【座談会】ロボット×3Dカメラ・AI・センサーによる自動化
人手不足の解消と労働生産性の向上はロボットで解決できる――。そう信じるメーカーやシステムインテグレーター(SIer)、受託開発企業5社にオンラインで集まってもらった。3Dカメラ、AI、センサーの進化は自動化にどんな変化をもたらすのか。 餅は餅屋 ――各領域で特異技術もつ5社 ――まずはご出席者の皆さんが得意とする商材・産業分野や納入実績などを自社紹介を兼ねてお話いただけますでしょうか。 安部健一郎(ファナック) 当社はNCから事業が始まり、その後産業用ロボットが続きもう47年の歴史があります。ロボットは昨年8月に出荷台数100万台というマイルストーンを達成しました。元々は自動車向けから始まったものが航空機、一般消費財、食品、物流、薬品などの分野へと自動化が必要な産業に開発を広げ、最近ではトータル200種類ほどのロボットを展開しています。ただしロボットだけでは自動化はできません。本日お集まりの皆さんのようなパートナーさんの技術をお借りしながら、一緒に人手不足や生産性向上への対応を進めているところです。当社のロボットは大きく2つに分けることができます。白色の協働ロボットと従来型の黄色の産業用ロボットです。この区分は比較的明確で、協働ロボットはロボット導入の敷居を低くして幅広くお使いいただくという路線で世の中で非常によく受け入れられて広がりを見せています。一方で可搬重量が大きくスピードの速いザ・産業用ロボットもやはり根強い需要があり、しっかり台数も出ています。開発としては両者で同じくらい力を入れています。 下間篤(バイナス) 当社は独立系のロボットSIerです。場所は愛知県の稲沢市にあります。得意技術領域は業界問わずビジョン~アプリケーションです。また食品や医薬品の高速処理を必要とするアプリケーションの実績も豊富です。ロボット市場はやや元気がありませんが、当社は数年前からAMR(自律走行搬送ロボット)と協働ロボットを組み合わせたアプリケーション開発をどこよりも早く進めており、新設工場や新規設備を導入されるお客様向けに実績も上がってきています。SIerとしては少し変わった事業として、教育機関向けに実習装置の製造販売をしています。北は北海道から南の沖縄まで全国約450の工業高校のほぼすべてに当社の実習装置が採用されています。 泉悠和(Mech-Mind) カメラには様々なものがありますが、当社は3Dカメラの専門メーカーです。3Dに特化して開発・製造・販売を行い、10種類以上のラインナップを揃えています。同時に3Dカメラと組み合わせてワークを認識するための画像処理ソフトの開発も自社で行っています。当社の強みは画像処理においてAIディープラーニングの機能をもち、従来は認識するのが難しかったワークに対しても効果を発揮するソリューションを用意しています。納入実績としては累計で1万台以上。お客様の業界は自動車関係を中心として物流、建設機械、電気電子部品、家電関係などです。――Mech-Mindさんは中国で創業されて8年、日本法人を設立されてから2年です。海外メーカーが日本市場に参入するハードルは高いと感じていますか。 泉 そうですね、日本市場への参入当初はたしかに敷居の高さを感じました。それでも過去の実績に基づいた技術力をお客様に知っていただき、また実際に製品をご覧いただくにつれて安心して使っていただけるようになりました。技術力を強みにしつつ、トレーニングセンター(今年3月、東京・大田区に開設したMech︱Lab)なども用意してしっかりサポートしています。それとパートナー企業の皆様から当社製品をご説明いただくことで外資系企業という障壁が少し解消されているように思います。 Mech-Mindの大小様々な3Dカメラ 染田貴志(HACARUS) 当社は京都が本社のAIを専門領域にするスタートアップです。AIと言うとディープラーニングが主流ですが、当社はそれに加え、独自のアプローチによるAIも開発しています。両者の組み合わせによって幅広いユースケースに対応できます。ロボットと組み合わせた外観検査に注力し、自動車部品メーカー様を中心に航空部品、電気・電子などの分野に製品を提供しています。自動車部品の領域で差別化のポイントが2点あります。1つは少量のデータでも精度が高いAIを作れること。ワークの経時変化が大きい現場で、エンドユーザー様がAIをアップデートしやすい点をご評価いただいています。もう1つはロボットと組み合わせた多面検査が得意なこと。自動車部品メーカー様が扱う金属部品は形状が複雑で、たとえば撮像位置や照明の角度を変えないとワークのキズ等の欠陥が認識しにくいことがあります。検査員さんが工夫しながら見ているものを専用の外観検査機で置き換えるのは難しい。ところがロボットと当社の汎用性をもつAIを組み合わせることで自動化が可能です。当社が提供するのはロボットと組み合わせた検査装置と、複数のカメラ・照明の制御とAIを使えるSIer様向けのインテグレーションキットなどの各種ソフトがあります。 道本泰之(パナソニックシステムネットワークス開発研究所) 当社の本社は仙台にあり、金沢と浜松に拠点があります。最近では横浜、名古屋、大阪、福岡にも事業所を構え、受託開発を主事業とする会社です。その内容は先行研究、試作、製品開発で、社名にあるようにパナソニックからの仕事が多いのですが、自動車、機械、電機メーカーさんからの受注を増やしているところです。当社がもつコア技術としては無線、パワエレ・エネマネ、画像センシング、スマート端末の4つ。画像センシングについてはコンパクトなエッジAIを用いた3D画像の認識・処理・伝送を得意とし、最近ではこれらの技術を利用してロボティクスの分野に進出していこうとしています。受託開発を事業とするので、ご紹介できる製品というのはありませんが、開発の実績としてはステレオカメラやToFカメラを使ったビジュアルフィードバックによるボタンの制御、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping=自己位置推定と環境地図作成を同時に行う技術)を使ったAMRの制御、あとは非接触充電などがあります。 パナソニックシステムネットワークス開発研究所が提案するバーチャルフェンス 協働ロボットの広がりで厚み増すユーザー層 ――用途はますます拡大へ ――従来技術ではできなかったけれど、新たな手法でここまでできるようになったという事例はありませんか。 安部 ロボットの世界ではできることが日々増えていますが、その中でも協働ロボットにより自動化できる領域が拡大していることが大きいと思います。安全柵で囲って人との作業を分けていたものが、人の領域にロボットが入ってこれるようになりましたから。それに伴い今度はユーザー層が増えてきています。これまでロボットはプログラムが書ける作業者が扱う特別なものでしたが、製造に携わるどんな作業者でも扱うことができ、扱いの簡単さ、導入のしやすさがますます求められてきています。そこで当社はCRXという白い協働ロボットを開発してどんどん機能強化しているところです。その1つがセンシング。センシングには色々な意味合いがあると思いますが、AIを使った画像の扱いもそうですし、ロボットに内蔵されたモーターにもセンサーがあります。元々は安全を確保するためのものでしたが、外力を感じる用途にも適用できます。ロボットを直接手で動かすことによって職人さんの動きをそのままロボットに覚えさせることもセンシング技術によるものです。これは溶接、搬送、組立にも使えますし、最近ではケーキの盛り付けもできるようになりました。私達の肌感覚では用途はこれからますます広がると感じています。製造業になかなか人が集まらないなか、1人のマスターがいればはたくさんのフォロワーがいるような形で自動化を展開できるようになってきました。 ファナックの協働ロボットによるAI箱検出を用いた混載デパレタイジング。左上は3Dカメラによる撮像画像とAIによる検出の様子 下間 コロナ明け以降は、ロボットというよりはロボット周辺で新しいものがたくさん出てきたと感じてます。代表的なものとしてはハンド。従来は難しかった非常にデリケートなワークも掴めるようになりました。エアーで掴むとやはりアナログなので、正しく掴んでいるかどうかわかりませんが、サーボモーターを使ったいろんなエンドエフェクターが出てきているので、非常に正確かつスピードも速い。ひと昔前だと1個掴むのに5、6秒かかり実用性に欠けていたものが、2、3秒を狙えるようなハンドも登場し、自動化できる領域が広がっています。最近は中国製の協働ロボットの性能がかなりいいですね。少し前だと繰り返し精度はひどいし、耐久性でも不安。ところが先日、とある機関から中国製ロボットの性能テストをさせていただきました。当然いいところ、悪いところはあるのですが、驚いたのは性能テストを行った中国製ロボットは、ISOを取得しています。これまでには見られなかったことです。繰り返し精度は日本の協働ロボットと遜色ありません。エイジングに関しても1週間動かし続けてもちゃんと動きます。かつてはモーターに熱を帯び、スピードが落ちたりしたものですが。それで価格が100万円前後なので日本のメーカーさんからすると非常に脅威でしょうし、中国製ロボットを採用する機会は増えていくのではないかと思います。あとリモートでロボットを動かす技術が非常に高まってきているのを感じています。多品種や難しい形状のワークは自動化が難しいのですが、人の目で見ながらロボットをリモートで動かすと実は自動化できる工程は結構あります。その動きのデータを蓄積すれば、将来的にそれを使って自動化することもできそうです。人手不足なので、人が集まりやすい場所にオペレーターを集めて地方の工場のロボットを動かすという手もあります。 泉 カメラに関しては、反射が強い、色が黒い、大型のワーク、さらには周りからの光の影響は従来は苦手とされてきました。これに対して我々はハードやアルゴリズムの改良を重ねることで、安定した3Dデータを取ることができるようになってきました。それでも難しい対象物は、AIディープラーニングを利用して安定して検出することが技術的にできるようになりました。自動化の需要が高まっていますが、その背景として1つは自動化のニーズが複雑化してきていることがあります。多品種に対して設計で対応しようとすると工数もお金もかかってしまいます。当社のカメラを使うことによってそれを減らすことができます。AGV、AMRが運ぶ対象物にはどうしても傾きなどが発生しますので、3Dカメラが有効で、採用増に繋がっていると思います。もう1点は、人からの置き換えでは、従来の技術では防ぐのが難しいミスに対して、先ほど申し上げたような当社の技術改良により安定して検出できることが、お客様の要望に応えられているのではないかと思います。3点目として設備の安定化があります。当社のカメラは安定した3Dデータを取ることができるのでチョコ停を減らすことに繋がります。 ――先日愛知県で開かれたロボットテクノロジージャパンでは認識しづらいワークを2Dカメラを2台使うことで克服するという提案もありました。 泉 当社としては3Dカメラ1台で認識するスタンスですが、それでは目指す認識精度が達成できないというお客様に対しては、2Dカメラやセンサーを加えて補正するというケースがあるかもしれません。 染田 当社が得意とする外観検査の領域について需要が高まる背景は、すでにお話があった通りでワークの少量多品種化があります。検査用に専用機を作ってしまうと、対象物が変わるたびに画角などを全部調整し直さないといけません。だからロボットを使った検査装置の汎用性が非常にマッチします。また、検査員さんはどんどん高齢化しており、検査員さんを採用して教育したいけれども、そもそも人が集まらないという事情もあります。検査領域に大型のロボットを安全柵つけて導入するのはなかなか難しい。それに対して協働ロボットであればハードルは大きく下げられます。当社はワークの変化に追随しやすいAIを開発してきました。たとえば1日に数千個、数万個つくるアルミ鋳造の金属部品では、経年によって金型が少しずつ変化していきます。それに伴い今日の良品と明日の良品も少しずつ変わっていき、我々はこれをドリフトすると表現したりします。実は従来のAIはドリフトが苦手であることが多い。ある良品データから学習したAIは、許容範囲内にある良品でもNGだと過検出することがあります。それに対し、我々は少量データでAIを作れるので、ワークの変化をキャッチアップしやすい。製造現場に適したAIを開発したことで導入する企業が増えており、検査の自動化はこれからどんどん進んでいくのではないでしょうか。 撮像→検査を効率化するHACARUSのソリューション 道本 人とロボットの共同作業が増えているなかで、当社は3Dセンシングによって両者の位置関係を正確に把握して、接近しすぎると警告を出す「バーチャルフェンス」を提案しているところです。ToFカメラやステレオカメラは数万円からと比較的安価で購入でき、それらを複数台同時に使うことによりロボットと人を複数の方向から撮影することができます。得られた3Dの点群をキャリブレーションして合成して1つの画像にまとめる技術を持ち合わせています。従来の高価な3Dセンサーを使ってもロボットや人の周辺に見えない部分ができてしまいますが、それを防ぎ、位置関係をより正しく把握することができます。これによって作ったバーチャルフェンスに触れればロボットを停止し、人との接触事故を予防できます。 ――AIを使うにはデータ量が膨大になりがちです。また過検出問題の指摘もありました。 道本 そういう問題はたしかにあります。現場のデータを逐次入手してAIを更新し、追加学習していく取り組みも並行して行っていますが、この実現にはもう少し時間がかかると思います。 安部 当社では物流分野で箱の検出を、AIを使って行っています。これもHACARUSさんの外観検査と同じで、箱は形状だけでなく貼られたラベル、テープ、模様があり、また2つの箱がきれいに密着すると画像的には1つに見えてしまう。あるいは段ボール箱を閉じると継ぎ目ができますが、それが継ぎ目なのか、箱と箱の間の境界線なのかを識別するのが非常に難しいことがあります。それを考えると人間の目は本当に優秀です。ロボットが行う場合、たくさんの画像で学習させる必要があり、新しいものが出てくる度に補正学習が必要になります。当社ではこれらを事前に学習しておくことで、ユーザーは補正学習しなくても使える使い易さを実現しています。 染田 人間の目の凄さ。AIを扱っている私も痛感するところです。 100点目指すとロボット導入進まず ――欧米では「まず使ってみよう」 安部 当社の方向性としてはお客様が求めているものを開発しようというスタンスです。冒頭から申し上げているようにロボットで人手不足を解決していく。これはほぼすべての産業で共通のテーマです。将来的にはロボットが自発的に考えて動くことになりそうですが、その前にまず人の作業をロボットにきちんと教え込ませる必要があります。もう1つはシミュレーションの世界です。バーチャルの世界と現実の製造ラインをうまく活用することで、従来は作らなければ確認できなかったものがデジタル上でできる方向です。さらにデータの重要性がますます高まってきており、IoTを絡めたネットワークのセキュリティの重要性も上がってくると思います。また自動化システム全体として考えると、ロボットとそれ以外の装置との親和性が重要になります。多くの人がロボットを動かせるように、たとえば当社はPython(パイソン=オランダで開発され無料公開されている、少ないコードで簡単に書けるプログラム言語)のスクリプトをそのまま実行できるようにすることや、ROS(Robot Operating System=米国で開発されたオープンソースソフトウェアプラットフォーム)の利用、あるいはソフトPLC(Programmable Logic Controller=多数の機械の電気制御をデジタルで行うデバイス)をロボットコントローラーの中で実行できるようにするなど、汎用的に使えるようなオープン化を進めています。 下間 ロボットの導入にはある程度費用がかかるので、国の支援策が必要です。あと、投資に対する認識が現実離れしているお客様も多いです。「費用は、3年以内で投資効果がでること」といわれることもあります。装置は会計上、大抵10年の償却です。その考えのずれを変えていく必要があると感じています。あと、欧州のロボットメーカーさんやSIerさんと話をすると、歩留まりがほぼゼロなんていうロボットアプリケーションはやはりなくて、稼働率はせいぜい8割いけば上出来、というかたちでロボットが広く採用されているようです。100点を目指すとロボット導入は難しいので、運用面でカバーするとか、商品開発の段階から自動化しやすい仕様にするとかすればロボットはもっと導入されると思います。特に当社のある愛知県はご存知のように自動車関係の会社さんが多く、導入ハードルが非常に高い。日本は過剰に敷居が高いように感じます。 ワーク重量30㌔グラムまで対応可能なAMRと協働ロボットを組み合わせたバイナス製MoMaアプリケーション 安部 まさにおっしゃる通りで、自動化に関して欧米はとりあえずやってみよう感が非常に強くて、導入してから考えようみたいなところがあります。逆に日本はこれを入れたらちゃんと元が取れるだろうかと厳密に考え、石橋を叩いて渡らないようなところがあります。 下間 先ほどのROSなどの共通言語は非常に求められています。エンドユーザーさんもSIerさんもそうです。現状では取り扱う各メーカーさんのプログラミングを全部覚えないといけませんから。ティーチペンダントもメーカーさん毎に違います。これらを共通化すればロボットは導入しやすくなると思います。 安部 元々はロボットメーカーが独自のものを用意すればお客様を囲い込めると考えていた時代もあったと思いますが、先程申し上げましたようにPythonスクリプトなどシステム構築しやすいプラットフォームを提供しています。 泉 製品軸でお話すると、当社も使いやすさの向上が非常に課題になってくると考えます。現在も一定評価をいただいておりますが、今後さらに改良を予定しています。3Dカメラは少し専門的な製品に見えてしまうところがあるので、使いやすさを向上することでより広いお客様に使用いただけることを目指しています。たとえばソフトの操作画面。我々はある程度の専門性を満たしつつ操作しやすくするためにフローチャート方式を採用しています。それでも少し難しく感じるお客様がいらっしゃいます。そこは改善する必要があると思います。今後広いお客様に使っていただくうえで欠かせないのはやはりパートナー企業様の存在です。パートナー企業様にいかに使っていただきやすいものにしていくかは本当に重要な課題だと思っています。 染田 先ほど下間さんがおっしゃいましたが、補助金の充実には私も期待しています。当社の製品は一度使っていただけると、その良さや価値を認めていただけますが、そこに至るまでなかなか大変ですから。また我々がハードルと考えているのは、お客様が求める検査の条件がシビアになってきていることです。対象物を大きくしたい、タクトタイムを短くしたい、欠陥の基準をより厳しくしても検査できるようにしたい……と。全ての要望に対応できるハードウェア構成を整えるのは困難です。我々はAIが強みですから、撮像されてからが勝負と、その部分は自社のノウハウを最大限に発揮できますが、様々なハードウェアの構成に対応していくのはまだまだ未知の領域もあって、大きなチャレンジになります。なのでロボットコントローラーに特殊なアタッチメントをつけて高速撮像する技術をもつ会社さんや、高速で動く関節モジュールを作る会社さんと連携を進めているところです。 ――ハードウェア構成としてはほかにどんなものが考えられますか。 染田 やはりカメラ、照明、ロボットが重要です。組合せのパターンは無限にあるので、我々がすべてを装置として納める、という発想ではなく、SIerさんとパートナーシップを組んだり、デジタルツインを活用しながら外観検査の自動化に貢献したいと考えています。 道本 当社のバーチャルフェンスを実現するための3Dセンサー、カメラの精度はとても大事になってきます。ToFカメラ、ステレオカメラは近距離ほど精度は高いのですが、数㍍離れた場合の距離精度は数~10㌢の誤差がでる場合があります。その場合、バーチャルフェンスを長距離のレンジで機能させるのはなかなか難しくなります。長距離レンジでも数㌢以下の精度で測れる3Dセンサーが開発されるとよいのですが。もちろんLiDAR(Light Detection And Ranging=光を利用した距離・形状計測)を使えばできますが、当社としてはカメラの良さを追求したい。精度だけではなく、点群の密度も維持する必要があります。あと泉さんがおっしゃったように、黒いもの、反射があるものはやはり苦手で、工夫が必要です。エッジAIについては、現場で画像を追加学習することで改善していくことができると思いますが、この際PCやクラウドが介在します。究極的にはエッジAI単体で学習できることを目指したい。学習までできなくても、AIの精度が落ちたらアラームを出すくらいのことができればと考えています。 業界の地位を向上し、連携加速へ ――標準言語・プラットフォームの広がりがカギ 安部 企業間の協業は大変重要視しており、まさに今取り組んでいるところです。我々ロボットメーカー単体でできることは限られています。たとえばMech︱Mindさんの3Dカメラとの連携があります。当社にも3Dビジョンはありますが、それだけではカバーできないこともあるためです。またSIerさん、AI開発企業さんとの連携もあります。それぞれの領域で得意としているところと連携することで、これまでできなかったことができるようになると考えています。 ――この技術がもう少し向上すればこんなこともできるのにと感じていらっしゃることはありませんか。 安部 できないことは山ほどあります(笑)。人間の目や手足は本当に有能です。当社はロボットメーカーですが、人間を排除するなんていう考えは一切なく、人のパートナーとしてのロボットをどう向上すればよいか、人が一緒に仕事をしたいと思えるロボットはどうあるべきか。そんな風に考えています。 下間 ロボットSIer業界の課題はやはり人手不足です。他の製造業さんと同様ですが。SIerの地位をもう少し高め、世間の人々に知っていただきたいです。インテグレーションの仕事は楽しいということを我々が日々伝えていくしかないのかなと思ってます。ロボットを含む装置を作り上げるのにかかる費用は一般的に人の技術費、購入品代、加工品代に分かれます。このうち購入品、加工品が原価の半分以上を占めます。大半は買い物ということです。ですからSIerの仕事は各ロボットメーカーさん、カメラメーカーさんなどと協業しないと成り立たないし、メーカーさんの情報、最先端の技術などもいち早く入手していかなければ取り残されてしまいます。お客様にいい提案もできません。だから当社にとって協業は必要不可欠です。 泉 研究開発、実証実験については、中国で当社が関わった事例があります。電気自動車への自動充電を、AMRの上に載せた協働ロボットで行うものです。スーパーやホームセンターの駐車場を想定したものです。私が申し上げたいことは、製造現場以外の領域でも将来的にはロボットの利用が広がっていくということです。その領域に対して我々は製品としてどうキャッチアップできるかという課題が出てくると思いますし、そうした新しい取組みが増えていきやすい環境――法整備なども当然関わってくると思いますが――を国なりが整えてもらえるとありがたいと思います。 染田 いわゆるIT系のスタートアップの目線で期待感のような話をさせていただければと思います。AIを利用したシステムに対する敷居は一時期に比べるとかなり低くなってきていると感じます。でもやはり情報技術とハードの組合せはなかなか難しい。その要因は大きく分けると2つあり、1つは費用面。とりわけアーリーステージのスタートアップにとってはハードルが高いです。もう1つは知識の部分のギャップ。後者に関しては、先ほど安部さんからお話がありましたが、たとえばPythonやROSが標準技術として対応が進んでいけば当社にとっても取り組みやすくなります。あと技術者不足はIT系にも当てはまり、ITと様々な技術をかけ合わせることができる人材となるとなおさら少ないのが実情です。 道本 当社は受託開発の専門会社として幅広い技術を有していますので、皆様との協業体の一部になれたらと思います。すでに当社は様々な企業様と連携するのがもう日常的になっており、カメラ開発も他のメーカーさんと一緒に行っています。またそれを用いてロボット向けのビジュアルフィードバックやSLAM、ロボットアームの制御の開発も一緒にやらせていただいているところです。ただし当社には現場がありませんから、お客様と協議をしながら現場のことを色々学ばせてもらっています。一方で受託開発だけでなく、お互いに将来の種まきのために無償で連携するということもやっています。たとえば先ほどのバーチャルフェンスの開発は、お客様に現場を提供していただいてデータを取って、一緒に研究開発させていただいたりもしています。この成果はきっといろんな場面で生かせると思います。 ――多様な企業との協業は不可欠ということがはっきりしました。本座談会を機にご出席いただいた皆さんの間でもビジネスをさらに拡大していただけると幸いです。本日はありがとうございました。 (2024年9月25日号掲載)
2024年10月01日