激甚化する災害・リスクから人と工場を守り抜く術
- 投稿日時
- 2026/09/28 09:00
- 更新日時
- 2026/10/09 15:20
最大震度7を記録した熊本地震や各地を襲う豪雨水害、さらには火災リスクやサイバー攻撃の高度化など、現場が直面する脅威は深刻かつ複雑化している。もはや従来のマニュアルに沿った“基本”の対応だけでは、企業の重要資産である「人・設備・情報」を守り切ることはできない。本特集では、あらゆるリスクから現場を守り、途絶から迅速に立ち上がる「強靭なサプライチェーン」を構築するための最新ソリューションに迫る。
大地震や激甚災害、工場火災や地政学リスクに伴う供給難など、かつての「もしも」は今や現場の日常にまで迫る身近な脅威となった。単一・画一的な防災策だけでは備えとして成立せず、インフラ途絶や通信遮断、二次災害まで見据えた多層的な防衛策の構築が急務である。
危機対応の要となるのは「通信と電源」の独自確保だ。公衆回線停止時も指揮命令・情報共有を支える無線機ネットワークや、LPガス等で動く非常用発電機は初動の途絶を防ぐ。また物理的な防護策も進化しており、火災の延焼を防ぐ防火ドアや、急増するリチウムイオン電池の発火事故に対応する耐火・防爆金庫は、重要資産を熱や炎から守り被害を最小化する。次ページでは、関心の高い「水害・断水リスク」を防ぐ最新ソリューションも詳しく紹介。平時からの強靭な体制構築こそが顧客への供給責任を果たし、いかなる緊急事態にも動じない現場をつくる。
アイコム、転換期迎える非常用通信網
緊急時でも「途切れない現場」に挑む
地震や自然災害の頻発、サイバー攻撃の増加など、企業を襲うリスクは複雑化及び高度化している。防災・危機管理ソリューションがかつてない見直しを迫られる中、長年インフラ網や自治体防災、物流・公共事業の非常用通信を支えてきたMCA無線がサービス終了(※MCAアドバンスは2027年3月、デジタルMCAは29年5月終了予定)を迎える。代替手段の検討が急務となる中、スマートデバイスやアプリへの置き換えに留まらずに「過酷な現場で途切れない強靭な通信網」を構築する選択肢として、無線通信機器メーカーのアイコムはハイブリッドIPトランシーバー「IP700PLUS」と衛星通信トランシーバー「IC-SAT100」を主力として前面に打ち出す。
官公庁の防災現場に多く導入されて培われてきた信頼性を背景に、アイコムの無線機は民間企業のBCP・防災対策でも高い存在感を発揮してきた。特にLTE通信とデジタル簡易無線による直接通信の2つの通信方式を兼ね備える「IP700」は、自動車や製鉄などの大手メーカーの工場等にも導入が進む。同社の八田恵梨子主任(以下同)は「従来のトランシーバーは他の人が話していると割り込んで話せないが、IPトランシーバーなら相互同時通話でき、携帯電話と近い感覚で話しやすい。一方で携帯電話と異なり複数相手に同報発信できる点も強み。普段使いと災害用の双方で活用したい現場でのMCA無線の代替として強くおすすめしたい」と説明する。

LTE通信とデジタル簡易無線を1台に集約したハイブリッドIPトランシーバー「IP700PLUS」
加えて、auとNTTドコモのデュアルSIMによりキャリア冗長化。携帯電話網が全滅した場合でも、端末同士で直接電波を飛ばす簡易無線モードにより見通し数キロ圏内のローカル通信を維持。常時冗長化を叶える。増波(令和5年度制度改正)対応モデルであり、IP700の後継機種「IP700PLUS」は利用可能チャンネルが大幅に増えており、混信リスクを低減したスムーズなグループ通信が行える。
一方、地上の全インフラが遮断される山間部や沿岸部、極限の災害現場においては、低軌道衛星を利用した「IC-SAT100」が地球規模の通信網として機能。ボタン一つで一斉同報通信を行えるPTT(Push-to-Talk)機能で、確実な全社指示体制を構築できる。他の通信衛星とくらべて音声遅滞が少なく、リアルタイムな通信ができるのも特長だ。セキュリティ強度の高い暗号化方式「AES256bit」対応で、通話による情報漏洩を防ぐ。

世界規模で同報通信でき、海外拠点もカバーできる「IC-SAT100」
■ 決め手は冗長性と堅牢性
水害による冠水、火災現場の粉塵、落下衝撃など、災害現場は汎用スマホや一般的な端末では耐えられない環境となる。IP67/55/54の防塵・防水性能と米国国防総省のMIL規格(MIL-STD-810G)に適合した堅牢設計や、騒音下でも明瞭に聞き取れる1500mWの大音量スピーカーなど、業務専用機ならではのハード性能が、土壇場での信頼性として高く評価されている。「製品選定の導入の際も、堅牢性と通信の多重冗長性が決定打となるケースが多い」と言う。
MCA無線の停波を機に問われているのは、「いかなる事態でも通信を孤立させない」システムの再構築。インフラ依存を脱却し、多層的に冗長化された通信ソリューションが次世代の防災・工場リスク管理には必須となる。
シーエープラント、ガス発電機で工場BCP高度化
燃料劣化ゼロと定額保守で停電リスク克服
デジタル化や自動化が進む製造現場では、ひとたび停電が発生すれば生産ラインがストップし、製品破棄や納期遅延、サプライチェーン分断といった大きな経済的損失に直結する。非常時の電源確保の重要性が高まる一方、従来の非常用電源の運用が負担になっている企業は多い。そうした課題を解消するのが、シーエープラント(京都府京都市)が展開する米・GENERAC社製の非常用ガス発電機だ。

LPガスは28~170kWまで、都市ガスは28~1000kWまでの容量に対応する「INDUSTRIAL SERIES」(画像は150kW対応機)。同社では家庭・オフィス向けから大規模工場対応機までラインナップする
BCPにおいて非常用発電機に求められるのは「72時間(約3日間)」の電源維持。現在、事業所に設置されている非常用発電機の多くはディーゼル式だ。しかし軽油などの燃料は酸化し経年劣化が進むため、本来は定期的な交換などが不可欠となる。 3日間分に相当する大量の燃料の入れ替えコストや危険物取扱責任者の配置義務など、現場の負担は決して軽くない。シーエープラントのエネルギー事業部・宮﨑秀和統括部長(以下同)は「LPガスや都市ガスを用いるガス発電機なら、燃料が劣化せず長期間の備蓄が可能。燃料の補給を想定した運用は、補給が受けられなった場合に発電機が燃料切れになり稼働継続ができない恐れがある。発電機の稼働時間に合わせて燃料を備蓄しておくことで、停電時に安定した電力供給が可能になる。また、ガス供給設備の管理責任は供給事業者側が負うため、残量の監視も不要で安全かつ現場の負荷を大幅に軽減できる」と運用面の大きなメリットを語る。
「介護施設や病院、工場などを中心に、導入実績は全国1000件を超える。新規だけでなく、設備更新や増設の要望もかなりある」。非常用発電機のニーズが高まる中、フルメンテナンス保守契約も注目を集める。24時間遠隔監視や年次点検整備に加え、万一の重故障に伴う高額修理費用まで年間定額料金の範囲内で完全補償する。「導入後の保守は非常に重要。機械設備はどうしても不具合のリスクをゼロにはできないため、突発的な故障に伴う高額出費リスクを排除し、10年単位のランニングコストを明確化できる点が経営層に支持されている」。
また、昨今のカーボンニュートラル推進の背景下で、環境面でも硫黄酸化物(SOx)を排出せず、排気が無色透明で臭気も抑制。天然ガスではCO2排出量を約3割程度削減できる。「非常用設備は長期間にわたり保有する設備。BCP強化と環境方針を両立させたい企業にとって有力な選択肢となる」と宮﨑統括部長は説く。
実効性への信頼は現場の声にも表れる。台風停電に見舞われることが多い沖縄・宮古島のリゾートホテルでは「停電後約20秒で発電機が自動送電し、台風の最中に屋外へ出ることなく客室空調や照明が維持でき、お客様サービスを止めずに済んだ」と安心感が寄せられた。このほか大規模飼料工場では、耐震性の高い中圧都市ガス配管を活用し、625kVA×2台(計1250kVA)の並列運転システムを構築。出荷ラインを止めない大容量電源を確立した。「7月の熊本地震発生直後には社長や役員、エンジニアらが有志で現地へ急行し、納入先30数カ所を直接訪問して点検やガス漏れチェックを実施した」と被災地の顧客に安心を届けた。
地震や豪雨災害により長期停電への懸念が広がる中、「より長時間の電力供給を求める企業にとって、燃料の長期保管・運用面に強いガス発電機の優位性は大きい」と存在感はますます高まりそうだ。

エネルギー事業部 宮﨑秀和 統括部長
ユニフロー、「開閉性」「防火性」両立のスライドドア

ユニフローが用意する防火タイプのスライドドア
火災の延焼を食い止める防火区画の整備は、BCP対策の基本となる備えである。スイングドアで国内シェア85%を占めるユニフローは、軽い操作で誰にでも開けやすいハンガー式の軽量引き戸「スライドドア」に防火設備に対応した製品を用意する。
外付けタイプの「SBF」「SRF-J」は、壁面外付式で施工しやすい防火戸だ。軽く引くだけで開き、通過後はスプリング式の自動閉鎖機構によりゆっくり静かに閉まる半自動タイプ。床にレールや溝がなく、車椅子やベッドも楽に通行できる。介護施設・クリニックの配膳室や薬品工場、厨房などの間仕切りに向く。
SBFは国土交通大臣認定品(認定番号EB-2987-1)で、網入りガラス入りの防火設備として20分間の耐火性能を持つ。SRF―Jは平成12年建設省告示第1360号が定める構造を用いた例示仕様の防火設備である。有効開口はSBFが幅600~1335㍉、高さ1100~2100㍉。SRF―Jが幅600~1330㍉、高さ1800~2100㍉。
一方、結露軽減タイプの「SRF―Jnc」は業界初の結露軽減仕様の防火設備戸。中温度帯(10~25℃)での結露を抑え、虫やカビの発生予防につなげる。避難安全検証法に対応する防火設備適合品で、防熱扉より軽く、片手で開けられる点も特徴だ。
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(日本物流新聞2026年10月10日号掲載)
執筆:モノクエ編集部
本記事は、創刊70年超のモノづくり専門紙「日本物流新聞」の編集部が制作しています。製造業に精通した専門記者が、現場取材に基づいた正確で鮮度の高い情報をお届けします。