【超硬不足】タングステンショックに切削工具メーカーはどう向き合う?
- 投稿日時
- 2026/04/07 09:00
- 更新日時
- 2026/04/14 10:22
リサイクル・高付加価値加工・ハイス復権
岡﨑精工、ハイス工具「どんどん行きます」宣言
タングステン高騰で再評価の波

ハイス工具をアピールする(左から)波多洋史副部長、岡﨑華社長、本田輝雄部長
「超硬工具全盛の時代に、いまさらハイス工具かと思われるかもしれません。ただ、今だからこそ面白い。若い世代にもワクワクしてほしい」。岡﨑精工の岡﨑華社長はそう語る。創業以来約90年にわたり高速度鋼(ハイス)工具を手がけてきた同社は、タングステン価格の高騰を背景に、ハイス工具を改めて戦略商品と位置付け、攻勢に転じる構えだ。岡﨑社長のほか、業務部の執行役員本田輝雄部長、波多洋史副部長に聞いた。
――ハイス工具を「どんどん行きます」と宣言された。
岡﨑 当社は祖父が創業し、私で3代目です。私が入社した頃から超硬工具が急速に普及し、ハイス工具は縮小傾向にありました。その中でもハイスは当社にとって「家業」であり「暖簾」です。2020年ごろから「どんどん行きます」と宣言しました。
当時はタングステン高騰を予見していたわけではありません。むしろ超硬工具への追い風が強い時期でした。それでも継続する意思を社内外に示すため、宣言を実効性のあるものにするべく設備の更新を進めました。超硬工具並みの高精度を実現できる研削盤も複数導入しています。
――ハイス工具の再評価の背景は。
波多 超硬工具は素材と設備があれば製造可能ですが、ハイスは焼き入れ工程を含め設備もノウハウも必要で参入障壁が高い。市場縮小の中で、新規参入は事実上難しい状況です。当社は材料から仕上げまで一貫して手がけており、この強みを継承していきたいと考えています。社の方針を受け、若い社員にもハイス工具に取り組む高い意欲が出てきています。
本田 従来のハイスは古い技術と見られがちですが、近年はコーティング技術が進化しています。TiAlN系コーティングを適用することで耐熱性や寿命が向上し、高速加工にも対応できるようになっています。
■ハイスエンドミルのラインナップ強化
――超硬工具との使い分けは。
波多 確かに5軸機など高回転機の普及で超硬工具の需要は拡大しています。ただ、現場の裾野を見ると専用機など低回転設備も多く、すべてが超硬に置き換わるわけではありません。ハイスは靭性が高く、機械剛性が低い環境でも欠けにくいという特長があります。
当社はハイスエンドミルも製造していますが、これまではリーマやカッターのイメージが強く、認知が十分ではありませんでした。従来はφ30ミリ以上が中心でしたが、小径を拡大中で、今後はさらにφ14㍉、φ12㍉といった領域にも展開していきます。超硬が主戦場であるφ8〜10ミリ領域でも、価格差が生じれば可能性が出てくるとみています。ハイスと言えば何でも岡﨑に相談しよう、という存在にブランディングをしていきたいですね。
――製品戦略について。
波多 標準品に加え、特殊品への対応も強化しています。加工ニーズが多様化する中で、形状や寸法のカスタマイズへの要望が増えています。
本田 各工具メーカーのハウス生産縮小により、代替品の相談も増えています。完全に同一ではなくとも、当社の技術で最適な提案を行っていきたいと考えています。
――材料戦略の特徴は。
岡﨑 当社は製品ごとに材料を変えるのではなく、材料を統一することで在庫を確保し、安定供給を実現してきました。結果として、レアメタルの供給不安が高まる現在の環境に適合する形になりました。お客様のリスクを少しでも軽減できればと考えています。
本田 主力材の「MCO」はコバルトハイス材に統一しており、耐摩耗性と靭性のバランスに優れています。材料を統一することで、軸物でφ1〜120ミリ、板物でφ45〜400ミリまで幅広い製品をカバーし、全品即納体制を維持しています。
――今後の展望は。
岡﨑 造船や発電など、日本の基幹産業が再び強化される動きがあります。そうした分野でハイス工具の需要は確実にある。伝統と革新を両立させた製品で貢献していきたいと考えています。
住友電工、工具事業のタングステン循環で競争力
非自動車への拡張と難削材対応

住友電気工業は工具事業において、自動車産業を強化しつつも多様化を目指している。これまで売上の多くを占めてきた自動車向けは、生産の海外移転により国内需要の大幅な伸びが見込みにくい状況にあるからだ。このため同社は、航空機、半導体、医療、発電といった非自動車分野への展開を強化している。
こうした動きを支えるのが、難削材や高硬度材向けの工具開発だ。2025年11月に発売した高能率加工用ラジアスカッタ「SEC-ウェーブラジアスミル RSC型」は、刃先近傍に2つのクーラント穴を設けることでインサートの温度上昇を抑制し、高速加工時の安定性と生産性を両立した。
また、汎用材種のACU2500に加え、チタン合金や耐熱合金、ステンレス鋼に対応するコーティング材種ACS1000、同2500、同3000を採用。刃先形状の最適化と組み合わせることで、難削材加工における安定性と長寿命化を実現している。
一方で、自動車分野への対応も強化する。車体軽量化の進展に伴い、鋼に近い強度を持つFCD600以上の高強度ダクタイル鋳鉄の採用が拡大している。こうしたニーズに応えるため、同社は2026年5月に鋳鉄旋削用コーティング材種「AC4115K」(=写真)を発売する。独自のCVDコーティング技術「アブソテック(Absotech)」により耐摩耗性を高め、工具寿命の延長と加工コストの低減を図る。
さらに同社は、資源戦略でも競争力を高める。超硬工具の主原料であるタングステンは価格高騰と需要増加が続き、供給リスクが指摘されている。同社は国内で販売した超硬工具を自社内でリサイクルできる体制を構築しており、原材料の安定確保と価格安定につなげている。
タングステンは鉱石中の含有率が1%未満と低い一方、超硬工具には約90%含まれる。採掘や輸送に伴うエネルギー負荷を考慮しても、スクラップからの回収・再利用は資源効率と環境負荷の両面で優位性が高い。
住友電工グループは東京、名古屋、大阪の3地区に専任担当者を配置し、工具スクラップの回収を推進している。「ユーザーの皆さまには、タングステンリサイクルへの協力をお願いしたい」としている。
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(日本物流新聞2026年4月10日号掲載)