弱いとされるが、その液晶パネルにはここ数カ月で広告動画がたくさん流れるようになったとJETROホーチミン事務所の松本暢之所長は話す。 「国内消費も旺盛になってきたようだ。特に食品・飲料系企業は広告宣伝費にお金をかけ、週末になると目抜き通りで大規模なイベントも催す」 だが繁華街から一歩離れると、あちこちの歩道のレンガは割れてガタガタだ。10月までは雨季にあたり、1日に二、三度降るスコールですぐに冠水する。「膝くらいまで冠水する時もある。ホーチミンは何十年の後、世界で水没する可能性が高い地域のトップ10に入っている」と市内に営業拠点を設けた日本の生産財メーカーが教えてくれた。 ■GDPに比肩する輸出額 ベトナムの2024年4︱6月期の実質GDP成長率は前年同期比6・9%増と1︱3月の同5・9%増から1ポイント拡大した。1年半前の急落(22年7-9月期の13・7%増→23年1-3月の3.3%増)を経て回復局面に入ったと言える。急落の要因は不動産バブルがはじけたこと、世界的に景気が低迷したこと、ウクライナの問題等々があったことだとJETRO松本所長は見る。 「今は内需を下支えにある程度回復傾向にある。ベトナムの第1クォーターは休暇があったりして低く、その後年末に向かって上昇するのが通常のパターンなので、皆さんそんなに心配していない。国際機関などもおおむね楽観的な見方をしている。これには輸出が戻ってきたことが大きい。ベトナムはやはり輸出に非常に依存しており、輸出額はGDPとほぼ同じ金額だ」 今年上半期のベトナムの貿易黒字は116億米㌦と前年同期比14・5%の成長を示した。日本アセアンセンターのプログラムコーディネーターのウェン・トウン・アン氏は「特に電子機器、衣料品、履物など主要セクターがこの成長を牽引している。さらにベトナムの戦略的な位置づけと改善されたビジネス環境による外国直接投資の流入がこの好転を支えている」と話す。 ホーチミン市に隣接するドンナイ省に22年に進出したMES甲信(長野県伊那市、自動車・半導体・食品分野など向けの製造装置メーカー)も「一時受注は減ったが、ここ最近は不況という感覚はない。取引先の大手自動制御機器メーカーは1500人規模の若い人材をすぐに集めベトナムでの事業を拡大している」(村山徹社長)と言う。 ■若い・安い・優秀 ベトナムの魅力として人件費の安さに加え、優秀な若い人材が確保しやすいことを挙げる日系進出企業は多い。ベトナム人の平均年齢は32・8歳と少子高齢化が進む日本の49・1歳とはずいぶん差がある(国連による2023年の中央値予測)。 16年前にベトナム進出を果たしたフジ矢も「ベトナムには優秀な若い大卒技術者が多く、採用しやすい利点がある」(R&Dセンターの庄子就氏)と話す。もっとも「給料も高く、人件費の面でのメリットは少ない」とも言うが。 フジ矢は今年2月、自動化装置の工場を新たに立ち上げたが、装置はすべて日本に出荷する。「ベトナムでの人件費は上がっているとはいえまだ安く、人の作業をロボットで置き換えると、その投資回収に10年以上かかってしまう」からだと言う。 ただ、自動化の需要がないわけではない。1995年にベトナムでのアフターフォローを開始し、2012年に法人化したソディック・ベトナムがいま販売を強化するのは加工機にロボットなどを付けた自動化製品と金属3Dプリンター。松井大樹General Directorは「ベトナムでもサラリーが年率およそ5~7%で上昇し、属人作業をなくす方向にある。自動化はヒューマンエラーを防ぎ、高まっている離職率の問題にも対応できる」と話す。3Dプリンターははたして売れるのだろうか。松井氏は「近年中華系を代表とする多様な国が進出し競争が激しくなっている金属加工業のなかで差別化要素になる。ベトナムの若いエンジニアはASEANのなかでも技術的好奇心が強く、単なるビジネスという概念ではなく情熱をもって製造業に従事している経営者も多い。彼らは将来を見据えてチャレンジスピリットを持っているため、新技術の取入れに対する抵抗が比較的少ない」と説明する。 ■衰えない熱気と発展性 裾野産業の発展は依然としてベトナムの課題だ。日本アセアンセンターのウェン・トウン・アン氏はその要因として、先進技術や熟練労働力へのアクセスが限定されていることと、分断された供給ネットワークを挙げる。ただ近年はポジティブな発展も見られると言う。 「ベトナム政府は国内生産を促進し、多国籍企業と地元企業の協力を強化するためのイニシアチブを打ち出している」 JETROの松本所長はサポーティング・インダストリーの発展は極めて重要だが、発展していないからダメというわけではないと見る。 「周辺国から輸入できるので、何もベトナムから調達しなければならないこともない。もちろん国内で調達できた方がよいのだが。長い目で見た今後の成長に期待ということではないか」 日系製造業にとっては多国籍企業の進出による競争激化と、サプライチェーンの未発達による原材料の調達難という2つの難題がある。だが、それらをカバーしても余りある熱気と発展性がベトナムにはまだまだある。 FUJIYA TECH VIETNAMロボット専用ベルトグラインダーを製造開始 ベトナムでの16年のノウハウ生かし JSCのレンタル工場に入居する。小規模でスタートできる工場がホーチミン市近郊には多い ホーチミン市中心部から高速道路を通って南東へおよそ1時間半。ドンナイ省の工業団地のレンタル工場に入居するフジ矢テックベトナム(504平方㍍)を訪ねた。フジ矢といえばペンチやニッパを思い浮かべるが、今年2月に本格稼働を始めたここで製造するのは同社で初となるロボット用ベルトグラインダーだ。どうしてか。 ロボットアーム先端に取り付けたベルトグラインダー 「日本は少子高齢化を迎え、作業者が集まりにくい。とりわけ研磨は高いスキルが求められる属人作業であり、粉塵がともなうので若い人はやりたがらない」 東大阪市のフジ矢のR&Dセンターとベトナムを数週間ごとに行き来する庄子就氏はそう話す。同社は3、4年前から研磨、バリ取り加工が欠かせない自社工場にロボットを導入して自動化を進めてきた。製品の品質を安定させ、危険な作業を減らす目的もある。フジ矢のビジョンの一つが「連邦経営」。多角化をして事業領域を拡げ、それぞれの事業がシナジーを生むことで、フジ矢ユナイテッドとして成長することを目指す。その一環として自動化用グラインダー製造は社内ベンチャーとして始まった。 庄子就氏 同社はホーチミン市北部のビンズン省にペンチなどを製造するFUJIYA MANUFACTURING VIETNAM(2012年竣工)をもち、そこでの人材活用・工場運営などのノウハウが蓄積されてきたことも大きい。「ベトナムには優秀な若い大卒技術者が多く、採用しやすい利点がある。もっとも給料も高く、人件費の面でのメリットは少ないが」と庄子氏は苦笑する。 製造するベルトグラインダーは3種類でいずれもロボットや自動機専用。1種類につき年間20台の販売を目指す。と同時にグラインダーに産業用ロボット(ファナック、安川電機、不二越などの垂直多関節)などを加えて自動化装置として金属加工業者向けに販売するSIer事業も展開する。こちらは年間4、5件のシステム導入が目標という。 他社のベルトグラインダーは基本、人が扱うのが前提でロボットにも搭載できるというスタンスだ。だが、フジ矢テックベトナムの製品は「はなからロボット専用。だから逆に人の手に持たせられない。でも自動化を想定した製品だからベルト交換も自動で行える。これは当社だけの機能だと思う」。 自動化装置としてセットアップする様子 ■小回り利かせる受注生産 グラインダー単体の販売、SIer事業はどちらもターゲットは今のところ日本市場という。ベトナムの労働力の安さが自動化の普及を妨げているからだ。 「ベトナムは人件費が上がっているとはいえまだ安く、日本の4分の1程度。人の作業をロボットで置き換えると、その投資回収に10年以上かかってしまう」 ベトナムでの受注生産は納期の面では不利だ。製品は海を渡ることになるのでどうしても4、5カ月の納期はかかる。日本でつくる場合よりも1、2カ月長い。だが品質に厳しい日本向けだからバラツキのない製品づくりには気を使い、価格は競合製品の半分に抑えられる。 「労働コストを抑えられることに加え、部品は3分の1の価格でほぼすべてベトナムで調達している。また不要な機能をそぎ落とすことで価格競争力を保っている」 大手の量産メーカーにない小回りもウリだ。 「一般に大量生産を高い品質で長期間維持するのは難しいし、製品価格は高くなる。量産を支えるサプライヤーを確保するのも大変。だが当社は基本、受注生産で個別対応ができる」 このアドバンテージは近い将来、ベトナムでの販売が始まったときにも生きる。 「ベトナムの金属加工業は切削・研磨のレベルが高い。日本で数年学んだ技能者がベトナムに戻って事業を始める際、日本製の加工機を好んで使うことが多いから。そんな現地企業が求めるグラインダーや自動化設備をきめ細かく提案できる」と庄子氏は期待を抱く。 TONE VIETNAM年内めどにトルクレンチ増産へ 部品の現地調達が課題 ベトナム東南部のドンナイ省。ホーチミン市、ハノイ市、タインホア省、ゲアン省に次いで5番目に人口が多く、ホーチミン市に接する南部の重要な経済開発地域だ。このドンナイ省にある工業団地で2015年6月に稼働したTONEベトナム(社員約25人、工場面積2900平方㍍)を訪ねた。 「景気? まだ悪いですね」 工場立ち上げ時に赴任し約10年間勤務する大矢日出夫General Directorはそう口を開く。「日系工場の多くは円安で生産調整している。円安は来年5月くらいまで続くと見られ、それまで景気はよくならないのでは。設立当初は募集を出せば20人くらいすぐに応募がきたが、今は人も集まりにくい」 大矢日出夫General Director ここには組立工場と、全4500アイテムのうち700アイテムを展示するショールームがある。工場ではトルクレンチとシヤレンチ(鉄骨接手に用いるシャーボルト専用工具)の組立・ならし(動作確認)・校正を行う。主力のトルクレンチは年間4万本、シヤレンチは3500台を生産する。当初の計画ではトルクレンチは今頃は8万本の生産だったというから伸び悩みは否めない。出荷先のほとんどは日本で、ベトナム、タイがそれぞれ1割弱。競合メーカーの存在が大きく日本での販売が思うように伸びていないという。 トルクレンチの組立・ならし・校正エリア 同社のプレセット形トルクレンチはトルク値をあらかじめセットして用いる。トルク数値の表示が数字で読み取りやすく調整しやすいのが特長だ。「数字表示は独自開発したもので、目盛り合わせと異なり作業性が向上する」と自負する。部品は100%日本から調達し、校正装置、ならし用装置も日本製で、日本品質をきっちり守れる生産体制と言える。 トルク数値が読み取りやすく調整しやすいプレセット形トルクレンチ ■高い社員の定着率 設立当時は社員数7人だったが、今や25人に増え、定着率も高い。ベテラン作業者の能力は確実に向上し、「1製品の組立、校正あわせて60分要していたが、今では25分に短縮した」。全体的に白を基調としたきれいな工場は、校正作業をするために室内温度は18~28℃以内に調温。残業がなく(今年は決算期の5月に生産を間に合わせるため4週間だけ、操業以来初めて残業を実施した)、有休がとりやすいので長く勤めたくなるのはもっともだ。「近くに給料が当社より高い台湾、韓国、日系の工場もあるが、過酷な環境で長く続かないと聞く。当社はお子さんをもつ社員にも働きやすい職場になるように努めている」と大矢氏。 現状ではすべての部品を日本から調達しているが、日本本社からはコストメリットを出せるよう40%を現地調達するよう指示されているという。 「稼働した当初にサプライヤーを探したが、当社が指定する材料を入手するのはなかなか難しい。裾野産業の発展がベトナムの課題と言われているとおりで、焼き入れなどはうまくいかないようだ。ただ当社は増産も計画しているので、今年中に副資材など調達しやすいものから徐々に現地調達していきたい」 同社は半年後をめどにトルクレンチ組立エリアを150平方㍍増床したところに、新たに機械を導入して増産する。生産数は現状より倍増して、近い将来には10万本へ高める考えだ。 ■関連記事LINK JETRO(日本貿易振興機構)Ho Chi Minh Office Chief Representative 松本 暢之 氏(ホーチミン日本商工会議所 副会頭) AMANO VIETNAM General Director 本間 鉄也 氏 YAMAZEN VIET NAM General Director 平田 天平 氏 (2024年8月10日掲載)

2024年08月08日

新時代のBCP

元日・能登半島地震で始まった2024年。これからいつ到来するか予測不可能な巨大地震のリスクと共に、防災・減災の重要性が強く認識された年始となった。最近だと山形県を中心に線状降水帯が発生し、河川の氾濫や土砂災害の被害が出た。自然災害のみならず、地政学リスクは一段と高まっており、昨年の5類移行に伴い行動様式は以前の様相を取り戻しつつあるが、新型コロナの感染者数はまたも勢いを見せている。このようなあきらかな危機だけではなく、近年ではサイバー攻撃といったサイバー空間をめぐる脅威も高まっている。設備や施設、企業が保有する情報、そして従業員の安全を守り、安定的に事業を継続していくために必要なBCPとは何か。新時代の危機を乗り越えるための提案とソリューションをデジタル領域から災害食まで幅広く探った。 BCP策定意向が5割に、サイバー攻撃への危機意識も上昇 帝国データバンクが5月に行った調査(調査対象:全国2万7104社、有効回答企業数:1万1410社)では、BCP(事業継続計画)を「策定している」企業の割合は19・8%と、2023年5月の前回調査から1・4ポイント増え、過去最高となった。それに加えて「現在、策定中」(7.3%、前年比0・2ポイント減)と「策定を検討している」(22.9%、同0.2ポイント増)を合計した「(BCPを)策定意向あり」とする企業は50.0%(同1.4ポイント増)と、4年ぶりに5割に達した。 BCPについて「策定意向あり」と回答した企業に、事業継続に対して想定するリスクを尋ねると、地震や風水害、噴火などの「自然災害」が71・1%となり最も高かった(複数回答、以下同【表】)。次いで、サイバー攻撃など含む「情報セキュリティ上のリスク」(44.4%)が4割台で続き、高い危機意識が表れた。またインフルエンザ、新型ウイルス、SARSなどの「感染症」(39.9%)や電気・水道・ガスなど「インフラの寸断」(39.6%)、そして「設備の故障」(39・1%)がほぼ同数で上位に並んだ。 さらに「策定意向あり」とした企業に対し、事業が中断するリスクに備えて実施あるいは検討している内容を尋ねると「従業員の安否確認手段の整備」が68・9%で7割近くにのぼった(複数回答、以下同)。次に「情報システムのバックアップ」(57.9%)、「緊急時の指揮・命令系統の構築」(42..6%)が続いた。 BCPを「策定していない」企業の理由は「策定に必要なスキル・ノウハウがない」が41.6%でトップとなった(複数回答)。ここ数年、世界的な感染症の流行において、業種、職種問わず多くの企業が企業活動の変革を余儀なくされたにもかかわらず、事業活動継続のために必要なことが判然とせず、いまだにBCP策定のハードルになっているのは憂慮すべき状態だ。今一度リスクを見直し、実効性の高いBCP策定ができるタイミングと捉えたい。 増え続けるサイバー攻撃、被害最多の製造業 対策のポイントは 大阪府警 サイバーセキュリティ対策課・鎌谷輝明警視 サイバー空間の進展や環境の変化により、サイバー攻撃による脅威やリスクが高まっている。狙われている企業は、業種問わず大企業といったイメージがないだろうか。令和5年上半期に警察庁に報告されたランサムウェア被害の件数は、企業業種別で最も多いのは製造業で、その次が小売業、サービス業が続く。企業規模別だと60%が中小企業という実態だ。「メディアで取り上げられているのは大企業という話で、全く他人事ではない」と大阪府警サイバーセキュリティ対策課管理官・鎌谷輝明警視は警鐘を鳴らす。 ランサムウェアはパソコン等に保存されているデータを暗号化して使用不能にし、そのデータを複合する対価に金銭や暗号資産を要求する不正プログラム。感染経路としてはVPN機器からの侵入が最も多い。コロナ禍でリモートワークが増え、社外や自宅、出先機関から会社のシステムに接続する際に入り口となるVPNが増加した。「『うちにはVPN機器はない』と思っていたら、システムベンダーが保守メンテのために設置しており、把握が漏れているケースもある」という。 近年のランサムウェアでは、機器の脆弱を突いて攻撃者が入り込む手口が主流。「社内でパスワードの使い回しや、パスワードを設定してなかったりすることも実際に有り、セキュリティが甘いと多くの端末やデータが侵害され、被害が拡大する。ウイルス対策ソフトも侵入されたらその機能が止められる。悪質な攻撃者だとデータを盗み、犯罪者たちのいるダークウェブで売買することも」と脅威を語る。 脆弱性とは、OSやソフトウェアのセキュリティーホール欠陥などの不具合や設定ミスや管理不備のこと。侵入対策には「多要素認証」や「最新のセキュリティパッチの適用」、「IPアドレスなどの制限」は多くの企業ですでに取り入れており、「逆にやっていないとセキュリティが甘いという状況」と話す。 多岐にわたる対策を検討する上で重要なのは、実際に被害に遭った企業の事例を見ること。「公共機関やインフラは被害に遭った後、調査委員会を置いて有識者が検証するなど充実したインシデントレポートを上げている」「オフラインでのバックアップも有効な対策の一つ。被害に遭っても、最悪、データ復旧はでき、情報漏洩はしたとしても業務再開までの時間は短縮できる」 ■有効なサービス、情報ページの活用を 警察庁『サイバー警察局』では個別事案の対応策をまとめており、大阪府警は『サイバーセキュリティ対策通信』を発生状況に応じてリアルタイムで発信しており、サイバー攻撃の対策と現況を伝える。 有効なサービスとしては「(独)IPA(情報処理推進機構)による『サイバーセキュリティお助け隊サービス』も候補の1つとして見てもらえたら。利用料が安価でありながら必要最低限のものが揃っている。IT導入補助金の対象となっており、金銭的負担も軽減される」と紹介した。 (2024年5月30日の防犯防災総合展セミナーから) アイコム、災害時の情報収集・共有を確保 ワイドな通信エリアも一対多数で 衛星通信トランシーバー「IC-SAT100」を手に持つ宣伝広告部・プランナー 八田恵梨子氏(左)とハイブリッドIPトランシーバー「IP700」を持つ松田和也チーフメディア広報 BCP策定の重要項目である非常時の通信手段。災害時でも確かに繋がる通信手段があれば、情報共有も意思決定の伝達も速やかに行え、事業の早期回復に対して有効な手を打てる。 総合無線機メーカーのアイコムはBCP対策として、ハイブリッドIPトランシーバー「IP700」と衛星通信トランシーバー「IC-SAT100」を挙げる。 IPトランシーバーとデジタル簡易無線を1台に集約したIP700は、ワイドな通話エリアと万が一の通信手段の確保を両立。 「工場などでトランシーバーを使う現場があるが、従来のトランシーバーは一対一で無線機同士の電波が通じれば話せるが、距離が離れると繋がらず、他の人が話していると割り込んで話せない。しかしIPトランシーバーは携帯電話回線を使って通話できます」(宣伝広告部・松田和也チーフメディア広報、以下同)。そして携帯電話と違う点は、トランシーバーは一人ずつかけなくても複数に同時にかけられること。一度の連絡で多くの拠点に同時に連絡できるメリットがある。 加えてau回線とNTTドコモ回線のデュアルSIM対応。本体操作だけで2回線を切り替えて使え、「両回線のSIMを装備すれば、万が一の回線トラブルにも対応できる」(同社)。 ■ボタン一つで世界規模の同報通信、海外事業所にも さらなる過酷な状況でも対応できるのが衛星通信トランシーバーIC︱SAT100だ。衛星通信ネットワークを使った無線端末で、送信ボタンを押すだけで複数の相手先と衛星回線で通話できる。大規模災害により地上のインフラがダウンした場合でも安定した通信体制を構築できる。「大きな拠点に設置していただき、バックアップの回線として使っていただければ」と言う。「インフラの全くない僻地や海上、砂漠であっても使えます。例えば山奥にある地域で、この崖が崩れたら孤立してしまうといった自治体でも、災害時に物理的に孤立しても情報の孤立から守れます」と重要な通信手段を確保する。 上空約780㌔の低軌道を周回するイリジウム社の衛星ネットワークを使うため、他の通信衛星とくらべて音声遅滞が少なく、リアルタイムな通信ができるのも特長。セキュリティ強度の高い暗号化方式「AES256bit」で通話による情報漏洩を防ぐ。 通信拡張ユニットの「VE-PG4」との併用により従来の無線機やIPトランシーバーとも通信可能。VoIP通信との連携も可能だ。 大阪・関西万博の会場では、地震計を手がけるIMV社と連携し、衛星通信トランシーバーを組み合わせた地震監視装置を貸与し、運営参加サプライヤーとして協力。 また両製品とも防塵・防水(IP67)仕様。1500mWの大音量で一般的なデジタル簡易無線機の約2倍の音声出力を実現。騒音が予想される災害現場でも大きく明瞭な音声で通話をサポートする。 食料についても要確認、PC動いても水・食料なければ事業継続困難 減塩レシピコンテスト「S−1g大会」の減塩レシピを説明する医薬健栄研・坪山宜代室長(左)と国循・竹本小百合上級研究員 BCP(事業継続計画)として食にまつわる計画を策定している企業はどれくらいあるのだろうか。食べ物は自衛隊や行政が何とかしてくれると油断していると事業継続ができないかもしれない。医薬基盤・健康・栄養研究所(医薬健栄研)の坪山宜代国際災害栄養研究室長は「東日本大震災では国のプッシュ型支援で食べ物が届いたのが5日~ 6日後。それまでの期間は地域で、企業も個人も協力して用意する必要がある」とし「最初の3日間はパンやバータイプなどの直ぐに食べられる食品でエネルギー源をしっかりとり、それ以降は栄養バランスなど『質』も重要」と語る。 缶詰やレトルト食品などの「おかず類」の用意が重要で、農林水産省の「災害時に備えた食品ストックガイド」では「通常の家庭ではできれば1週間分、食物アレルギーがあるなど災害時要配慮者は少なくとも2週間以上の備えが必要」とする。企業の備蓄に統一されたガイドラインはないが同程度の備えは欲しい。BCPでは「食料の確保の計画があるか、まず確認してほしい。発電機でパソコンを動かせたとしても、水と食事を従業員が確保できなければ事業継続は難しいのではないか」と話す。どこに備蓄するかも重要で地下倉庫に備えていてもエレベーターが動かず活用できないなどもあり「各フロアに準備するなど、食べる場所、事業を実施するところに備えると良いだろう」とアドバイスする。 ■「災害関連死」を防ぐ 減塩がポイントか 避難生活の長期化などにより「災害高血圧」が発生、循環器病などのリスクが増加し、いわゆる災害関連死へとつながると考えられている。食塩摂取量が1㌘増えると「災害高血圧」のリスクが16%増加するという。 災害発生直後(急性期)はエネルギーの摂取が最重要ではあるとしつつ、国立循環器病研究センター(国循)社会実装推進室の竹本小百合上級研究員は「備蓄食品は基本的には食塩が多い。カップラーメンなら5㌘の食塩が入っている。備蓄する食品はなるべく食塩が少ないものを選んでほしい」と話し「一例として医薬健栄研が考案した、備蓄性の高いアルファ化米と野菜ジュースを使った災害食レシピやかるしお認定商品の高野豆腐を使った減塩災害食などを両機関合同のイベントなどで提案している」とする。なお、「かるしお」とは国循が推奨する「塩をかるく使って美味しさを引き出す」減塩の新しい考え方である。 また減塩レシピコンテストS︱1g大会を実施。その中で国循賞に加え、医薬健栄研・災害栄養賞を設け啓発に努める。最新の入賞作はポリ袋を調理工程に使うなどライフラインが使えない場合の創意工夫が見られる。こうしたレシピが保存食のローリングストックの促進、災害に備える意識の向上につながればと、両研究者は話す。 (2024年8月10日号掲載)

2024年08月07日

【行政主導限界】身を守る防災・防犯対策

1月1日16時10分。石川県能登地方の深さ16㌔を震源とするマグニチュード7・6の地震が発生し、石川県の輪島市及び志賀町で震度7を観測した。政府は発災直後から被災地からの要請を待たずに避難生活に必要不可欠な物資を支援する「プッシュ型支援」を開始。翌日には石川県の広域輸送拠点に第一便が到着した。しかし、半島的特性や各種インフラの寸断もあり、十分な支援が届けられない状況が散見された。 公助を広く平等に提供することが難しくなる今、もしもに備え自分の身を守る取り組みがより一層重要になっている。本特集では防災・防犯対策の最新トレンドを追った。 6月14日に閣議決定された「2024年版防災白書」では、能登半島地震への災害状況・対応が詳報されている。5月8日時点で石川県の避難所では約4千人が避難生活を続け、上下水道も輪島市と珠洲市の約3110戸で断水しているなど厳しい被災地の状況が伝えられた。 そうした中、白書では「公助」頼りの防災対策への限界について言及している。特に今後発生が心配される南海トラフ地震などの大規模災害では公助に限界があると指摘。阪神・淡路大震災など過去の災害でも生き埋めになった人の約8割が自助・共助で救出されており、公助による救出は約2割程度に過ぎないなど、これまでにも公助の役割が限定的であったことを指摘。次のように自助・共助の重要性を説いた。 「地球温暖化に伴う気象災害の激甚化・頻発化、高齢社会における支援を要する高齢者の増加等により、突発的に発生する激甚な災害に対して既存のハード対策やソフト対策のみで災害を防ぎきることはますます困難になっている。行政を主とした取組だけではなく、国民全体の共通理解の下、住民の『自助』・『共助』を主体とする防災政策に転換していくことが必要である」 自助を行う上でまず何より重要となるのが、公助のリソースが人命救出に多く割かれる72時間をいかに自らの力で生き延びるかだ。 初動避難に役立つのが累計販売台数180万個突破の山善(グリーンオーナメント)の「防災バッグ30」。「とりあえず逃げる」を想定した製品で、一次避難に特化した必須アイテム30点(アルミシートやサランラップ、携帯トイレなど)がセットになっている。開発した山善・家庭機器事業部商品企画4部の小浜成章部長は「防災意識を高めるにはまず防災用品を一般に普及させることが重要だと思った」と開発当時を振り返り、「家に1つ」ではなく「1人に1袋」手に取りやすくするため、価格設定やカスタマイズしやすい収納空間、女性や高齢者でも持ち運びやすい工夫などを詰め込んだ。能登半島地震発生直後は「防災意識が高まった影響もあり、個人に限らず大きな引き合いがあり、一時完売するほど」だった。定番モデル以外に防水仕様や車用など様々なタイプを用意しており、防災対策の第一歩として手に取りやすい。 ■水・トイレの 確保が最重要課題 防災関連の取材をしていると防災備蓄の最重要項目として「トイレ」をよく聞く。今回の取材でも(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事の鍵屋一さんや輪島塗の伝統工芸士である坂口彰緖さんもその重要性を説く。頻発化する災害でトイレ対策ノウハウが製品へ落とし込まれつつある。 山善が8月に発売した「サッと簡単トイレ」は折り畳み式で、収納時は厚さ7・5㌢とコンパクト。「ダンボールトイレなどもあるが、汚れたり濡れたりすると簡単に使えなくなってしまう。本製品は何度も使えて、汚れても丸洗いでき衛生的」(小浜部長) 8月から販売している「サッと簡単トイレ」 本製品と組合せて使いたいのが、避難所備蓄にも向く「配れるトイレ」(山善)。避難者1人が1日に必要な簡易トイレ(消臭抗菌性凝固剤×5、排便収納袋×5、集約用大型袋×1)が個包装になっているため、避難所で配布にも向く。 避難時のトイレで特に問題となるのが排泄物のにおいだ。避難所では1カ所に排泄物のゴミをまとめることが多く、堆積した袋の重さなどによって袋が破れ悲惨な状況になるケースが多々ある。そうした問題を解消しそうなのが山善(バイオステラ)の排便用バイオ消臭剤「排便慶」だ。仮死状態で保存された微生物が付いたもみ殻を排泄物に振りかけることで、においの原因となる物質や細菌を分解する。振りかけて30分ほどで消臭率・除菌率99%と効果も高い。開発担当者は「能登半島の応援レスキュー隊に使用いただいたが、排泄物のにおいでストレスを感じなかったのは初めてとの声をいただいた」と話す。 備蓄に注意が必要にも関わらず見落としがちなのがトイレットペーパーだ。保管方法によっては湿気にやられてしまったり、水害などが発生した際に使えなくなってしまった事例が過去にある。シロキが販売する「10年保証備蓄用トイレットペーパー(70㍍タイプ)」はロールごとにアルミ蒸着で密閉しているため、備蓄場所に水気があっても保管できる。1ロールで1人1週間分をまかなうが、大きさは直径約7.3センチと一般的なトイレットペーパーよりも約30%小さい。同社の担当者は「一般的な製品と比べて非常にコンパクトだが、使用感に変わりはない」という。 シロキが販売する「10年保証備蓄用トイレットペーパー(70㍍タイプ)」 ■関連記事LINK (一社)福祉防災コミュニティ協会 代表理事 鍵屋 一 氏 東北大学 災害科学国際研究所 災害評価・低減研究部門 津波工学研究分野 教授 今村 文彦 氏 (2024年8月10日号掲載)

2024年08月07日

「ソフト変革」で勝ち残る

米ゴールドマン・サックスは昨年、「生成AIが世界で3億人相当の仕事を置き換える恐れがある」とする報告書を公表。自動化の影響を受ける職業のランキングも推計し、1位の「事務・行政サポート」、2位の「法務」に続き、「設計・エンジニアリング」が3位に入った。昨今、製造プロセスにおいてもAI活用が進む中、各社が様々なソリューションを打ち出している。 モノづくりの世界において、いますぐに設計者やエンジニアが仕事を失う、ということにはならないだろう。だが利便性や生産性、スピード感、コストを鑑みた場合、製造業こそ適切なAI技術の積極導入に動く可能性は極めて高い。実際に設計や生産管理など、モノづくりで使われるソフトウェアとAIの組み合わせにより、効率化と生産性の向上を目指す取り組みが加速している。 設計者がソフトウェアに設計における要件定義などを入力することで、最適な形状を自動生成するジェネレーティブデザイン。この機能をいち早くとりいれたのがオートデスクの3DCAD「Fusion360」だ。同ソフトのジェネレーティブデザインは、一度に数百モデルの提示も可能にしている。またクラウドベースのソフトなので、利用する分だけの料金(クラウドクレジット)を払うだけで、気軽にジェネレーティブデザインによるモノづくりを実現可能にしている。 Fusion360によるジェネレーティブデザイン シーメンスは「SolidEdge」の最新版において、AIによる設計支援機能を導入している。こちらはアセンブリ内の部品置き換えの際に、AIアセンブリ関係認識機能がインテリジェントに有効な選択肢を予測して提示する。また、AI搭載のユーザーインタフェースが設計者の利用パターンを学び、最適なコンテキストでカーソル付近に関連コマンドを提示し、作業時間の短縮に繋げている。 ダッソーシステムズはSOLIDWORKSのクラウド/WEBブラウザベースのモデリングツール「3Dクリエイター」に、AI設計支援機能「デザインアシスタント」を搭載。こちらは時間の要する反復的な入力作業を自動化するように設定されており、設計者の作業効率を上げる。 C&Gシステムズは金型向けCAD/CAM「CAM-TOOL V20.1」に「AI切削条件算出機能」を搭載。データマイニング手法により工具メーカーの大量な工具・切削条件や、工具カタログデータに登録されていない被削材の材料物性値などを学習させ、ユーザーが選定した被削材や工具に対し、学習後の切削条件を自動算出する。また、加工実績に基づくユーザー独自の切削条件をデータベースにフィードバックするため、機械学習によって効率化された加工情報資産の構築を可能にする。 C&Gシステムズの「CAM-TOOL V20.1」 ■予兆保全にもAI活用 モノづくり現場へのAI活用は、大手を中心に予兆保全や技術継承といった部分でも活用も進んでいる。 THKは直動部品や回転部品の予兆保全ソリューション「OMNIedge」においてAI診断サービス「ADV」を提供。同サービスはヘルススコアを算出するAIアルゴリズムを採用。ユーザーによるしきい値の設定が不要で、各種データから異常度を算出して部品の状態を判断する。またADVは変化と異常を検知するだけでなく、データを分析し、メンテナンスレポートを提示するので、多台数の設備保全を担っているユーザーの保全活動の効率化にも寄与する。 三菱電機は、AI技術「Maisart」を活用した、製造現場の人の作業分析を数分で実現する「行動分析AI」を開発。熟練者と初心者の作業を短時間で分析し、代表的な作業の動画を自動で切り出して比較することで、作業改善の指針の立案や熟練作業の伝承を支援する。 従来の一般的な作業分析AIは導入にあたり、作業者や作業の手順ごとに人手で作業分析した結果を教師データとして作成し学習させる必要があり、導入までに時間を要した。一方、行動分析AIは循環する身体動作の確率的生成モデルを作業分析に適用。これにより、作業分析にかかる時間を最大99%削減している。 Mastercam2025、ネジ加工、バリ取り新機能追加 生産性向上目指しバージョンアップ 国内外の切削加工現場において最も使用されているCAD/CAMソフト「Mastercam」。難加工への対応や機能強化による生産性の向上など、発売以来進化を続けている同ソフトの最新日本語バージョンが各ソフトベンダーより9月に上市される。 世界中のユーザーによる設計および加工情報のフィードバックをベースにバージョンアップを続けるMastercam。2025版においても様々な新機能を追加している。そのいくつかをピックアップする。 スレッドミルにはさまざまな機能強化が施された。ネジ切り時におけるリードイン、リードアウトの速度や送りのオーバーライドにより、エントリ移動中の制御を最適化。これによりツール寿命が延び、ねじの加工精度の向上を実現する。また段階的なリードイン、リードアウトにより、ツールの制御を向上させている。さらに新しいツールエッジ送り速度では、中心線ではなくツールの接線エッジに基づいた送り速度が計算される。 スレッドミルの強化でねじ加工精度を向上 Y軸旋削にはMill-Turnサポートを導入。カスタムスレッドとB軸輪郭旋削を除くすべての旋削ツールパスは、Y軸機能をサポートする。これにより、適切なツール方向とスピンドル原点を使用してツールパスを作成する。またアプローチおよびリトラクト戦略が強化され、ホルダーコンポーネントページでツールアセンブリをY軸互換として指定できるようになっている。 A軸輪郭旋削ツールパスは、Mastercam2023で導入されたB軸輪郭ツールパスを補完し、回転輪郭旋削のサポートを拡張した。新しいツールパスは切削中にツールを回転できるため、ユーザーは 最新のY軸ツールテクノロジーを活用した加工ができる。 B軸ロータリー輪郭ツールパスには2つの新機能が追加され。チェーンジオメトリにスプラインを含めることができるようになったため、ツールパス生成プロセスが簡素化され、高速化を実現。さらに、新しいツール角度コントロールは、インサートの先行角度または後続角度を指定できるため、ツールパス作成プロセスが強化され、高効率な加工を可能にする。 バリ取りツールパスは、自動エッジ検出と直感的なコントロールにより、バリ取り工程を簡素化する。このツールパスはMastercam5軸ライセンスがなくても使用可能で、3軸環境でも合理化されたバリ取りが行える。 3軸環境でも効率化されたバリ取りが行える このほか、穴あけ加工時の安全ゾーンの改善や偏差関数の分析、ソリッドホールの選択、2Dダイナミックミルおよびエリアミルツールパスへの仕上げパス追加など、大幅な強化が行われている。 ジェービーエムエンジニアリング、オフラインプログラミングソフト「OCTOPUZ」 より多彩なロボットティーチングに対応 Mastercamの国内トップベンダー・ジェービーエムエンジニアリングは、オフラインロボットプログラミングソフト「OCTOPUZ」の新バージョンを7月に上市した。 OCTOPUZは、産業用ロボットを仮想オフライン環境でプログラムし、実際の現場にフィードバック可能なソフト。レイアウトや設計、プログラミングまで複雑で面倒な作業を事前に行える。さらに溶接や搬送においてもオフラインティーチングとシミュレーションの活用で、ティーチング時間を大幅に短縮する。 オフラインロボットプログラミングソフト「OCTOPUZ」 新版のVer.2024.6.xは新たなロボットブランド、機能への対応を強化。安川電機製ロボットのスポット溶接への対応、ファナック製ロボットのレーザおよびワイヤーセンサーのタッチセンシングに使用するIOタイプ制御のオプションの追加、テックマンロボット、ハイウィンのコントローラとポストへの対応などを追加した。これにより15ブランド、228種のロボットコンポーネントをカバーする。 機能面もさらに充実させている。CADファイルの設定の最適化や複数のCADファイルの一括インポートオプション、CADファイルの3Dワールドへのドラッグ&ドロップなどを追加し、CADインポートのワークフローを大幅強化した。 OCTOPUZで作成したプログラムからロボットコードを生成するOCTOPUZコードエンジンが、アプリの更新とは別で更新を受け取れるように改良。 これによりロボットのポストをより早く、合理的に強化できるようになった。 衝突検出が最適化・高速化されており、表示される衝突グループの情報をさらに充実。衝突公差という新機能は、検出された対象物間の安全マージンを付加できる。また新しいロボットセルをキャリブレーションする際に使用する新機能「キャリブレーションデータセット」は、自動キャリブレーションツールで使用する教示点の定義を可能にしている。 ロボットを活用しての積層造形も可能に オプションのJBMサービスパック/パワーパックも強化。JBMオートアップデートの問題を解決し、OCTOPUZからRobot Code Editorが起動できるように改善した。またコンポーネントの詳細情報を盛り込んだJBMeライブラリが使用できるようになっている。 パワーパックはロボットコードエディタランチャーを採用し操作性を向上、ダークモードビジュアルをとFTP通信を追加した。またOctopath Viewにもダークモードビジュアルを追加している。 「OCTOPUZは拡張性が高く、Mastercamや当社の積層造形用CAM『ADDITIVE MASTER LUNA』、金属3Dプリンタ『MELTIO』との連携も容易です。これらを活用することでロボットによる3Dプリンティングなど、新たなモノづくりが実現可能になります」(同社)。 机上化進む新車の試験・開発 横断的なデジタルシフトで量産準備期間を短縮 「3DEXPERIENCE CONFERENCE Japan 2024」の基調講演に登壇したSUBARU・エンジニアリング情報管理部の村井大輔氏 国内でも自動車の机上での試験・開発が拡大しつつある。これまで日系自動車メーカーの新車開発には年単位の時間がかかるとされており、新興・中華系メーカーと比較した際の開発期間の長さが課題の一つとされてきた。そうした中、国内メーカーでも急激な市場変化に対応しグローバルでの競争力維持のため、デジタル上での試験・開発の本格運用が進みつつある。 仏Dassault Systemsの日本法人ダッソー・システムズが主催する「3DEXPERIENCE CONFERENCE Japan 2024」(6月下旬、都内開催)でSUBARUは、「SUBARUにおけるデジタル開発~モノづくり改革を支えるIT施策~」をテーマに、製品設計・開発の統合プラットフォーム「3DEXPERIENCE」を活用したデジタル改革の事例を紹介した。 基幹CADにCATIAを使用する同社は、2021年から3DEXPERIENCEを導入。登壇した同社・エンジニアリング情報管理部の村井大輔氏は一元的なデータ管理と横断的なデータ活用により、「実車評価ありきの開発から机上評価を主とした開発」に移行し、「先の読めない時代に対応し、高品質な製品をより早く提供する開発体制を構築する」と述べる。  実際、各部門がそれぞれに評価データを集めるのではなく、組織的にデータを集積する体制を整えることで、常に最新の車両データを共有しながら開発を進めることを可能にした。結果、部品間の整合性が取れた状態でデジタル試験評価を行えるため、従来と比較して18%の工数低減を実現した。 ■MBD軸に生産性・意匠性向上 マツダもフレキシブルな生産体制の構築に向けて、机上検証を活用した量産準備工程の短期化を図っている。 「従来は机上検証を行ったうえでいったん試作型を製作、機能や生産性を検証し量産型の製作入っていた。こうした検証を全て机上で事前に検証することで、量産型の製作・検証プロセスを短縮した」(同社・杉中隆司技術本部長) 特に重要なのが、モデルベース開発(MBD)の活用だ。MBDは様々な現象や車の挙動を数式化し、それらをシミュレーションで活用することで、検証を行いながら設計開発を進める手法。シリンダーヘッドの残留応力を解析した事例では、生産技術の鋳造解析と開発の信頼性解析を一気通貫の連成解析で繋ぐことで精度の高い応力解析を可能とし、実機試験の早い段階で寸法精度合格率90%以上を実現。金型の調整や育成期間を大幅に削減することができている。 同社はMBDを顧客体験の向上にも役立てている。特徴である生き物のような生命感のある魂動デザインは、数㍈の面形状の違いでデザイナーの意図を損なってしまう。デザイナーの意図を忠実に再現するため、3次元的な流れをゼブラ模様で可視化した。デザインデータから成形CAE、実車まで同じ物差しで一気通貫に作りこむことを可能にした。職人技に頼っていたデザインを量産化し、顧客への価値提供を促進する。 テクノア、AIによる図面管理 データ活用で作業効率向上へ 多品種生産が当たり前になっている昨今。加工に関わる図面をいかに管理し、有効に活用するかが課題となっている。 生産管理システム「テックス」を中心に製造現場向けソリューションを展開するテクノアは、AIで図面を管理するシステム「AI類似図面検索」を提案している。同システムは過去の図面データから類似図面をAIで即座に検索。設計や見積作成などの業務に必要な類似図面データを検索、比較し業務への的確なフィードバックを実現する。また版管理で常に最新の図面と比較が可能で、図面比較で差分を視覚化。変更点も一目で確認することもできる。 「2022年4月の発売以来、導入企業様からいただいた100件以上のフィードバックをもとに、機能を強化し、中小製造業様に最適な図面管理ソリューションへと進化を続けています。最新版では担当者別の操作権限を詳細に設定できる管理機能やログイン履歴の確認機能を追加しています」(同社) かんたんな項目入力で図面検索ができる さらにユーザビリティの向上を目指し、AI類似図面検索で検索した結果をもとに、比較から判断に到達するまでの操作手順や画面遷移を見直し、操作の省力化や確認作業の効率化に貢献する機能を追加。これにより必要な図面情報へアクセスするまでの時間を約3割削減するという。 同社ではその効果を実感できる体験会を8月20~21日に岐阜本社で、8月22~23日に大阪支店にて開催する。 ■関連記事LINK ゼネテック エンジニアリングソリューション事業部 佐藤 英二 事業部長/エンジニアリング開発部 池田 陽一 部長 キャドマック 開発部 部長 渡邉 光行 氏 米山金型製作所、医療向け超精密金型の旗手 (2024年7月25日号掲載)

2024年07月24日

AM EXPO初開催、航空・宇宙・防衛から自動車産業へ

INTERMOLD名古屋やAM EXPO名古屋などがポートメッセなごやで、6月26日~28日にかけて同時開催され3万8998人が訪れた。今回初開催となった「AM EXPO名古屋」を中心にレポートする。なお来年4月16日~18日に東京ビッグサイトで第二回が開催予定だ。 日本AM協会の澤越俊幸専務理事は「1グラムでも軽く1ミリでも小さくすることに莫大なコストをかける航空・防衛・宇宙産業がAMを先導してきた。しかし去年の統計では、3Dプリンタの用途では自動車産業が抜いた。いよいよ民生品に軸足が移ってきた」という。だが、日本ではコスト、精度や強度への不安、品質保証の問題などが山積し積極導入に至らない。同協会は製品(量産品)ではなく「設計変更を必要としない、保守部品や治具・工具・ツールから取り組む」ことで、導入のハードルを下げようと試みる。また記念講演でデンソーの先進プロセス研究部ADM研究室担当次長の寺亮之介氏は、やがて来る量産段階では「日本の勝ちどころがある」と指摘する。 豊田自動織機はアルミ部品を鋳造する3次元冷却金型の事例を紹介。金型にはアルミを冷やすための冷却水管が通っているが、従来はドリルで加工するため直線的にしか配置できず、水管を通せない場所にアルミ溶着が発生。研きのために機械を止めていた。AMで金型を加工すると水管を毛細血管のように通せるのでアルミ溶着を防ぎ生産性が向上する。いすゞ自動車からも同様の事例が報告されていた。 豊田自動織機は3次元冷却金型 デンソーはAMで補給部品を代替え製造。量産のダイガスト部品と等価の品質に制御するAM技術のめどを立てた。2製品で信頼性評価まで完了させている。 中小企業でもAMを使って事業の可能性を広げた例も多い。高周波焼入れ用の銅製コイルを製造していたティーケーエンジニアリング。合屋純一常務は「銅製コイルは内部が空洞になっており、バラバラの複数部品をロウ付けで接合するか、バーナーで加熱して手曲げしていた。同製品を3Dプリンタで製造することで、ロウ付けが不要になり寿命が飛躍的に伸びた。既存品が10万個ほどしか焼入れ出来なかったのに対し100万個まで持つ。またロウ付けでは不可能だった形状も製造可能になった」とした。 従来工法では不可能な形状の銅製コイル ■台湾の宇宙ベンチャー参入 台湾の宇宙ベンチャー「TiSPACE」が姉妹会社として北海道に設立したJT SPACE。ロケットの打ち上げサービスを提供する同社は、「ロケット部品を3Dプリンタで製造しており、自社開発の金属3Dプリンタも製造。それらを使ってプリンティングサービスなどを日本で提供していく」(担当者)とする。今年、自社製も含め10台の3Dプリンタを設置、来年には50台を設置予定で、アジア最大規模の生産拠点になるという。同社製のプリンタは低価格が特徴で「中国製は政府からの助成金で低価格を実現しているが、当社の機械はそれがなくても同価格を実現。欧米製の半分以下の価格なので量産が可能だ」と自信を見せた。 デンソー いすゞ自動車担当者インタビュー 自動車業界におけるAMの取り組みと今後の課題などについて、いすゞ自動車要素技術部鋳造技術グループシニアエキスパート・横山賢介氏とデンソーの寺氏にインタビューした。 金型における3D冷却水管の設計技術獲得に取り組んだ横山氏は「生産性を上げたいというのが第一にあり、豊田自動織機の講演なども見て『このままだとウチは、置いてかれるかも』との危機感が原動力となった。実際に取り組むと自由度が高すぎて、『これだ』というのがなく、あたりをつけて試行錯誤すると『そこそこ』うまくいった。ただし金型の壊れやすさなど課題も多く、ノウハウを獲得していけば今後の競争力につながる」とし「将来的には製品でも使えるようになるかもしれない。自動車会社なので『使える技術だ』と実証されれば図面を変えるところまでやれるかもしれない」と話す。 記念講演で先行する中国や欧米のプレイヤーも、やがて量産ならではの課題にぶつかるとし「量産経験ユーザーの視点を入れていかないと技術進化しない。逆に言うと日本の勝ちどころがそこにある」と指摘していた寺氏。「AMの普及にはコストダウンが欠かせない。材料を安くするためにはビッグユーザーの中で柱を決めて、マスを稼がないといけない。加工速度の高速化、または償却費を下げる活動へのサポートも必要だ。まだまだAM普及へのロードマップの共有が我々ユーザーとメーカー、業界で出来ていない」と指摘。また量産領域において「モノづくりの品質の追求ではまだ日本のほうが上だろう。半面、中国のエネルギーはすごく、これもすぐに追いつかれる。アドバンテージはあるがこのままだと負けてしまう。AMをいかに普及させるか、すぐにでもオープンな議論や対話を始めないといけない」と危機感をにじませた。 ■メイン展示会INTERMOLDも盛り上がる 同時開催で、メインの展示会となるINTERMOLDでも様々な展示が来場者を楽しませた。牧野フライス製作所は長時間安定した高精度の加工を実現する立形マシニングセンタ「V56i PLUS」を展示。ベストセラー機「V56i」に、熱変異対策を強化したものだ。担当者は「テーブル内部に機械と温度を同調させた冷却液を流しており、加工しているうちにテーブルが冷えて時間がたつと精度が出にくいなどの課題を解決する。長時間の加工でも精度が安定しやすくなる」とする。仕上げ加工時間65時間で位置精度±2.5ミクロンのワークも展示し性能をPRしていた。 大阪会場ではなかった牧野フライス製作所のキャラバントラック。 D2で加工した大型の金型を積んでいた。同トラックで営業スタッフが持っていけない大型ワークをユーザーに直接見せに行く。 地元企業の未来精工は名古屋会場だけの出展。バイオマスプラスチックの成形に適した金型技術の構築を目指していた。取締役の山田和敏氏は「どういった素材を混ぜたかで流動性などが全く異なる。かなりの数をこなさないとノウハウの構築は難しい。さまざまなユーザーと試作を一緒にやりながらバイオマスプラスチックが普及する近い将来に、金型技術を確立したい」とした。 未来精工 さまざまなバイオマスプラスチックで成形したワークサンプル ■関連記事LINK 日本AM協会 専務理事 澤越 俊幸 氏 (2024年7月10日号掲載記事より加筆訂正)

2024年07月12日

【工場進化論】人が集まる働きやすい職場へ

「人は…来ないねぇ。どこも一緒だと思いますけど」。とある金属加工会社の社長は遠い目で薄く笑った。コロナ禍で一時的に「過剰」に転じた製造業の人手は平常に戻ると途端に不足感が強まり、今は争奪戦に近い様相だ。特に若手の製造業離れは指摘されて久しく、これに歯止めがかかったとは現状、残念ながら言えない。生産現場には奥深い魅力がありものづくり産業の浮沈は国力をも左右する。だからこそ環境改善によるイメージの向上は大きな意味があるはずだ。本特集では人が集まる働きやすい工場をつくるためのヒントを取材から探る。 「人手不足はどこも一緒ですが、特にウチのような地方では厳しい」。ある工場の担当者は本当に厳しい顔つきでそう語る。企業や業界でも濃淡はあるはずだが、この2年ほど、押し並べてよく耳にするのは人手不足を嘆く製造業の声。海の向こう、若い働き手が日本より圧倒的に多いはずのインドですら「IT産業やアパレルが人気で製造業は人手不足気味」との声が聞こえてくる。では日本の状況は…推して知るべしだろう。 中小企業庁の統計では中小企業における製造業の従業員の過不足DI(従業員の過不足状況を表す指標でマイナスが多いほど不足)は2024年第1四半期でマイナス18.9。コロナ禍の20年に一時プラス(過剰)に転じたが、今はマイナス20台で推移していた17~19年の不足感に近い水準だ。 34歳以下の製造業の若年就業者も昨年は259万人と03年の361万人から20年間で102万人減った。就活ツールも多角化し様々な企業の情報を一覧できるため、求職者の目も昔よりかなり肥えている。若手や女性に興味を持ってもらい、そして働きたいと思ってもらう二段階の心理的ハードルを越えるために、職場の環境整備はかなり重要なファクターだ。いわゆる「Z世代」の興味関心はただでさえ製造業に向きづらいと言われる。そういう傾向が事実としてある以上、現実を受け入れて人を呼び込む手を打たなければ自社も業界そのものも先細ってしまう。 工場では重筋労働と呼ばれる負荷の高い作業が往々にして発生する。加工現場では劣化したクーラント液のムっとしたにおいやオイルミスト、溶接現場では粉塵も問題になる。スレート屋根の建屋は暑さ寒さの影響も受けやすく、特に昨夏の暑さを鑑みれば暑さ対策は必須だ。働き手が面倒だと感じる仕事はシステムや設備で積極的に代替して負担を取り除き、気温や湿度、雰囲気、制度など働きやすい環境を整備する。そうして自社の底力を高めていけば、自ずと働き手にも訴求できる魅力が生まれてくるのではないか。 「人が来ないと嘆いても一生誰も来てくれない」と、あるものづくり企業の経営者はきっぱりと言う。人が集まる企業には一朝一夕ではなれない。だからこそ変化に向けた一歩をいま踏み出したい。 若手が集まるものづくり企業に聞く とどまる様相の見えない人手不足。特に製造業では優秀な若手が他の産業に流れやすく、人材獲得に向けた競争は激化の一途をたどっている。しかしそんな中でも、若い人材が男性・女性問わず集まるものづくり企業が存在することも事実だ。ここでは愛知県のテルミックと大阪府の湯本電機にインタビュー。環境整備や社内改革、成長戦略など、人が集まる企業になるためのヒントを探る。 テルミック、急成長するものづくりのエンターテイナー ものづくりのエンターテイナーを自認するテルミック。愛知県常滑市の拠点には年に2千社が見学に訪れる。見学者が絶えないのは理由がある。平均年齢は32歳で約7割が女性。内勤営業のみで売上は一昨年に43億円、昨年51億円、今期61億円(計画)と急成長を遂げているのだ。生産管理システムで過去の類似図面を抽出。加工経験のない若い女性も最短45分で見積回答できる体制が単品加工の需要を呼び込んだ。りんくう常滑営業所内にはバーがありフロアは音楽が流れる。最大3カ月の休暇制度や働く拠点をシャッフルできる制度など独自の福利厚生も充実。「製造業に興味を持ってもらうにはやりすぎくらいがちょうどいい」と田中秀範CEOは語る。 【回答者:長谷川良DMEO(左)、田中秀範CEO(右)】 Q:長谷川DMEOが入社されたころから貴社は今のような雰囲気でしたか。 A:長谷川「いやいや、当時はごく一般的な町工場だったと思います。営業も基本は外勤でした。リーマンショックごろに徐々に内勤営業の割合を増やし始め、そちらの方が結果が出るようになったので完全に内勤営業に切り替えました。同時期に女性が増え始めたのを機に社内環境の整備に着手。オフィスが綺麗でないと若い女性に製造業に来ていただけないので、給湯室など古い部屋割を取り払いワンフロアに変えました。女性比率が上がるにつれきめ細かい整備も進め、今では『ハイヒールで歩ける工場』を掲げています」 Q:内勤営業ができる仕組みは。 A:田中「とんでもないシステムを作り上げたわけではなく、普遍的な技術を活用し誰もができることに取り組んだだけ。時代が変化する中でたまたま我々がそこに目を向けたという話です。我々の生産管理システムは過去の図面や見積を抽出できます。10件のうち難しい1件だけを技術者が対応すれば、あとは未経験の若い方でも見積対応ができます」 夜にはネオンが灯るりんくう常滑営業所。工場と物流拠点も兼ねており、加工は自社や協力会社で行いテルミックが品質保証する A:長谷川「製造業は知識がないと営業できないイメージだと思います。我々は女性目線で知識に頼らず営業できる仕組みを整えました。机の上ですべてが完結するビジネスモデルを確立したんです。今では入社1年以内の若い女性が月に数千万円の売上を達成しています。154人の社員の約7割が女性。うち9割が20、30代の若い方です」 Q:様々な取り組みの中で何を重視していますか。 A:長谷川「まずは社員ファーストであること。また20代、30代の若い力が当社の根幹です。途絶えないよう常に新たな風を吹かせ続けることを心がけています。固定観念で何かを否定することはありません。福利厚生にも力を入れています。最近は最大3カ月の休暇が取れるサバティカル制度を作りました。発端は海外出身の社員がなかなか里帰りできないことですが、海外留学がしたい、あるいは日本一周がしたいという理由でも許可を出します。また愛知、東京、島根など各地の拠点から勤務地を1週間ほどの単位でシャッフルできる制度も始めています。これも旅行感覚でOKです。色々な取り組みは社内の希望を元にアレンジして実施します。制度は利用してもらうことに意義がある。使う際に窮屈に感じないよう柔軟に運用しています」 Q:ユニークな取り組みを進める理由は。 A:田中「製造業は情報通信などに比べ人気がない。こんな会社もあるんだと一人でも多くの方に知ってもらい、製造業を選択肢に入れていただけるように面白おかしく活動しています。公式キャラクター『てるみちゃん』も作りましたがこれは大成功でした。『かわいい』を入口に当社や製造業を知ってもらえます。製造業は後づけでも良いと思います。何でも調べられる世の中ですから、興味を持っていただくことが最重要。私自身、『やりすぎくらいがちょうど良い』とよく言っています」 Q:採用に悩むものづくり企業は多いです。最初の1歩目は何が必要だと思いますか。 A:長谷川「何か面白いことを思いつく、あるいは課題が見えれば即行動に移すことでしょうか。やってみてダメなら、元に戻せば良い。このマインドは重要であり、テルミックではこのマインドのもとにチャレンジ、行動をして変化させています。もちろん物事によっては費用もかかるので限度はありますが。行動しないと変化も進化もありません。またやるからには『全部同時にやる』というスピード感も大切だと思います」 Q:失敗した経験もありますか。 A:長谷川「もちろんありました。ただ失敗した際の引き際が早いというか、固執はしませんね」 Q:成長率の高さが目立ちますが、今期も売上は順調ですか。 A:長谷川「今期の売上は61億円の計画。今のところオンコースで順調です。新規取引先も内勤営業で年間400件ほど獲得できています。口に出さないことには実現しないので常々言うのですが、この延長線上に売上100億円の大台も見えていると感じます」 2階にはコンベヤや自動倉庫、1階には加工機が整然と並ぶ 【テルミック】導入して良かったモノとコト 工場内の自動化を進め人の移動距離を最小にするテルミック。特に環境改善に役立った設備は自動倉庫だという。導入以前は固定棚で製品を管理しており、売上が拡大すると残業が増える傾向があったそうだ。「繁忙期は部署も関係なく総出で対応していました。あれはあれで楽しかったですが…それが今も続いていればそのマインドにはなれなかったと思います」と長谷川DMEOは懐かしむ。同社は2020年から紙ゼロ・残業ゼロ・ルーティンゼロを掲げた改革を推進。田中CEOはこの施策を「非常に大きな効果と利益を生んでいる」と語る。 湯本電機、若手の集うシン・マチコウバ 【回答者:湯本秀逸社長】 11期連続の増収を果たした湯本電機(大阪市東成区)。売上と社員数は15年前の4倍だ。主に難度の高い樹脂や非鉄金属の切削を手がけ、近年は航空宇宙産業の仕事に注力する。成長エンジンの一つが若手をリーダーに据えた新事業プロジェクト。常に10以上の計画が動き、ベトナム工場や宇宙事業などを形にしてきた。昨年には「シン・マチコウバ計画」と銘打ったプロジェクトで樹木が茂るガラス張りの本社工場が大阪に誕生。平均年齢は33歳と若く採用時も1人の募集に50~60人の応募が集まるが、優秀な若手人材の採用を加速しさらなる成長を目指す。 Q:色々な改革を始めたのは約15年前とか。最初の一手は何でしたか。 A:「若手の採用です。入社した15年前は30歳くらいで私もまだ辛うじて若い。家業という意識を取り払いイチ若者として見たとき、当時の湯本電機に入るかと問われれば応募もしないと思いました。ごく普通の昭和の町工場だったんです。世の中がいずれ人手不足になるのは明らかでしたし、若く優秀な方を採用できなければ成長も生き残りもないだろうと。ではどうすべきか? その問いがすべての起点です。まず第一歩としてHPを刷新しました」 Q:HPはどんな視点で変えましたか。 A:「若い人が求人に応募するならまずHPを見ます。HPが古いとその時点でアウトかもしれない。HPが綺麗でも社員が全員ベテランならそれもまたアウトかもしれません。つまり要所に見えないハードルがあり、応募の手前で様々な観点から精査されていると思うんです。だからこそ意識してリクルートを兼ねたHPにしてきました。同じ意識のものづくり企業は当時、少なかったと思います」 Q:若手の採用は最初からうまくいきましたか。 A:「今でこそいわゆる難関大学を卒業した若手が門を叩いてくれますが、最初は新卒で入社した会社をすぐに辞めてしまいくすぶっているとか、そうした方々に入社いただくことから始めました。モノづくり経験はなし。そもそも理系でもありません。近くの携帯ショップでテキパキ働く大学生に『就職どうするの?』と大学名も聞かずダイレクトリクルーティングを敢行したこともあります。その方は実際に入社してくれました。面接時に同年代が多いと安心感がある。そんな好循環が徐々に生まれ今に至っています」 Q:採用で壁にぶつかったことは。 A:「15年前を始点とすれば中盤が苦しい時期でした。若手採用を始めたころは入社してくれる人も『中小企業に入った』くらいの心づもりで期待値が高くない。だからこそプラスのギャップが生まれるのですが、ある程度の時期からは期待値が高いので思ったのと違う…とマイナスのギャップが生まれてしまう。今は少しは改善できたとは思いますが当時はなかなか定着せず苦労しました」 工場らしくない外観が目を引く本社工場(2期工事で隣の2棟も建て替えて1つに集約され完成) Q:壁を越えた方法は。 A:「今も戦いの途中だとは思いますが、新工場はまさにその一つです。常々言っていることを実際に形にすれば期待とのギャップは埋まる。そのスピード感は意識しています。期待を持って入社してくれる社員のためにも工場の建て替えは必要でした。ハードの整備は後追いで良いと思うんです。たぶん我々も工場だけ立派にして若手を呼び込んでも、中身が旧態依然なら後が続かなかったはず。まずは中身を変え、それに見合うハードを整えるのが良いと思います」 Q:採用に悩むものづくり企業は多いです。最初の1歩目は何が必要だと思いますか。 A:「まずは一人でも良いので若い方を採用することでしょうか。理想はさておき若い方を増やさないことには先がない。我々も昔はハローワークに登録して待っていましたが、きょうびそれでは全然応募が来ない。ただ来ない来ないと嘆いても誰も来ないので、費用をかけて人材紹介会社を頼るなどあの手この手で若い方を採用することだと思います。何もせず若く優秀な人材がひょっこり現れることはないですし、来てくれても定着は難しいでしょう」 Q:一足飛ばしはできないわけですね。 A:「そう思います。何かで劇的に変わるのではなく必要なステップを積み重ねる必要がある。我々の新工場も急に今の形になったのではなく、ベトナム工場や東京営業所を快適で見映え良く整えて段階を踏みました。総じて現状はおおむね15年前に描いた通り。ただ、ここに至るのに時間がかかりすぎたなという感覚があります。今までは露出をなるべく抑えたいくらいだった本社工場も前に出せるようになりました。今後はこれも活用しつつさらに上のステージを目指して成長を加速させます」 検査工程の様子。工場内は整然としており全体的にラボのような雰囲気 【湯本電機】新工場に込めた思い 本社工場は洒脱な雰囲気。デザインには製造業に興味がない若い人にも響くようにとの思いを込めたという。同社はロボットや航空宇宙など先端分野の加工に注力するが、旧工場はそのイメージと乖離もあった。「本当に宇宙の仕事をしていそうと感じてもらえる工場を目指しました」(湯本社長)。都会に工場を設ける以上、スペース的に労働集約的な生産モデルで収益を上げるのは難しいが、優秀な人材を集めやすい利点はある。「その力を活かして付加価値の高い仕事に注力する構造を心がけています」。ショールームとしても活用し、見られることを意気にして前向きに働いてほしいという思いもある。 ■関連記事LINK 山本金属製作所 営業企画課 兼 研究開発G 課長 松田 亮 氏 日本ドナルドソン、長寿命フィルター搭載の集塵機 (2024年7月10日号掲載)

2024年07月11日

後工程を考える

製品の品質を左右する最も重要な工程の一つでありながら、「キツい」「儲からない」と担い手が減少傾向にあるバリ取りや研磨などの後工程現場。刃物の一大産地や洋食器の磨きで有名な産地においてもその傾向は顕著で、これまでサプライヤーに依頼していた仕事を内製化・自動化せざるを得ないケースも増えている。 「(自動化機器を)導入した会社は『安上がりだった』『もっと早く導入すればよかった』という声が大半です」 こう話すのは、静岡県浜松市のバリ取り専業メーカー・藤本工業の藤本武洋社長。同社はバリ取りに特化したロボットSIer「TAFLINK」の幹事社でもある。TAFLINKが上市しているバリ取りロボット「バリトリガー」シリーズは同業のバリ取りメーカーをはじめ、これまでバリ取りを外注に出していたが、外注先の事業撤退を受けて内製せざるを得なくなったダイキャストメーカーなど、様々なバリ取りの現場で活用されている。 バリトリガーはバリ取りに深い知見を持つ、藤本工業、装置製作に定評のある東洋鐵工所、ロボットティーチングのエキスパートであるアラキエンジニアリングが現場目線で開発したバリ取り専用のロボットパッケージ。現在はワークの大きさや用途に合わせた3モデルを展開し、職人技に匹敵するバリ取りの自動化を実現する。 「TAFLINKでは機械やロボットを販売するだけではなく、後々の活用も見据えた勉強会も行っておりますので、1台導入して頂いたところからリピートで複数台導入、というケースも少なくありません」(藤本社長) ロボットSIer全体を見渡しても、昨今は後工程へのニーズが増している。 「ここ数年、当社に寄せられる相談で一番多いのはバリ取り関連」。こう語るのはロボットメーカー・KUKAの代理店を務めるインフィニティソリューションズの小山田聡社長。同社に寄せられるのは金型加工やチタン製製品といった、ロボット自体に剛性が要求される製品の仕上げ加工だ。 「KUKAロボットは剛性が高く、加工精度の安定性、機械の頑丈さ、外力に対する変形のしにくさが挙げられる。また他社のロボットでは描けないような複雑な軌跡でも指示通りの軌跡を正確に辿ることができます。こうした点が金型や難削材を扱う現場から支持されている」(小山田社長) ■人とロボットの協働も進む 従来、手作業が主流だったバリ取りだが、専用機の導入による省力化・省人化も進んでいる。バリ取り機専業メーカーのオーセンテックは、ワーク形状やサイズに合わせたバリ取り機を多数ラインナップ。自社開発のブラシによる強力な研磨でバリを取りつつ、ヘアライン加工などワークの表面を美しく仕上げる技術も組み込んでいる。 「人手に比べ、バリ取りのスピードは10倍以上で圧倒的な仕上がり品質が得られます。また初めての方でもすぐに覚えられるよう、使いやすさも意識した機械作りを行っています。操作パネルにはタッチ式を採用しており、操作・設定変更がスムーズに行えるほか、視認性が高く、機械内部のワークやブラシの状況がひと目でわかり、作業がスムーズに行えます」(同社) 同社のバリ取り機は、洗浄機やロボットとの連携も可能。昨今では展示会ではファナック製協働ロボットを用いた工程間の自動化も披露している。 「ロボットとの併用で、作業の自動化を図りつつ、作業員の工数を極限まで減らせます。またそれぞれの機器に不具合が生じた場合でも、当社がすべての窓口となって対応できるようにしています。当社のショールームでは加工相談やテスト加工も行っています」(同社) オーセンテックのバリ取り機+ロボットシステム マコー、ウェットブラスト専業メーカー 精密加工の不可能を可能に変える 新潟県長岡市に本社を置くウェットブラスト装置の専業メーカー、マコー。1983年の創業以来、独自の開発力と技術力でこれまで2000台以上のウェットブラスト装置を製造・販売。世界20カ国以上への納入実績を持つ。高付加価値をもたらす後処理工程を実現する同社のコア技術を探った。 ウェットブラストは、粒子状の研磨材を投射し、ワークに衝突させ研削、研磨を行うブラスト処理のひとつ。研磨材と液体(主に水)を混ぜ、泥水のようなスラリーを作り、専用の噴射ノズルから圧縮エアによって噴射してワークを加工する。 一般的なブラスト処理としてサンドブラストが挙げられるが、扱える研磨材のサイズや加工精度などの点で大きく異なる。サンドブラストは圧縮空気で研磨材のみを吹き付け、比較的粒度の大きい研磨材を扱うため加工力に優れる。一方で、精密かつ均一な処理は苦手としており、投射される研磨材の粉じんの発生への対策や、前処理として脱脂や乾燥工程も必要となる。 ウェットブラストはサンドブラストに比べ加工力で劣るが、水を用いるために洗浄度が高く、微小な研磨材を扱えるため、高精度かつ均一な処理を実現する。また、サンドブラストでは研磨材と対象物の摩擦によって加工熱が発生してしまうが、ウェットブラストでは処理中に水が対象物表面を冷却するため、ワークへの入熱が生じない。 「ウェットブラストは乾式のブラスト加工では、投射が困難な微粒子を扱えることが大きな特長です。これにより対象へのダメージを極力抑えた、微細で緻密な後処理が可能です。また研磨メディアを流体で運用するためコントロール性が高く、表面粗さ、加工量を定量的に変化させることが容易で、かつ再現性にも優れます」(同社グローバルマーケティング部・須佐吉和氏) 同社がJPCAショーでお披露目した「WX(ウェットエックス)」 ■圧縮エアを使わない新提案 同社のウェットブラスト技術は、自動車部品加工における前処理や超硬工具の刃先ホーニング、電子部品・半導体における精密バリ取り、航空機のおけるタービンブレードのピーニング、あらゆるモノづくりの現場で活用されている。 「切削工具における前処理では、複雑形状に対応しつつコーティング密着強度を上げ、製品によっては工具寿命を3倍にできたケースもあります。また半導体や電子部品における樹脂の薄バリも、当社のウェットブラストなら母材にダメージを与えず除去できます。ワークにダメージを与えないので、0.15㍉程度の極薄セラミック基板の異物やクラック除去にもお使い頂いています」(須佐氏) そんな同社が6月のJPCAショー2024で新たに提案したのが、コンプレッサーを使わないウェットブラスト装置「WX(ウェットエックス)」。従来、研磨メディアの混ざったスラリーを圧縮エアで吹き付けて加工していたものを、エア無しで実現するという全く新しい加工技術だ。 「脱炭素化や省エネが求められる昨今、コンプレッサーによる消費電力をゼロにしつつ、精密な表面処理加工を実現する装置です。まだ参考出品の段階ですが、これからしっかりとブラッシュアップし、ユーザーニーズにお応えしていきたいと考えています」(須佐氏) ■後工程最適化製品 淀川電機製作所、10万回再生のバリ取り動画 コンパクトで安全性高いバリ取り機 わずか10秒ほどの「バリ取り」動画が、YouTube、X(旧ツイッター)、インスタグラムを合わせ、10万回を超える再生回数で注目を集めている。 淀川電機製作所の集塵装置付きバリ取り機「FW305S」の動画がそれだ。高速回転する研磨布に、素手でワークを持って研磨、続いて素手で研磨布に触れるという内容だが、金属を磨く、バリをしっかり取れる研磨布でありながら、素手で触ってもケガひとつしないという高い安全性がアクセスを伸ばしたようだ。 幾重にも重ねられた研磨布は、実際に手で触れてみてもその柔らかさが良く分かる。一方で布表面には細かいスリットが施されており、「人に優しくしっかりと研磨」できるようになっている。標準搭載されている集塵機は、作業時に発生する粉塵をしっかりとキャッチ。高性能カートリッジフィルターの採用と操作性に優れたシェイキングレバーにより、粉塵の剥離性を向上させており、メンテナンスも簡単に行える。 「従来、工具で行っていたような面倒なバリ取りも、誰でも早く簡単に行える。またバリには個体差があるが、これも手作業による強弱がつけられるので最適な加工が出来る。コンパクトな設計で設置場所も問わず、複雑な操作も一切無い。切削部品からプレスやダイキャストもの、パイプやアングルなどの鋼材の仕上げ加工など、あらゆるバリ取り、仕上げ加工にお使い頂きたい」(同社) 淀川電機製作所「FW305S」 柳瀬、ファイバーディスク新製品 圧倒的研磨力と耐久力で爆売れ中 「予想以上に売れて供給が追いつかない」。5月に行われた大阪どてらい市において、そんな嬉しい悲鳴を上げていたのが研磨材の総合メーカー・柳瀬。同社が今春上市したファイバーディスク「ハッピーファイバーディスク」が好調なセールスを記録している。一時期のような品薄感こそ解消したものの「現在も順調に売れ続けている」という。 ディスクグラインダーによる研磨・研削作業において、研削メディアの性能は作業者の負担に直結する。より大きな力をかけなければ削れない、となると作業者の負荷はもちろん生産性においてもマイナス材料だ。また作業の振動もじわじわと作業者の体力を削る。 ハッピーファイバーディスクは抜群の研削性能と低振動、火花の軽減を実現したファイバーディスク。加えて耐久性にも優れており、ユーザーの信頼をしっかりと勝ち取った。 従来のオフセット砥石に比べて約6倍という高い研削力を生み出しているのが、同社が独自に開発した砥粒。凸凹に配置されたセラミック砥粒がワークに効率よく当たり、圧倒的な研削量を実現している。 「ディスクの粒度は#36、#60、#80の3種類を用意した。一般鋼やステンレス鋼、アルミなどの表面研削やバリ取り、面取り、焼け取りなど幅広い研磨・研削作業にお使い頂いている」(同社) ハッピーファイバーディスク レヂトン、作業性と可搬性に優れる コードレスローラー研削機 切断砥石から研削・研磨に特化したソリューションを揃えるレヂトン。作業性と可搬性に優れるコードレスタイプのスイングローラー「CLSR―50」で後工程の作業効率向上を提案している。 本体構造をイチから見直し、ブラケット強度やギアの耐久性、砥石交換ボルトの耐摩耗性などを向上。ハードに使われる現場においても安定した性能を発揮する。 使い勝手にもこだわった。本体には1段階から5段階までの回転数調整とオートモードを搭載。用途に合わせた回転数や、同一の作業を行う際の利便性を向上させている。また研削方向によって本体カバーを反転して使用できるようになっているので、角度を変えての作業や狭小部での作業にも対応できる。 スイッチをオンにした状態でバッテリーを取り付けてしまった際にも、急に起動しないため、スイッチの切り忘れによる事故を防ぐなど、安全性も高めた。 「黒皮剥がしにおいて、従来のオフセット砥石に比べ5倍から8倍のスピードでの作業を実現する。採用いただいた現場では、広範囲のサビ落としにも活用されている」(同社) バッテリーには36Vマルチバッテリーを採用。HiKOKIマルチボルトアライアンスに対応しており、他の電動工具との互換性も高い。 スイングローラー「CLSR-50」 東洋研磨材工業、定番「鏡面加工ショットマシン」に荒加工向けメディアが誕生 ショットブラストマシンの「定番」となりつつある東洋研磨材工業の鏡面ショットマシン「SMAP」。従来のエアブラストではなく、遠心力を応用した噴射加工により、研磨メディアの吐出量を大幅に向上。高い加工効率を実現するとともに、難易度の高い鏡面加工を「誰でも簡単に」行えるようにしている。 「当社のSMAPは乾式研磨のため、洗浄などの工程が不要。また専用の治具を使わずともすぐにセッティングと磨きが出来る。またノズルから発射する研磨材は弾性のあるものを採用しており、ワークの形状変化を極力抑え、均一な研磨を可能にしている。実際に目視しながらの研磨になるので、ムラなく磨けるとともに部分研磨にも対応できる」(同社) これまで鏡面加工を始めとした仕上げ加工でその実力を発揮してきたSMAP。だが、昨今、同社には「荒加工への対応」ニーズが増加しているという。 「仕上げは機械処理しているが、前処理は手作業でやっているという現場や、加工面をブラスト処理しているが形状が崩れてしまう、といった現場から、研磨工程を効率化したいというニーズが多々あった。そこでSMAPで使える荒磨き用の研磨材『SDメディア』を開発した」(同社) 同社によると、研削盤やワイヤー放電加工で前処理した超硬ワークを約2分で表面粗さ0・3ミクロンまで均一に仕上げることが可能という。 東洋研磨材工業「SMAP」 モトユキ、黒皮取りから鏡面加工まで 幅広ベルトで作業効率向上 モトユキが5月に新発売したローラーサンダー「ハイローラーGMC︱HR―2A」は60㍉のワイド幅ベルトを採用。ベルト式はワークに馴染みやすく、点ではなく面で捉えるので狙い通りの加工面を得やすい。また広範囲を効率よく均一に作業できるので、作業効率と研削・研磨精度の向上も実現する。 「従来機のGMC―HR―1Aは無負荷で1分間に4300回転だったが、新製品のGMC―HR︱2Aは1分間5200回転に大幅パワーアップし、研削、研磨時の振動をさらに抑制した。細径グリップの採用で持ちやすく、作業負荷を軽減する。またアイドルローラーはスライド式になっておりベルトの交換もかんたんに行える」(同社) 同機種に対応する研磨ベルトも充実している。ベルトの砥材はワークや用途に合わせたCBN、シリコンカーバイド、ジルコニア、アランダムを用意。黒皮取りやメッキ取り、塗装剥がしに向く粒度60(P)から鏡面仕上げ向けの粒度2000まで6種類をラインナップした。 「トラック架装のロッカーレールの黒皮除去や、コンクリート型枠のサビ除去、金属製品のヘアライン加工や鏡面仕上げなど、幅広い現場でお使い頂ける」(同社) ローラーサンダー「ハイローラーGMC-HR-2A」 不二越「バリは最初から無いほうがいい」 バリを出さない「バリレス」工具 切削加工と切っても切れない縁にあると思われていたバリ。しかし、「バリは最初から無い方がいい」をコンセプトに、バリとの縁切りを果たしたのが不二越のアクアREVOドリル「バリレス」シリーズだ。 同製品は従来のドリルに比べて先端の刃先を鋭角にして振れを抑制。切削抵抗が低減し、ドリルがワークを抜ける際、バリを細かく分断・切除しワークに残さないよう設計・開発されている。これにより平面の抜けバリはもちろん、バリ取りが難しいクロス穴の加工においても抜群の威力を発揮する。また切削長が伸びてもバリを抑制し、汎用ドリルと同等の長寿命を実現している。 「従来、バリを抑制しようとすると加工条件をどうしても下げなければならなく、工具寿命も短くなる傾向にあった。当社のバリレスシリーズは加工条件や工具寿命も汎用ドリルと同等でありながら、バリの出ない加工を実現できる」(同社) 同製品はドリル、タップ、エンドミルをラインナップ。バリレスタップ「SGスパイラルタップ バリレス」は、めねじの内径を総形で削るシェービングエッジがバリの発生を防ぎ、切りくずの噛みこみや工具の刃欠けを抑制する。 バリレスミル「アクアREVOミル バリレス」は左ねじれと右ねじれの入った形状で、上面、下面のバリを抑制するダブルヘリカルの採用によりバリの発生を防ぐ。「左ねじれの刃と右ねじれの刃で加工自体に上下の力がかからないので、薄板加工においてもたわみやびびりを減少できる」(同社) 不二越アクアREVOバリレスシリーズ ■関連記事LINK (一社)バリ取り・表面仕上げ・洗浄協会 北嶋 弘一 理事長 (関西大学名誉教授) (2024年7月10日号掲載)

2024年07月10日

ステージUPするパワーツール

高齢化・深刻な職人不足などの課題に直面し、変容を迫られる建設・製造現場。人の手が必要な部分が依然残っている中、ツールの見直しは有効な手段となる。最新テクノロジーを取り入れた製品、あるいは潜在ニーズを掘り起こすような新製品など、ステージアップしたパワーツールを紹介する。 国土交通省が5月下旬に公表した建設労働需給調査結果(令和6月4月分調査)では、土木の型わく工やとび工、鉄筋工、電工や配管工など8職種全てで労働者が不足状態となっている。「残業・休日作業を実施している現場数」は前月、対前年同月比ともに上昇しているなど、現場の負担が増加。理由としては「天候不順」「前工程の工事遅延」「昼間時間帯といった時間の制約」。予測できない天候不順や、騒音問題や通行人の有無など制約が多い上、工期に間に合わせるために労働力不足のなか一人当たりの負担が増えている。 テクノロジーの進化により、現場のニーズである「負担軽減」「作業効率のよさ」に応える取り回しのよいコードレス工具の開発やボディの軽量化がはかられてきた。また過酷な現場でもフルパワーを発揮できるよう堅牢性や耐久性といったタフさも備えてきた。 格段に性能が向上したパワーツールで職人の作業効率を上げ、疲れにくく長く働けるようにすることと、経験の浅い作業者が「工具の使い方が難しい」「熟練工との精度のバラつきが出る」ということで現場を離れてしまわぬよう、作業の均一化を目指すことも重要だ。いまいちど身の回りの電動・エアー・油圧工具を見直し、新たに生まれたパワーツール活用をはかりたい。 ■バージョンアップや振動障害軽減も パワーアップを続けている西田製作所の油圧フリーパンチ「NC—TP—F3」シリーズは板厚3・2㌧×厚鋼104を1回抜きできるパワフルさで「業界トップシェア」の人気を誇る。ヘッド部がタテ180度、ヨコ180度に自在に回転でき、小さいボックスの穴あけ作業や既設配管を避けて作業可能。様々な現場で使いやすく、売上げを伸ばし続ける。また、配電盤のケーブル取り込み用などの穴あけ作業に使える、充電AC兼用の油圧パンチ「NC—EF—36Zシリーズ AIDER(エデ)」。HIKOKI製バッテリーを標準付属し、強力な36Vブラシレスモータを搭載。板厚3・2㌧×厚鋼104を1回抜きでき、「世界最速レベル」(同社)のハイスピードで穴あけを迅速に行える。新搭載のBluetoothバッテリーでは、スマホからスピードやスイッチの遊びなどの設定変更が可能。作業者によって異なる使いやすさを追求できる。 ボッシュの「BITURBO(倍ターボ)」シリーズは18Vのコードレス電動工具だが、「ProCORE18V」バッテリーを組み合わせて使えば、電圧を上げることなく「36Vと同等以上のパワーを発揮」(同社)。最新バッテリーセルテクノロジーとバッテリー管理システムにより従来比87%もパワーアップした。ハイパワーが求められる現場でもコードレス工具で快適に作業できる。 不二空機の低振動ツールシリーズは、圧倒的な低振動性で作業者の健康被害を防ぐ。ニードルスケーラーやチッパ等の振動工具は厚生労働省より、工具ごとの振動値によって1日の作業時間数が厳密に指定されている。同社は独自機構で振動を大幅に抑え、振動障害のリスク低減と共に、1日の作業時間も伸ばす。また、最大8100N・mまでの高トルクに対応する電動ナットランナー「CP86」シリーズは、スマホアプリで締付作業をレポートでき、作業の品質確保にも使える。「安全性が求められる大型車両や風力発電や、大型プラントで支持されている」(同社)という。 不二空機の高トルク対応ナットランナー 京セラインダストリアルツールズ、電動ドライバーとトルクレンチの1台2役 インサート交換時間の大幅短縮へ 切削工具に取り付けたインサート(チップ)の交換用として、京セラインダストリアルツールズは電動ドライバー機能とトルク管理を1台にもたせた、充電式インサート交換ドライバー「DTD500」を今春上市した。「発売前から展示会でお披露目していたが反響が大きく、想定していたより多くの先行予約をもらっている」(事業推進事業部広報デザイン課責任者・青木一夫氏)と話す。 インサート交換は、手工具でネジのゆるめ・締め付けを行い、道具を持ち変えてトルクレンチでトルク値を確認するといった手作業が今も行われている。刃先が多いフライス工具では定期交換や摩耗によるコーナーチェンジの時間はかかるが、「手でやるものという現場の認識があり、電動化ニーズが顕在していなかった」と背景を語る。 DTD500は電動でネジのゆるめと締め付けを行い、手動による増し締めで、トルクが設定値に達するとクラッチが作動し締め付けが完了。1~5N・mの範囲でトルク値の調整が可能だ。「業界初」の電動ドライバーとトルクレンチの機能を備えた1台2役で特許を取得した。 電動化により得られる大きな効果は作業時間短縮。フェースミルカッタのインサート取付けだと「付属レンチと汎用トルクレンチによる従来の交換時間に比べ、DTD500なら約半分」(同社)と大幅に削減。作業者の技量による作業時間や締め付け精度のバラつきも軽減し、初心者でも均一な作業を行える。 開発のきっかけは同社の前身であるリョービ電動工具事業が京セラに事業承継されたことだ。「工場向け工具はこれまでもラインナップしていたが、切削工具に関連した電動工具はなく、京セラの機械工具事業部とのシナジーから生まれ、協力しながら、開発・発売に至った」とし、「DTD500は初分野での取組みということもあり、ユーザー層に持ち込み評価をいただき、現場の声を特に多く取り入れた製品」だという。 「切削工具分野でも当社の認知度向上に繋げたい」とシナジーが生んだ新たな切り口に期待を寄せる。 インサートの多いフェースミルカッタも電動ドライバーで素早く交換できる パナソニック、電動工具のアタッチメント拡充 建築現場の時短と負担軽減に パナソニックの電動工具ブランド「EXENA」のアタッチメントの拡充が続いている。 小さなヘッドで取り回しが良く独自機構による芯ブレ低減などで好評な充電インパクトドライバー「EZ1PD1」と、「同社史上最小・最軽量」という充電ドリルドライバー「EZ1DD2」はスペック面や作業性の良さから人気がある製品だが、とりわけ現場から厚く支持されているのは独自のアタッチメントシステムだ。 各種アタッチメントを交換すれば本体1台でケーブル切断や圧着作業、スミ打ちなどを行える。「専用工具の本体をそれぞれ準備することなく作業できるため、重くなりがちな荷物を減らせる。車と作業場の往復移動時間の短縮にもなり、アタッチメントの交換もワンタッチで効率よく作業できる。例えば盤施工時に従来必要な工具一式に比べ、重量は約36%減、物量(体積)は約30%減になる」(同社)と人材不足が深刻な建築現場の負担軽減をはかる。 現在6種類のラインナップに加え、7月には振動ドリルのアタッチメントを発売予定。ドリルドライバー本体に装着すると振動機能が付与される。モルタルやレンガ、タイルなどの割れやすい部材の穴あけができる。振動モードとドリルモードの切り替えができ、プラグ施工も本体1台で可能。 また、EXENAリリース時より「ATTACH8(アタッチ エイト)」としていたアタッチメントシステムの名称を「ONE ATTACH(ワン アタッチ)」と刷新。「本体1台とアタッチメントで様々な作業ができる」ことを分かりやすく訴求し、今後もラインナップを拡充させていく。EXENAの多彩なアタッチメントシステムが、現場にかつてない身軽さを届ける。 ワンタッチで取り付けられる振動ドリルアタッチメントを7月にラインナップ 日東工器、軽量な充電式コードレスベルトン 削りすぎ防止機能でムダ・ムラ低減 片手で使える18Vバッテリーのコードレスベルトン「CLB-10」を5月初旬に発売した日東工器。研磨用ベルト幅が10㍉で、重さ1.4㌔グラム(バッテリー搭載時)と、金属部品の研磨や錠前の取り付け工事などの細かいバリ取り作業に向く。 HiKOKI製の軽量バッテリーが標準で付属しており20分の急速充電が可能。コードレスで電源やエア源のない場所でも取り回しがよく、ベルト交換を工具不要で行えるなど手間を省ける。ベルト回転速度は6段階、ベルトの回転方向は正転または逆転に切り替えられ、切粉の飛散方向も調整できる。 新しく加わったのは、過負荷検知機能と押し当て調整アラーム。研削中のモーター過負荷をLEDランプの色で知らせ、過負荷が続くとモーターが停止する。材料の削りすぎや研磨の使い過ぎを防ぐ。   押し当て調整アラームは、事前に押し当てレベルを3段階で設定すれば、研削中にそのレベルに達するとLEDランプが点滅。ムダな削りすぎを防ぐとともに、作業者の力加減や感覚、作業箇所によって異なる仕上がりのムラを防げる。 CLB-10 育良精機、作業性向上の充電式穴あけ機 建物の修繕・改修などのリニューアル工事の増加で需要が増加している育良精機の「コードレスライトボーラーISK-LB30Li」は、シリーズ初の36Vバッテリー搭載のコードレス式。質量は8・8㌔と軽量で、現場の穴あけ作業に力強さと利便性を両立する。 本体固定に永久磁石を採用することで、磁力を保持した状態でバッテリー交換を可能に。本体固定に電力を使わないためより多くの穴あけを実現し、磁石用スイッチを切るとモータも停止するなど作業性と安全性を追求した。さらに、工具レスでの刃物交換や、刃物の中心をLEDで照射できる便利な機能も多数搭載する。 東日製作所、三位一体のデジタルトルクレンチ 東日製作所の「CEM3-BTシリーズ」は、Bluetooth搭載のデジタルトルクレンチ3機種(CEM3-BTS、CEM3-BTD、CEM3-BTAシリーズ)を1機種に統合したモデル。 単方向通信のBSTシリーズと双方向通信のBTDシリーズ、角度センサー搭載のBTAシリーズをBTシリーズに統合することで、機能ごとに別の機種を追加購入する必要がなくなった。 3機種の機能は設定で切り替えられ、既存システムの流用も可能。統合後の価格(税別)も従来機種の18万9千円~と据え置き、新規導入コストを低減する。 この統合に合わせ5月21日からBluetooth製品のプロファイルのデュアルモード化(SPPとGATT)も行い、OSに依存せずiPadなどの機器にも対応する。 西田製作所、素早く切断できるメッセンジャーワイヤーカッタ 西田製作所のイチ押し製品は、充電AC兼用のメッセンジャーワイヤーカッタ「DMC-135HR」。135平方㍉メートル(φ15)のメッセンジャーワイヤーも2秒で切断可能だ。「作業時間を短縮でき、撤去作業に最適。トロリー線も切断できる」(同社)という。 ヘッドとモーター部は360度回転構造で、取り回しがよく狭所作業でも使いやすい。国内生産で高品質を確保しているのもポイントだ。 充電時間は約25分、1回のチャージで90平方㍉メートルのワイヤーを380本、135平方㍉メートルだと250本切断できる(目安)。100VのACアダプタ(別売)を使えば連続作業も可能。 日東造機、金型交換不要のアングル加工機 日東造機の小型アングル加工機「FM-30」は、標準セットだけでステンレスアングル75㍉×板厚6㍉の加工が可能。Vノッチやコーナーカット金型、ベンダー金型が組み込まれているため、レバーの切り替えだけで5種類(Vノッチ・アングルベンダー・90度コーナーカット・スミ切り・穴あけ)のアングル加工ができる。クランプベースを調整すれば位置あわせが簡単に行えるなど、作業の簡素化・効率化に貢献する。 本体と油圧ポンプが分かれているため作業頻度に応じてユニットを選定(高速型ポンプ〈450W〉、超軽量型ポンプ〈350W〉)でき、工場内設備としてだけでなく解体現場などにも持ち運びやすい。 マックス、結束速度0.5秒の鉄筋結束機 マックスの充電式鉄筋結束機「ツインタイアRB-442T」は、2017年の発売以来、鉄筋結束作業の効率化に寄与してきた充電式鉄筋結束機「ツインタイア」シリーズを、昨年12月に初めてフルモデルチェンジした。 従来から好評の十分な結束力とミミの高さ低減などの性能はそのままに、内部構造を見直すことで1回の結束スピードを0.5秒にした(従来比1.4倍)。「ワイヤ装てんアシスト機能」を搭載することでより簡単・スムーズなワイヤ交換が可能。また、トリガ操作部をショートストローク化することで、作業者の負担をさらに軽減する。「建設業で深刻になっている人材不足に対応したい」(同社)考えだ。 ベッセル、エアーニッパーADVシリーズ  加圧力アップ EV製造に対応 ベッセルは、自動車のEV化で軽量化のため硬質樹脂材料の使用が増え、能力の高い機種の要望が増えてきたことを受け従来機種に比べ加圧力をアップしたエアーニッパー「ADV」シリーズを充実させている。 丸型レバーなしのGT-NR20Aや角型のGT-NS20Aでは、従来機種比で加圧力が約20%アップ。GT-NR30AやGT-NS30Aで50%アップ。さらに増圧ユニットもリリースしさらに約20%アップさせることが出来る。企画部の長田吉生次長は「能力に余裕が出ればブレードがより長持ちする」とも話す。 従来品と外形寸法は全く同じなので(ハイパワータイプは青色にして識別)、置き換えが容易であり、樹脂材料の硬質化や大径化に治具を変えずに対応できる。また従来機種のブレードがそのまま使用可能となる。 長田氏は「従来機種は30年以上前に設計されたもので、現在の技術で見直すと設計に余裕があった。ただ、机上の空論で攻めた設計をしても、運用で問題が出かねない。30年間の経験や実際の運用の蓄積で、摩耗や割れの問題がないことを確認したうえで『余裕』を見出した。また検証機を実際にユーザーに試験導入してもらいノウハウを確立してきた。いきなり設計してポンと出せる製品ではない」と自信を見せる。 従来機種も並行して販売しているが、価格差はわずかに抑え、EV化の進展とともに、今後の置き換えでニーズを掴む考えだ。 ここまでのラインアップは樹脂成型の仕事を想定した仕様だが、モーターコイルや電線をカットする需要も増えてきている。こうしたものに対応するため、小型タイプの開発に着手している。金属向けのブレードも同時並行的に充実させ、金属向け市場でのシェアやプレゼンスを今後アップさせていく戦略だ。 ■関連記事LINK ロブテックス モノづくり事業本部 技術開発部 商品企画チーム 担当責任者 管田 剛史 氏 TONE 開発部企画課 藤井 匠 氏 (2024年6月25日号掲載)

2024年06月25日

建設現場と鉄骨加工の最重要課題

施工できない、引き渡しできない、スケジュール通り進まない、施工ミスが重なる……。巷間ではとかく「物流2024年問題」が取り沙汰されているが、建設業界・鉄骨加工業界にも2024年問題は大きくのしかかっている。 建設投資額はピーク時の平成4年度の約84兆円から平成22年度には約42兆円まで落ち込んだが、その後増加に転じ、令和4年度は約67兆円と、ピーク時から約20%減となった。一方で令和4年の建設業就業者数は479万人で、ピーク時(平成9年の619万人)から約30%も減っている。すなわち、投資額の減少を上回るペースで建設就業者数が減っており、慢性的な人手不足に陥っているのが現状だ。 その就業者数の内訳をみてみると、問題はさらに深刻だ。建設業就業者は55歳以上が35.9%、29歳以下はわずか11.7%と高齢化が急速に進行している。さらに60歳以上の技能者は全体の約4分の1(25.7%)を占めており、10年後にはその大半が引退することが見込まれる。 これからの建設業を支える若者の確保・育成や担い手の処遇改善、働き方改革、生産性向上は喫緊の課題と言えよう。 加えて資材価格の高騰も深刻な影を落としている。2021年1月に1㌧6万円台だった異形棒鋼、H形鋼の価格は高騰を続け、現在は倍近い12万円台で推移している。電気料金の値上げや物流コスト増などから、今後も上昇の一途を辿る公算が高い。 前述の人材難は、雇用コストの上昇にも直結している。人材・素材の両面でコスト高のダブルパンチを喰らっているのが現状であり、それが解消する見通しはほぼ無い。この先の浮沈のカギを握っているのは、やはり的確な設備投資と人材育成に尽きるだろう。 ■鋼材加工機へ自動化需要 建設業と密接なかかわりを持つ鉄骨ファブリケーターや、鉄筋加工業者も高齢化に伴う技能者、技術者の減少、高齢化への対応などが待ったなしの状態。人手不足から廃業せざるを得ない加工業者も増加しており、現状は「捌ける現場」に仕事が集中しつつある。 この「捌ける現場」の多くが、自動化や省力・省人化に注力している。人材難を見越し、より手離れが良く生産性の良い機器の導入を積極的に導入している。それを裏付けるように、鋼材加工機メーカー各社はすこぶる好調だ。 長尺加工機のパイオニア、フジ産業はコストパフォーマンスの高さと現場に合わせたカスタマイズがユーザーに支持され、これまでボール盤や手作業で加工を行っていたような現場が続々と同社加工機を導入している。 大東精機はドリルマシンとバンドソーをタンデムに並べた形鋼用全自動ライン「DASP」が好調な売れ行きを示している。オペレータ1人でCAD/CAMのデータに基づき、素材の供給から加工、払い出しまでを完全自動で行える点が市場に受けている。 同様にタケダ機械の形鋼加工機や、イワシタの長尺NCアルミ加工機にも昨今は「自動化オプションの採用が相次いでいる」という。 また高騰する資材を「早く、無駄なく、人手をかけずに」運搬・加工できるソリューションを各社が打ち出している。本特集では建設・鉄骨加工現場で導入効果の高い機器・製品を取り上げる。 デンヨー、世界が注目!リュック型溶接機「WELZACK」 国際ウエルディングショーにおいて、ひときわ注目を集めていたのがデンヨーの背負い式バッテリー溶接機「WELZACK(ウエルザック)」だ。動画を当社インスタグラムで公開すると、瞬く間に拡散。6月5日時点で300万回再生を突破するなど、バズりにバズっている。そんな注目度の高い製品の詳細を同社研究開発部に聞いた。 ――「背負える」タイプの溶接機を開発した狙いは。 昨今、可搬性の高いポータブル式の溶接機がいろいろと出ていますが、持ち運ぶとなると力の強い方でも大変な作業です。それが狭小部分や階段など段差がある場所では、作業者の負担はさらに増します。また、どうしても手で持ち運ばなければならないので、移動時の自由度が下がりますし、バランスを崩して思わぬ事故に繋がってしまうリスクもあります。そこで、移動しながらの溶接作業が楽になるリュック型の製品開発を進めました。 デンヨー「WELZACK」 ――コンパクトにまとまったデザインです。 女性や高齢の方でも背負える重さに、ということで本体重量を10㌔グラムにまとめました。また、移動時に接触したり引っかかったりしないよう、スイッチ類をサイド部分に配置し誤作動を起こさないようにしています。また従来の当社の溶接機は青を基調にしたものが多かったのですが、こちらは白をベースにシンプルなデザインにしています。 ――溶接能力についてお聞かせください。 基本的にはHiKOKIさんの電動工具用18/36マルチボルトバッテリーを3個使用しており、こちらの溶接能力が最大溶接電流120アンペア。径3.2㍉の溶接棒なら約4本、径2.6㍉は8本、径2.0㍉なら14本の溶接が可能です。またバッテリーは取り外し可能ですので、充電済みのバッテリーさえあれば、数の多い溶接にも対応できます。 ――SNSでは安全性を心配するコメントも散見されます。 本体の背負いベルトには破断による脱落リスクを考慮し、高強度のものを採用しました。筐体には熱対策を施しており、背中が熱くなったり火傷するようなことはありません。また溶接中に、溶接棒が固着した場合も赤熱することなく簡単に取り外せます。無人状態で短絡しても赤熱による事故や溶接機の過熱を極力防ぎます。電撃防止機能もついており、高所や湿度の高い場所でも作業者を電撃事故から守ります。 ――どういった現場への導入を見込んでいますか。 インフラ補修など、現場を移動しながらの作業や、従来の溶接機の搬入が困難な場所に最適だと考えています。展示会では船舶関連や大型構造物の建築作業への引き合いも頂きました。また、これまで以上に手軽に溶接が出来るようになる、溶接がDIY感覚になるというお声も頂いていますので、幅広い現場での活用を見込んでいます。 ――価格と購入先についてお聞かせ下さい。 小売価格は80万円(税抜き)を予定しており、デンヨー製品取扱店で購入可能です。遅くとも11月には皆様のお手元にお届けできるよう、生産を急いでいます。 フジ産業、職人不足を解消する「即戦力」の長尺加工機 オーダーメイド長尺加工機のパイオニアであるフジ産業。建材のまちとして知られる静岡県を拠点にする同社は、およそ半世紀に渡り「現場目線」のNC長尺加工機を手掛けてきた。 今春上市した「FZ6000×2000―16ATC」は6000㍉×2000㍉のワークに対応。アルミや鉄の板モノ加工、幅広の鋼板など大型サイズの鋼材加工に向く。 「当社はユーザーに合わせた機械作りをしているのでATC本数を増やしたり、高トルクタイプやノコ付きパネルタイプ、3面加工タイプ、ノコ付きガントリータイプなど、加工ワークに合わせたカスタマイズにも対応する。また、必要な機能にフォーカスし不要な機能は削いでいるので、コストパフォーマンスにも優れる。機械の納入後も当社サービス部門が迅速に対応し、現場を止めない運用ができるようバックアップしている」(同社) 好評を博している同社オリジナルの操作盤も標準搭載。機械言語を使用しない簡単対話メニューや丁寧な使い方研修・マニュアルなどにより、経験の少ない働き手でもすぐに使いこなせる。 さらにユーザー自身がメンテナンスをかんたんに行えるよう、メンテナンス手順動画を公開。切削油の調整法からツールチェンジャー・タレット位置の補正方法まで分かりやすく詳細に解説している。 同社は昨年には京都営業所を開所。関西以西のユーザーへのバックアップ、サービス体制も拡充させている。 FZ6000×2000-16ATC 3Mジャパン、日々の作業効率を上げる切断&研磨アイテム 鋼材加工の現場においては自動化が進む一方で、依然として人手に頼らざるを得ない作業も少なくない。鋼材の切断や、溶接ビードや黒皮の除去、焼け取りといった作業がそれだ。 これらの現場において「作業性向上」と「安全対策」、さらに高いコストパフォーマンスを実現するアイテムが3Mジャパンのグラインダー用砥石だ。 「3M史上最高の性能」と同社が本年上市したのが、新ブランド「キュービトロン3」製品群。世界初の精密成型セラミック砥粒を工業用研磨材に採用した「キュービトロン2」をさらに進化させ、三角形形状のセラミック砥粒を最適化。切断砥石、オフセット砥石、研磨ベルトに採用した。 「キュービトロン3」製品群 「キュービトロン3 切断砥石91868」は鉄やステンレスの切断に特化したグラインダー用切断砥石。一般的な切断砥石に比べ、その切断スピードはおよそ2~3倍。その切れ味の違いを確かめるべく、記者も実際にステンレス角棒を切断してみたが、切断スピードもさることながら、作業時の安定性に目を見張るものがあった。 一般的な切断砥石では、素材に刃先を当てる際、跳ね返るような感覚があり、余分に力をかける必要があるが、91868は刃先が素材に「スッ」と入っていくような感覚でスパっと切れる。現場における繰り返しの作業となれば、作業効率の向上や疲労感の低減をさらに実感できるだろう。 「キュービトロン3 ファイバーディスク1182C」による溶接ビードの除去も実際に行ってみたが、研磨スピードが段違いに早く、ビードにグラインダーを押し当てる力も一般的な切断砥石よりはるかに軽いタッチで行える。研磨後の仕上がり面の焼けも皆無だ。加えて、火花や粉じんの飛び散りも少なく静穏性も高い。グラインダー作業における安全性や健康被害リスクへの対策も実感できた。 この従来品を圧倒する性能を実現しているのが、新開発のセラミック砥粒だ。 「従来品より先端が鋭利になるよう三角形の砥粒を再設計しています。この砥粒は切断・研磨時において微細に欠けていき、常にシャープなエッジがワークに当たるようになっています。この砥粒を最大限に生かすために、結合剤の改良を行い、砥石の長寿命を実現しています」(3M研磨材製品事業部) 生産性、作業性に加え安全性も高めた同社キュービトロン3製品。だが、砥石1枚の価格は一般的な市販品より高額だ。しかし、導入済のユーザーからは「製品寿命が長く、切断コストの低減につながっている」という声も挙がっている。 限られた時間内での作業が求められる中、「タイパ」と「コスパ」を両立する砥石と言えよう。 ファイバーディスクによる溶接ビード除去。左がキュービトロン3による仕上がり面。右の一般的な砥石に比べ圧倒的に綺麗に仕上がる 育良精機、IoT搭載バッテリー溶接機で盗難対策、作業の可視化を実現 転売のターゲットとして狙われている作業工具・電動工具。工場への侵入や作業車の車上荒らしなど、全国各地で被害が続出している。特に、高額ながら持ち運びしやすいポータブル溶接機は窃盗団にとって恰好の獲物だ。 育良精機のIoT搭載型バッテリー溶接機「NEO」シリーズは盗難防止を主眼に置いた新製品。溶接機専用アプリを開発し、スマートフォンと連動。アプリが溶接機の「鍵替わり」となり、作業開始時はアプリに暗証番号を入れなければ起動しない仕組みとなっている。 「今後は万が一、盗難に遭った場合に追跡できるよう、機能やアプリをバージョンアップしていく予定」(同社) アプリは盗難対策だけではなく、溶接中の機械内部の状態を可視化するモードや、事前に溶接条件を設定するモードもあり、より効率の良い作業を実現する。加えて、溶接時のデータを通じてフィードバックし、データ管理することも可能だ。 「将来的には当社とユーザー様を繋ぎ、予防保全や故障した際のメンテナンス対応を拡充するようなシステムも組み込んでいきたい」(同) 育良精機のIoT搭載型バッテリー溶接機「NEO」 イーグル・クランプ、重量物搬送を支える究極のバックアップ体制 鋼材加工や建築現場での搬送において欠かせない「吊り具」。国内でいち早く吊りクランプを開発したパイオニアメーカー、イーグル・クランプのこだわりは「安全」にある。 重量物を吊り下げて運ぶクランプは、老朽化や誤った使い方が原因で思わぬ重大事故に繋がるリスクがある。こうした事故を未然に防ぐために、同社では自社製品ユーザーに対して十重二十重のバックアップ体制を構築している。 同社の吊りクランプは、プルーフロード(引っ張り荷重)試験など多岐に渡る製品検査に合格したもののみを出荷。製品を個別の番号で管理するトレーサビリティも徹底されている。 販売された吊りクランプは、ユーザー毎に管理する「ユーザー管理システム」に登録され、同社のテクニカルエンジニアが定期的にユーザーを訪問しクランプを点検、部品交換などの整備を行う巡回点検制度を行っている。さらに現場における安全・安心を最重点とする講習会も行っており、自社吊り具の正しい使い方を啓蒙している。 同社はテクニカルエンジニアがより良いサポートを行うための「営業支援システム」の構築も行っている。これはユーザーが使用している吊り具の種類や使用年数、使用頻度、交換履歴などの情報をデジタル化しビッグデータとして蓄積。それを活用し、ユーザーに対しより安全な製品の提案と、円滑な運用を目指している。 徹底した製品管理と手厚いユーザーサポートで安全性を高めている スーパーツール、吊クランプ点検・管理をデジタル領域に 作業効率と安全性アップを次世代システムで 建設現場に欠かせない吊クランプ。しかし吊クランプの管理や点検状況の把握に悩むユーザーは実は多いのではないだろうか。鋼材用吊クランプから産業機器、作業工具まで幅広くてがけるスーパーツールは、事業の柱の一つである吊クランプに、デジタル技術を掛け合わせた「国内初」の管理サービスを生み出した。 同社が4月にローンチした吊クランプ管理システム「S・M・A・Я・T(スマート)」。吊クランプに埋め込まれたRFIDチップを読み込んでシステム登録し、クランプの資産管理や点検整備状況を1台ずつ管理できる。RFIDチップは、様々な環境で使う吊クランプに見合う耐久性を確保している。 吊クランプに埋め込まれたRFIDチップを読み取りシステム登録する 対応機種は「SDC-NRF」と「SDC-SRF」の2シリーズだが、今後順次同社の吊クランプすべてに拡張していく(RFIDチップ未搭載の製品は製造番号などで登録可能)。 重量物を取り扱う吊クランプは少しの不備が大きな事故に繋がりかねない。適切な使い方・容量を守ることと毎回の点検整備・記録が非常に重要だ。S・M・A・Я・Tは使用前の点検や定期点検、メーカー点検を、スマホやタブレットからシステム上に入力・確認、管理できる。画面の指示に従い製品自体の割れや欠け、カム部分の摩耗の有無をチェック。交換が必要な部品はシステムから見積りを自動作成でき、品番や部品名称の確認が不要。スムーズに依頼をかけられ利便性が向上した。 また、RFIDチップ読み取りにより取扱説明書やカタログ、寸法図等を確認できる。開発を担当した技術開発部の林輝樹次長は「どの様に吊れるか、吊り荷の条件など現場ですぐ確認できる。現場のニーズとメンテナンス作業者目線を組み合わせ、実用的な機能を盛り込んだ」とし「GPS機能で直近に点検実施した場所が履歴に残るので、紛失時にも役立つ。また、部署ごとにクランプの保有台数や種類を登録でき、状況に応じて他部署から調達したり、クランプの適正数管理としても使える」とメリットを説明。 ■システム利用は無料、クランプ価格も据え置き S・M・A・Я・Tについて、平野量夫社長は「構想は約10年前からあった」と話す。当時RFIDリーダーが非常に高価でソフトウェア開発の壁もあったが「RFIDの普及により手が届く価格になった」と長年温めてきたアイデアをいよいよ上市。「中期経営計画の販売戦略の切り札となるシステム」と平野社長は力を込める。 S・M・A・Я・Tの利用は無料で、WindowsやiOS、Androidに対応。またRFID搭載の吊クランプは従来価格と変更なし。読み取りには専用リーダーを使うが、NFC(近距離無線通信)対応のスマホでも読み取り可能と、ユーザーは大掛かりな設備投資はほぼなしで、気軽に導入できる。 その狙いを楠東一郎取締役執行役員は「安全に使える吊クランプの設計やスペック設定はもちろん、安全安心の礎になる点検や修理をシステムでサポートする」と語り、「当社の強みであるアナログ製品にデジタル技術を応用することで、問題解決を提案する新たなビジネスモデルを作る」と意気込みを語った。 部署ごとの保有台数や点検状況、次回定期点検日が一覧で把握できる (2024年6月10日号掲載)

2024年06月07日

2024国際ウエルディングショー

2年に一度開催される溶接・接合、切断技術の専門展「国際ウエルディングショー」(〈一社〉日本溶接協会)。インテックス大阪で開かれた今展は、4/24(水)~27(土)の4日間で延べ10万307人(うち海外から4086名)が来場した。コロナ禍により8年ぶりとなる大阪会場では史上最高となる340社が出展。労働力不足や働き方改革など現場が抱える課題解決に資する新技術や製品が並び、会場を賑わせた。 最大級規模のブースを用意したダイヘンはツアー形式で新製品や参考出品の実演を紹介、多くの来場者を集めた。メインは初披露となる『スーパー標準機』。高品質の低スパッタ溶接を、同社の最高級デジタル機「Welbee」の30%減というリーズナブルな価格で打ち出した。「溶接機の決定版となる製品」(同社)と自信を見せる。完全防塵構造で高い堅牢性を備え、メンテナンスも簡単。サイリスタ溶接機から最新のデジタルインバータ溶接機への置き換えを促す。従来比30%減の小型・軽量化で可搬性にすぐれたワイヤ送給装置や、操作しやすいハンドル形状と樹脂材料にバイオマス素材を用いた溶接トーチも合わせて一新し使いやすさを向上した。協働ロボットと作業者の同時溶接実演により、熟練溶接工の人員不足をサポートする新たな作業スタイルを提案、溶接現場のアップデートを訴える。 ダイヘンは「溶接機の決定版となる」『スーパー標準機』を初お披露目し注目を浴びた。 ロボットと溶接をかけ合わせた新提案が目立った安川電機。新型レーザー溶接パッケージ「MOTOPAC-RL3D1200-GP50」を参考出品した。安川電機製のガルバノスキャナヘッドを使ったロボット溶接システムで、業界で初めて20kWの高出力リングビームレーザーに対応。溶融池が広がるためセンタービームと比べスパッタを9割減らすことが可能に。近く発売予定という高剛性ロボット「MOTOMAN-GG250」を用いたロボットFSW(摩擦攪拌接合)も実演した。ロボットと加工架台から成るシンプルな構成のため省スペースかつ低コストで導入可能。汎用ロボットによるFSWは専用機と比べ剛性に劣り接合時の軌跡にブレが生じるため接合品質が低下するという課題があったが、「そのために高剛性ロボットMOTOMAN-GG250を新規開発した。躯体の剛性を高めた一方、外力によるずれを補正する機能を採用してハード・ソフト両面で対策を練っている。スペースと汎用性に強みがある」とする。同ロボットは切削加工への適用も可能と、汎用性の高さを裏付ける。 安川電機の高剛性ロボによるFSWの実演 髙丸工業は、異なるメーカーのロボットでも、PC画面上のロボットの先端に表示される矢印をドラッグ&ドロップするだけで簡単に操作できる「遠隔PC操作 溶接ロボットシステム」を実演してみせた。サポイン事業の研究開発期間が終わり、今展から本格的な受注活動を開始した。 髙丸正社長は「コンセプトとして、技能を必要とする溶接作業を場所や人も選ばず簡単にするもの。想定としては、図面もなく現合で製缶加工作業をしているような中小企業をターゲットにしていた」とし「今展で問い合わせが多いのは、自動車メーカーなどでアフリカやブラジルなどの工場に日本人技術者を派遣していた工程を、このシステムを用い遠隔操作でできないか、というもの。すでに鹿児島、兵庫県西宮市間で遠隔溶接を実施しているので、想定外の使い方だが不可能ではない」と驚いていた。 遠隔PC操作 溶接ロボットシステム リンクウィズはティーチングデータの自動生成システム「L-ROBOT」を中心に溶接自動化を促進する。新機能のギャップ補正溶接は、ワークのギャップ量を認識し、最適な溶接パスを自動生成。「本来必要なティーチングのやり直しが不要」(同社)とし溶接プロセスの向上を説明。クラウド型SaaS「LINKWIZ FACTORY CLOUD」を共に使うことで溶接ワークのギャップ量や、作成したロボットの動作、電圧・電流値をクラウド上にアップロードできると合わせてPRした。溶接の傾向把握や、前工程へフィードバックしたり条件調節が可能。「職人のカンコツをデジタルデータでトレースでき、脱技能化を支える」(同社)パナソニックコネクトはロボットと溶接機を融合した溶接電源融合型ロボット「TAWERS」の次世代コントローラー「WGH4 コントローラー」を公開、発売。G4コントローラーシリーズとして高出力仕様の溶接電源を搭載し、ラインナップを拡充。最大500Aの電力で厚板ワークに対応し、溶接速度向上など幅広い溶接施工に対応する。「溶接電源分のインバータやトランスを刷新、溶接制御技術の組み合わせで高出力化を実現した」(同社)。さらに溶接電源の冷却構造を改善し、粉塵に弱い部分を防塵構造内に配置し、高い冷却性と堅牢性を両立し、外部接続部品を全面に集約しメンテナンス性も向上させるなど市場のニーズに応える。 パナソニックコネクトの国際ウエルディングショーに合わせて発表・発売開始した「WGH4 コントローラー」 新たな溶接法となる青色レーザーの躍進も見逃せない。高出力半導体レーザーに強みを持つ独・レーザーライン社は「世界最高峰」という4㌔ワットの高出力ブルーレーザー機「LDFblue4000-30」を披露。「前回展で見せた3㌔ワットのブルーレーザー機より出力が向上した。ブルーレーザーの課題は出力が低く高速加工に向かない点だったが、4㌔ワットなら深い溶け込みが得られるため厚物も加工でき、薄物もより高速に加工できる」という。IRレーザーと比べ波長の短いブルーレーザーは銅などの反射率が高い素材の溶接に強く、同機も現在の主な用途は銅の溶接。しかし担当者は「さらなる高出力化にも取り組んでおり、将来的には銅以外の材料でもIRレーザーと同じ加工ができるようになるだろう」と展望する。 kW級を下回る出力のブルーレーザーが多い中、頭ひとつ抜けた4kW出力のブルーレーザー機を披露。2kW、3kW、4kWと出展の度に出力が向上している マイト工業は同社初となるファイバーレーザー溶接機を参考出品。今秋以降の発売を予定する。薄板溶接に向くTIG溶接は高い技能が必要で、技術伝承にも時間がかかる。労働力不足の現状で「高い技能がなくても薄板溶接が可能なファイバーレーザー溶接機の市場台数が増えている」とし、同社のファイバーレーザー溶接機は「お求めやすい価格で提供するだけでなく、国内工場で迅速なアフターフォローが可能」(同社)と利点を語る。加えて、インバータ直流アーク溶接機の最新機種「MAシリーズ」を出品。ワイヤレスリモコンのため本体と離れていても操作でき、溶接機を持って移動する必要がない。ホットスタート機能やアークフォース機能の搭載により、溶接棒の吸いつきを軽減するなど使いやすさを追求した。 マイト工業は「お求めやすい価格のファイバーレーザー溶接機を手厚いアフターフォローをメリットに」 コマツ産機は業界初の水中切断ファイバーレーザー加工機「TWC-510」を実演加工で紹介。ワークを水に浸して加工することで材料の熱歪みを抑制し、板厚12㍉の軟鋼材で製品間ピッチを従来の10㍉から5㍉に縮められる。熱がこもりやすい長尺ワークも歪みやセルフバーニング(自己燃焼)現象を抑えつつ連続加工できるため「従来のレーザー切断と比べ歩留まりを飛躍できる」と担当者。デモ加工では、加工直後のワークを素手で触って冷却効果の高さを示した。水中で切断することで大型集塵機が不要になり、CO2排出量をCO2レーザ―比で6割減らせる点も訴求する。「今のところ用途は鉄系に限るが、将来的にはより広げたい。実績も少しずつ増えてきた」。 コマツ産機の水中切断ファイバーレーザー加工機 WEL-KENはビームを旋回させる独自技術(特許取得済み)を搭載した新型ファイバーレーザー溶接機「V-HP1500」を初披露した。ビーム径が細いというファイバーレーザーの弱点を旋回技術で解消するもの。特に箱モノワークで多い溶接部材同士のギャップ(隙間)に強く、溶融部のブローホール(気体が入り込んだまま溶接することで生じる空洞)も大幅に減らせる。溶接の狙いズレも起こりづらく品質の安定にも寄与する。「今展でも多くの海外メーカーが溶接機を出品しているが、それと比べトーチが軽く小型で扱いやすいと大好評だ。機能や扱いやすさを極力高めつつ、海外製の溶接機と張り合える価格設定にしたのもポイント」とする。 WEL-KENの新型ファイバーレーザー溶接機「V-HP1500」 溶接現場の進化 続々と 溶接機のみならず、前後の工程までを含めた提案を行ったのが、技術商社の愛知産業。前工程として提案したのは、日本初出展となる韓国・キョンドン社の定置式開先加工機「Tubeシリーズ」。出展機の「Tube200」は、パイプ端面の複雑な開先をとるために設計されたモデル。CNCはキョンドン社が独自に開発したタイプ(日本語対応)と、ファナック製と2種類から選べる。前者はV開先、2段V、U開先、内径シンニングなどの加工がかんたんな操作で行える。後者はネジ加工やセレーション加工など、より複雑な開先加工にも対応する。「日本では珍しい定置型の開先加工機だが、操作性に加え加工速度、精度に優れており、コストパフォーマンスにも優れる。また各種バイスやパイプサポート、コンベアなど自動化にも対応するオプションを用意している」(同社)。 後工程では研削・研磨の自動化に最適なPUSHCORP社の倣い制御装置を提案。同製品はロボット向けの制御装置。6軸力覚、加速度、位置センサーと独自技術により、人間が行う繊細な作業工程をロボットに置換できる。「設定した押し付け力を高精度に伝える制御と一定圧力での制御の2通りでの運用が可能。仕上げには高精度制御、溶接ビードの除去などスピードが求められる作業には一定圧力での制御が向く」(同社) 愛知産業が出展した開先加工機「Tube200」 昨今、急増しているのが作業現場における作業工具・電動工具の盗難。可搬性に優れたポータブル溶接機も窃盗団のターゲットとなっている。これらの盗難防止に一役買うのが、育良精機のIoT搭載型バッテリー溶接機「NEO」シリーズだ。スマートフォンと連動しており、溶接作業を開始するときはアプリで暗証番号を入れなければ起動しないようになっており、転売目的での窃盗を未然に防ぐ。 アプリには溶接条件を設定するモードもあり、事前に作業内容に合わせた設定を行うことも可能。また溶接時のデータもアプリを通じてフィードバックすることも可能だ。「将来的には当社とユーザー様を繋ぎ、故障やメンテナンス対応を拡充するようなシステムや、盗難時にGPSで追跡できるようにバージョンアップしていく予定」(同社)。 育良精機のIoT搭載型バッテリー溶接機「NEO」シリーズ 日東工器はロボットSIerのiCOM技研とタッグを組み、空圧ツール「ジェットタガネ」と協働ロボットで溶接後の剥離作業を自動化してみせた。「通常のジェットタガネは打撃の反動があるため、協働ロボットがエラーを起こしてしまう」とiCOM技研の担当者は言う。「しかしロボット用に振動を軽減したジェットタガネを協働ロボの先端に取りつけたことで、剥離作業の自動化を実現できた。ロボットがタガネ作業を行う間に人は溶接に専念でき、腱鞘炎も防げる。このデモを見せるのは初めてだが反応は非常に良い」と話した。 日東工器とiCOM技研による剥離作業の自動化デモ ジェービーエムエンジニアリングは複雑なティーチングをPCで完結できるオフラインロボットプログラミングソフトウェア「OCTOPUZ」を提案した。 クラウド上に様々なロボットメーカーに対応するツールが揃っており、それをダウンロードすることでPC上に、各ロボットに対応するロボットセルをレイアウトできる。セルを直感的に操作することで溶接のティーチング、特にプラズマカット、バリ取りなど複雑なティーチングが必要になる作業でも、プログラムの作成を簡単に作ることが出来る。 OCTOPUZは昨年夏に大幅リニューアルを実施した。以前はファクトリーシミュレーション機能との兼ね合いで操作が煩雑な部分があったがファクトリーシミュレーションをなくすことでよりオフラインティーチングしやすい仕様になった。 オフラインロボットプログラミングソフト「OCTOPUZ」の操作画面 ストーブリはロボット用「ツールチェンジャーシステム」をPR。同製品を活用することで一台のロボットで複数の作業が可能になり、ロボットの台数を減らせる。「費用とスペースを削減できるソリューション」(担当者)と提案していた。自動車の溶接の場合、内面と外面ではガンのサイズを変更する必要が生じたり、ワークの厚さによって容量の差が生まれるが、それらを一つのロボットで対応できるという。 特徴点は剛性の高さ、長寿命、安全面の3つを上げる。「ガイドが3点あり、ボールロック一つ一つに加工を施しモーメントに対して強い仕様にすることで剛性を上げている。電気接点に特殊なバネ構造を採用し、脱着の際にプラグ表面をクリーニングするような仕様になっており長寿命を実現。安全面では。ツールを持ち上げた際、エアーの回路が切り離されていることで、間違った信号が来てもツールを落下させることがない」(担当者)とした。またスパッタガードなどが、ユーザー側の設計を必要とせず同社で設置可能な点もアピールしていた。 ストーブリのロボット用「ツールチェンジャーシステム」 モトユキは鉄骨の黒皮除去に向く新製品のローラーサンダー「GMC―HR―2A」を訴求。従来機から研削力がアップ。60㍉のワイド幅ベルトにより研削・研磨精度が向上し、振動が少なく作業負担軽減を実現する。「ベルトにセラミックを使用することで強力に研削できる。番手は7種類あり、鏡面仕上げ、ヘアラインやコンクリート型枠のサビ取りなど、様々な用途に使える」(担当者)とする。ローラーサンダーで黒皮除去が可能ということを認知していないユーザーもまだまだ多いとして、訴求に努めていくという。 ローラーサンダー「GMC-HR-2A」 溶接と密接な関係にある切断砥石、オフセット砥石の提案も多数行われた。メガセラー砥石「金の卵」でお馴染みのレヂトンは、「金の卵を上回る切断力」と断言する超高性能切断砥石「純金」による切断デモンストレーションを実施し注目を集めた。 記者も実際にステンレス材を切断させてもらったが、切断機に軽く力をかけるだけで面白いようにカットできる。「従来の切断砥石とは比較にならない切れ味の良さに加え、耐久性も当社従来品に比べ約3倍アップしている」、「グラインダーのコンパクト化に伴い、切りシロの大きい外径125㍉のグラインダーが伸長し、切断砥石の需要が増えている」と同社は語った。 レヂトンの高性能切断砥石「純金」のラインアップに加わった外径125㍉タイプ 3Mジャパンは今年から新展開する工業用研磨材の新ブランド「3Mキュービトロン3」のオフセット砥石、切断砥石、研磨ベルトを展示、実演でその実力を示した。 「新製品は日本市場におけるお客様の声をフィードバックして誕生したもの。分子結合技術と三角形形状のセラミック砥粒をさらに進化させ、切断砥石、オフセット砥石に採用した。いずれも従来品より研磨スピードを向上させ、同一時間内での生産性を高めるとともに、砥石1枚の研磨量を最大化し、無駄な交換作業を無くしコストパフォーマンスを高めている。研磨ベルトは、精密成型砥粒の形状がさらに鋭利にし、高効率の研磨を実現する。「自動機やロボット研磨システムにおいても真価を発揮する。また、長寿命化、高研磨力のみならず、作業快適性の向上とともに、振動・粉じん・騒音といった健康被害リスクも低減する」(同社) 3Mジャパンの新ブランド「3Mキュービトロン3」 厚地鉄工はバキュームブラストマシンでの「溶接焼け取り」を提案。同社のバキュームブラストマシンは省スペースながら高い性能を出せるのが特徴で、3㌧トラックでコンプレッサーなどと一緒に運べるのでユーザーから好評という。研削材はガラスビーズやアルミナ、スチールグリッドなどワークの材質や用途に応じて自由に変更可能だ。今展では溶接焼け取りに活用できる点を強調していた。担当者は「酸洗いやサンダーなどで処理することも多いがバキュームブラストマシンで素早く処理できる。研削材を変えれば、スケール除去や塗装前の下処理など様々な用途に使えるので汎用性がある」と話した。  溶接焼け取りのサンプルを手にする担当者 バキュームブラストマシンを前に ■関連記事LINK 【インタビュー】山本金属製作所 営業企画課 兼 研究開発G課長 松田 亮 氏 デンヨー、溶接機をリュック感覚で! (2024年5月15日号掲載)

2024年05月23日

【座談会】スマートな加工工程の確立に向け

デジタルエンジニアリング、フロントローディング(※1)といった言葉が製造業の間で使われるようになって四半世紀以上。設計サイドの意思を下流までデジタルで一気通貫させようという試みはしかし、DXが叫ばれる今も課題解決、普及ともに「まだ道半ば」の印象が免れない。  そこで座談会を開催し、モノづくりの全域でデジタルを活かすスマートな工程を確立するために必要なことを、この分野の研究実践と知見で知られる竹内氏(中部大学理事長・学長)に加わっていただき、設計・製造・測定のそれぞれに関係する生産財メーカーの技術幹部にあらためて考えてもらった。座談会出席者はいずれも、デジタルエンジニアリングに絡む経済産業省の調査プロジェクトに日本工作機械工業会のメンバーとして参加しており、「語る」だけでなく「実践」を視野に入れている。先に結論めいたことを書けば、3D化でカバーできる領域の整備と、差別化を生む競争領域を分けながら「日本発の先端モノづくりを目指すべき」との流れになった。 デジタルによる一気通貫のモノづくりは進化・浸透しているのか 設計のデジタル化をベースに、モノづくりの構想設計から製造、製品完成までをスマートに進めようと、デジタルエンジニアリングを指向した取り組みが製造業の間で続いている。ここでの問題点や考慮すべきことなどを、まず語ってもらった。 本紙 今日はデジタルエンジニアリングを普及するために必要なことを、いろんな視点で議論していきたいと思います。まずは竹内学長に口火を切っていただければ。 竹内(中部大学)  設計~製造~品質管理という流れをスマートにする重要性は私自身以前から認識していまして、かつて学生らとオリジナルの3次元CADを開発し、3次元CADで設計から加工の荒・仕上げまで一気通貫できるプロセスを作りました。同時に加工されたものの形状のどこをどういうふうに計測するか、AIのはしりみたいなこともやって自動測定を行っていました。もっとも、難易度の高くない部品に限ってできたことではありましたが。 本紙 それは大阪大学教授の時代? 竹内 いや、その前の九州工業大学で教えていた時期で1985年の頃です。 本紙 デジタルエンジニアリングが実践されだしたのが80年代末頃、普及は90年代半ば過ぎからと聞きますから、ずいぶん早いですね。 竹内 ただその時は自分たちの3次元CADで、研究現場の(数少ない)加工機・測定機にデータを渡すという単純な流れだったかと思います。現実には現場に数多くの種類の工作機械もあれば測定機もあり、いろんなシステムなども絡んでいるからデータをどう受け渡して工程を作っていくか、しかも納期に合わせないといけないから全く違う大変さがあるでしょう。だから、デジタル技術の進展が著しいこの数十年で、どうして一気通貫が進んでいないのかと率直に思ってしまう反面、どうしてもつなぎのところがあいまいになり、つまり工程工程で分断されていきますから、一気通貫はやはり難しいとも感じています。では、どういうコンセプトで3Dデータをつないでいくか、ということがポイントになるでしょうね。 藤田(牧野フライス製作所) そうですね。設計側の意思を上手に流していくことは課題であり大事ですが、一方では下流側の現場のノウハウや工夫で良くすることも実際には多くあって、それをデジタル化したモノづくりのプロセス全体に活かすことが必要と感じます。ただ一気通貫ということで言えば、私は着実に進んでいると思います。例えば当社の設計が作った(工作機械等の)モデルや部品表などのデータをどうやって下流に渡すかというのは常日頃から議論しブラッシュアップしています。また一例として部品の製作コストが、完璧でないにしろある程度の精度で設計段階から分かるようになりつつあります。なぜコストが分かるかと言うと、過去の経験からというよりは、ツールが工程設計(※2)をサポートしてくれるからです。このようなツールが徐々に出てモノづくりが進化しているのは確かでしょう。 本紙 先生と牧野フライスさんの実例は素晴らしいけど、自己完結型の成果かもしれません。一気通貫的なことを、日本の重層下請け構造のなかでやろうとすれば、それはまたさらに難しそうです。 小泉(C&Gシステムズ)そうですね。私は以前、ドラフターで図面を書いていたことがありますが、比較するとデジタルを使った方が工程の一つひとつは間違いなくすごく効率化しています。ただ先生がおっしゃったように工程間でどうしても分断・寸断されてしまう。完成した3Dモデルより、むしろ2Dの図面に記載された寸法のほうが工程全体を通じてみんなが理解しやすい面もあるのかなと、私個人としてそう感じることもあります。特に複数のサプライヤーさんが入ると、今の3Dデータを全体で活用するのは難しい。設計サイドで決まったことをそれぞれがそのままやってモノができるのであればいいけれど、そうではないですから。また、そもそも設計から現場、現場から検査へとつなぐ情報が形状データと図面しかないんですね。これだけでは不十分なので、大きく変えないといけません。 本紙 ミツトヨの阿部フェロー、聞かれていてどう思いますか。 阿部(ミツトヨ) 3D化は皆さんおっしゃるように進化していると思います。ただ正直、CAD重視のフロントローディングには苦い経験が多くあってトラウマになっていますよ(苦笑)。というのも、モノをつくる時はまず設計の方がいて、設計側からは完成品の形状や公差などがアウトプットされるんですが、対して加工する側は流れてくる素形材の形状がインプットで、CAD図面への対応がアウトプットになります。こうなると加工側はインプットである素形材と、設計が示すアウトプットの間にある隙間を埋めるために一生懸命考える形になるんです。さらに測定の立場で言えば、中間工程での計測ともなると、最終の製品図と、最終製品図とは違うであろう中間の製造物を対象に、計測結果をどう活かすかということが悩みになってきます。 本紙 大変さはなんとなく想像できますが、それが先生や小泉さんが言われた分断、寸断にあたる? 阿部 例えば仕上げ加工の寸法公差が10ミクロンだったとして、中仕上げでは、ほんの少しの削りしろを残して精度良く仕上がっているはずですよね。その情報がデジタル化されていないということです。恐らく加工においても中間のデジタル情報がないので、熟練のプロフェッショナルが一所懸命条件を設定して上手に対応している。測定もそうです。しかしこれがもう限界にきていると思いますね。 本紙 限界とは? 阿部 そうしたことができる熟練の方が少なくなってきたということです。 小泉 形状レベルであれば中間の加工においてもCAMでデータを全部出力できますが、ただこれも形状だけで、アノテーション(指示事項)はついていませんからね。 阿部 その通りです。中間のアノテーションまで3D図面で表現できるようになれば加工も工程設計的な面でうまく流れるようになるだろうし、測定もスムーズに役割を果たせます。仕上げ加工の精度は指示されていても荒、中仕上げでどこまで精度を追い込むのかという指示は設計サイドにない。ここをデジタル化ではっきりさせるのがキーポイントの一つということです。工程ごとに品質をチェックする必要はありますからね。 竹内 中間の公差も寸法公差であれば多くで指示されていると思いますが。 小泉 はい。1次加工、2次加工とそれぞれの中間加工形状をSTLというフォーマットの形状データでCAM側からアウトプットすることはできます。ただ、加工に絡む指示のアウトプットは仕組みとしてありませんね。 阿部 STLデータでは必要な公差は出せても法線データとか幾何公差の部分はデータとして存在しないので、STLにされると(測定サイドは)非常に大変ですよ。 小泉 どうなんでしょうね。STLとともに幾何公差などもカバーできるデータを合わせて流通させれば、もっとやりやすくなる気もしますが。 本紙 それは難しいことじゃなく、できそうですか?(一同苦笑) 小泉 いや難しいでしょう。可能性としてこういう選択もあるのではないかと。 阿部 冒頭あったように、デジタル化を指向するなかで要所要所はレベルが上がってきているけれど、データはまだなかなかつなげられないでいるということです。 本紙 話が戻りますが、お聞きすると人のノウハウ、経験値に拠る部分がどうしても残されているようです。 藤田 ここで一つ確認させていただきたいのですが、中間の中仕上げで削りしろをどれだけ残すといったことは、工程設計している方なら頭の中に入っていますよね。 阿部 その通りです。 藤田 しかしその削りしろなりがデータとして残っていないから、例えば中仕上げにおいて三次元測定機でどれだけ正しく加工ができているか調べようにもうまくいかないと。 阿部 そこが測定側からすると一つのボトルネックになっています。 小泉 これまでの3D図面では、そこまで指示できていませんからね。 阿部 はい。国内大手自動車の主要部品をみても、個々の部分に対する指示はエクセルだったり手書きだったりしています。同時に中間の加工精度を決めるのは人の資質に拠っていて、しかもそこではミスをしないことが最も強く要求されると聞きます。ミスしないことが最優先されるゆえに、新しい付加価値が生まれにくいということにもなっているのではないかと、私は感じます。 本紙 では、中間の2次加工などを含め全体の指示を誰がどういう形でやるべきなんでしょうね? 欧米主導で動いているCADの世界は、この部分をみていない面があるように思います。 藤田 当社で顧問をやっていただいていた岸浪建史先生(北海道大学名誉教授)が話されていました。STEPなどの国際規格などをみても、欧米大手のCADメーカーがイニシアティブを取っているけど、現場の課題を解決しようとの意識は希薄ではないかと。ここをどうするかという点で、先生の表現を借りて申し上げると「こうしたCADメーカーばかりに任せてはいけない、自分たちでまた別の角度から解決をはかるべき」だと。 本紙 その自分たちでと言う部分は、個々の取り組みになるし、一気通貫が言われる中にも残るだろうと。 藤田 その通りです。逆に、CADメーカーが設計から細かな製造方法まで指示できるデータを作ってこの通りにやりなさいという形になるのは違うと思います。製造現場に自由度があることで、様々な試行錯誤が行われ、進化し価値も生まれるのではないでしょうか。一気通貫というのは完全自動化でなにも自由度はない、ということではないと思います。 小泉 働いている人のやりがいということも別の視点でみておく必要があります。 本紙 先生はどうみますか。 竹内 自由度は残るでしょうし、一気通貫とは別のとこで頭をつかうべきことはいろいろあると思いますね。 (その通りです、の声) 藤田 現場が主体的に担う領域が2割なのか、その割合はともかく、自由度があった方がいいと思います。 阿部 私は加工は素人ですが、加工工程を集約する取り組みは進んでいて、また今の工作機械も複合機能を持ち集約的な加工を行っています。そういう世界をイメージして話しますと、素材を工程集約型の工作機械に入れると、一台の工作機械の中で条件と工具を変えながら荒取りから中仕上げ、最終仕上げへと進んでいくと思うのです。このあたりのことは、(設計の指示というより)機械メーカーさんがノウハウを活かして課題解決されています。ここが重要なポイントでしょう。ただ、仮に一つのワークを作り上げる際に複数の工作機械メーカーが関わってくると、話はややこしくなりますが。 本紙 なるほど。 阿部 そうしたなか大手の自動車メーカーやそのティア1、ティア2の方々は、藤田さんが触れられた「2割かどうかはわからないけど」という、人が担う領域のなかで生産性を上げ、ひいては存在価値を高められていると思います。 人が作る工程設計の重要性――自動化できないものは残る 一気通貫をある種の理想として追い求めながらも、モノづくり工程での競争要因は、ひとつに「人が作る工程設計だろう」との指摘が話の中で何度か出た。このあたりの重要性を慎重に確認しながら、産学連携による研究開発の在り方にも話題を広げた。 小泉 もう一度整理しておきたいのですが、ここでの話は一品物とか、また私どもが大変お世話になっている金型業のモノづくりとは違う、量産型のモノづくりを対象にして、その全工程をデジタルでカバーしつつ、人の技術やノウハウも活かすという話ですよね。 阿部 そういうことです。一定程度の量を持つ加工において、今後どういうプロセスを作り上げていくか。恐らく試作段階からしっかり決めていくべきことでしょうが、ようは従来のフロントローディングを進めるだけでいいのかということを考えたいと思います。もっとも、金型で作る素材・部品、鋳鍛造品の調達なども含めて全体で進めるべきことですが。 小泉 なるほど。金型加工のことを少し言いますと、1次加工の公差のアウトプット、続く2次加工のインプットとアウトプットという流れは当然意識して出力するわけです。CADCAMでできることは、手元にあるデータベースを特性に応じて割り当てるということです。 本紙 CGSさんはAIを使ったパスの最適化などもツールとしてリリースされましたね。 小泉 いや最適化というか、私どもが始めたのは、工具が持っている諸条件と、材料側の諸条件を掛け合わせて、例えば工具メーカーさんが公開されていない材料を使う場合でも基準となる切削条件を導出する機能を作ったということです。この機能は最終ユーザーに活かしてもらいたいけど、この座談会で出ている中間工程でどこまで精度を追い込むか、あるいはどういう工程を組むかというところまではCADCAMは担っていません。 本紙 そこもデジタル、AIでやろうとの試みはあるんでしょうか。 阿部 ある大手製造業さんがデジタルを使って工程設計の自動化を試行されたが、効果が出ずにやめられたという話は間接的に聞いています。デジタル化を進めつつも、デジタルだけには頼れない大事な部分は確かにあります。 本紙 その大事な部分が競争領域ということなのでしょうね。工程設計は現場の人間の力、個々の組織の力で作っていくと。 藤田 工程設計の担い手は私どもからみたユーザーさんで、機械やソフトメーカーが直接関与するということでは基本ないですね。当社の工作機械をツールとして提供するか、システムで提供するかで当然変わってはきますが、基本的に与えられたインプットを削りで再現することが私たちの役目ですから。 小泉 同感ですね。CAMメーカーも図面通りにモノができるようにパスを出すことが仕事です。しかしユーザーさんは他の素材や部品と組み合わせた時の累積誤差といったことも注意深く見ながら工程をチェックされる。そこは機械やソフトメーカーが入り込む領域では基本無いでしょう。 本紙 その部分での研究や取り組みは進んでいるのでしょうか。 阿部 私の感覚で言わせていただくと、工程のデジタル化はオープン(標準化)を指向した研究として進んできたけれど、デジタルに絡む最近の産学連携などをみると、工程設計の在り方なども含めむしろクローズドな研究が増えているように思います。 本紙 竹内先生、産学連携の研究はいまどんな感じでしょう。 竹内 どこそこの会社や企業と共同研究するといった申請は、学内で頻繁に上がっていて、以前は産学連携の必要性が取り沙汰されましたが、今はもう日常になったと言えます。 藤田 ユーザーさんからは大学教授の協力を得て取り組んでいる、つい最近も当社に来てもらったといった話をよく耳にするようになりましたね。 本紙 そうした動きの中で、オープン・クローズドの両面で成果が増えればと思います。 阿部 ええ。話は飛びますが、ドイツでは有力大学の工学部教授が政府機関の研究所所長を兼ねているケースも少なくなく、学・官の研究が民間に降りてきやすい形になっていますよ。 竹内 そう。少し前の話ですが、ドイツのアーヘン工科大学の教授が別の研究所の技術部門トップを兼任し、その研究所では部門ごとに200人からの優秀な研究所員がいるという形でした。おそらく今もそうでしょう。研究所には教授を頂点にしたヒエラルキーが3つ、4つとあって組織としてしっかり動いている。そうしたなかで大学や、大学と関係の深い研究所に開発を委託し、自分たちでは開発部隊をほとんど持たないメーカーもドイツには多いですよ。 (資金も研究者の数も日本とはケタ違いですよね、の声) 藤田 教授が民間企業の社長になったり、企業の技術トップが教授になったりということも日本と比べて多いと思います。 竹内 そうした産学、あるいは産学官の連携の強さが、人口で日本の3分の2ほどのドイツが、昨年GDP実額で日本を上回った理由の一つにあるんじゃないかと率直に感じます。国際規格づくりも非常に上手いですし。 本紙 クローズドな研究で個別企業を支援し、他方でオープンなスタンダード化でもリードしている? 阿部 ええ。クローズドな取り組みの中身はなかなか見えてきませんが、ドイツでの産学連携が個々の企業の競争力や生産性に貢献していることは確かでしょう。私自身、長年ドイツの隣国のオランダに赴任していましたが、従業員は残業なんかまず絶対しないし、毎年4週間超の長期休暇も取っていた。強さの背景には効率のいい仕組みづくりがあって、見習うところは大いにあると思います。 3DAモデルは時代のインフラ。 10倍もの工程効率化も 日工会は経産省の工作機械デジタル化調査事業を推進 モノづくりの新しい仕組みづくりとして 国内でも3次元CADにアノテーションを加えた3DAモデル(※3)の開発と運用方法が研究され、日本自動車工業会(JAMA)や電子情報技術産業協会(JEITA)でガイドラインの作成が進んでいる。この座談会でも、デジタルでカバーできない競争領域を確認しつつも、新たなインフラとして3DAモデルの普及を求める発言が続いた。 本紙 竹内先生は、日本工作機械工業会が取り組む工作機械のデジタル化研究に関連し、経済産業省の調査プロジェクトで委員長を務められています。鍵を握る3DAモデルでいかに工程改善を進めるかがポイントのようです。 竹内 3DAモデルは設計側で作られているわけですが、今日の話にもあったように、まだ十分にデータがつながっておらず、中間工程などで必要な数値がデジタル化されていない点など多く課題があります。同時に3DAモデルを製造側でどう活かすかという視点を持ち合わせて考えていくべきでしょうね。ミツトヨさんなんかは、3DAモデルに代われば、測定の効率が相当に上がると見立てられているようですが。 阿部 まさにその通りです。 竹内 そういう製造側の成果も視野に入れて取り組むべきことでしょうね。 本紙 デジタル化において、製造サイドに目配せを効かせる切り口は、日本のモノづくりにマッチしそうです。 小泉 先に触れましたが、製造側では、2次元図のほうが設計の意図が読みやすいということが一面あると思います。言い換えると、紙図面が読めれば3DAモデルにも馴染みやすいということかもしれません。そうした読める・分かるという土台があって、そのうえで、多種多様なデータをつなぐ中間ファイルを活かす。そのまた先に、工程設計といった競争領域で個々の企業がしのぎを削るということになるのでしょうね。まずは何より、川下方向へきっちりデータをつなぐことでしょう。 本紙 部品データはあっても、部品をつなげてユニット化したときの幾何公差設計はどうするかといった問題など、消していくべき課題は多いようです。 阿部 おっしゃるように3DAモデルをいかに活かすかというテーマの前に、3DAモデルそのものにまだ多く課題があります。また、そもそも日本では図面に書き込まれていなくても擦り合わせの力で作り込んでみせるという文化があって…。 本紙 その文化を変える必要もある? それこそ高度な擦り合わせが出来る熟練者が少なくなってきた今のうちに…。 藤田 ただ設計重視の今のモノづくりには見返りが要ると思いますよ。設計者の意図を下流側へスムーズに流す試みが続いたなか、ただでさえ設計には負荷が増えています。今後さらにデジタル図面にすべてアノテーションをつけるとなると、設計の労力に見合うだけの明確なメリットがないと、検証実験はできても運用面で厳しいでしょう。実際に他社から聞いた話ですが、メリットが十分に見いだせないなら3DAモデルの運用はしかねるという話が出ています。アノテーションをつけることのメリットを見出しながら、次のステップで3DAモデル活用による合理化を本格的に目指すという流れになるのじゃないでしょうか。冒頭申し上げたように、デジタルエンジニアリングのためのインフラがようやく整って皆さんの注目度も高まってきているので、まさにこれからだと思います。 本紙 アノテーションがいっぱい入った3DAモデルを人間が読むのは大変だから「マシンリーダブル」にする、つまり機械がデータを読み込んで動く方向を目指す動きも出ているようですが。 阿部 今ふと思い出したことですが、平面に円筒状の穴があいているとして、そこに幾何公差を張り付けようとした時、機械オペレータだったら円のとば口に幾何公差を記せば意図がすぐ分かるはずです。しかしコンピュータだと、どこが円筒穴なのかさえ指示しないと判断がつかない。そこを機械が読めるような仕組みに変えていくことは有効だと思いますよ。 本紙 マシンリーダブルも次世代インフラの一つということでしょうか。CADCAMメーカーとしては、3DAモデルをどうみますか。 小泉 これまで3DAモデルとの接点は少なかったですね。私どものCADは金型設計用で、最終製品を設計するためのCADではないから、製品設計情報を受け取る必要はあまり無いという面もありました。しかし最近は、金型設計を上位CADで行うユーザーさんも増えていて、そこに加工属性をつけようとの動きが見られるようになりました。いま多くは加工属性を「色」で表現する程度ですが、これをもっと高度なものにする為に、アノテーションを含めた3Dデータの活用が進むと思いますね。 阿部 たぶん工作機械の方も、CADの方も、CAMも測定機も、それからユーザーさんも、モノづくりのなかに一貫性を持たせようと努力されてきて、その行き先はデジタル化だという方向性で同じだと思います。ところがそれぞれが「島」でやっていて、(設計領域に限ればデータ連携は相当に進んでいるけど)川下の島と島がつながっていない。これをつなぐことが、最初のステップなんでしょうね。 本紙 さて、様々ご意見をうかがってきましたが。データをつなぐ必要性は皆さん共通してお持ちのようです。肝心の「つなぐ方法」は決着ついたのでしょうか。共通言語となる中間ファイルが鍵ですが。 阿部 中間ファイルにはいろんな種類がありますが、製品製造情報(PMI)までしっかり盛り込めるまでには至ってないものが多くあります。構造が追い付いていない、あるいはバージョンアップがうまくいってない…。 小泉 その通りですね。STEP、IGES、JTなどが過去から有力な中間フォーマットですが、3Dデータの共通言語として機能できても、アノテーションまでカバーできるとなると限られます。 本紙 以前はJTを有力視する声が多かったと記憶しますが。 小泉 そう、でも評価はいろいろ変わっています。 本紙 気なるところですね。 阿部 今日現在に限って言えば、中間ファイルとしてSTEPは比較的頻繁に更新されていて、設計のみならず川下の工程まで3DAモデルをつなぐ有力候補になっています。ただ測定で言えば、STEPには曖昧な面もあり、測定と品質管理が音頭を取って作った、中間ファイル形式の米国発の規格QIFが、フィーチャー(形状)とPMIの関係性が非常に明確なので使いやすい感じです。測定のマシンリーダブルを目指すにはSTEPのAP242(AP=アプリケーションプロトコル)かQIF、上流の設計や加工ではSTEPのAP242ということでしょうかね。 小泉 AP242は弊社のシステムで受け取って表現できる予定です。ただし、グラフィカル(表示のみ)でセマンティック(形状属性)ではありませんが・・・。もちろん今後セマンティックの受け取りも検討していきますが。 本紙 お聞きするとつなぐ形は見えてきた、あるいは絞られつつある? 阿部 JAMAでは、典型的な自動車部品(板金加工品や鋳鍛造品など)を対象に、3DAモデルと中間ファイルで工程をつなごうとする実例をWEBで公開しています。 本紙 実践期に入ってきたということでしょうか。先ほど藤田さんが話された設計に負荷がかかることも考慮されている? 阿部 ええ。JEITAでは同様、幾何公差の業界標準を作ってこれを公開していますが、真に必要な公差だけを書き込むスタイルにしています。設計の負荷を減らすことと、なんでも書いてしまって人が読めないようになること避けることが狙いにあると思いますね。 本紙 率直な質問ですが、3DAモデルを軸にしたモノづくりが普及すれば効率はどのくらい上がるのでしょうか。まず測定では? 阿部 PMI情報がないと測定条件を人間が一つひとつ手で作ることになります。これを3DAモデルに沿って行えるようになればCMM(三次元測定機)オペレータの手間がなくなり、効率は2倍、3倍ではなくて、5倍、10倍に上がると思っています。モノづくりの過程で3DAモデルに適切なアノテーションを加えることで、測定の工数がひとケタ減る効果が見込めます。 小泉 CAM側でいえば、各工程での工具の割付け(選択)が大幅に短縮できそうですね。ケースバイケースではありますが、CAMオペレータの仕事は2割、3割軽減できるのではないでしょうか。プリミティブ(基本的形状)な加工では半減できるかもしれません。 藤田 小泉さんと同じ意見ですね。工具の割付けでは、どの工具で加工するかが最初から決まっているわけではないので時間を要します。アノテーションが入ることで割付けの作業の大部分は簡略化できミスも少なくなるでしょうね。 本紙 ありがとうございます。最後に先生、人口が減っていくなかでデジタルを軸にした日本のモノづくりが本格的に始まろうとしています。どう展望し、期待されますか。 竹内 機械やソフトを含めモノづくりはどんどん高度化し、複雑化しています。そうしたなかで、いかに工程を越えてデータ情報をつなぐかという課題は、進化のなかで「再び戻ってくるテーマ」であり続けるのじゃないかという気が一つしますね。また、日本の製造業が活性化するには、ベテランの力を効率よく発揮できる仕組みを作り上げていくことが急務の課題でしょうし、デジタルやDXに長ける若者を巻き込んで進めることも大事でしょう。そのために大学としても頑張ります。そうやって時代にマッチした日本発の新しいデジタルの仕組みを引き寄せていきたいですね。 ※1)フロントローディング…加工の上流(フロント)に負荷をかけ(ローディング)、工程の初期段階で作り込むプロセスを指す。概念は以前からあったが、バーチャル検証やデジタルツインの活用などで高度な実践が期待される。 ※2)工程設計…製品が完成するまでの一連のプロセス設計。生産活動のなかで特に重要視される。当座談会でも指摘があったが、現状は、特定工程のプロセス作りを工程設計と呼ぶこともあれば、素材の選択から製品完成までの全工程のプロセス設計を指して工程設計と言う場合もある。 ※3)3DAモデル…3次元CAD図に公差や製品製造情報(PMI)、各種注記、・指示事項等のアノテーションを加えたモデル。以前は3D単独図とも呼ばれたが、アノテーションのついた3Dモデル「単独」で、モノづくり全体の指示を行うとの意味合いは同じ。 ■関連記事LINK 経済産業省 製造産業局産業機械 課長 安田 篤 氏 【我が国工作機械産業の競争力強化に関するルール形成戦略に向けて】 ミツトヨ 顧問 山本 隆邦 氏 【設計から製造・品管の「縦の」デジタル化を】 (2024年5月25日号掲載)

2024年05月23日

中国「景気回復力」を探る

成長率鈍化に若年層失業率の記録的上昇、外国投資の減少、輸出と通貨の低迷、不動産危機…とかくマイナス要素がクローズアップされる昨今の中国経済。しかし、14億人を抱える巨大市場は依然として高い潜在能力を秘めている。だが、景気回復、上昇はいつになるのか。様々な角度から探ってみた。 中国国家統計局のデータをみると、相変わらず景気は減速しているが、下げ止まりの兆しが見え始めてきた。2024年1~3月期の実質GDP成長率は前年比5.3%と前期より増加幅が拡大した。業種別では、不動産業の前年割れが続いた一方、製造業が伸びを拡大し、全体を押し上げている。 4月のPMI(購買担当者景気指数)は製造業、非製造業とも低下したが、いずれも景況感の境目と言われる50を上回っており、こちらも改善の兆しが見え始めた。また3月の固定資産投資(年初来累計値)は、前年比4.5%増と増加幅が拡大した。不動産開発投資は大幅な減少が続いた一方、インフラ投資は伸びが拡大した。一方で外資企業の投資は前年比10.4%減と大幅な減少が続いており、脱・中国の動きは引き続き継続している模様だ。 消費に目を向けてみると、3月の小売売上高(名目)は前年比3.1%増と増えてはいるが、弱い動きが続いている。内訳をみると、消費財(前年比2.7%増)、飲食サービス(同6.9%増)となっている。特に消費財の約1割を占めている自動車は3.7%減と8カ月ぶりに前年割れに転じている。これに伴い、3月の消費者物価は前年比0.1%増と低い伸びにとどまった。 その要因として挙げられるのが自動車に代表される耐久財価格の下落だ。4月25日から開催された北京モーターショーにおいて、家電大手からEVに参入した「小米科技」(シャオミ)は、3月末に発売した高性能EV「SU7」が28日間で7万5000台以上を売り上げたと公表した。 同車はサーキットでのパフォーマンスにおいて、ライバルのテスラはおろか、ポルシェを上回る性能を示した。にもかかわらず、価格は約30万元(約620万円)と高いコストパフォーマンスを誇る。一方で中国メディアが指摘したのは、シャオミの異様とも言える販売戦略だ。発売価格を抑制した結果、1台売るごとに約15万円の赤字が出ているという。 シャオミ「SU7」 供給力過多とも言われる現在、シャオミのみならず中国の地場EVメーカーはいずれも大幅な値下げ販売を断行しており、テスラや日系含む外資メーカーも値下げを余儀なくされた。 その結果、中国自動車工業協会が4月11日に発表した4月の新車販売台数は、前年同月比9.3%増の235万9000台と大きく伸長。メーカー間の過度な値引き競争が背景にあるとはいえ、一時的な需要回復を果たしているのも事実だ。 ■緩やかな回復に留まる この流れに苦戦しているのが日系メーカー各社だ。トヨタは前年比27.3%減、ホンダは22.2%減、日産は10.4%減と大きく販売台数を落としている。 世界的なEVブームの失速はあるものの、すでに中国における自動車市場はEVありきのものとなっており、このジャンルに弱い日系メーカーが今後巻き返しを図るのは容易ではない。 景気回復のカギを握ると言われている不動産市況への政府テコ入れだが、市場全体の活性化には程遠く、正常化には厳しい道のりとなる。 今後、劇的な回復は見込みづらいのが現在の中国経済ではあるが、半導体を中心とした需要が2024年末から2025年にかけて回復すると見る向きも少なくない。米輸出規制の影響で半導体の国産化を急ぐ同国が、規制の対象外となる旧世代機の輸入を強化しているからだ。 日本半導体製造装置協会の河合利樹会長(東京エレクトロン社長)は年初に、中国の半導体業界について「予想以上に積極的。規制の影響を受けにくいところで投資が行われている」と述べている。 こうしたレガシー半導体の需要増を契機に、一定の景気回復が見込まれている。また、一時的に不況だった再生可能エネルギー関連の需要も年末にかけて伸長が見込まれている。かつてコロナ禍明けすぐに、風力発電などで日本工作機械メーカーへの需要が大きく高まった。その再来とはいかないまでも、一定の受注が確実に生じてくると見ていいだろう。 これまでの急成長とは違い、今後2030年までに「緩やかな景気回復」が見込まれる中国経済。その成長を牽引するのはEVなのか、エネルギー関連なのか、半導体関連なのか。かつて「米国がくしゃみをすると日本が風邪をひく」と言われてきたが、現在は「中国がくしゃみをすると日本が風邪をひいて、東アジア及びASEAN諸国が肺炎になる」という時代。中国の景気動向・需要動向を見極めたビジネス判断が求められる。 ■関連記事LINK【中国】現地の「リアル景況感」(山善 中国支社 森井 郷 支社長) (2024年5月15日号掲載)

2024年05月15日

【report】 第5回 関西物流展

ほんのひと昔前まで、ケース自動倉庫はスタッカークレーンがラックの間に敷かれたレールを走りワークをハンドリングするイメージだった。今もそれがボリュームゾーンではあるが、昨今は搬送ロボットを用いたより柔軟で能力の高い自動倉庫が続々と生まれている。物を早く大量に、しかもなるべく柔軟性の高い設備で捌きたいという無茶な要求に新たな自動倉庫が応えている形だ。 この分野の先駆者・オートストアシステムは、関西物流展でも能力的に進化した新たなオートストアを披露(23面に記事)。中国・HAI ROBOTICSの日本法人HAI ROBOTICS JAPANもスタッカークレーンに代わる新たなACR(ケースハンドリングロボット)を実演した(左に記事)。 ラピュタロボティクスの自動倉庫「ラピュタASRS」も人垣を作った。昨年8月に発売。複数の薄型台車型ロボットが庫内を動き、100V稼働のエレベーターとも連携しつつ縦横無尽にワークを入出庫する。強みはAMRの知見を転用した群制御AIで、多数のロボットを効率的に動かす。倉庫の躯体はブロックのようにねじを使わず組み上げられ、かつアンカーレス。地震の不安も「三井化学と共同開発した素材を使っている。しなってエネルギーを逃がす免振構造だ」と一蹴する。「能力と保管効率を同時に追求した製品。すでに2件導入が決まっている」 仏・EXOTEC社の日本法人EXOTEC NIHONはすでにこの分野でのプレゼンスをかなり高める。展開する「Skypod」はラックの内外を高速でロボットが走り高い能力で知られる。しかし担当者は「ソフトの更新でロボットの走行経路を効率化しより能力が上がった。大規模ユーザーを中心に導入実績も増えている」と話す。「競合も増えているが、世界3カ所のコントロールセンターにお客様の現場と同じ設備を、セキュアな環境下にデジタルで完全再現して24時間監視する。ユーザーが異常に気付く前に問題をフィックスする例も多く、予知保全もできる。稼働率98%を10年間保証しており、ここまでできるメーカーはそうないだろう」 ■2024年問題でパレタイザーに関心 猶予期間が終わり、影響が顕在化しつつある物流の2024年問題。会場では「猶予期間の終了で、逆に心理的な余裕が生まれたのか対応を急がなくなった企業も多い」と率直な声も聞こえたが、少なくとも長期的にはさらなる物流のひっ迫が予期される。ここに焦点を当てた展示も見られた。 強化段ボールによる梱包に強みを持つナビエースは、強化段ボールをパレットに転用した「ナビパレット」を展示。「労働時間の確保のためトラックの手積み・手下ろしからパレット輸送に切り替えたいという相談が多い。パレットは様々な種類があるが、環境性能などトータルで段ボールパレットに優位性がある」という。 同社の試算では、LCAでのCO2排出量は樹脂で素材1㌔あたり5.8㌔。段ボールは同0.7㌔と少なく、樹脂より軽いため輸送時のCO2排出も少ない。「国内ではレンタルパレットが流通するが輸送先から戻らないことも多く、片道パレットとして段ボールパレットを提案している。CO2排出削減は今後必ず求められる要素。小さな削減効果でも積もれば大きい」と早期の切替を呼びかける。 「2024年問題の影響はすごくある。売れ行きは非常に好調だ」。そう話したのはスター精機の担当者。射出成形機の取出に用いる直交ロボットが同社の主力だが、近年は物流向けに直交ロボットを用いたパレタイザーを展開。会場でも低全高の「PXT-1220A」を出品した。「特に大阪は天井が3㍍以下の現場が多く、高さが低い我々のパレタイザーが重宝される。ドライバーが積み替えを行っていた現場も今後はそうはいかず、非常に需要が増えた。新たな柱に育ちつつある」 売れ行き好調というスター精機のパレタイザ—「PXT-1220A」。キャスター付きな点もマルチテナント型物流施設の支持を得る 一方、THKのパレタイザーユニットはZ軸を多段スライドにすることで、上部のでっぱりを抑制。天井の低い現場にも設置可能とした。折りたたみも可能で間口が狭い場所にも搬入が簡単。担当者は「2024年問題に対応したいが、天井や間口の条件で自動化できていないユーザーにも提案できる」とした。同社は砂利道など悪路を再現したコースで搬送ロボット「SIGNAS」も実演。杉田正樹常務は「最大積載可搬重量500㌔のサインポスト式搬送ロボットで、ラフな悪路も走行可能だ」と話す。サインポストを絶対的なマーカーにすることで、悪路で多少スリップしても自己位置を補正できるためだ。 「SIGNAS」の日本機械学会優秀製品賞受賞をアピールする杉田正樹常務 をくだ屋技研は誕生60周年を迎えた「キャッチパレットトラック」に後付できる5月1日発売の走行アシストユニット「電動アシスト付キャッチパレットトラック」を披露した。担当者は「オール電動式はスイッチ操作でぐっと走り出すので『怖い』と感じる作業者もいる。体の動作に合わせてモーターを動かすこの製品なら、そうした方も使いやすい」とする。 治具・マシンバイスなどでお馴染みのナベヤは「輸送防振パレット(NBK防振パレット)」をPR。同社は半導体装置などの防振材を製造していたが、それをパレットに展開。「木製のほか、強化段ボール・スチール・EPSなど材質や価格に合わせて防振材を選定できるのが強み。防振ゴムに比べ防振効果と寿命が長い。自然環境下で数十年単位で使える」という。エアサストラックに比べ防振効果が高く、エアサストラックをチャーターするより路線便で輸送防振パレットを使う方がコストメリットが高いと訴求する。 寺岡精工は関西地区に多い製造業を対象に出展。参考出品の「低床2マルチピッキングカート」は展示会初披露だ。高さのある段ボールやオリコンを載せられる低床仕様(摘み取り作業用)で「かさの大きい製品はすぐに出荷箱が満杯になり、箱交換の手間が必要。低床にすることでキャパシティーを拡げ、170サイズの段ボールや番重を10段重ねられる」とする。昨年リリースした「カウンティングカート」は手前に軽量アイテム用に特化したカウティングスケールを搭載し、パーツセンターや部品工場の要望に応える。 ■関連記事LINK(1)HAI ROBOTICS JAPAN 新井 守 社長インタビュー (2)オートストア システム マネージングディレクター 安高 真之 氏 インタビュー (2024年4月25日号掲載)

2024年05月02日

【2024関西経済】万博、インバウンド、設備投資

「関西の実質経済成長率は1.1%と緩やかな回復が続くと予想される」(日本総合研究所)、「成長率は前年比1.8%。大阪・関西万博に向けた工事等により設備投資、公共投資が伸びることが成長に寄与する」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)、「関西の実質GRP成長率は1.2%と推計される。数字が示すとおり、低調な推移にとどまる見込みである」(りそな総合研究所)。 年末にかけて民間調査機関が発表した2024年の関西経済の見通しには、このように若干のバラつきが見られた。それだけまだら模様の景気だと言えそうだが、いずれのレポートもインバウンドと万博による公共投資の増加を景気の好材料に挙げた点では一致する。日銀大阪支店の4月2日の発表では、関西企業の設備投資マインドを「増加している」とするなど製造業にも上がり目を感じさせた。総じて足元の関西経済は、緩やかな回復基調の最中にあると言える。 ■設備投資は堅調 日銀大阪支店によれば、生産は一部自動車メーカーの操業停止の影響などから弱い動きに。しかしその要因を除けば基調として横ばい圏内で、北米向け生産用機械が堅調に推移。汎用・業務用機械も高水準の受注残を背景に底堅く推移しているとする。反面、中国の減速の影響を受ける電子部品・デバイスは低調で、輸送機械も先述の生産停止の影響から大きく減少。しかし順次稼働の再開に向けた動きがとられており(ダイハツ工業本社工場のコペンは5月7日に生産再開予定)、生産の落ち込みは徐々に解消へ向かいそうだ。 設備投資意欲も落ちていない。近畿経済産業局が4月19日に発表した近畿経済の動向(2月指標中心)によれば、近畿における24年度の製造業の設備投資計画の額は前年度比7.1増%と、全国(5.1%増)や前年度計画(4.1%増)をともに上回る水準だった。 日銀大阪支店は4月2日に関西景気の総括判断を「一部に弱めの動きがみられるものの、基調としては緩やかに持ち直している」と前回の判断より若干引き下げているが、これは一部自動車の生産停止を念頭に置いたもの。生産が再び軌道に乗れば景気の回復基調は維持されるものと見込まれる。 ■賃上げなるか 翻って個人消費はどうか。近畿経済産業局は「緩やかに改善している」と評しており、底堅い動きをうかがわせた。2月の近畿地域の百貨店・スーパーの販売額は前年同月比で9.2%増と、好調に推移。特に百貨店はインバウンド需要がけん引役となっており、旅行者による消費の底上げは今後も引き続き期待できるだろう。 ただし懸念もある。実質賃金がどこまで上げられるかがいまだ見えてこない点だ。今年の春闘では賃上げ率が33年ぶりに5%を超えたことが話題となったが、大企業と中小企業には賃上げの余力に大きな差がある。帝国データバンクが3月26日に公表した調査では、中小企業の潜在賃上げ力は平均5.90%、大企業では同18.93%(企業の純利益の30%を人件費へ投資する前提で計算)と体力に差があることが明らかになった。個人消費が伸びなければ関西経済全体も浮揚の芽をつかみづらい。中小企業の賃上げ動向は、今後の関西景気を左右する重要なファクターとなりそうだ。 ■関連記事LINK共栄法律事務所 溝渕 雅男 弁護士「窮地企業を救済するM&A」 (2024年4月25日号掲載)

2024年05月02日

INTERMOLD2024レポート

INTERMOLD2024(第35回金型加工技術展)/金型展2024/金属プレス加工技術展2024)が4月17日から19日にかけて、インテックス大阪(大阪市住之江区)で開催。合計3万7057人が訪れた。主催する日本金型工業会の小出悟会長は開会式で「100年に一度の大変革の時代、と言いながらコロナ禍も含め5年たっている。もう情勢が変化し終えたかと言えばそうではない。しかし今出展社の中に、こう変わるべきだという方向性を示すものが多くある」とあいさつした。その方向性の一端を伝えるべく、会場を取材した。 牧野フライス製作所は長時間加工を可能にするテーブル温度安定機能を搭載した、立形マシニングセンタ「V56i PLUS」を展示。「金型加工は長時間におよびがち。従来機はZ方向の熱変異が理論的には起こり得る構造だったが、テーブル内部に管を通し温調したクーラントを常に循環させることで長時間加工してもZ方向のずれを極限まで抑えられる」と利点を訴求した。加工時間が105時間に及ぶサンプルワークも展示し、Z軸方向の位置誤差を±2・4㍈に抑えていることを示した。 ワークの大型化に対応 5軸マシニングセンタ「MU-6300V-L」を用いたダイカスト金型の加工を提案したのはオークマ。3軸であれば上部から工具をアプローチして加工することが多いがワークが深いと工具が長くなり、ビビりを抑えるため加工条件を上げられない。5軸であれば工具長短縮が叶い、加工条件向上による時間短縮が出来るとアピール。「当社の機械は剛性が高いので荒加工から仕上げ加工まで出来る。今回は荒加工の効率化を提案している」(担当者)とした。「C&GシステムズのCAM-TOOLに新たに実装された機能を活用しており、従来だと5方向から金型を加工しようとすると作業者がどの方向から適切に加工するか考えてプログラムを作る必要があったが、ボタン一つでパスを作ってくれる」(同)とした。 オークマの5軸マシニングセンタ「MU-6300V-L」を用いたダイカスト金型 ファナックは小型切削加工機「ROBODRILL α-D28LiB5ADV Plus Y500」をメインにPR。Y軸ストロークが500㍉に延長され大型ワークに対応。EVの部品加工のニーズを狙う。 金属AM×切削のハイブリッド機「LUMEX」によるサンプルワークを並べてみせたのは松浦機械製作所。冷却水管を三次元かつ自由に造形できるのが特長で、金型温度を一定に保てるため射出成形時のサイクルを早められる。成形品の反りや変形が少なくなるメリットもある。「大阪開催のインターモールドへの参加は10数年ぶり。我々も研究でこの機械の可能な加工をより深く見極められるようになっており、今いちど金型市場の反応を見るのが目的だ。例えば昔は射出成形のダイカスト金型しか造形できないと言われていたが、アルミダイカスト金型にも我々のAM機が活用でき始めている」とする。 放電加工でもワークの大型化に対応を迫られる。三菱電機は、2月のプライベートショーでお披露目した中大型形彫放電加工機「SG70」を今展を皮切りに発売する。スタンダード機のSGシリーズのラインナップに追加。軸移動量はX軸1000㍉、Y軸700㍉、Z軸500㍉となった。自動車向け金型の大型化により、大きなワークを加工できる大型機の需要が増えている。また、ガスタービンブレードや航空向けの部品もメインターゲットとする。独自AIによる「Maisart」を標準搭載。加工状況をAIが自己判断し、加工形状や面積によってジャンプアップ量を調節、制御を最適化し安定した加工が行える。 初お披露目となる三菱電機の中大型形彫放電加工機「SG70」 西部電機もモーターコアなどの大型化などに対応するため800㍉×600㍉のストロークを有する超精密・大型ワイヤ放電加工機「SuperMM80B」を提案。会場では自動結線のデモンストレーションを実施。担当者は「自動結線が100%入っていくと夜中に加工が止まって工程が崩れるなどがない」(担当者)とし、一日目の取材時は供給回数が400回を超えていたが失敗は0だった。「会期中ずっと回しており会期終了時には2000回近くまでいく。確率論として、それで0であれば、成功率はほぼほぼ100%だと感じてもらえる」(同)とした。 スギノマシンは元々、洗浄用途で原発業界などへ提案していたウォータージェットピーニング加工機「CWJP」を、金型業界へ提案した。高圧水をワークにぶつけて微細な気泡を発生させ、泡が破裂する衝撃で金属の表面を「叩く」もの。「従来の研磨剤を使うショットピーニングでも金型の表層に応力を付加できるが、深度が足りない。CWJPのほうが深く打撃できるため金型の疲労強度をより向上でき寿命を延ばせる」という。ダイカスト金型の寿命を9500ショットから1万2000ショット(1.4倍)に延ばせた実績や、精密金型の寿命を7万ショットから21万ショットへ向上できた例もある。研磨剤の除去も必要ないので洗浄も兼ねられる一石二鳥の設備だ。 アマダマシナリーはデジタルプロファイル研削盤「DPG-150」とロボットを組み合わせたデモを披露した。特長は搭載したデジタルプロジェクター。最大400倍の高倍ルーペで見たい箇所を指先ひとつで拡大・縮小可能。ワークのエッジを検出し、CADデータとの誤差を瞬時に自動計測して自動補正加工もできる。砥石・ワーク計測の自動化とチャート作画の簡略化により従来比で工数を27%減らせるという。「プロファイル研削は長らく職人の手と目によるアナログ作業だったが、誰でも高精度な測定と加工ができる。一方で自動化しかできないわけではなくハンドルで従来通りの汎用的な使い方も可能。つまり誰でも使えるマシンだ」とする。 東洋研磨材工業は鏡面ショットマシン「SMAP」を提案。「職人磨きを装置化し、研磨工程を効率化した。4月に開発した『SDメディア』は母材がゴム質でダイヤモンドをまぶした粗磨き用研磨材で、従来品よりスピーディーに研磨できる」(大内達平代表取締役)とする。 富士機工はNC位置決め装置「ボール盤NCβ2軸」をアピール。NCによる位置決めでケガキやポンチ作業が不要で、寸法合わせがカンタンにできるボール盤だ。 精密や深彫を追求 微細領域に強みを持つ日進工具は1月発売のレンズ型エンドミル「MLFH330」を提案した。ボールでもスクエアでもラジアスでもない、先端がレンズのように緩いR形状を描く工具。「φ1から取り揃えている。径の太い工具でこの形状のエンドミルはあったが、小径工具で実現したのが我々ならでは」という。例えばφ6のボールエンドミルの底刃は通常R3だが、MLFH330はφ6でR8のため加工効率が向上。「矛盾するようだが微細加工を高能率化できる。金型業界では精度を上げつつ加工時間は縮めたいという相反する要求が増えている。形状は曲面に限るが、はまる加工ではかなり効率が上がる」という。 日進工具の先端が緩やかなRを描くMLFH330 MOLDINOは新製品「EPDBPE-ATH」が目玉。フリーネックタイプの深彫り加工用ボールエンドミルだ。大物ダイカスト金型、鋳造金型、プラスチック金型全般の深部加工に向く。金型の大型化により深彫りが増えているが、一般的な工具ではシャンク部と首下の部分に段差があるため、ワークの深さに合わせた工具選定や交換が必要になる。「フリーネックタイプは干渉フリーで、突き出し量を加工部の深さに合わせて調整可能。1本で調整できるため工具集約もかなえる」(担当者)とする。今回24アイテム追加、ラインナップを大きく拡充した。 MOLDINOのフリーネックタイプの深彫り加工用ボールエンドミル MSTコーポレーションは「焼ばめホルダ スリムライン」と、交換式工具が取付けできる「超硬アーバ」を組み合わせたボーリング加工用焼ばめホルダ「ミルボア」を訴求。金型ガイド穴なども含め、ボーリングヘッドで行っている穴加工をヘリカル加工で行なうことで、スキルレス化などの利点がある。「ボーリングだと寸法調整が必要のためスキルが必要だがボーリング加工だとNCのほうが対応するので、金型業界のベテラン不足に貢献できる」(担当者)とした。自動化が進む中、マシントラブルにつながる「つながった切りくず」の対策が求められるが、その点でもミルボアの優位性をPRしていた。 ZOLLER Japanはユーザーの工具室をイメージした展示を行った。外向きに展示品を配置するのではなく、中に入ると「自社の工具室に何があれば便利かイメージしやすい趣向」(担当者)と話す。測定精度2ミクロンを保証するツールプリセッター「venturion」を用いれば、金型の仕上げ加工における取残が事前に把握できるので最小化で効率アップを図れる。またすそ野を広げるため廉価版の「smile」を初出展。やや精度は落ちるが上位機種に比べると4割ほど安価となる。 ブルーム−ノボテストは4月1日にリリースした金型計測プロセスの自動化提案「フォームコントロール X」を紹介。従来の工作機械の加工終了後、ワークを取り外し測定室に運搬し、測定を実施。測定結果がNGの場合は再加工といった測定プロセスを工作機械に集約して自動で測定を行うもの。タッチプローブとの組み合わせで機上計測を行うパソコン用のソフトウェアだ。NG品に関しても機上にて追加工が実施できるメリットがある。 C&Gシステムズは5軸マシニングセンタ対応のCAD/CAMシステム「CAM-TOOL」の新バージョン「V20.1」を出品。新切削モードと5軸工程集約で荒加工の効率化、そしてAI搭載による自動化・省力化を推進する。新加工モードの「負荷一定駆け上がり加工」は、傾斜切り込み時の回転数をコントロールし、工具の負荷と破損を抑制。工具寿命の改善と加工時間短縮を叶える。 (2024年4月25日号掲載)

2024年04月26日

生産性を飛躍的に高める切削工具

切削加工における生産性向上を図る上で、もっとも費用対効果が高いと言われている「切削工具」。一見すると従来品との差が分かりづらい側面がありながら、新たなコーティング技術や刃先形状など、実際には日進月歩の勢いで進化を続けている。本特集では各社が提案する最新の工具、切削ソリューションをクローズアップした。 岡崎精工、ステンレス鋼用防振ミル 加工音とビビリを抑制 SUS用防振ミル「HPSUS4MH」(上)と「HPSUS4SH」 他の金属と比べて切削難易度が高いステンレス鋼(SUS)。ステンレス鋼は鉄にクロムやニッケルなどの合金元素を添加したもので、高い耐食性や耐熱性を持つ。しかし、これらの合金元素が切削工具との摩擦を増加させ、切削を困難にしている。さらに問題なのが、加工時に生じる振動や騒音。加工現場の周囲はもちろん、作業者にも悪影響を及ぼす。 こうした問題を解決するのが、岡崎精工のSUS用防振ミル「HPSUS4MH」(ミディアム刃長)、「同SH」(ショート刃長)。ステンレス加工に抜群の威力を発揮し、独特の加工音やビビリを抑制する。ステンレス以外の鋼材の高速加工も可能だ。 4MH(ミディアム刃長)は側面加工専用で、不等分割、不等リード仕様となる。4SH(ショート刃長)は溝加工と側面加工が可能で、こちらも不等分割仕様。いずれも不等分割により自励ビビり振動に対し高い抑制効果を発揮し、高周波振動を分散させることで、切削抵抗の共鳴によるビビりや加工音を防止する。 工具の表面処理には同社独自の耐熱性コーティング「OKハードコート」を採用。高硬度材や耐熱合金などの難削材の高速切削を可能にする。 「周速80m/分以上での加工に威力を発揮するので、加工面粗度の向上や加工時間短縮に貢献します」(同社)とし、ユーザーからは「ステンレス加工での寿命が延びた」、「加工音が静かになった」、「仕上げ面が良くなった」などの多くの声が寄せられているという。 担当者は「HPシリーズ製品は、高性能に加えてリーズナブルな価格設定としていますので、手軽に、是非一度使用していただきたい」と話す。 MH、SHともに刃径3Dから20Dまで全12種類をラインナップ。価格は2700円(税別)から。 京セラ、耐久性と作業性高めた突切り加工用工具 突切り工具「KGZ」 自動盤の突切り加工は、刃幅数㍉のインサートで被削物の中心部まで加工するため工具への負荷が大きく、びびりの発生やホルダの破損などが大きな課題となっている。また、自動盤の狭い機内で短時間かつ正確にインサートを交換・装着するには熟練したスキルが求められるなど、その作業性にも課題があった。 京セラは、これらの課題を解決するために独自クランプ構造の自動旋盤用突切り工具「KGZ」を開発した。合わせて、突切り加工用の新インサート材種「PR20シリーズ」を発売し、突切りの高能率・安定加工を実現する。 「KGZ」は、独自機構を備えた新開発のクランプ構造ホルダにより、インサートを強力に固定することでびびりを抑制し、安定加工を実現する。スリット部は斜めにカットしたテーパースリットにすることで、締結用ネジを締めた際に、インサートに対して真上方向から拘束力が加わり、強力に固定。上面クランパ部はインサートを内側に引き込み、拘束力を向上。インサートをクランプした際に、内側に向かって力が加わるように形状を設計し、前後方向のインサートのズレを抑制した。ストッパ部分は鈍角にし、大きな面にすることにより、ホルダにかかる応力を分散させた。 「ストッパ部の摩滅量は他社品比で3分の1以下に低減し、ホルダの耐久性を向上させるとともに、負荷の高い高能率加工にも対応する。また新形状のインサートは、上面に施しているV溝の構造を刷新し、拘束力と装着時の作業性を向上させている」(同社) インサートの材種ラインナップには、KGZに合わせて新たに開発した突切り加工用の新PVDコーティング材種「PR20シリーズ」を用意した。 「PRシリーズ向けに新たに開発した特殊ナノ積層コーティング『MEGACOAT NANO EX for Grooving / Cut-off』は、当社の独自成膜プロセスによって誕生したもの。高温硬度や耐摩耗性に優れるアルミニウムの特性を引き出したことで、鋼の加工比較では、他社品と比較して耐摩耗性を約2倍に向上させている」(同社) 鋼、ステンレス鋼、鋳鉄の突切り加工用のメイン材種として、高精度・長寿命・安定加工を実現する。 ■工具の使用状況を可視化 さらに同社では、工具測定・管理のスペシャリストZOLLER社とコラボレーションし、工具管理に最適な「toolOrganizer(ツールオーガナイザー)」を提案している。 ユーザーの生産情報を一元管理し、生産現場の課題解決を支援する新サービスで、昨秋よりサービス提供を開始した。こちらは切削工具の在庫や使用状況を見える化し、ムダなくスマートな工具管理を実現する。利用者専用WEBサイトでは、製品別やマシン別の工具使用量などを細かく分析、使用量の異常検知、改善提案などによってコスト削減をサポートする。 「工具管理に課題を抱えているお客様などを中心に導入が進んでいる。導入動機として、生産現場の工具管理の一元化や見える化がされることで、お客様の様々な課題解決がつながる点を評価いただいている。さらに本サービスは、5年契約の月額定額制が基本で、多額の初期導入費用は不要、低コストでスタートできる点も評価されている」(同社) 現在、同社テクニカルセンター4拠点(埼玉県、愛知県、滋賀県、鹿児島県)でも導入済みで、ZOLLER社のショールーム(大阪・横浜)にもツールオーガナイザー実機を設置し、実際に見学もできる。 「当社は、お客様とつながり、工具に関する課題を共有、データ活用による改善活動をサポートし、お客様の視点に立って生産性向上に貢献していきたい」(同社) サンドビック、経済性と汎用性に優れた低抵抗の肩削りカッタ 「Colomill MS60」 切りくず排出量に優れ、高い生産性を誇る正面フライス加工。一方で、ビビりによる加工不良やインサートチップの寿命が持たないといったデメリットも挙げられる。 これらの課題を解決するのが、サンドビック・コロマントが3月に発売した低抵抗直角肩削りカッタ「Coromill MS60」。多刃による高生産性もさることながら、高い汎用性が特徴だ。90度肩削りフライス加工用に設計されているが、正面フライス加工からランピング加工、ポケット加工、ダイナミックフライス加工まで、幅広い用途に使用できる。 「従来はマルチエッジまたはタンジェンシャル(縦置き)フライス工具が使用されていた荒加工や中仕上げ肩削り、端面フライス加工の効率化・低コスト化を実現できる」(同社)。 カッタボディには高剛性のチップシートを採用。鋳肌や鍛造肌など切削抵抗が安定しない場面でも高い信頼性を発揮する。内部クーラントホールによりダクタイル鋳鉄等の切りくず排出性にも優れる。 両面チップは、最大8㍉切込みでのランピング加工が可能で、優れた加工面品質を実現するワイパー刃を備える。 「チップはダイレクトプレス両面6コーナ仕様でコーナ単価を低減した。両面使いのネガティブチップだが、逃げ面に逃げ角を設けた新コンセプトにより、ランピング加工でも低切削抵抗で高効率の加工を可能にする」(同社) 鋼や鋳鉄の荒~中仕上げで最もパフォーマンスを発揮するほか、ステンレスや耐熱合金の加工にも対応できる。「ハウジングやケーシング、ポンプおよびバルブ部品、マシンベッド、マシンテーブル、主軸台などの加工に最適」(同社)。 製品ラインナップはカッタ径50~100㍉の8アイテム。チップは汎用型(M―L50)と刃先強化型(M―M40)の2種類のチップブレーカで各被削材用材種9アイテムとなっている。 住友電気工業、高能率の高送りカッタ 工具寿命6倍のユーザーも 住友電気工業の「SEC-スミデュアルミルDMSL型・DMSW型」は複合円弧形状の切れ刃により、小さい切込角と大きな切込みを両立し、1刃当たりの送り量最大3.5㍉の高能率加工を可能にする。 開発者の住友電工ハードメタルの辻本翔太氏は「刃が円弧形状になると保持する部分も同形状にするのが一般的だが、平面で保持している。これによりクランプの剛性が下がることなく保持できる。保持力が高いので超高送りまで対応できる」と話す。 工具突き出しが長い加工で、びびり振動の抑制にフォーカスしているのも特徴だ。「単に薄く削るから切削抵抗が少ないだけでなく、複合円弧形状では切込角が小さくなるので、切削抵抗が背分力方向へ向かい、びびりが抑制される」(同)と話す。この複雑な形状の開発は苦労した。「研削加工を用いれば形状はいくらでも作れるが、最先端の造形技術によって研削レスを実現した」(同)とする。 1刃当たりの送り量2.0㍉以上の高送り加工でも、ワイパーインサート無しで良好な面粗さを実現する。「粗加工用なので仕上げ加工用の工具と同等とはいかないが、Ra3・3㍃㍍、Rz14.1㍃㍍と良好だ。高送りで粗加工を何パスも行ってから、送りを下げて仕上げ加工をする、という使い方のユーザーもいる」(同)と話す。 あるユーザーは一般構造用鋼SS400の機械部品加工で、突き出し量120㍉(超硬アーバ使用)でも、DMSL型の使用によりびびりを抑制。能率2倍を実現した。 また隅削り工具でステンレス鋼(SUS304)をゆっくり削っていた機械部品加工のあるユーザーにいたっては、高送り加工で能率が2・7倍、工具寿命6倍以上を達成している。 6月発売予定でラインナップを拡充する。受注生産品だったものを標準品とし、在庫を持つことで短納期を実現する。 データ・デザイン、切削工具の物理的解析ソフト テストカットを大幅削減 切削解析ソフト「Toolyzer」 設計から積層造形まで、最新の3D技術を活用したモノづくり製品を手掛けるデータ・デザインは、工具の刃先形状に基づく切削解析ソフトウェア「Toolyzer」(開発元・独Tetralytex社)の販売を先ごろスタートした。 Tetralytex社はドイツ工科大学連合TU9のメンバーでもあるハノーファ大学の生産工学/工作機械研究所の研究者らが2019年に設立。数多くの切削工学プロジェクトから生まれた切削解析ソフトがToolyzerだ。 独自のアルゴリズム(三方向デクセルモデル)を採用し、運動学的シミュレーションと刃先応力解析を複合させ、これまで工具解析分野で主流のFEM(有限要素法)では膨大な計算工数を要していた切削状況のデジタルツイン解析の高速演算を可能にした。 「従来のFEMでは数日かかっていた解析工数はわずか数十分に短縮され、三次元形状を加工するためのNCプログラムによる切削工具の複雑な動きを高速に再現しながら、個々の刃先にかかる応力を高精度に解析が出来るようになった。さらにFEMでは対象外となっているギアを加工するための刃切りやスカイビング工具や、切削効率と精度を高めるための総型工具と呼ばれる特殊工具の解析モジュールも実装している」(データ・デザイン・今田智秀氏) 同ソフトは、切削加工における電力消費や脱炭素化への取り組みを進めているグローバル企業への導入が進み、現在では欧米を中心に切削工具メーカーの設計開発部門や、自動車、航空機、重工業メーカーのマシニングプロセス開発に携わる専門技術者の切削解析ツールとして採用されている。 「特に、近年のEV化による特殊ギア加工や、エネルギー革新需要による高効率大型ガスタービン/ブレード加工の最適条件算出、工作機械稼働効率の向上などにも活用が進んでいる。切削加工はマシン、工具、加工データで構成される形状創成であり、素材への正確な工具形状の転写が求められる。Toolyzerによる工具の物理的解析はデジタルツインを実現し、新たなマシニングプロセスの開発に繋がる」(今田氏) 日進工具、アルミ用ラジアスエンドミル あらゆる条件で高効率加工実現 AL3D-345R アルミは加工性が高い金属だが、熱伝導率が高く加工中に工具へ溶着する可能性があるため、加工条件を上げられないケースも少なくない。 日進工具の「AL3D―345R」はあらゆる条件で安定した高能率加工を実現するアルミ用高能率ラジアスエンドミル。独自の刃形状で加工中のびびり振動を抑制し、加工負荷の大きいコーナ部や高速条件での切削でも安定した高能率加工を実現する。 「従来品のアルミ加工用2枚刃3倍刃長のAL3D―2からAL3D―345Rは3枚刃3倍刃長にし、約1・5倍の高送り加工を実現した。切りくずをスムーズに排出する大きなチップポケットと外周刃により、アルミ合金に突っ込みし、続けて溝加工・ポケット加工することも可能」(同社) 加工事例としてアルミ合金(A5052、ワークサイズ15ミリ×18ミリ×35ミリ)の荒取りにおいて、回転数1万7500回転/分、送り速度3000㍉/分、切込み量18ミリ×1.8ミリの条件で加工した際、全くびびり無く良好な加工面を実現している。切りくずを従来品と比較しても非常に滑らかに切削していることが良く分かる。 アルミ合金はもちろん、銅や樹脂の加工にも威力を発揮する。サイズはφ2×R0・2~φ12×R2の全39製品をラインナップしている。 加工面の比較 不二越、バリレスシリーズ 「バリ無きこと」を工具で実現 不二越のバリレスシリーズ。写真左から「アクアREVOミル バリレス」、「アクアREVOドリル バリレス」、「SGスパイラルタップ バリレス」 切削加工における多くの図面に記載されている文言「バリ無きこと」。バリ取りは加工現場において大きな負担となっている。こうした「切削加工の常識」を覆すイノベーティブな「バリレス工具」を提案しているのが不二越だ。 昨年開催されたMECT2023において多くの注目を集めていた不二越の「バリレス」シリーズ。「バリは最初から無い方がいい」をコンセプトに設計・開発され、ドリル、タップ、エンドミルを同時にラインナップした。 バリレスドリル「アクアREVOドリル バリレス」は従来のドリルに比べて先端の刃先を鋭角にして振れを抑制。切削抵抗が低減し、ドリルがワークを抜ける際、バリを細かく分断・切除しワークに残さない。平面の抜けバリはもちろん、バリ取りが難しいクロス穴の加工においても抜群の威力を発揮する。加えて切削長が伸びてもバリをしっかり抑制し、汎用ドリルと同等の長寿命を実現する。 「従来の加工において、バリを抑制するとなるとフラットドリルという選択肢があったが、当社のバリレス工具ならフラットドリルよりさらにバリの発生を抑制できる。また従来品でバリを抑えようとすると加工条件を下げることになるが、加工条件を下げると工具寿命も短くなる。バリレスシリーズは加工条件や工具寿命も汎用ドリルと同等であり、加工能率や工具交換サイクルはそのままに、バリの出ない加工を実現できる」(同社) バリレスタップ「SGスパイラルタップ バリレス」は、めねじの内径を総形で削るシェービングエッジがバリの発生を防ぎ、ガイドチャンファにより、切りくずの噛みこみや工具の刃欠けを抑制する。 「タップ加工においてボトルネックとなるのは、めねじ内径にバリが発生し、それを除去しなければならない工程。手作業で細かなバリを取らなければならず加工現場の大きな負担となっていた。従来の汎用タップはねじ下穴径を削らずに加工していたのでバリが出やすかったが、バリレスタップはねじ下穴径ごと削ることで、バリの発生を防いでいる」(同社) バリレスミル「アクアREVOミル バリレス」は左ねじれと右ねじれの入った形状で、上面、下面のバリを抑制するダブルヘリカルの採用によりバリの発生を防ぐ。 「バリレスミルのダブルヘリカル形状は、左ねじれの刃と右ねじれの刃で加工自体に上下の力がかからないので、薄板加工においてもたわみやびびりを減少できる」(同社) 特殊なクランプも必要とせず、良好な仕上がり面を得られるのも大きなポイントだ。 「当社のアクアREVOシリーズは、長寿命・高能率・多用途と幅広いニーズを高い次元でまとめ、革新的な性能を実現している。バリレスシリーズは、そこからさらに一歩踏み込み、ユーザーのバリに対する困り事の声を拾い上げて開発された製品。今後もユーザーの困り事に対応した新商品を提案し、加工現場の生産性向上に貢献していきたい」(同社) 三菱マテリアル、小物部品加工用ボーリングバー 内径加工のビビリを解消 内径加工の際に生じてしまいがちなのが、加工面の「びびり」。ボーリング工具の突き出し量が長くなればなるほど、びびりも大きくなる。そのため、切削速度を落として加工しなければならないケースも少なくない。 三菱マテリアルの「小物部品加工用ボーリングバー」は、びびり振動が発生しやすい内径加工向けのボーリングバー。独自開発の超硬シャンクにより振動を抑制し、安定した加工状態により加工面品位の向上を実現する。 自動旋盤の取付長さに対応したサイズ(超硬シャンクタイプ=全長80㍉、90㍉、140㍉、180㍉)をラインナップしており、干渉対策でのシャンク切断を不要とした。VCタイプインサート対応ホルダは、最小加工径16㍉から標準化。倣い加工などにも活用できる。 φ8シャンクでは最小加工径9㍉を実現、クリアランスを大きく取れるため、切りくずをスムーズに排出しシャンク剛性を低下させずに安定した小径加工を実現する。内部給油にも対応(クーラント穴付き)するので、深穴加工でも安定して加工できる。またボーリングバー本体には目盛りが刻まれており、突き出し量が分かりやすいのも特徴だ。 「発売以来、小物部品加工用ボーリングバーは、高精度、高生産性、高品質な加工が求められる小物高精度部品内径加工において高い威力を発揮し、特に小型自動旋盤をご使用のユーザーに高い評価を頂いている」(同社) 小物加工用ボーリングバーは、「超硬シャンクホルダ」、「鋼シャンクホルダ」全78アイテムと、対応するISOインサート119アイテムをラインナップ。 「機械や工具の性能が上がり、特に小物高精度加工ではお客様のニーズもより高く細かい要望が寄せられている。必要とされる規格を網羅できるラインナップを揃えるようにしている」(同社) MOLDINO、ダイヤモンド被膜エンドミル 長寿命で長時間加工を実現 エポックHDコーティングディープエンドミル「D-EPDB」「D-EPDR」 ダイヤモンドコーティング工具での加工において、加工品質を維持するキーポイントとしてダイヤモンド被膜がいかに「剥離しないか」という点がフォーカスされる。このダイヤモンド被膜の長寿命化にこだわったのが、MOLDINOのエポックHDコーティングディープエンドミル「D-EPDB」(ボール)、「D-EPDR」(ラジアス)だ。 同社は2008年より、従来のダイヤモンドコーティング工具より、高能率加工が可能で飛躍的な長寿命化を実現した「HDコーティングシリーズ」を展開するなど、このジャンルにおいて高い評価を得てきた。この2月には「HDコーティングシリーズ」におけるエンドミル製品のアイテム数を大幅に拡大、価格体系を一新した。 HDコーティングは高純度なダイヤモンドからなる被膜で、80Gpa以上の高硬度を達成。結晶性の良いダイヤモンドを採用し、耐摩耗性に優れている。また母材にはダイヤモンドコーティング専用超硬母材を採用し、コーティングの密着性を向上させ、優れた耐剥離性を実現している。 「D-EPDB、D-EPDR耐摩耗性と耐剥離性を備えており、グラファイト電極加工の長時間切削や高Siアルミニウム合金の切削に最適」(同社) D-EPDBはボール半径0.2~5㍉の全44アイテム、D-EPDRは刃径0.5~10㍉の全46アイテム。 (2024年4月10日号掲載)

2024年04月09日