【2026年最新BCP】製造業のサプライチェーンを守る「実践的対策」とは?
- 投稿日時
- 2026/08/06 17:35
- 更新日時
- 2026/08/06 18:12
災害・サイバー攻撃・停電リスクへの備え
先月末、熊本地方を襲った最大震度7の地震の影響により、部品メーカーが被災したことで自動車メーカー各社の工場ラインが全国規模で停止に追い込まれる事態が発生した。まさに「サプライチェーン断絶の危機」の渦中にある。近年、能登半島地震などの相次ぐ自然災害をはじめ、中東情勢を巡る地政学リスクや海運ルートの混乱、さらには製造業を狙うサイバー攻撃の猛威など、供給網を揺るがす脅威は頻発・長期化している。本特集では、非常用発電機やセキュリティ機器といった現場を支える物理的・情報的インフラまで、非常時に「克つ」実践的なBCP構築の最適解を探る。
中東情勢の緊迫化に伴う物流遅延や、日本列島を襲う大規模地震、ゲリラ豪雨、超大型台風。世界的な不確実性の高まりによって露わになったのは「自社拠点さえ無事であれば事業を継続できる」という時代の限界である。性質の異なる非常事態のリスクが相次いで顕在化する今の製造業において求められるのは、供給網全体を俯瞰し、有事においても事業を止めない実効性、「実践」の強さだ。危機管理を排除すべき「コスト」ではなく、取引先や市場からの信頼を勝ち得て競争力を生み出す「戦略的投資」と捉え直す局面を迎えている。
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■中堅企業の策定率5割突破と「実践」への壁
内閣府が3月に公表した「令和7年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」によると、国内企業におけるBCPの策定率は大企業で75.8%(前回比0.6ポイント減)と、引き続き高水準を維持している。中堅企業の動向としては、策定率は54.8%(前回比9.3ポイント増)と急伸し、策定中(11.1%)を加えると65.9%と、策定が着実に進んでいる。
業種別では、金融・保険業(82.2%)や建設業(75.7%)に加え、製造業も66.3%と堅調な数字を示している。しかし、計画を策定した後の「実践」段階、とりわけサプライチェーン(SC)強靭化や企業内または企業間の代替生産といった実行フェーズに入ると、まだまだ取り組みを行っている企業は少ない。SC強靭化に対する具体的な取り組みについては、大企業及びその他企業では「仕入先の複数化」が最も高く、中堅企業では「仕入先への確認(リスクコミュニケーション)」が最も高くなっている。大企業が「動的なBCP」へと舵を切る一方で、中堅・中小企業では人員やスキルの不足から実践的な代替戦略に踏み出し切れていない。取引先の被災や物流網の断絶といった間接的被害に対して即座に動ける体制を構築できるかが、今後の企業信頼度を左右する分岐点となる。
■企業が急ぐ「初動対応」と「IT基盤維持」の備え
急速に変化し複雑化していく世情の中、想定リスクも変化が見られる。帝国データバンクが公表した「2026年の事業継続計画(BCP)に対するアンケート調査」によると、事業継続を脅かす想定リスクとして最も多く挙げられたのは「自然災害」(67.8%)。激甚化する地震や風水害を背景に、多くの企業が自然災害を最大のリスクと捉えている。次点が「情報セキュリティ上のリスク」(50.2%)であり、前年調査(46.1%)から着実に上昇した。特筆すべき変化は、前年比で9.0ポイント増となった、供給制約を含む「物流の混乱」(36.5%)だ。相次ぐ大手企業へのサイバー攻撃や国際情勢の悪化など、多方面のリスクが同時かつ連鎖的に発生することが日常化しつつある。【下の表】

こうした複合リスクに対し、企業が重点を置く対策は「初動対応」と「IT基盤の維持」の2点に集約される。有事において従業員の生命を守り混乱を防ぐため、安否確認システムの整備や現場の安全確保といった「初動対応」の徹底を図る企業は多い。加えて、業務のデジタル化が進んだ現代においては、システム障害やデータ消失が即座に操業停止へ直結する。バックアップ体制の強化やデータセンターの冗長化をはじめとする「IT基盤の維持・保全」を重視する動きが急速に強まっている。
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サイバー空間における供給網強化として、経済産業省と内閣官房国家サイバー統括室が主導する「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度(SCS評価制度)」の構築が進んでいる。セキュリティ対策が手薄な中小企業や子会社を踏み台にする「サプライチェーン攻撃」の急増を背景に、共通の評価基準を設けて安全性を可視化・証明する枠組みである。評価レベルは★3から★5(最高水準)の3段階で構成され、従来の統一性のないチェックシートの記入負担を大幅に削減する。本年度中の本格運用開始を目指しており、本制度の導入により、セキュリティ対策は単なるコストから「取引継続や新規受注を獲得するための戦略的投資」へと位置づけが大きく変化する。
今の製造業におけるBCPは、こうした「新時代」の有事にも即座に機能する「実践」の段階へと明確にシフトしている。激甚化する自然災害や地政学リスク、サイバー攻撃といった高度で複雑な脅威に対し、自社のみならずSC全体を防御する取り組みが不可欠だ。非常事態においても供給責任を果たせることは、「市場における優位性」をもたらす時代となっている。
ダイヘン、国内初認定「防災用蓄電池」で非常用電源刷新
平常時ピークカットでTCO11%減、低騒音で排気ゼロ

防災用蓄電池パッケージ
大規模災害の激甚化に伴う停電リスクの増大により、人命や生活インフラを守る非常用電源の重要性が高まっている。不特定多数の人が出入りする建物や災害時に避難援助を必要とする要介護者が利用する施設には消防法に基づき非常用電源の設置が義務付けられているが、従来ディーゼル発電機が主流だった非常用電源の新しい選択肢として、ダイヘンが昨年末に上市した「防災用蓄電池パッケージ」が話題となっている。
最大の特長は、リチウムイオン蓄電池を搭載した常用・非常用兼用の蓄電池設備として「国内初となる消防認定」を取得した点。従来のディーゼル発電機は、稼働時に大きな騒音や振動、排気ガスが発生するため、設置場所や周辺環境への配慮が不可欠であった。それに比べ、同社の防災用蓄電池パッケージは70dB台の低騒音設計かつクリーンなため、これまで設置が難しかった環境にも導入しやすい。
■「眠れる電源」活用で、トータルコスト約11%削減
「国内のビルや工場、病院や公共施設に設置された非常用ディーゼル発電機は約20万台、総容量にして約2300万㌔ワット(全国の電力需要ピークの6分の1に匹敵)にも達するが、平常時は稼働しない『眠れる電源』となっている」と同社執行役員 服部将之EMS事業部長は指摘する。蓄電池パッケージは、平常時はピークカットと、電力量単価が安い時間帯の電気を充電し使用し、非常時には即座に非常用電源として機能することで、20年間のトータルコスト(TCO)を従来のディーゼル発電機に比べて約11%低減可能という大きな経済的メリットも備える。また、日常的に稼働させるため非常時の不始動リスクを大幅に予防できるなど、安定・安全な稼働という点でもBCP対策として大きな魅力を持つ。
こうした革新性と実用性が評価され、今年「ジャパン・レジリエンス・アワード2026」にて最高賞の「内閣総理大臣賞」を受賞するなど、大きな注目を集めている。
さらに同社は、独自の自律型EMS(エネルギー管理システム)「Synergy Link(シナジーリンク)」を各機器に標準搭載し、停電時には太陽光発電やEVと連携してマイクログリッドを形成、長期間の電源維持を実現するソリューションの展開を強化中。バックアップ電源という枠組みを超え、脱炭素時代におけるBCPとエネルギー最適化を力強く後押ししている。

同社執行役員 服部将之EMS事業部長
ヘラマンタイトン、虫害から蓄電池を守る防虫バンド
ケーブルに巻くだけのヘラマンタイトンの「虫除けグリップタイ」

再生可能エネルギーの需給調整役として系統用蓄電池の活用が進むなか、制御盤内などに対する虫対策の重要性が高まっている。ヘラマンタイトンの「虫除けグリップタイ」は、配線や配管ケーブルの通り道に巻くだけで、アリやムカデといった歩行性の害虫の侵入を低減できる面ファスナー式の結束バンド。
系統用蓄電池は屋外に設置される例も多く、わずかな隙間から虫が制御システム内に入り込みやすい。中にはアリなど強力な顎を持つ虫も多く、配線をかじるとショートやシステムダウンを引き起こす恐れもある。対策商品として、昨年夏の発売以降注目を集めている。
フック面のザラザラを虫が嫌うだけでなく、忌避成分エトフェンプロックスを配合しているため、虫がいっそう近づきにくい。気化ではなく接触により効果を発揮するため長寿命で、吸引や混入の心配も少ない。繰り返し外して結束し直せる点も使い勝手がよい。
やまびこジャパン、新発電シスでBCPと再エネ活用の両方を
太陽光・蓄電池・発電機を最適制御

マルチハイブリッドキューブに搭載している「K-EMS」がシステムを高効率に運用。太陽光を最大活用し、発電機をほとんど回さずにエネルギーを供給する
脱炭素社会に向けたGX(グリーン・トランスフォーメーション)と、頻発する自然災害へのBCP対策――。製造現場や建設現場、防災拠点において、急務となるこの2大課題を同時に実現するソリューションとして注目を集めているのが、やまびこジャパンが展開するshindaiwaブランドの「マルチハイブリッドシステム」だ。
同システムは、太陽光発電・蓄電池・ディーゼル発電機の3電源を統合制御し、天候や電力負荷に応じて最適な給電ルートを自動選択する。晴天時は太陽光で稼働し余剰電力を蓄電。曇天や夜間は蓄電池から供給し、電力ピーク時には発電機と連携して確実なピークカットを行う。
従来の発電機単体稼働に比べCO2排出量と燃料消費量を大幅に削減でき、非常時には発電機だけではなく太陽光と蓄電池を活用し、給油頻度を極限まで減らす。騒音やにおいも抑制できるうえ、災害時の燃料調達リスクや運搬負荷を軽減する。イベントや建設現場などの独立電源から避難所の非常用電源まで幅広い場面で活用できる。
システムの核となる「K-EMS(ケムズ)」は、電力量や燃料残量をリアルタイムで遠隔監視。国際セキュリティ規格「ISO/IEC 27001」に準拠し、現場に出向くことなく不具合検知や給油タイミングの自動通知を行う。管理負荷の軽減と予防保全をスマートに両立する本システムは、脱炭素時代の次世代BCPインフラとして高いポテンシャルを秘める。
阪神機器、有事に「水素発電」の選択肢
可搬型の水素燃料発電システム開発

阪神機器(神戸市西区)が開発した「Hydro. eLife」は、水の電気分解と逆の原理を利用した純水素燃料電池発電システムだ。CO2を出さず、副生物の水も内部の冷却水に再利用する無駄の少ない循環構造を持つ。起動時は内蔵バッテリーを使用し、以降は自力発電で連続稼働するため、水素ボンベさえ用意すればどこでも使える。出力は1㌔ワットと3㌔ワットを展開。発電状況はスマートフォンで確認可能だ。展示会場でキッチンカーへ給電するなど様々な実証を重ねており、「少し発電したい」という場面で使える手軽なクリーン電源として活用されている。
同製品は有事の非常用電源としても大きな可能性を持つ。一般的な水素発電機は大型かつ固定式が多いなか、本機は付帯設備を含めキャスター付きの可搬式だ。しかも稼働音は50dB程度とディーゼル発電機より大幅に静かで、避難所で問題になりがちな騒音や排ガスのにおいを解消できる。
最も一般的な充填圧力14・7MPa、容量7立方㍍の水素ボンベ1本で約10時間稼働する。取締役の黄勝義氏は「今年度を目途にリース提供を計画している」とする。
シーエープラント、燃料劣化・不始動リスク低減のガス発電機
小~大型機までラインナップ、供給網強靱化に

LPガス・都市ガス両対応の米・ジェネラック(GENERAC)社製のガス非常用発電機
自然災害の激甚化や、急激に地政学リスクが変化する中、サプライチェーンの要である製造現場では、供給網を途絶えさせないためのBCP対策が一段とシビアに問われている。シーエープラント(京都市右京区)は、米・ジェネラック(GENERAC)社製のガス非常用発電機を軸に、災害時でも操業を止めないサプライチェーンの構築手法を提案している。
ガス発電機は一般的な発電機に比べ、高い運用性と信頼性が特長だ。「ディーゼル発電機で懸念される不始動リスクは、燃料(軽油)の経年劣化やすすの堆積によるもの。ガス燃料なら劣化せず、すすの問題がほぼない。大規模災害時でも安全が確認できていれば、復旧が一番早いのはLPガス」と伊地知 祐吉代表取締役社長はBCP対策として有利だと話す。燃料管理のコストや負担が大幅に軽減される上、排気がクリーンで環境負荷が低い点も大きな強みだ。
同社が手がけるラインナップはLPガス・都市ガス両対応で、小型から1000㌔ワットを超える大型機まで幅広い。「足りない場合は並列運転システムでデータセンターなど、5000㌔ワットを越える大型需要にも柔軟に対応する」と伊地知氏。性能面では、0.015秒以下の高速切替機を採用し、瞬断を許さない精密機器や自動化ラインの稼働を強力にバックアップ。
設置・施工面でも、ガス漏れ警報器や自動遮断装置、換気・配管設備を含めた安全対策を徹底。地震やガス漏れ検知時の供給停止仕組みなど、環境に応じた安全対策を行う。メンテナンスも自社で手掛け、自社対応に加え、NECフィールディングとの連携による全国的な緊急駆けつけ対応など、保守体制も強固。介護施設や工場、病院を中心に全国で1400件を超える導入実績をもつ。
三和シヤッター工業、最大4500Paの高強度オーバースライダー

近年、台風の大型化や集中豪雨など自然災害の激甚化が進み、工場や倉庫などにおいても建物開口部の防災対策の重要性が増している。
三和シヤッター工業の高強度オーバースライダー「耐風ガードOSD」は、こうした強風のリスクに対応する。新型パネルの採用により強度を大幅に高め、従来品と比べ約2倍の耐風圧強度を実現。最大の耐風圧強度は4500Paを誇り、大型物流倉庫の上層階など、より強い風圧がかかる開口部にも設置できる。強度を高めた新型かまち材や大型ウェザーストリップも採用し、高い信頼性を確保した。
これまで大型モデルには設定のなかった手動バランス式を新たに用意し、用途に応じた選択の幅を広げた。パネルはアルミ、ファイバーグラス、両者を組み合わせたコンビネーションの3タイプを用意。台風シーズンの本格化を控え、施設と事業を守るBCP対策として注目したい。
ハタヤリミテッド、最大36時間点灯・全方位照射で非常時の明かりを確保

非常時における明かりの確保も忘れず用意しておきたい。災害時でも重要な現場作業を継続させるため、確実な照明設備の配備が求められている。
ハタヤリミテッドのキャスター付LED充電ライトセット「キリンライトセット」は、最大36時間(Low点灯の場合)点灯し、ターボ点灯時は全光束8000lmの明るさで現場を照らす。防塵・防水仕様(IP65)60WのLEDで、360度全方位照射に対応。屋内外を問わず用途に応じた明るさを届ける。
照明とバッテリーを一体化した移動台車仕様で持ち運びが容易なほか、3段までの段積み収納にも対応。設置時の安定性向上の「アウトリガー」を標準装備する。安全性が高く長寿命なリン酸鉄リチウムバッテリーを採用し、充電時間は約7.5時間。最大高さ2200㎜に達する独特の形状から「『ハタヤのキリン』と呼んで親しんでほしい」(同社)と話す。防災用途はもちろん道路や地下坑内工事など幅広い現場で活用できる頼もしい一品だ。
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執筆:モノクエ編集部
本記事は、創刊70年超のモノづくり専門紙「日本物流新聞」の編集部が制作しています。製造業に精通した専門記者が、現場取材に基づいた正確で鮮度の高い情報をお届けします。
(日本物流新聞2026年8月10日号掲載)