AI使ってますか?

史上最速で普及したアプリとされるのが対話型AI(人工知能)サービス「ChatGPT」だ。この生成AIを一度でも使った人ならその「自然な回答」と「回答の速さ」に驚いたことだろう。テレビのニュース原稿の読み上げ、製品やサービスについてのチャットボットによる回答など、気がつけばAIは我々の生活にどんどん入り込んでいる。本紙でもイメージ写真の生成や音声データの文字化などでAIを利用するようになった。

「製造」「金融」で利用進む

ただ、米国に比べると日本の生成AIの利用は遅れている。データサイエンティスト協会が昨年8月に一般ビジネスパーソンを対象に実施した調査によると、「トライアル中」「利用を検討中」を含めた日本の業務での利用は20%にとどまり、米国の42%とは倍以上の開きがある(20~69歳が対象。サンプル数は日本2000、米国1000)。IT、DXで遅れているのにAIでもとなれば日本は本当に危うい。

法制化の動きが具体化している。欧州連合(EU)は3月13日、世界初となるAIを包括的に規制する「AI法案」を欧州議会で賛成多数で可決した。今後EU理事会で正式に採択された後に順次施行される見通しで、2026年中の全面運用を目指す。この法案では基本的人権や民主主義にどの程度のリスクを及ぼすのか、リスクごとにAIの利用方法を4つに分類。リスクが高ければ使用を禁止し、リスクを緩和するためには義務を課す(義務を履行しなければ制裁金を科す)という。

日本は昨年、主要7カ国(G7)でAIの国際ルールづくり「広島AIプロセス」を主導し、合意を取りつけたが、法制化では他国に後れをとっている。

■デザイン案の生成に

リスクに配慮する必要はあるが、AIの導入ハードルは低いと言える。少し前のAIだと、導入するのにある程度の知識が要求されたが、昨今の生成AIはだれでも扱える。問題は単体で使われることが少ない生成AIを他のソフトとどう連携させて利用効率を高めるかだ。

冒頭、日本での生成AIの利用は遅れていると記したが、業界によって差がある。野村総合研究所の調査によると、「製造」「金融」は業務への導入が進んできた。製造での用途としては製品デザインの自動生成がある。トヨタ自動車が設立した研究所、トヨタ・リサーチ・インスティテュートはデザイナーのスケッチから空力性能を最適化した複数のデザイン案を生成する画像生成AIを開発。物理制約を満たすデザイン案を迅速に生み出し比較検討する。伊藤園は昨年9月、「お~いお茶カテキン緑茶」のパッケージデザイン作成に生成AIを活用したという。

積極的に活用する町工場も現れはじめた。ヘッダー金型メーカーのニッシン・パーテクチュアル(埼玉県春日部市、1973年創業)は社内文書の作成にAIを利用し、この経験を基に社外に対しコンサルティングを始めた。2代目の中村稔社長は「自社の補助金申請のための書類にもAIを使っている」と明かす。
「次のステップは3Dモデルのデザイン生成。中小モノづくり企業の強みは加工できることだが、その前の工程も自動化できる。『一発逆転しようよ』と周囲の企業に啓蒙的に呼びかけている」

■差別化要素はF1と同じ

ふと疑問が生じる。こんなふうにAIが各社で同じように使える共通のツールとなれば、他社との差を生み出しにくくなるのではないか。(一社)人工知能学会の栗原聡副会長(慶應義塾大学理工学部教授)にそう問うと、「差別化要素は時間とスピード。自動車レースのF1と同じだろう」と言う。どういうこと?
「同じレギュレーションで何を競うかということ。ChatGPTがエンジンだとしたらシャーシーやタイヤがあってメンテナンスする人間もいる。たとえ使っているものが同じであっても、タイヤ交換のタイミングや交換のスピード、給油にかける時間で優劣が出る」

栗原副会長は無駄を削るためにAIをどんどん使って本来のモノづくりに集中するのが得策だろうと結論づける。


(日本物流新聞 2024年3月25日号掲載)

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