【造船所ルポ】臼杵造船所のケミカルタンカーはどのように建造されるのか
- 投稿日時
- 2026/06/25 10:00
- 更新日時
- 2026/06/25 10:00
世界を航くケミカルタンカーの里
「JRの駅から日本イチ近い造船所かもしれません」臼杵造船所の執行役員設計本部長・村山和宏氏はそう笑った。臼杵駅と同社の工場は確かに目と鼻の先だ。電車を降りて5分と歩かず巨大な船の建造工程が目に飛び込むのは、部外者からすればどこか現実感が薄い。裏返せば、街に造船業が深く根付いている証なのだろう。

市内から150㌧ジブクレーンと建造中の船が見える
主力はケミカルタンカー。他にも地元と四国を結ぶ「国道九四フェリー」など様々な船種を年間4~5隻建造する。取材日は全長143㍍の載貨重量1万9000㌧型ケミカルタンカーが艤装(内装や配管、電気系統の工事)の真っ只中だった。見上げても船体の一部しか視界に収まらず、迫力に息をのむ。これでも船の世界では中型に分類される。
この巨大な構造物が一夜にしてできるわけはなく、1隻の引き渡しまでは計画含め約3年にも及ぶそうだ。
まず鋼材をプラズマ加工機で切断し、溶接して船を“輪切り”にした鉄の塊(ブロック)を製作。この「内業~組立」の工程で1隻を100~110個ほどのブロックに分ける。これを船台という傾斜した作業場に運び、船の形へ繋ぎ合わせるのが「船台搭載」だ。形になった船体は華々しい進水式を経て海へ下ろされ、ここでようやく艤装が佳境に入る。社員は約160人。協力会社を含め500人余りがこの地で船づくりに携わり、1隻に精魂を込めている。
■光る職人芸
工場では鋼材が次々とカットされ、積み重なっていた。これが順次接合され、建屋の奥に向かうにつれ塊が大きく育っていく。
組立の傍ら、プレス機による曲げ加工が行われていた。複雑な箇所は人がバーナーで鋼材を炙り、膨張と収縮を利用して狙い通りの形に曲げていく。この「撓鉄」こそ造船の要だ。船の燃費は船型に大きく左右されるが、航路や用途で適した船型も異なる。設計者が苦心して描いた理想の曲線を、人の感覚と技が緻密に具現化していく。造船は人が資本だと改めて認識させられる。

人手で鋼材を狙った形に曲げる撓(ぎょう)鉄
鋼材は建屋を出る頃にはブロック状に。大きければ80㌧、長さ14㍍とこの時点で見上げるほどだ。ブロックは丸ごと隣の工場で塗装前にブラスト加工する。ブロック単位で塗装し、接合部は組み上がった後に塗る。一つ一つの部材の完成度が高くないと全体の完成度も高くならない。スケールは大きいが基本の積み重ねがすべてだ。

鋼材を溶接してブロックという塊にする
■動く化学プラント
船台上のケミカルタンカーは、ちょうどカーゴタンクの内部が見える状態だった。
役割は硫酸などの化学製品や、糖蜜や食用油など約700種の液体の運搬。貨物を積むカーゴタンクは腐食に強いステンレス製だ。一度の航海で複数の貨物を積めるよう、同社の船は1隻で18~20のタンクを備える。貨物同士が混ざるのは厳禁。そのためカーゴタンクごとに、独立した配管ラインやポンプ等の付帯設備が必要だ。

巨大なエンジンが取り付けを静かに待っていた
艤装中の船にのぼると、視界には配管が所狭しとひしめき、まさに“動く化学プラント”の趣だった。一方で居住空間は水回りに食堂と生活設備が充実し、工事現場そのものの熱気が満ちる。内装や床など専門業者同士が並行して作業し、現場には協調が不可欠だ。造船が「総合産業」と言われるゆえんもここにある。「船にはすべてが詰まっている」という言葉が、今さらながら腹に落ちた。
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政府は2035年に向けて「建造量倍増」を掲げ、国を挙げた海事産業の強化に乗り出している。同社も大型クレーンの新設など投資を予定するが、数年単位の大型計画だ。土台工事に加え、海上輸送が不可能なため輸送船を港に入れる臨海工事も必要になる。建造能力の強化が一筋縄でいかないのも事実だが、造船業への追い風は確かだ。村山氏も「造船が一般にここまで注目されるのは初めて」と語る。
建造量など派手な数字が注目されるが、村山氏は「真摯な船づくりを続けたい」とする。「良い船をつくって渡し、働いてもらって評価されることで、次の仕事がまた来る。この循環をいつも念頭に置いています」。国策の追い風のさなかにある造船業。このダイナミックで繊細なモノづくりが、今後も日本の基幹産業として持続することを願ってやまない。

船の大きさが伝わる
(日本物流新聞2026年6月25日号掲載)