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京都紋付、光を吸い込む比類なき黒さの「深黒加工」で衣類を再生

投稿日時
2026/07/24 15:00
更新日時
2026/07/24 15:48
黒紋付を着る荒川徹社長

伝統の染物屋がニッチプラットフォーマーへ

日本の伝統的な正装である「黒紋付」だけを100年間染め続けてきた京都紋付。しかし、和装需要の激減に伴い組合は解散、かつて130社を数えた同業者は今や1、2社へと激減した。従事者もわずか数人の衰退産業だ。現在、黒紋付が同社の売上高に占める割合は1割に満たない。それでも歌舞伎役者や宝塚歌劇団の卒業式など、日本の文化に不可欠な伝統の火を守り続けている。

だが、守るだけでは企業は存続できない。「核となる技術を頑なに守りながらも、今必要とされる形に変えなければ伝統産業を発展的に維持できない」と荒川徹社長は断言する。同社はこの危機感から、独自の黒染めというコア技術を洋服へと展開し、ビジネスモデルの劇的な転換を図った。

■他社の追随を許さない「深黒」のブラックボックス

同社の最大の武器は、40年前に自社開発した独自の「深黒加工」技術だ。単に染料で染めるだけでなく、光を吸収する物質を含浸させることで、比類なき黒さを実現する。この加工の興味深い点は、赤や白の生地に施しても他の色には反応せず、「黒」だけがより深く、圧倒的な黒へと変化する点にある。

同社はこの技術のレシピや機械は一切公開せず特許も取らない。徹底してノウハウを秘匿するブラックボックス戦略をとる。かつて黒紋付産業が隆盛だった頃は各社に独自の技術があったが、これを多品種少量で形状が全く異なる「洋服(製品染め)」へと昇華させたのが同社の独自性だ。一から試行錯誤を重ねて蓄積したノウハウにより、黒染め工程までは機械化しつつ、繊細な深黒加工は手作業で行う。ただし、薬品の調合ノウハウと厳密な時間管理により、属人的な「職人芸」からの脱却(標準化)にも成功している。

この唯一無二の技術をベースに、同社は有名ブランドの加工受託に留まらない新事業を確立した。アパレル企業のデッドストック(在庫)や、消費者が汚したり飽きたりして着なくなった服を黒染めで蘇らせる「衣類再生プラットフォーム」だ。

パートナー企業とプラットフォームを共有することで、服を捨てずに循環させるサステナブルな取り組みと、「服の販売」および「染め替え費用のキャッシュバック」という2度の収益機会を生み出すビジネスモデルを構築。現在、約300社のアパレル企業とコラボレーションを展開しており、伝統の染物屋から「ニッチプラットフォーマー(PF)」への脱皮を果たす。

プラットフォームとして機能しながらも、荒川社長の視線は冷徹だ。「私はこの黒染めシステムを無理にスケール(拡大)しようとは思っていない。市場規模が50億円にまで膨らめば、我々の品質の7割程度で、より安価な商品を提供する大手資本が必ず参入してくる。だから戦略的に規模を抑制している」と笑う。



(日本物流新聞2026年7月25日号掲載)