DX(デジタルトランスフォーメーション)が導く製造業の未来〈3〉

DXの波が押し寄せる製造業において昨今、企業の垣根を超えた新たなモノづくりへの取組みが生まれています。「Industrial Value Chain Initiative(インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ)」が提唱する「つながる工場」などがまさにそう。しかしその一方で、経済産業省からは「国内企業の大半はDXへの取組みが不十分」と警鐘を鳴らす動きも。ビジネスのあり方が急速な変化を遂げるなか、企業はどのようなアクションを取るべきなのでしょうか。

【画像1】企業間の協調領域が新たなモノづくりを生む
【画像2】IVIが提言する「つながる工場」のイメージ
【画像3】20年10月時点で診断結果提出企業(約223社)の9割以上がDXにまったく取り組めていないレベルか、もしくは散発的な実施に留まっている状況にあることが明らかに
【画像4】DXレポート第2弾では、DXに向けて企業の取り組むべきアクションを超短期・短期・中長期の3つに分けて提示

企業の垣根を超えた「つながる工場」とは?

協調領域でのビジネス連携へ

製造業の垣根を越えた、新たなモノづくりへの取り組みを提案しているのが「Industrial Value Chain Initiative(インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ=以下IVI)」。81社の大企業をはじめとする256社/団体で構成されている同フォーラムは、製造業における企業間の協調領域を模索しています。

オープン&クローズ化、製造のサービス化、そしてICT活用による「つながる工場」をキーコンセプトとして掲げるIVI。この「つながる工場」の大きな特徴は、モノをつくるプロセスが企業を超えて相互に連携するということです。

これまでのサプライチェーンは多くの場合、異なる企業間での取引として、モノを介した売り買いの関係でつながっていました。これに対して製造プロセスがダイレクトに連携するようになると、素材、部品、モジュール品、そして製品といった単位での取引のみならず、中間品や仕掛品といった単位でのやりとりや、製造プロセスを部分的に委託するという形態がこれまで以上に柔軟に実現するようになります。

こうした製造プロセスの外部委託は従来、いわゆる製造業の下請けとして、中小企業や小規模企業が担ってきました。そこでの価格決定権は委託側にあり、さらには製造プロセスを決定し、評価するのも委託側であるわけです。しかし、IVIが掲げる「つながる工場」は対等、あるいは場合によっては受託側が優位な立場でサプライチェーンを構成。「これにより、高度な加工技術やきめ細かな生産準備、素材技術や要素技術をもった企業が、さらにその技術を磨くことに専念できる。また、今後ますます増える多種多様な製品化ニーズ、個別の顧客要求に対応して、設計と製造が企業の壁をこえて一体となったモノづくりが実現する」といいます。

カイゼンとICTの融合

「つながる工場」を実現するためには、企業を超えたモノづくりの標準化が欠かせません。特にインターネットを利活用したビジネス連携や製造プロセス連携を行う場合、「ICTとしてどのレベルのどういったデータを対象とし、何と何をつなげるべきか」といった議論を、あらかじめ十分に行っておく必要があります。「我が国の製造現場の強みとしては、生産技術、生産準備といったエンジニアリング力があげられる。製造現場を核とした設計、製造、保全といったエンジニアリングチェーン上のプロセス連携を、ICTを用いて効果的に行うことが新たな飛躍のきっかけとなる」(IVI)。

新しい時代の「つながる工場」は、まずはニッチトップ製造業、サポイン製造業など、中堅、中小製造業へ新たな活躍の場を提供します。そして同時に、大手製造業やデバイス系部品企業などに対しても、新たなニーズや市場を生み出すことが可能です。さらには、製造プロセスを実行する現場が国や地域を超えてさまざまな立地環境で自律分散的に拡大していくことで、設備機器メーカー、工作機械メーカー、システムインテグレータといった業界にも経済的な波及効果が期待できます。

「モノづくりは結局のところ、現地・現物・現実とのインタラクションと、人が主体的に行なうカイゼン思考の存在が不可欠であるということを日本の生産現場は知っている」とIVIはいいます。「それをデジタルといかに融合させるということが今後、重要になってくるだろう」(IVI)。

経産省のDXレポート、第2弾の衝撃

日本の企業のDX推進の取組は、全く不十分なレベルにある―経済産業省がこんな危機感をあらわに示したのは、年の瀬も迫った昨年12月28日。経産省が発表した「DXレポート2 中間とりまとめ」の一文です。18年9月に発表した「DXレポート」では、ブラックボックス化した旧来の基幹システム(レガシーシステム)がDXの足枷になり、25年以降、最大毎年12兆円の経済損失が発生するという「2025年の壁」が提唱され話題を呼びましたが、状況はあまり変わっていないということでしょうか。25年の「崖」が迫る中、レポートをもとに企業の取るべきアクションを探ります。

企業のDX、9割が未着手か不十分

レポートによると、経産省のDX指標で企業が自己診断した結果、20年10月時点で診断結果提出企業(約223社)の9割以上がDXにまったく取り組めていないレベルか、もしくは散発的な実施に留まっている状況にあることが明らかになりました。コロナ禍前の19年とあまり変わっておらず、「テレワークなど既存業務での部分的なデジタル化に留まり、データ・デジタル技術を活用したビジネスモデルの変革=DXの本質にまで至っていない」というのが実情のようです。

研究会では「背後に自己診断以前の企業が数多く存在することを考えれば日本企業のDXレベルは全く不十分なレベル。ビジネスにおける価値創出の中心は急速にデジタルに移行しており、今すぐ企業文化とビジネスを変革できるかどうかで、デジタル競争における明暗がさらに明確になっていく」と警鐘を鳴らしました。

さらに2年前に発表したDXレポート第1弾については、「メッセージが正しく伝わっておらず、『DX=レガシーシステム刷新』、あるいは、『現時点で競争優位性が確保できていればこれ以上のDXは不要である』等の本質ではない解釈が是となっていたとも言える」と分析します。

では、本来提示したかったDXとは何なのでしょうか。研究会では、「DXは単なるITシステム更新ではない。レガシー企業文化から脱却し、データとデジタル技術を活用して迅速に変わり続ける能力を獲得したデジタル企業(デジタルエンタープライズ)に至るまでの変革プロセスこそDXの本質だ」と改めて位置付けます。

また、DXに向けて企業の取り組むべきアクションについては、超短期・短期・中長期の3つに分けて提示しました。直ちに取り組むべき「超短期」のアクションは、業務環境のオンライン化、従業員の安全・健康管理のデジタル化、業務プロセスのデジタル化、顧客接点のデジタル化―など、今回のコロナ禍で導入が進んだ分野でもあります。

続く「短期」のアクションは、本格的なDXを進めるための体制整備が主体。具体的には部門の壁を越えた自社DX戦略への共通理解の形成や、戦略の策定、推進状況の把握などがあります。「中長期」のアクションは、内製アジャイル開発体制や、DX人材確保・育成の戦略など、環境変化に迅速に対応した製品・サービスを市場に提供し続けるための能力獲得に至る取組みです。

経営トップのリーダーシップ

こうした3段階のアクションのなかで、研究会が最も強調したのは「経営トップのリーダーシップ」の重要性でした。研究会では「経営者にはアジャイルマインド(俊敏に適応し続ける精神)や、心理的安全性を確保すること(失敗を恐れない・失敗を減点としないマインドを大切にする雰囲気づくり)が求められる。それが短期的、中長期的対応の取組への発展につながる」とします。こういった経営トップによるリーダーシップの重要性はDXレポートの第1弾でも繰り返し指摘されており、複数の部門を跨いだデータ活用を加速するためには、全体を俯瞰できるトップの参画が必要不可欠といえるでしょう。

中小企業向けのDX促進策も用意されています。中小企業の実態に即した新たなDX推進指標を用意するほか、同指標による自己診断を各種補助金の要件とする考えです。DX推進に向けた準備を整え「DX認定」を取得した中小企業への低利子融資制度も検討中といいます。また、21年度税制改正には既に、DXへの投資額の最大5%を法人税から控除できる制度も盛り込まれています。

とはいえこれらの促進策はあくまで補助的なもの。DX推進の主体があくまで個々の企業であることは言うまでもありません。DXに乗り遅れる企業と、デジタル技術を武器に飛躍を果たす企業とでは競争力に決定的な差が生まれるとも言われています。変革の波が迫るなか、表面的な施策に留まらない、本質的な意味でのデジタル改革を断行できるのか。企業はDXの実現に向けた本気度を試されています。

ーDX(デジタルトランスフォーメーション)が導く製造業の未来〈終〉

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