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技術を出品できる製造業フリマサイトが登場

投稿日時
2026/04/28 09:40
更新日時
2026/04/28 09:43
ASNARO検索画面

町工場同士が空き時間をシェアリング

工場が密集する中部圏。多様な産業構造を持ち、世界屈指の産業基盤の強さを誇りながら、強固なサプライチェーンであるがゆえに隣の会社が何をしているか知らないということも多い。長年、特定の親会社と向き合ってきた町工場にとって、地域は「近いようで遠い」存在でもあった。日本の製造業を支える巨大なサプライチェーンの足元で今、一つの工場が始めた試みが、製造業の受注のあり方に一石を投じている。大型金属加工を手掛ける丸菱製作所(愛知県春日井市)が運営する、加工受発注プラットフォーム「ASNARO(アスナロ)」だ。


丸菱製作所は三菱電機向けエレベータの主要サプライヤーとして、特注エレベータ部品や工作機械の大型フレームを一貫生産する実力派だ。しかし、三代目となる戸松裕登社長が直面したのは、多くの中小製造業が抱える限界だった。

「この設備が壊れたら、もう事業をやめる」。2018年の米中貿易摩擦の最中に届いた、協力会社の悲痛な叫びだった。仕事が減り、先行きの保証もない。価格も下がる一方。「30年かけて元を取るような設備投資など、今はとてもできない」。設備更新を諦める協力会社の姿に、戸松社長は危機感を抱いた。製造業の振興策として銀行や行政は、「自社製品の開発」や「新規顧客の開拓」を説く。しかし、設備投資に数千万円を要する装置産業において、一社が抱えられるリスクには限界がある。

戸松社長が描いたのは、自社の技術リソースや遊休設備の状況を広く市場に開放し、自社の空き時間を他社に提供し、逆に自社が対応できない案件を他社に振る。稼働を平準化させる「技術のシェアリング」の仕組みだった。

「技術を出品できる製造業のフリマサイト」をうたうASNARO(アスナロ)の特長は、徹底した現場視点のインターフェースにある。多くのビジネスマッチングが会社情報を掲載するに留まるのに対し、ASNAROは請け負える「工程(技術)」をECサイトの商品のように並べる。

マンスリーカレンダーによる稼働の可視化もその一つ。旅行予約サイトや飲食店情報サイトを彷彿とさせる「空き状況」の表示は、直感的に「今、頼める先」を気軽に探せる仕組みになる。双方向の「技術フリマ」である点も興味深い。 忙しい時は発注側に回り、暇な時は受注側に回る。1500円の小口から90万円の案件までが混在し、高い流動性を生み出した。登録料・月額利用料ともに無料で、実際に仕事が動いた分だけASNAROに手数料を支払う仕組み。この手軽さが、IT投資に慎重な小規模企業の背中を押す要因となっている。

■中部圏15%の町工場が登録中

現在、愛知・岐阜・三重の3県には約6500社の町工場が存在するが(帝国データバンク調べ)、ASNAROの登録社数はすでに1020社を超えた。加工現場のみならず、設計会社や商社、試作メーカーといった多様なプレイヤーがこのプラットフォームに集う。既存の固定的な系列を超え、案件ごとに最適な設計・調達・加工の座組みを即座に構成できるのも強みだ。

面白い話も聞いた。仕事を受ける上で地理的な「近さ」が発注の動機になることは多いが、距離の壁を超えて価格や技能を優先する取引もあるという。例えば、特定の地域の景気が良く見積もりが高騰している場合でも、少しエリアを広げれば、供給力に余裕があり、落ち着いた価格で引き受けてくれる企業が見つかる。また、「大型の特殊加工」といった他にない強みを持つ工場には、広島や神奈川など県境を越えた遠方からも注文が舞い込む。突き抜けた特長を持つ町工場は、自分たちの価値を高く評価してくれる相手と繋がれるようになっている。

戸松社長は、自社の作業着で自らどぶ板営業を繰り返し、100社、200社と仲間を増やしてきた。「同じ中小製造業の立場だからこそ、心を開いて話を聞いてもらえた」と振り返る。銀行や行政のビジネスコンテストで受賞したことも認知や信頼度のアップに繋がった。

「かつての課題は後継者不足でした。一方で今の時代の課題は『経営者が未来を見られないためのあきらめ廃業、親が子に継がせたいと思わない』に変わりつつあります」(戸松社長)

ASNAROの目指すところは、『我々町工場が継続できる枠組みを作ること』で、次の世代に繋ぎたいと思える現状を作ることです」という。従来の取引先とのつながりを維持しつつも、技術や工程が自律的な価格で取引されるエコシステムの確立。閑散期をなくし、柔軟なサプライチェーンを構築することが、未来に向け、新たな設備更新や技術を取り込もうとする気概にも繋がる。

ASNARO丸菱製作所戸松裕登01.jpg

ASNAROを運営する丸菱製作所 戸松 裕登 代表取締役社長

(日本物流新聞2026425日号掲載)