【開発ストーリー】京セラの切削加工監視サービスVIMOAはいかにして生まれたか
- 投稿日時
- 2026/07/24 16:04
- 更新日時
- 2026/07/24 17:31
工具メーカーが加工センシングデバイスをゼロから作る挑戦
「京」の字を冠し、京都の代表的企業として知られる京セラ。同社の切削工具事業がいま、モノ売りから『モノ×コト売り』に大きく転換しようとしている。象徴がデバイス型のセンシングツールで加工状態を可視化するサービス「VIMOA(ヴィモア)」だ。工具メーカーが工具型でないデバイスを開発する型破りな挑戦。その姿勢は古都から「先進企業のメッカ」に変わった京都の変遷にも重なる。ヴィモアの開発秘話を切削工具事業の歴史を交えて紹介する。
時は1971年。冷戦下の西ドイツを視察した京セラ創業者の稲盛和夫氏は、自動車部品を火花を散らし驚異的な能率で加工する光景を目にした。加工機の刃先にはセラミックチップ。折しも同社がセラミックスの用途開拓を進めていた時期だった。「高速切削の時代が来る」。思いを強めた稲盛氏は同年に切削工具へスピード参入する。
主流の超硬工具は国内大手がシェアの大半を握っていたが、市場の2~3%に過ぎないセラミック工具は参入余地があった。だが72年に発売した初のセラミック工具は硬くて鋳鉄の高速加工には向くが靭性や粘りが今一つ。これが祟り鋼加工ではすぐ割れてしまう。それでも同社はセラミックスを諦めなかった。超硬以外で良い工具ができないか。苦心の末74年に開発したのが、TiC(炭化チタン)によるサーメット(金属とセラミックスの複合材)工具だ。

センシングデバイスの第二世代。デザインは社内デザイナーが担当。ロゴやカラーで先進性を表現した
金属と親和性が低いため溶着しにくく、硬く、摩耗に強い。加工面が平滑になり、いつしか「サーメットの京セラ」の評が現場に広まった。この挑戦が後に、後発ながら超硬を含めた切削工具で大きなシェアを築く同事業部の飛躍の礎になった。
それから50余年。機械工具事業は岐路を迎えている。更なる成長のため目指すのは“モノ×コト売り”の加速。その象徴が25年9月に始めたデバイス型のセンシングツールで加工状態を可視化するサービス「ヴィモア」だ。
専用ツールを加工室に取り付け毎秒2.2万もの振動データを取得し無線で送信、加工を可視化する。今年5月に同ツールと加工監視AIで量産ラインを監視する新プランも始めた。とはいえここまでは長い道のりだった。
■加工の聴診器を作る!
開発が持ち上がったのは19年。人口減で現場の技能伝承が課題になったのが契機だ。後のヴィモア開発責任者・古賀健一郎氏は当時、中国で顧客の技術支援を担当していた。試作工具でテストカットし、持ち帰っては改善する日々。受注まで最長2年がかり。自社には測定環境があるが顧客の現場で加工を可視化するのは難しく愚直に試作を繰り返すほかない。「その場で加工状態を測る“聴診器”があれば…」。課題感を抱えたまま古賀氏は帰国。そして着任したのが、偶然にもヴィモアの原形を開発中の部署だった。
古賀氏の専門は工具開発。当時を「まさか自分がDX関連の開発担当になるとは」と振り返る。デジタル分野は不慣れだったが「なまじ知見が無いから型破りな発想ができた。素人ゆえ怖い物ナシで」と逆境を糧にする。中国の経験から“加工の聴診器”があればライン立ち上げや加工立上げにかかる立上げ期間を大幅短縮できる確信があり、壁に当たれどブレなかった。
当初は工具にセンサーを内蔵したが一部の加工にしか対応できず、また、破損すると大損害であった。現場はもっと自由なツールを望むはず。最終的に工具メーカーにも関わらず工具と別にセンシング用機器を開発する道を選んだ。だがバッテリーが鬼門だった。
研究により毎秒2・2万回の振動データを取得し無線で送る方法がベストと判明。だが大容量通信は電力消費が激しい。何とか12時間稼働の第一世代デバイスを開発し25年にリリースしたが、量産工程の監視を想定した第二世代は稼働をより伸ばす必要があった。頼ったのは社内の通信機器事業本部だ。協力を仰ぎ省電力設計を徹底。26年上市の第二世代デバイスは3倍の36時間稼働できるようになった。
これは同社を象徴する話でもある。開発担当は入社2、3年目に個別の開発テーマを与えられ責任を持つ。経験が浅いゆえに斬新な工具が生まれる場合があり「古くはサーメットもそうだったはず」。同社には稲盛氏が遺した「京セラフィロソフィ」(企業哲学)が根付く。この核を表現したのが「まっとうなことを。まっさらなことを。」という言葉だ。「京セラ機械工具の歴史は開発者が理想を追い、まっさらなところからまっとうなことを追求した結果」と古賀氏は言う。ヴィモアも同じ流れを汲んでいる。
ヴィモアで何を目指すのか。「職人の勘と技術を次世代に継承したい」と古賀氏は話す。「ヴィモアは切削の世界を明確に、正確にするコンセプト。京都も含め日本の競争力の源泉は熟練技術。それを次に伝えるのが我々の責務だ」
なおヴィモアは今後も進化を続けるそうだ。「お客様から要望も頂いている。まだまだ頑張らないと」。まっさらな挑戦は続く。

ヴィモアの開発責任者である機械工具事業本部グローバルマーケティング部市場戦略部責任者 古賀健一郎氏。手にするのがセンシングツール。マグネット式で工作機械の加工室内に取り付けるだけで使える。8年がかりの開発を振り返り「まだまだスタートライン。だが最高の初動が切れた。一体となって作ってくれたチームに感謝したい」と語る
(日本物流新聞2026年7月25日号掲載)