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京都発国産ヒューマノイドが目指す身長2m級「パワーモデル」

投稿日時
2026/06/29 15:00
更新日時
2026/07/24 17:32

油圧・内燃機関化が本命か

2大学と14企業が参画し、日本の技術を結集して国産人型ロボットの実装を目指す一般社団法人KyoHA(京都ヒューマノイドアソシエーション)は4月28日、京都・平安神宮会館で純国産の初検証機「SEIMEI(セイメイ)」を公開した。しかし当日は脚部の不具合で立ち上がれず、SNS上では「中国製はマラソンを完走する中、日本は立ち上がりもしない」と失望の声が広がった。だが、この「失敗」を技術の遅れと断じるのは早計だ。同機のスペックと開発思想を解剖すると、海外勢とは全く異なるゲームチェンジの野望が浮かび上がる。事務局を務める佐々木啓文氏(SREホールディングス)は本紙の単独取材に「最終的には屋外や危険区域などの過酷環境を想定しており、エネルギー問題が最重要課題。油圧駆動も当然選択肢だ」と明言。将来的なエンジン駆動やシリーズハイブリッド方式の可能性を否定しなかった。

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検証機「SEIMEI」がメディアに公開された。内部構造について説明するKyoHA理事の橋本健二氏(早稲田大学教授)

実際、参画企業のカヤバ(KYB)は、培った油圧・振動制御技術をベースに「油圧モジュールロボット」や、油漏れなしで配管と電気を自動着脱できる同軸カプラ「ジェンダーレス締結機構」を開発中だ。テムザックにも、6軸の油圧アームを2本備えるディーゼル駆動レスキューロボ「T―54 援竜」の実績がある。点と点がつながり、壮大なグランドデザインが見えてくる。

テスラをはじめとする米中のスタイリッシュなロボットは、オフィスなどの「閉鎖空間」を前提としたバッテリー・電気モーター駆動だ。かつて油圧の代名詞だった米ボストン・ダイナミクスも、油漏れやメンテナンス性を懸念して完全電動化へ舵を切った。EVやスマホの延長線上にあるこの土俵で戦う限り、資金力とデータ量で勝る米中に日本が追いつくのは至難の業だ。




逆張りの「油圧式」で逆転狙う


だが、戦場を「過酷な災害現場」、動力を「エンジン」、駆動を「圧倒的トルクの油圧・重機技術」という物理世界の土俵へ再定義すれば景色は一変する。これまで日本が培った「内燃機関や油圧の擦り合わせ技術」という、埋没費用(サンクコスト)とも揶揄されるレガシーは、一転して海外勢の追随を許さない巨大な「参入障壁(Moat)」と化す。緻密な圧力制御や、限られたスペースにエンジンと配管を詰め込む設計は、一朝一夕のコード書きでは不可能な、数十年の蓄積が生んだ職人技の世界だからだ。

京都から動き出した国産ヒューマノイド。本紙はプロジェクトの中核を担うテムザックの髙本陽一代表取締役議長、村田製作所の大場友嗣シニアマネージャー、ロームの美口満昭課長への合同取材からその深層に迫る。

「20年前に当社もヒューマノイドを手掛けたが、現在の米中のそれとは設計思想が全く異なる。昔はどこに重心を置いたら転ばないかを1㍉秒の間に計算し、39個のモーターを制御するなど極めて難易度が高かった。しかし今は、ロボットを動かす『型(パターン)』を生成し、バーチャル空間の藁人形を動かすような歩かせ方をするため、ハードウェアの設計自体は格段に楽になっている」――テムザックの髙本氏はそう語る。しかし、いざ自国で製造しようと考えた際、中国製の要素部品なくしては機体が成り立たない現実に愕然としたという。このままでは国内のサプライチェーンが消失してしまう――。この強烈な恐怖感から、KyoHAの設立は問題意識を共有していた村田製作所、早稲田大学、SRE、テムザックの4社で立ち上げた。その後、設立趣旨に共感した企業が次々に参画し、活動の輪は着実に広がった。

村田製作所の大場氏は、「米中が先行しているとはいえ、日本の部材・製造技術は依然トップレベルだ。当社には自動車や産業機器向けのセンサー、通信分野の技術がある。今後、量産・社会実装へ進むとき、日本企業の高信頼性・高性能が最大の武器になる」と参画の決意を語る。

設立後まもなく参画したロームの美口氏も、「当社は車載向けが中核だが、産業機器にも注力している。成長が期待されるヒューマノイドなどのロボット市場を見据え、KyoHAに参画した。複雑な駆動系を制御する取り組みは、強みであるパワー&アナログ半導体技術をさらに磨き上げるとともに、システムレベルでの知見獲得にもつながると考えている」と語る。

「AI基盤モデルさえ作ればいい」という風潮に対し、それは実機がないことの裏返しだと髙本氏は指摘する。初の検証機SEIMEIは、新機能の誇示ではなく、まずは「日本のサプライチェーンだけで確実に完成させられること」を証明するための機体だった。

これほど多くの異業種企業が密結合する研究開発は前例がない。大場氏は、「部品単体でできること、システム全体で解決することを最初から擦り合わせるプロセスは、大きな気づきをもたらした」と手応えを語る。ロームの美口氏も、「普段は仕様に沿った部品単体の提供が多い。機構の細部まで統合的に俯瞰(ふかん)し、何が必要かを判断する経験はなかなか得られないものだ」とする。

SEIMEIは初のお披露目で立ち上がれなかった。批判は真摯に受け止めるが、欧米企業が数年を要した開発をわずか4カ月でやり遂げたスピードこそが本質だ。3人は日本のものづくりの病理を指摘する。 「テクノロジーは失敗した数だけ伸びる。しかし今の日本には、一度の失敗も許されない空気がある。だから技術者は失敗を恐れ、過剰な安全マージンを取って開発スピードを鈍らせてしまう」 その上で、KyoHAという座組みの価値をこう強調した。

「個別会社の看板を全面に背負っていたら、これほど大胆な挑戦はできなかった。KyoHAという共同体が防波堤となり、心理的安全性を守ってくれたからこそ、『失敗という名の大成功』を平気で掴みにいくことができた」

検証機としての役割はここから始まる。「実機を動かしてフィジカルAIのシミュレーターを稼働させ、データを蓄積するサイクルを回すこと。位置制御かトルク制御か、あえて壊しながら試すためのプラットフォームだ」と髙本氏。本丸は、この先に控える「次世代パワーモデル」の開発にある。




2m級パワーモデルの衝撃


災害の多い日本で真に活用できる、身長2㍍級の「パワーモデル」こそがKyoHAの最終目標だ。50㌔から100㌔の重量物を抱え、瓦礫を撤去する能力を目指す。  世のヒューマノイドブームに対し、テムザックの思想は冷徹だ。 「屋内用であれば、究極的には車輪でいい。自律走行ロボット(AMR)などの移動体にアーム型ロボットを搭載した自動化システム『MoMa』で十分に事足りる」と髙本氏は言い切る。

あえて2足歩行を選択するのは、4足歩行ロボットよりも上から見た「投影面積」が圧倒的に小さく、瓦礫が入り組む過酷な被災現場を走破できるという人型ならではの利点があるからだ。だが、その領域では既存の電動モーター駆動ではパワーが足りない。また、電気モーターは一定の姿勢を維持するだけでも電流を流し続けねばならず、猛烈な発熱とバッテリー消費を招く。これに対し、流体制御の「油圧」であれば、バルブを閉じてロックすれば電力を消費せずに姿勢を固定できる。「将来的に、小型ディーゼルエンジンを積む選択肢も当然入ってくる」と髙本氏は見据える。




大脳(AI)を騙す「非線形」の壁

小脳(力学制御)の構築へ


村田製作所の大場氏は、「人間の三半規管にあたる6軸の慣性センサーを提供しており、電子制御技術は大いに転用できる」としながらも、「瓦礫の山から50㌔の物体を的確に掴み上げる『把持技術』など、四肢の制御には全く新しいタフネスが必要になる」と分析する。

世界が諦めた超高圧の油圧システムを、まずはボストン・ダイナミクスがかつて到達したレベルにまでコンパクト化せねばならない。「カヤバに協力を仰ぎ、匹敵するシステムを作りつつ、センサーやシリンダーの配置構造を最適化していく」と髙本氏は語る。

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取材に答える(左から)ローム・美口満昭課長、テムザック・髙本陽一代表取締役議長、村田製作所・大場友嗣シニアマネージャー。

さらに、パワー系特有の「頭脳」の再構築も不可欠だ。現在の主流であるフィジカルAIの手法(大脳のモーション生成)だけでは、重量物を持ち上げる「美しいポーズ」は作れても、突発的な重心移動や床反力を計算しきれず、そのポーズのまま「コロンと横に倒れてしまう」という限界に突き当たっている。AIという大脳だけでなく、肉体の力学バランスをミリ秒単位で自律制御する「小脳」にあたる新たなアルゴリズムの構築が急務なのだ。事実、人間の脳において、複雑な全身の運動協調を司る小脳のニューロン数は約690億個に達し、思考や言語を司る大脳(約160億個)の実に4倍以上を占めるとされる。小脳がこれほど機能的に極めて高度で膨大な神経回路を形成している事実は、目まぐるしく変わる人体と環境との相互作用が作り出す高次空間において、その高速な運動制御がいかに緻密な演算を必要とするかを物語る。ロボティクスにおいても、大脳にあたるAIモデルの進化に依存するだけでは物理的な壁は突破できず、この「4倍の演算密度」に匹敵する、ミリ秒単位で姿勢を復元する小脳的制御モデルの構築こそが実装への要諦となる可能性がある。

米中勢が採用する電気モーター駆動であれば、出力(トルク)は電流に対して直線的(線形)に変化するため、デジタル空間での予測・制御が極めて容易だ。いわば「計算通りの綺麗な世界」である。

しかし、油圧駆動で過酷環境下の瓦礫など「50㌔の物体」を突発的に持ち上げるとなれば、話は完全に激変する。負荷がかかった瞬間に、油圧配管内の圧力が変則的かつ爆発的に跳ね上がるパワーの強弱(非線形性)が発生し、強度の弱い部品は一瞬で折れたり曲がったりする。パターン化できない変則的な演算処理、自動車産業で培われた強靭な躯体(くたい)構造、これら無数の要素を極限で擦り合わせるという、日本が数十年蓄積してきた「レガシー」ともいえるノウハウが、ここへきて一転して最強の武器になる可能性を秘めている。




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【インタビュー】KyoHA事務局  佐々木 啓文 氏




(日本物流新聞2026年7月25日号掲載)