「ソフト変革」で勝ち残る

米ゴールドマン・サックスは昨年、「生成AIが世界で3億人相当の仕事を置き換える恐れがある」とする報告書を公表。自動化の影響を受ける職業のランキングも推計し、1位の「事務・行政サポート」、2位の「法務」に続き、「設計・エンジニアリング」が3位に入った。昨今、製造プロセスにおいてもAI活用が進む中、各社が様々なソリューションを打ち出している。

【画像1】タイトルイメージ(THK)
【画像2】Fusion360、C&Gシステムズ
【画像3】Mastercam2025
【画像4】OCTOPUZ
【画像5】SUBARU・エンジニアリング情報管理部の村井大輔氏

デジタル、AI時代の設計最適化

THKは直動部品の予兆検知にAIを活用




モノづくりの世界において、いますぐに設計者やエンジニアが仕事を失う、ということにはならないだろう。だが利便性や生産性、スピード感、コストを鑑みた場合、製造業こそ適切なAI技術の積極導入に動く可能性は極めて高い。実際に設計や生産管理など、モノづくりで使われるソフトウェアとAIの組み合わせにより、効率化と生産性の向上を目指す取り組みが加速している。

設計者がソフトウェアに設計における要件定義などを入力することで、最適な形状を自動生成するジェネレーティブデザイン。この機能をいち早くとりいれたのがオートデスクの3DCAD「Fusion360」だ。同ソフトのジェネレーティブデザインは、一度に数百モデルの提示も可能にしている。またクラウドベースのソフトなので、利用する分だけの料金(クラウドクレジット)を払うだけで、気軽にジェネレーティブデザインによるモノづくりを実現可能にしている。

Fusion360によるジェネレーティブデザイン

シーメンスは「SolidEdge」の最新版において、AIによる設計支援機能を導入している。こちらはアセンブリ内の部品置き換えの際に、AIアセンブリ関係認識機能がインテリジェントに有効な選択肢を予測して提示する。また、AI搭載のユーザーインタフェースが設計者の利用パターンを学び、最適なコンテキストでカーソル付近に関連コマンドを提示し、作業時間の短縮に繋げている。

ダッソーシステムズはSOLIDWORKSのクラウド/WEBブラウザベースのモデリングツール「3Dクリエイター」に、AI設計支援機能「デザインアシスタント」を搭載。こちらは時間の要する反復的な入力作業を自動化するように設定されており、設計者の作業効率を上げる。

C&Gシステムズは金型向けCAD/CAM「CAM-TOOL V20.1」に「AI切削条件算出機能」を搭載。データマイニング手法により工具メーカーの大量な工具・切削条件や、工具カタログデータに登録されていない被削材の材料物性値などを学習させ、ユーザーが選定した被削材や工具に対し、学習後の切削条件を自動算出する。また、加工実績に基づくユーザー独自の切削条件をデータベースにフィードバックするため、機械学習によって効率化された加工情報資産の構築を可能にする。

C&Gシステムズの「CAM-TOOL V20.1」




■予兆保全にもAI活用

モノづくり現場へのAI活用は、大手を中心に予兆保全や技術継承といった部分でも活用も進んでいる。

THKは直動部品や回転部品の予兆保全ソリューション「OMNIedge」においてAI診断サービス「ADV」を提供。同サービスはヘルススコアを算出するAIアルゴリズムを採用。ユーザーによるしきい値の設定が不要で、各種データから異常度を算出して部品の状態を判断する。またADVは変化と異常を検知するだけでなく、データを分析し、メンテナンスレポートを提示するので、多台数の設備保全を担っているユーザーの保全活動の効率化にも寄与する。

三菱電機は、AI技術「Maisart」を活用した、製造現場の人の作業分析を数分で実現する「行動分析AI」を開発。熟練者と初心者の作業を短時間で分析し、代表的な作業の動画を自動で切り出して比較することで、作業改善の指針の立案や熟練作業の伝承を支援する。

従来の一般的な作業分析AIは導入にあたり、作業者や作業の手順ごとに人手で作業分析した結果を教師データとして作成し学習させる必要があり、導入までに時間を要した。一方、行動分析AIは循環する身体動作の確率的生成モデルを作業分析に適用。これにより、作業分析にかかる時間を最大99%削減している。



Mastercam2025
ネジ加工、バリ取り新機能追加

■生産性向上目指しバージョンアップ

国内外の切削加工現場において最も使用されているCAD/CAMソフト「Mastercam」。難加工への対応や機能強化による生産性の向上など、発売以来進化を続けている同ソフトの最新日本語バージョンが各ソフトベンダーより2024年9月に上市される。

世界中のユーザーによる設計および加工情報のフィードバックをベースにバージョンアップを続けるMastercam。2025版においても様々な新機能を追加している。そのいくつかをピックアップする。

スレッドミルにはさまざまな機能強化が施された。ネジ切り時におけるリードイン、リードアウトの速度や送りのオーバーライドにより、エントリ移動中の制御を最適化。これによりツール寿命が延び、ねじの加工精度の向上を実現する。また段階的なリードイン、リードアウトにより、ツールの制御を向上させている。さらに新しいツールエッジ送り速度では、中心線ではなくツールの接線エッジに基づいた送り速度が計算される。

スレッドミルの強化でねじ加工精度を向上


Y軸旋削にはMill-Turnサポートを導入。カスタムスレッドとB軸輪郭旋削を除くすべての旋削ツールパスは、Y軸機能をサポートする。これにより、適切なツール方向とスピンドル原点を使用してツールパスを作成する。またアプローチおよびリトラクト戦略が強化され、ホルダーコンポーネントページでツールアセンブリをY軸互換として指定できるようになっている。

A軸輪郭旋削ツールパスは、Mastercam2023で導入されたB軸輪郭ツールパスを補完し、回転輪郭旋削のサポートを拡張した。新しいツールパスは切削中にツールを回転できるため、ユーザーは 最新のY軸ツールテクノロジーを活用した加工ができる。

B軸ロータリー輪郭ツールパスには2つの新機能が追加され。チェーンジオメトリにスプラインを含めることができるようになったため、ツールパス生成プロセスが簡素化され、高速化を実現。さらに、新しいツール角度コントロールは、インサートの先行角度または後続角度を指定できるため、ツールパス作成プロセスが強化され、高効率な加工を可能にする。

バリ取りツールパスは、自動エッジ検出と直感的なコントロールにより、バリ取り工程を簡素化する。このツールパスはMastercam5軸ライセンスがなくても使用可能で、3軸環境でも合理化されたバリ取りが行える。

3軸環境でも効率化されたバリ取りが行える

このほか、穴あけ加工時の安全ゾーンの改善や偏差関数の分析、ソリッドホールの選択、2Dダイナミックミルおよびエリアミルツールパスへの仕上げパス追加など、大幅な強化が行われている。



ジェービーエムエンジニアリング
オフラインプログラミングソフト「OCTOPUZ」

■より多彩なロボットティーチングに対応

Mastercamの国内トップベンダー・ジェービーエムエンジニアリングは、オフラインロボットプログラミングソフト「OCTOPUZ」の新バージョンを2024年7月に上市した。

OCTOPUZは、産業用ロボットを仮想オフライン環境でプログラムし、実際の現場にフィードバック可能なソフト。レイアウトや設計、プログラミングまで複雑で面倒な作業を事前に行える。さらに溶接や搬送においてもオフラインティーチングとシミュレーションの活用で、ティーチング時間を大幅に短縮する。

オフラインロボットプログラミングソフト「OCTOPUZ」

新版のVer.2024.6.xは新たなロボットブランド、機能への対応を強化。安川電機製ロボットのスポット溶接への対応、ファナック製ロボットのレーザおよびワイヤーセンサーのタッチセンシングに使用するIOタイプ制御のオプションの追加、テックマンロボット、ハイウィンのコントローラとポストへの対応などを追加した。これにより15ブランド、228種のロボットコンポーネントをカバーする。

機能面もさらに充実させている。CADファイルの設定の最適化や複数のCADファイルの一括インポートオプション、CADファイルの3Dワールドへのドラッグ&ドロップなどを追加し、CADインポートのワークフローを大幅強化した。

OCTOPUZで作成したプログラムからロボットコードを生成するOCTOPUZコードエンジンが、アプリの更新とは別で更新を受け取れるように改良。

これによりロボットのポストをより早く、合理的に強化できるようになった。

衝突検出が最適化・高速化されており、表示される衝突グループの情報をさらに充実。衝突公差という新機能は、検出された対象物間の安全マージンを付加できる。また新しいロボットセルをキャリブレーションする際に使用する新機能「キャリブレーションデータセット」は、自動キャリブレーションツールで使用する教示点の定義を可能にしている。

ロボットを活用しての積層造形も可能に

オプションのJBMサービスパック/パワーパックも強化。JBMオートアップデートの問題を解決し、OCTOPUZからRobot Code Editorが起動できるように改善した。またコンポーネントの詳細情報を盛り込んだJBMeライブラリが使用できるようになっている。

パワーパックはロボットコードエディタランチャーを採用し操作性を向上、ダークモードビジュアルをとFTP通信を追加した。またOctopath Viewにもダークモードビジュアルを追加している。

「OCTOPUZは拡張性が高く、Mastercamや当社の積層造形用CAM『ADDITIVE MASTER LUNA』、金属3Dプリンタ『MELTIO』との連携も容易です。これらを活用することでロボットによる3Dプリンティングなど、新たなモノづくりが実現可能になります」(同社)。



机上化進む新車の試験・開発
?横断的なデジタルシフトで量産準備期間を短縮

「3DEXPERIENCE CONFERENCE Japan 2024」の基調講演に登壇した
SUBARU・エンジニアリング情報管理部の村井大輔氏

国内でも自動車の机上での試験・開発が拡大しつつある。これまで日系自動車メーカーの新車開発には年単位の時間がかかるとされており、新興・中華系メーカーと比較した際の開発期間の長さが課題の一つとされてきた。そうした中、国内メーカーでも急激な市場変化に対応しグローバルでの競争力維持のため、デジタル上での試験・開発の本格運用が進みつつある。

仏Dassault Systemsの日本法人ダッソー・システムズが主催する「3DEXPERIENCE CONFERENCE Japan 2024」(2024年6月下旬、都内開催)でSUBARUは、「SUBARUにおけるデジタル開発~モノづくり改革を支えるIT施策~」をテーマに、製品設計・開発の統合プラットフォーム「3DEXPERIENCE」を活用したデジタル改革の事例を紹介した。

基幹CADにCATIAを使用する同社は、2021年から3DEXPERIENCEを導入。登壇した同社・エンジニアリング情報管理部の村井大輔氏は一元的なデータ管理と横断的なデータ活用により、「実車評価ありきの開発から机上評価を主とした開発」に移行し、「先の読めない時代に対応し、高品質な製品をより早く提供する開発体制を構築する」と述べる。

 実際、各部門がそれぞれに評価データを集めるのではなく、組織的にデータを集積する体制を整えることで、常に最新の車両データを共有しながら開発を進めることを可能にした。結果、部品間の整合性が取れた状態でデジタル試験評価を行えるため、従来と比較して18%の工数低減を実現した。

■MBD軸に生産性・意匠性向上

マツダもフレキシブルな生産体制の構築に向けて、机上検証を活用した量産準備工程の短期化を図っている。

「従来は机上検証を行ったうえでいったん試作型を製作、機能や生産性を検証し量産型の製作入っていた。こうした検証を全て机上で事前に検証することで、量産型の製作・検証プロセスを短縮した」(同社・杉中隆司技術本部長)

特に重要なのが、モデルベース開発(MBD)の活用だ。MBDは様々な現象や車の挙動を数式化し、それらをシミュレーションで活用することで、検証を行いながら設計開発を進める手法。シリンダーヘッドの残留応力を解析した事例では、生産技術の鋳造解析と開発の信頼性解析を一気通貫の連成解析で繋ぐことで精度の高い応力解析を可能とし、実機試験の早い段階で寸法精度合格率90%以上を実現。金型の調整や育成期間を大幅に削減することができている。

同社はMBDを顧客体験の向上にも役立てている。特徴である生き物のような生命感のある魂動デザインは、数?の面形状の違いでデザイナーの意図を損なってしまう。デザイナーの意図を忠実に再現するため、3次元的な流れをゼブラ模様で可視化した。デザインデータから成形CAE、実車まで同じ物差しで一気通貫に作りこむことを可能にした。職人技に頼っていたデザインを量産化し、顧客への価値提供を促進する。



テクノア、AIによる図面管理
?データ活用で作業効率向上へ

多品種生産が当たり前になっている昨今。加工に関わる図面をいかに管理し、有効に活用するかが課題となっている。

生産管理システム「テックス」を中心に製造現場向けソリューションを展開するテクノアは、AIで図面を管理するシステム「AI類似図面検索」を提案している。同システムは過去の図面データから類似図面をAIで即座に検索。設計や見積作成などの業務に必要な類似図面データを検索、比較し業務への的確なフィードバックを実現する。また版管理で常に最新の図面と比較が可能で、図面比較で差分を視覚化。変更点も一目で確認することもできる。

「2022年4月の発売以来、導入企業様からいただいた100件以上のフィードバックをもとに、機能を強化し、中小製造業様に最適な図面管理ソリューションへと進化を続けています。最新版では担当者別の操作権限を詳細に設定できる管理機能やログイン履歴の確認機能を追加しています」(同社)

かんたんな項目入力で図面検索ができる


さらにユーザビリティの向上を目指し、AI類似図面検索で検索した結果をもとに、比較から判断に到達するまでの操作手順や画面遷移を見直し、操作の省力化や確認作業の効率化に貢献する機能を追加。これにより必要な図面情報へアクセスするまでの時間を約3割削減するという。

同社ではその効果を実感できる体験会を、2024年8月20?21日に岐阜本社で、8月22?23日に大阪支店にて開催する。

【関連記事LINK】※日本物流新聞ONLINEにリンクします。


(日本物流新聞 2024年7月25日号掲載)

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