使える自動化

労働人口の不足から自動化は待ったなしの課題だ。本紙が年初、「いま一番の困りごと」をメーカー幹部にヒアリングしたところ、「人材確保」「人材育成」「自動化」「DX、AIの活用」が多くを占めた。

【画像1】タイトルイメージ(安川電機)
【画像2】ファナックの「M-950」
【画像3】SMCの空圧式グリッパー
【画像4】シュンクの電動グリッパー
【画像5】イグス・国盛化学

中小企業こそロボット導入すべき?

EVバッテリーを運ぶ安川電機のスカラロボット「MOTOMAN-ME1000」

自動化に貢献するのは何もロボットだけではない。工程集約を意識した5軸加工機や複合加工機、簡単操作で高品質切断の再現性が得られるレーザー加工機。ガントリーローダー、コンベヤ、3Dカメラといった周辺機器も強い武器になる。

中小製造業も自動化を進めている。鋼材加工のクマガイ特殊鋼(愛知県名古屋市、1913年創業、社員約60人)はレーザー加工機を使って生産性の向上と人手不足の解消を両立する。4年前に購入した三菱電機の8kWファイバーレーザー加工機のソフトを更新して2.3〜25mm厚の鋼材を高品質にカットできるようにした。アップデートしたのは仕事の効率化だけが目的ではない。熊谷憧一郎社長は職人技能の継承が大きいと話す。

「厚板の切断に用いるガス溶断は、作業者が一人前になるのに時間がかかるのが難点だった。火力の調節が難しく十年選手と新人では大きな差があり、人材確保も難しい。データで制御できるレーザー加工機なら誰でも同じ品質でカットできる」

ロボットは量産する大手企業向けと考えられがちだが、少量多品種生産の中小企業こそロボット導入をすべきだ―。そう訴えるのはロボットSIer、高丸工業(兵庫県西宮市)の高丸正社長。「ロボットは本来、少量生産用に開発されたもので、中小ユーザーに向く」。プログラムを変えればロボットは違った動きをするし、そのデータは残り使い回せるからだ。手書きからパソコン仕事に移ったのとちょうど同じことだという。

■どデカい産ロボ

産業用ロボットの可搬質量が増している。EV用バッテリーやギガキャスト成形品の搬送を想定してのことだろう。安川電機が開発した実に1t可搬のスカラロボット「MOTOMAN-ME1000」は巨大なフォークリフトを想起させる。やみくもに大きくしたわけではない。同社のスカラ型は数kg可搬にとどまっていたが、EVバッテリーの搬送向けに開発を進めたところ、省エネ性(同クラス機に比べモーター容量を60%削減)や省スペース・小型化(設置面積と本体質量を40%低減)を考慮するとこのタイプにたどり着いたという。

剛性と軌跡精度の高さをウリにするKUKA Japanもバッテリー搬送用に640kg可搬の「KR640 R2800-2 Ultra」をラインナップする。大型機の腰の位置あたりにあり、アームを後ろに引くカウンタ・バランスシステムを左右の2つに増やし、「ユーザーさんが嫌がる、ワークがプルプル震えるのを防いで安定性を高め、動きは滑らかにした」と言う。

ファナックはギガキャストの広がりを意識し、500kg可搬の「M-950」を用意する。このクラスで背面に2本見られるアームを1本にしたシリアルリンク機構を採用し、「可動範囲を2.5〜3倍に広げ周辺機器との干渉を避けられる」特長をもたせた。昨年12月に開かれた国際ロボット展ではラックにかかった、揺れ動く自動車サイドパネルをビジョンセンサーでその傾きを把握して掴んで運び、設置する様子を見せた。

自動車サイドパネルを運んで設置するファナックの「M-950




■グリッパーとケーブル管

機能強化が進む周辺機器にも目を向けたい。(一社)日本ロボットシステムインテグレータ協会が2月28日、ロボットSIer向けに都内で開いた新製品説明会で、空圧機器メーカーのSMCはアーム先端に取り付ける空圧式グリッパー「弾性フィンガ」を紹介した。形が不揃いの対象物を薄いゴムまたはシリコンの板2枚で両側から挟んで掴む。「マカロンや唐揚げ、多様なサイズがあるPETボトルなどを確実にキャッチする。協働ロボットでも産業用ロボットでも専用装置でも使える」と言う。板は約80mm角の大きさだが、「今後4種ほどにサイズを増やし、リンゴやスイカも掴めるようにする」と意気込む。

SMCの空圧式グリッパー「弾性フィンガ」

シュンクが昨春発売した電動グリッパー「EGU」(ヘビー用)、「EGK」(ソフトグリップ用)は動きの速さ・状態・トルクを柔軟に制御できるのが特長。グリッパーはサーボモーターと減速機を内蔵し、「電気と通信の線をロボットにつなげばロボット側のプログラム内容がグリッパーに伝わる」と言う。

シュンクの電動グリッパー「EGU」(左)と「EGK




ケーブル保護管が進化を遂げた。イグスが今年発売した「TRX」(外径65mm)は伸縮し、最大36%の長さ補正が可能だ。同社は「ロボットアームの回転などによりケーブルが余って垂れ下がり、動きを干渉することがある。巻き取り機構をアームに背負わせることもあるが、それ自体が邪魔になる」と開発の背景を話す。保護管の伸縮は簡単そうに思えるが、内部のケーブルも同じように伸び縮みする必要がある。そこでケーブルをスパイラル状に管内に納め、ケーブルが伸びる際には直線形状になるように管がひねる動きをするようにした。

イグスの伸縮するケーブル保護管「TRX




激しく動いても音を出しにくい保護管もある。国盛化学のケーブルチェーンはリンクレス(繋ぎ目のない)構造としたことで滑らかに動いて振動を抑え、音・摩耗・発塵を発しにくい。

国盛化学の音・摩耗・発塵を抑えたケーブルチェーン

(日本物流新聞 2024年3月25日号掲載)

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