インタビュー
KyoHA事務局 佐々木 啓文 氏
フィジカルAI・ヒューマノイドロボットのトレンドの中で日本もプレゼンスを発揮するために
- 投稿日時
- 2026/07/24 16:50
- 更新日時
- 2026/07/24 16:52
国産ヒューマノイドの「生存戦略」
----KyoHA(京都ヒューマノイドアソシエーション)設立の真の趣旨を教えてください。
佐々木氏: 最大の危機感は「データの主権」にあります。ヒューマノイドが稼働することで得られるフィジカルデータ(走行・環境データ)は、後れを取る構図になっていると危惧しています。「米中に遅れているから機体は海外製でいい、日本はフィジカルAIのソフトウェアデータで勝負すればいい」と、ハードとソフト・AIを切り離して考えるのではなく、これらを両輪で進めなければ、将来的に主導権を握ることが難しい状態に陥ると考えています

海外のキープレーヤーからも「日本は20年前、ヒューマノイド先進国だったのにずいぶん静かだ。何か凄い技術を隠しているのではないか?」と純粋に疑問を持たれています。実際は隠しているわけではなく、「ロボットを作って一体何台売れるのか」という投資対効果(ROI)の議論に終始してしまい、未来の市場を作るための投資ができなかったのが日本の現実です。
自動車や家電が日本の主要産業としてリードしてきたのは、完成車・完成品メーカーを頂点に、ティア1、ティア2という広大なサプライチェーンの裾野が存在したからとよく聞きます。ヒューマノイド産業において、日本にトヨタやホンダ、ソニー、パナソニックに相当するポジションが生まれなければ、日本は「ものづくり大国」の座を失い、単なる海外製ロボットの「ユーザーの国」に甘んじることになるかもしれない。その強い危機感が我々の原動力です。
――米中の研究開発は垂直統合型が主流ですが、KyoHAは「水平分業・コンソーシアム型」を採っています。実効性を疑問視する声もありますが。
佐々木氏: 確かに「コンソーシアムを組んで実利的な成果を出せた例は極めて少ない」という批判があることは重々承知しています。垂直統合型のほうがブラックボックス化しやすく、開発スピードが速い面もある。
しかし、米中の巨人に比べて資金も人手も物量も一桁、二桁も少ない日本が、後追い組織として1社単独で立ち向かっても勝ち目はありません。各社の知恵とコア技術を結集し、オープンな水平分業のスピードと質でゲームをひっくり返す。今の日本に必要な方法論と考えています。
――既存のロボット勢と、どこで差別化や新規性を打ち出すのですか。
佐々木氏: 多くのプレイヤーは、すでに産業用ロボットや協働ロボットが導入されている工場の置き換えや、家庭内に入り込むホームロボットを狙っています。ビジネス的なボリュームゾーンと捉えられているからです。
しかし、KyoHAがあえて狙うのは「屋外活動」や「危険活動」といった、極めて過酷な環境です。フィールドをここに設定した瞬間、必要とされるスペックや要件定義がガラリと変わります。
当然、エネルギーや駆動方式も既存の電気モーター駆動から変革を迫られる。モーターは電気を流し続ける必要があり、過酷環境では熱対策もボトルネックになります。先行している技術を取り入れながらも、新たに過酷環境下で有効な技術を生み出していきたいです。
――極端な話、バッテリー駆動ではなく、エンジン駆動やシリーズハイブリッド方式も選択肢に入ってくるのでしょうか。
佐々木氏: 選択肢として全く排除していません。屋内のヒューマノイドでエンジンを回すことは不可能ですが、屋外であれば決して夢物語ではない。30分動いては数時間充電しなければならないような仕様では、一刻を争う災害現場で役に立ちません。
過酷環境での活動を前提とすれば、成人男性サイズの一般的なヒューマノイドよりも機体が大型化する可能性もあります。「ガンダム」を作ろうとしているわけではありませんが(笑)、災害救助チームの中に力強く融通の利く人型重ロボットが1台交ざっているようなイメージです。
「犬型ロボットでもいいのではないか」という意見もありますが、まずは最も制御が難しい「人型」で機体を設計し、その脳みそ(フィジカルAI)を構築すれば、そこから犬型や鳥型など、あらゆる形態へ技術を深化・応用させることができます。人間が2足歩行を獲得したことで知能を進化させたように、まずは「躯体と頭脳を作る」ことにこだわっています。
――フィジカルAIの進化についてはどう見ていますか。
佐々木氏: 最新の技術の活用を掲げていますが、とにかく最新で効率的なアプローチを、失敗を恐れずに取り入れていくしかありません。ハードウェアとソフトウェア(AI)を密結合で同時開発できるコンソーシアムだからこそ、その成果は大きいはずです。網羅的な基盤モデルを作るのではなく、「過酷環境下での実用」という一点突破にリソースを集中させます。
――KyoHAの今後のマイルストーンは。
佐々木氏: 「KyoHAの役割は研究と実証機の作製までではないか」という指摘は、一定の側面において正しいです。次のビジネスへ移行するステージでは、また異なる枠組みが必要になるでしょう。
ただ、実証機を作るプロセスそのものが各企業の貴重なR&D(研究開発)の場であり、そこで得た知見やフィードバックは各社の本業のビジネスに直結します。重要なのは、実証機が完成した後に、いかにそれを量産化し、ビジネスとして社会へ普及させていくか。現在は、この壮大なビジョンに共感し、「自らの技術を提供したい」と集まってくれた仲間たちと、前例のない挑戦を突き進めています。
(日本物流新聞2026年7月25日号掲載)