導入工数とエネルギーロスを大幅に減らす
世界規模でカーボンニュートラルへの取り組みが加速する中、次世代のクリーンエネルギーとして「グリーン水素」の活用に大きな期待が寄せられている。しかし、従来の水素製造および貯蔵システムは、導入にあたって高い技術的・コスト的ハードルが存在していた。こうした中、産業用機器メーカー・オリオン機械は、水素の製造から貯蔵、制御に至るまでの全プロセスを最適化し、導入の手間とエネルギーロスを劇的に削減する省エネ型P2G(Power to Gas)システム「HGP-5000A」を開発した。
これまで工場や研究施設などが独自にP2Gシステムを構築しようとした場合、そこには多大なリソースの投入が必要であった。なぜなら、従来の水素製造・貯蔵システムというものは、純水製造装置、水電解セル、水素ドライヤー、冷却塔、ボイラ、ヒートポンプ、そして水素吸蔵合金ユニットといった、極めて多くの構成機器を組み合わせる必要があるからだ。
さらにこれらの機器が単一のメーカーで統一されているケースはほとんどなく、ユーザーやプラントエンジニアが複数のメーカーから個別に機器を調達し、システムを設計しなければならない。
結果として、システム全体の統合制御が困難になるだけでなく、現地での複雑な電気配線工事や市水配管・水素配管の敷設、熱媒体や蒸気の個別調整など、導入プロセスそのものに膨大な時間と人件費、高度な専門知識が要求されていた。この「システム構築の煩雑さ」と「設置工数の多さ」が、グリーン水素の導入を躊躇させる最大の要因となっていた。
「HGP-5000A」はこれら必要なコンポーネントをすべて一つの堅牢な筐体内部にまとめたシステムだ。システムの筐体内には、中核となる水素発生ユニットをはじめ、水分を除去する水素ドライヤーユニット、製造した水素を安全に貯める水素吸蔵合金ユニット、熱を効率的に管理する蓄熱熱交換器、ヒートポンプユニットがシームレスに統合されている。そしてこれらの複雑な連動をすべて司るのが、一括管理を行う「統合制御盤」である。
ユーザー側が用意するのは、太陽光発電システムなどに代表されるグリーン電力の供給ラインと、原料となる水道水の配管、パワーコンディショナーのみ。これらをシステムへと接続するだけで、内部の純水製造装置が機能し、水電解セルへと水が供給され、瞬時にオンサイトでのグリーン水素製造が開始される。これまでの面倒なすり合わせ作業や配管工事の工数は大幅に削減され、スピード感のある水素エネルギー導入を可能にした。
単なるパッケージ化にとどまらず、内部で発生する熱エネルギーを極限まで使い切る独自の「省エネサイクル」を確立した点も見逃せない。
従来のPSA方式を採用した水素ドライヤーでは、内部の吸着剤を再生させるために、自らが製造した貴重な水素の約20%を排出せざるを得なかった。
同社はこの問題に対し、水電解セルが水素を製造する際や、水素吸蔵合金が水素を吸蔵する際に生じる「排熱」に着目。このシステムでは、発生した排熱をヒートポンプユニットによって効率的に回収し、水素ドライヤーの吸着剤を再生するための加熱源として直接利用する構造を開発した。
この熱アシストにより、水素を排出して再生に回す割合を、従来の約20%からわずか5%へと劇的に低減。製造した水素の95%をそのまま有効活用できるという、圧倒的な高効率化を実現した。
■ものづくりからBCPまで
熱のリサイクルはこれだけに留まらない。昼間に太陽光発電などのグリーン電力を得てシステムがフル稼働している際、吸着剤の加熱を終えてもなお余った熱エネルギーは、システム内に組み込まれた「蓄熱槽」へと回収・蓄積される。

自社製品のロウ付け工程にもグリーン水素を活用している
水素吸蔵合金は、水素を貯める際には熱を発生させるが、逆に貯めた水素を取り出す際には外部からの「加熱」を必要とする性質を持つ。太陽光発電が行えない夜間や悪天候時において、蓄積された水素を取り出して利用しようとする場合、従来であれば再び電気ヒータや外部ボイラを動かして合金を温める必要があり、余計な電力が消費されていた。
しかし同システムでは、昼間のうちに蓄熱槽へためておいた余剰熱を、夜間の水素放出時における水素吸蔵合金の加熱源としてダイレクトに再利用する。これにより、外部からの電力投入を最小限に抑えつつ、夜間であっても少ない電力で、極めて安定した流量の水素を絶え間なく供給し続ける持続可能なサイクルを実現する。
省エネルギーかつ高効率でオンサイト製造される高純度なグリーン水素は、工場のあり方を大きく変える可能性を秘めている。
そのひとつが、工場内の生産設備における直接的な燃料代替によるCO2排出量の削減である。例えば、空調機器製造において不可欠な「冷媒配管の水素ロウ付け」工程などがその代表例である。従来の化石燃料由来のガスから、このクリーンなグリーン水素へと燃料を切り替えることで、製品の製造プロセスにおけるカーボンニュートラル化を直接的に推進できる。
実際に同社須坂インター工場では、従来のプロパンガスから水素ロウ付けに100%切り替えている。現場からは「プロパンガスと熱の入り方に若干の違いがあるが、扱いやすく、仕上がりも上々」という声が上がる。また、バーナーや配管も従来の機器を流用できるとあって、他の企業からの問い合わせも増えているという。
もうひとつの用途は、企業のサステナビリティ向上とリスクマネジメントを両立させる「BCP対策」としての活用だ。システム内に貯蔵された水素を燃料電池へと供給するラインを構築しておくことで、万が一の災害や大規模停電などの非常事態が発生した場合でも、自立した分散型電源として機能する。
避難場所での冷暖房機器の稼働、情報収集や連絡に不可欠なスマートフォンの携帯充電用電源など、命を守る重要なインフラを維持するための電力を即座にバックアップすることが可能だ。
同社は燃料電池、さらには燃料電池用チラーを組み合わせた実証システムを須坂インター工場に設置し、実証試験を本格的にスタート。試験を通じてさらなるブラッシュアップを行なったのち、2027年10月より正式に受注を開始する予定だ。
(日本物流新聞2026年6月10日号掲載)