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ナフサショック、塗料・潤滑油で供給不安深刻

投稿日時
2026/04/22 17:16
更新日時
2026/04/22 18:03

危険物保管に専用倉庫ニーズ高まる?

ホルムズ海峡封鎖に端を発したナフサ供給不安が、日本の製造業を直撃している。塗料や潤滑剤の品薄・価格高騰、包装資材の供給引き締め——。「産業の米」の滞りは製造現場に静かに、しかし確実に波及しつつある。パニックを避けながら、いかに乗り越えるか。


「化学メーカーの中には、来年の新卒枠を絞り始めた企業もあると聞いている」

ナフサが入ってこないことが、いかに日本経済に深刻なダメージを与えるかを示す一言だ。ローランド・ベルガーの小野塚征志氏は続けて、「日本の製造業GDPにおいて化学産業は2位。他国に比べてもその占める割合は大きい。そこが止まった際の国内への影響は計り知れない」と危機感を示す。

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ローランド・ベルガー パートナーの小野塚征志氏

連日の報道により理解を深めている読者も多いだろうが、改めてナフサとは何か。原油を精製する際に得られる成分の一つで、石油化学産業の基礎をなす。ナフサを熱分解するとエチレンやプロピレンといった、プラスチックや合成繊維、塗料、接着剤、溶剤など現代の製造業を支えるほぼあらゆる石化製品のもととなる基礎化学品が生まれる。食品の包装フィルムも、建材の塗料も、自動車のパーツも、その出発点をたどればナフサに行き着く。「産業の米」とも称される石化原料であり、そこが滞れば影響が産業全体に波及する。

原油から作れるのであれば、200日を超える原油備蓄を確保してきた日本において、ナフサが問題となることはないのではという向きもあるだろう。だが、年間3400万~3600万㌔リットル消費される日本のナフサは、国内精製の割合は約4割にとどまる。他の6割はナフサとして海外から直接輸入し、そのうちの7割超が中東由来だった。さらに、国家備蓄の対象である原油とは違い、国内のナフサの民間在庫は20日程度。国内の原油をいくら放出しても、輸入ナフサ全体の穴埋めは期待できない。

■製品塗装がボトルネックに

既にモノづくりの現場では影響が出始めている。特に塗装工程は深刻だ。遮熱塗料の製造・施工を手掛ける企業では、塗料が品薄で手に入りにくい状況が続いており、「納期の見直し」「価格転嫁」など調整する必要が出てきている。

na.jpg帝国データバンクの調査ではナフサ供給不安は製造業の3割に関係する可能性がある。中にはナフサ依存度が5割を超える企業も。


【関連記事】ナフサ供給不安、国内製造業の3割に「調達リスク」の影


こうした状況を受け、建設塗装工事業者をまとめる(一社)日本塗装工業会は4月14日、国土交通省に対し支援を求める緊急の要望書を提出。同工業会は「政府発表と現場のサプライチェーンには大きな乖離が生じている」とコメント。備蓄放出や代替調整の効果が、塗料メーカー、塗料販売店及び塗装工事業者まで確実にいきわたり、産業間における供給格差が生じないよう要望した。

製造業においても同様の問題が発生している。パレット品保管に役立つネスティングラックを手掛ける企業は、「シンナーの高騰で塗装工程に影響が出ている。今期は利益を出すのが難しいかもしれない」とこぼす。他にもマテハン機器を手掛ける企業からは「シンナー・ナフサ大いに影響を受けている」といった声や、ロボットSIerからは「納入先ごとに色を変えるといったオプションを停止し、1色に絞るかもしれない」といった声も聞かれる。

シンナーや塗料の主原料となるナフサ由来のトルエンは、揮発性が非常に高く放っておくとすぐに蒸発してしまう。そのため、プラスチックなど固形化できる物品とは違い市中在庫が少なく、ホルムズ海峡封鎖の影響が即座に出た。小野塚氏は「ナフサの供給不安はシンナーや塗料だけではない。今後、包装資材などでも影響が出てくる可能性がある」とみる。

その指摘の通り、PPバンドやストレッチフィルム、ケース内を仕切る間仕切りなどの包装資材では、「メーカーから発注を抑えるよう依頼があった。価格も3割程度上がると聞いている」(包装機器メーカー)といったことも聞かれ、供給の引き締めや価格高騰がすでに起き始めている。物流資材を手掛けるメーカーも「製品ができても包装・梱包ができないとデリバリーができないケースも多い。安定供給に向け最大限努力する」と必死だ。

■潤滑油供給に黄色信号

切削加工の現場にもじわりと影響が出始めている。共同住宅向けの給湯・給水プレハブユニットの企画・製作を手掛けるカワトT.P.C(山口県岩国市)は、水栓金具などを80台もの工作機械でほぼ無人製造するテクマック事業において、機械を動かすための潤滑油が5月受注分から供給できないと商社から告げられた。

同社は太陽光発電設備や蓄電池の活用など、BCP対策を意識した企業経営を積極的に進めてきた。しかし、「潤滑油だけ見落としていた」と川戸俊彦会長は下を向く。地域の経済産業局などに掛け合うことで、何とか5月分は確保したものの「価格は以前の3割増。今後は切削油などでも同様の心配がある。とにかくこの2週間は苦しかった」とこぼす。

切削油を取り扱うメーカーでも、「元売りから供給を絞るという話はまだ来ていないが、値段はすでに3割ほど上がっている。いつまで現状のように買い続けられるかは不明」や「新規の問い合わせ件数が増えてきている」といった声に加えて、「『怖いから』と前もって通常の倍の量を注文するような例が増えている」といった現場の混乱も漏れ聞こえてきている。

混乱する市場に対し、一部の販売業者では電話を取らないといった措置をとる企業もあるが、関西石油製品販売の青木俊一会長は「業界全体の信用失墜につながる」と警鐘を鳴らす。「不安に駆られた『溜め込み』こそが、最も混乱を加速させる」とし、同社では「油圧タンクの入替時期の延長」や「過剰購入の自制」などを直接ユーザーに依頼し、需給の安定化を図っている。

政府も潤滑油の3月の出荷量が前年同月比で約3割増えていることを指摘。高市早苗総理も自身のSNSで「『日本全体として必要となる量』は確保できて(いる)」との認識を示している。青木会長も「パニックに陥る必要はない。原材料自体は、冷静に分配すれば足りる量は存在する」とし、「目詰まりを一つずつ解消していくしかない」と前を向く。

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関西石油製品販売の青木俊一会長


【関連記事】インタビュー 関西石油販売 会長 青木 俊一 氏




■持続可能性を見直す好機に

政府は長期視点と短期視点の両面で対策を急ぐ。経済産業省はアメリカなど調達先の多角化を進めており、4月の中東以外からの輸入ナフサは平時の2倍の90万㌔リットルとなる見込みであると発表。国内の月間供給283~300万㌔リットルのうち3分の1程度を確保した。

短期視点では国内市場の目詰まりの解消に向けた取り組みも加速する。各監督省庁に専門の窓口を設置。市場からの個別相談に対し即応する体制を整えることで、一部で生じている「流通の目詰まり」の解消に努めている。

潤滑油の不足に頭を悩ませていたカワトT.P.Cも地元の経済産業局の窓口に相談したところ、販売店などに掛け合ってくれ必要量を確保できた。ナフサ関連の物品で入手が難しい場合、まずは各監督省庁が用意する専用の窓口を通じて相談することが肝要となる。

冷静な対応と必要に応じて声を上げたうえで、小野塚氏は「自社のサプライチェーンに潜むリスクを洗い出す絶好の機会ととらえていただきたい」と呼びかける。

「今から動いたところで中東からの原油・ナフサ供給は止まったまま。例え、明日海峡が解放されたとしても、第一便が到着するのに20~30日かかる。さらにそこから情勢悪化以前の状態に戻すには数年を要する可能性もある。各社の懐が開いている今、自社のサプライチェーン全体を点検し、調達先の多角化などに取り組む必要がある」

既に動き出しているメーカーもある。あるマテハンメーカーでは中東情勢の悪化を受け、需要予測データから必要数量の割り出す体制を整えた。さらに、「中国やインドを含む海外サプライヤーの開拓」「原材料の切り替えなど柔軟な調達戦略の検討」などを戦略的に進めている。ナフサの供給不安を契機に日本経済・社会の持続可能性を改めて見直したい。






ナフサショックで注目集める製品群


ナフサ不足で逆に需要が高まりそうな領域もある。例えば、金属加工の現場では、すでに不足しているシンナー・潤滑油関連に加え、不足が心配されている切削油関連で、省油化や代替化に寄与する製品のニーズが高まりそうだ。例えば、切削油や潤滑材を扱うメーカーでは、不足しているシンナーの代わりとして、シンナーを使用しない脱脂洗浄剤の需要が増えているという。

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そうぎょうの脱油システム「エコロアース Value」

潤滑油に比べると切削油への影響は未だ軽微だが、工作機械より排出される切屑から脱油する独自システムを展開するそうぎょうでは、ユーザーからの問い合わせが増加している。商社や販売店など流通サイドからの勉強会への出席依頼も増えており、すでに追い風を感じているという。

ペールカン脱油機を手掛ける田中技研にも、すでに数件の問い合わせが来ている。従来は費用対効果がはっきりとわかる不水溶性油で導入に至るケースが多かったが、切削油の価格上昇に加えて、水溶性の切削油にはナフサ関連の原料を多く含むものもあるため、今後の市場活性化に期待を寄せる。他にも、切削油をほぼ使用しないセミドライ加工など、そもそも「使う量を減らす」といったニーズも高まるのではと期待を寄せるメーカーもある。

いずれもまだ動きは限定的であり、補助金などによっても状況が大きく変化する恐れはある。しかし、方向性としては代替素材への転換や潤滑油・切削油の長寿命化、石化製品への依存度低減へのニーズが高まることは間違いなさそうだ。

■危険物倉庫に熱視線

とはいっても、石化製品を一切使わないといったことは難しい。当面は確保できるなら在庫を積み増したいというのが多くの企業の本音だろう。実際に買い溜めの動きも広がっているが、その際に問題となるのが保管規制だ。

消防法では引火性の高い液体を「危険物」として厳しく規制している。今回、特に問題となっているシンナーなどは第1石油類に分類される。指定数量(非水溶性200㍑)の5分の1にあたる40㍑以上200㍑未満を保管する場合は「少量危険物」として扱われ、「消防署への届出義務」「保管場所の構造基準」「消火器の設置」などが求められる。さらに指定数量以上になると、市町村などの許可を受けた危険物貯蔵所の設置が必要となり、危険物取扱乙種第四塁の資格も求められる。

こうした背景から、危険物倉庫を手掛ける事業者への問い合わせが今後増えるとみられている。神奈川県横浜市での危険物倉庫の開発を進めている霞ヶ関キャピタルにも在庫保管に関する要望は増えており、「今竣工していれば短期間で満床に近いニーズがあったのではないか」(同社・インフライノベーション事業本部 バリューアップ営業部の前田謙部長)とみる。実際、4月16日までインテックス大阪で開催された関西物流展でも「4類危険物倉庫があればすぐにでも預けたい」という声が複数寄せられたとし、需要の切迫感が伝わってくる。

少量危険物の領域に対するソリューションもニーズが出てきそうだ。日本アイ・エス・ケイは昨年から「少量危険物保管庫」の販売を開始。ユニット式のため設置や移設が容易であることに加え、豊富なオプション品で各市町村の条例へ対応できることから、コンプライアンスを重視する企業や自治体から引き合いを得ていた。同社担当者は「事態収束後には、石化製品原料の持ち方が変化する可能性があり、少量危険物の保管ニーズも高まるのでは」とみる。

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日本アイ・エス・ケイの少量危険物保管庫

ローランド・ベルガーの小野塚氏もそうした意見に賛同する。「コロナ禍では半導体不足以降、部品在庫の持ち方が変わった。ナフサでも安全在庫を従来よりも引き上げる企業が増える可能性は高い」とコメント。国がナフサを「特定重要物質」に指定する可能性もあり、「国レベルでの備蓄ニーズが生まれ、危険物倉庫の需要をさらに押し上げる可能性がある」とみる。ナフサ不足が、皮肉にも製造業や物流業に新たな需要を生み出しそうだ。

(日本物流新聞2026年4月25日号掲載)