高齢者の労災防止努力義務化、人を守る現場づくりの最前線
- 投稿日時
- 2026/06/26 09:00
- 更新日時
- 2026/07/13 14:51
働く高齢者の労災防止を努力義務とする改正労働安全衛生法がこの4月施行された。関連する制度は昨年までに出そろい、企業に問われるのは「何をすべきか」より「どう実行するか」へと移っている。折しも現場では、シニアに加え女性や外国人など働き手の顔ぶれが多様化。高齢労働者に配慮した環境づくりは、そのまま誰もが働きやすい職場づくりへと広がる。義務化2年目を迎える職場の熱中症対策も、猛暑が常態化するなか待ったなしだ。実行力が試される今年、対応を後押しする最新ソリューションを追った。
製造や物流の現場で、働き手の顔ぶれは大きく変わりつつある。総務省の労働力調査によると、2024年の雇用者に占める60歳以上の割合は19.1%と、およそ5人に1人。女性や外国人の就業も広がり、外国人労働者は過去最多の230万人を超え、就業者の3.4%を占めるまでになった。

そのおかげもあって、労働力人口は近年むしろ増えている。しかし、裏を返せばこの支えが頭打ちになれば減少に転じる。既に生産年齢人口は全国で減り続けており、労働参加がこれ以上広がらなければ、労働力人口は40年に約6000万人(24年は約6957万人)まで縮むとの推計もある。
限られた人材で現場を回す時代だからこそ、迎え入れた一人ひとりに長く、安全に働いてもらうことが欠かせない。だが現実には、労働災害(労災)は増え続けている。24年の労災による死傷者数(休業4日以上)は13万5718人と4年連続で増え、このうち60歳以上が30.0%を占める。
こうしたなかで動き出したのが、高齢者の労災防止を努力義務とする改正法だ。25年に成立し、この4月から順次施行入りした。同法では、高年齢労働者の特性に配慮した作業環境の改善や作業管理などを、事業者の努力義務と位置づけた。具体的に事業者が講ずべき措置としては、(1)安全衛生管理体制の確立等(2)職場環境の改善(3)高年齢者の健康や体力の状況の把握(4)高年齢者の健康や体力の状況に応じた対応(5)安全衛生教育の5つで、対策の実効性を高めるのが職場環境の改善だ。
2月に発表された指針では、身体機能の低下した高年齢者であっても安全に働き続けられるよう、事業場の施設、設備、装置等の改善を検討し、必要な対策を講じることが求められている。中でも「作業場所の照度の確保」や「手すりの設置」「滑りやすい箇所に防滑素材の採用」など、墜落・転落や転倒の防止につながる対策が「共通的な事項」として重視されている。
というのも、高齢者の労災で最も多いのは墜落・転落と転倒であり、その割合は休業4日以上の死傷災害の事故の場合半数を超える。実際、現場でも床の滑りやつまずきを抑える滑り止めシール、立ち作業の疲労をやわらげる疲労軽減マットやインソールなど、即効性の高い製品が存在感を高めている。
義務化2年目の夏、死角なき熱中症対策を
指針が挙げる対策には、暑さへの備えも含まれる。高齢者は暑さの自覚症状が出にくく、熱中症のリスクが高いためだ。そしてこの熱中症対策は、もはや高齢者を雇う職場だけの課題ではない。
昨年6月、職場の熱中症対策が罰則付きの義務となった。WBGT(暑さ指数)28℃以上、または気温31℃以上の環境で連続1時間・1日4時間を超える作業がある職場は、体調異常者を早期に把握する報告体制と、作業からの離脱や身体の冷却といった緊急時の対応手順をあらかじめ定め、全従業員に周知しなければならない。怠れば、6カ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象となり得る。
こうした中、多くの職場がWBGT計の設置やマニュアルの整備を済ませたとみられている。取り組みは重症化の防止に効いており、25年に職場で熱中症により亡くなった人は19人と、前年の31人から約4割減った。だが、休業4日以上を含む死傷者数は1803人と前年より約43%増え、統計を取り始めた05年以降で最多を更新している。基本を押さえただけでは、年々厳しさを増す暑さから作業者を守り切れない。

人が集まる場所に局所的に空調機能を設ける現場も増えてきた
こうした流れを追うように、暑さに立ち向かうための対策製品は充実している。直射日光を遮る屋外用の遮熱テント、作業エリアだけを狙って冷やすスポット空調、着る人の体を直接冷やすファン付きウエアや水冷服、体温や心拍の変化から不調の予兆をとらえるウエアラブル端末など。暑さを「遮る」「冷やす」「気づく」手立てが広がりを見せている。
実際の現場でも、「熱中症対策は予算化し、従業員の要望も聞きながら優先的に処理をしている」(住宅設備メーカー)、「冷感衣類は従業員によって好みが異なる。希望に応じて購入するようにしている」(建設会社)など、個人差にまで踏み込んで対応する動きも出てきた。こうした取り組みが人材採用や人材定着に直結するからだ。
大切なのは、どれか一つを入れて終わりにしないことだ。従業員や作業ごとに感じる暑さは異なる。対策を掛け違えれば、そこが弱点となりかねない。現場の入口から出口まで、死角なく対策を組み合わせられるか。それが、2年目の夏の備えを分ける。
暑熱対策
スイデン、工具不要で即設置の冷却テント
緊急時にも即応

熱中症への備えとして、スポットエアコンにテントを組み合わせたソリューションが注目を集めている。スイデンが提案する「クーラーテント」(=写真)は、外気ではなくテント内の冷えた空気を循環させて取り込む「循環式」を採用し、内部を素早く冷やせるのが特徴。工場の簡易休憩所やイベント会場、災害時の避難所など、多様な現場の暑熱対策として引き合いが増えている。
テントは連結されたフレームを広げるだけで設置でき、工具も不要なため緊急時にも即応できる。軽量で組み立て・収納が簡単なうえ、出入口を前後2カ所に設けており、現場に合わせた柔軟なレイアウトが可能だ。フレームと天幕の標準セットに加え、ペグやロープ、荷重プレートなどの専用オプションも用意する。テントサイズは1.8×1.8㍍から2.4×2.4㍍まで複数取りそろえ、用途に応じて選択が可能だ。
組み合わせて使うスポットエアコンにも工夫がある。推奨機種の「SS-25ELN-1T」「SS-25ELN-3T」は、業務用スポットエアコンで初めてグリーン冷媒「R1234yf」を採用。冷却能力は高水準を維持しつつ、オゾン破壊係数は0、GWP(地球温暖化係数)は1と極めて環境にやさしく、環境対策を推進することが可能な設計となっている。フロン排出抑制法の対象外のため3カ月毎の簡易点検や廃棄時のガス回収義務がなく、管理の手間・運用コストも削減できる。
ナカトミ、強冷却・大風量のスポットクーラー
年々暑くなる夏に対応

冷媒ガスにR32を採用。強冷却ながら環境負荷は抑えられる
今やあらゆる現場の暑熱対策の定番となったスポットクーラー。一人一つ用意された蛇腹の吹き出し口はモノづくりの現場でも見慣れた光景になったが、現場で求められる性能やトレンドは少しずつ変化している。業務用の冷暖房・送風機器を幅広く手掛けるナカトミも、近年は「強冷却」や「大風量」など特長ある製品を訴求する。
スタンダードモデルより冷却能力を高めたスポットクーラー「強冷却プレミアムシリーズ」(=写真)は、冷房能3・0㌔ワットの力強い冷房能力が特長。ルームエアコンと違い、外気を吸い込み続けるスポットクーラーは、外気温によって吹出し口の温度が変わってくる。そのため、年々気温が上昇している日本では、より冷却能力が高い製品でないと追い付かない現場が出てきている。同製品もこうしたニーズを捉え、年々採用数を伸ばしている。
一方で、局所ながらも空間を冷やしたいというニーズに対応するのが、昨年投入した大型スポットクーラー「SPC-100B」だ。冷房能力8.3/10.0㌔ワット(50/60Hz)、冷風吐出風量61/68立方㍍毎分と力強く、送風口の「トルネードガード」によって冷風を約15㍍先まで届ける。倉庫や工場、コンテナ内の積み下ろし作業など、広い空間やこれまで冷やしにくかった現場を面的に冷却できる。25㍑のドレンタンクを備え、直接排水が難しい場所でも扱いやすい。
転倒防止
アラオ、硬さ・素材選べる疲労軽減マット
立ち仕事の足腰負担を軽減

アラオは疲労軽減マットを3種類用意する
人手不足と現場の高齢化が進むなか、長時間の立ち作業が足腰にかける負担は、製造現場が見過ごせない課題だ。積み重なった疲れが原因でつまずき、転倒につながることも珍しくない。ゴム・樹脂製品を手掛けるアラオの「疲労軽減マット」は、硬い床に敷くだけで立ち仕事の負担をやわらげる作業用マット。素材や硬さ、サイズの異なる複数タイプをそろえ、現場や作業者の好みに合わせて選べるのが特長だ。
負担を軽減するのは、内部に備えたクッション性の高い発泡素材。足裏の圧力を分散し、硬い床から伝わる衝撃をやわらげる。ニトリルゴム(NBR)製のタイプでは、マットの有無で足圧が50%減となる試験結果も得ている。
もともとは3層フォーム構造の「疲労軽減マット」一種のみで、段差解消は後付けスロープで対応していたが、テープ劣化などの手間を受けて一体型へと発展。作業ライン向けには、耐油・耐酸性や帯電防止性を備えたPVC+発泡SBRの「ラインマット」、耐油性と裏面の滑り止め加工が持ち味の「ラインマットNBR」をそろえる。
同社によると、マットの硬さの好みは作業者ごとに分かれるため、実際に敷いて試したうえで選ぶのがよいという。ライン作業や検査・組み付けの現場で導入が進み、高齢の作業者や女性から特に好評だ。
タカハラコーポレーション、貼り替えの手間を減らす高耐久フィルム
工場の美観と安全を手軽に両立

高耐久フィルム「ビバフィルム」。ラインテープや床サインに使用できるデザインシートも用意する
工場の安全を確保するうえで、美観を保つことは初めの一歩となる。床面の区画線や停止線、注意喚起マークがかすれ、剥がれれば、見た目を損なうだけでなく接触事故につながりかねない。現場では、従業員の多様化に加え、AGV(無人搬送車)などの自動化設備の導入も進み、「床まわり」を整備する重要性はかつてないほど高まっている。
タカハラコーポレーションの高耐久フィルム「ビバフィルム」は、特殊コーティング「ビバコート」による耐久技術で、塗装やテープに代わる床面表示として採用を広げている。表面のビバコート層はナノレベルで平滑かつ高密度に仕上げられ、汚れが入り込みにくく傷もつきにくい。タイヤ痕や擦れに強く光沢を長く保つ一方、裏面は強粘着でありながら貼り替え時に糊残りしにくい再剥離タイプとした。抗菌・防カビ加工や耐薬品性、紫外線カット効果も備え、変色や退色も抑える。
この耐久技術を転倒防止に応用したのが、昨年発売した滑り止めテープ「ZARAX(ザラックス)」だ。滑り止めテープは対策の定番だが、滑り止め部分がすぐ剥がれ対策が形骸化してしまう例が少なくない。ザラックスは厚みを持たせた酸化アルミニウムの粒子を採用。剥がれにくい構造でグリップ力を長く保つ。濡れた床面でも防滑性を保ち、凹凸面や屋外の階段・スロープにも施工できる。貼り替えの頻度を抑え、少ない手間で現場の美観と安全を長く保ちたい。
長谷川工業、使用禁止広がる現場にアウトリガー付脚立
横倒れ約1.7倍抑制

労災防止への意識の高まりを背景に、高所作業をめぐる規制は強化される方向にある。そうした中で、使い慣れた道具が使用禁止となることも増えてきた。その一つが脚立だ。左右方向に倒れやすく横倒れによる事故が起きやすいことから、工場では使用や持ち込みを禁じる現場も出てきた。とはいえ、軽くて片手で扱え、さっとしまえる脚立は手放しがたい道具でもある。長谷川工業のアウトリガー一体型脚立「RLH ハチ型」(=写真)は、こうした「使い続けたい」現場に応える製品だ。
RLH ハチ型は、倒れやすい横方向の安定性を高めるアウトリガーを脚立本体に組み込んだ。SG規格の安定性基準に準拠した社内試験では、従来の脚立に比べ約1.7倍倒れにくいという。後付けアウトリガーと違い脚部自体が展開する構造のため、壁際でも寄って作業でき、収納は片手のワンアクションで済む。発売から約3カ月だが、市場の反応は好調だという。
同社は併せて、脚立・はしご・作業台の事故を防ぐ安全サービスにも力を入れる。現場に出向いての無料点検や約60分の講習会を10年ほど前から続け、いまでは年間数百カ所で同様の取り組みを行う。講習会は点検作業などを事業者自身で続けていけるやり方を伝えるのが特徴で、メンテナンスに人材を割きにくい人手不足の現場でも、安全管理を無理なく回せる体制の構築が狙いだ。
環境対応
フクハラ、給油式をオイルフリー並みにする吸着補足装置
省エネと空気品質を両立

省エネやカーボンニュートラルへの関心が高まる中、フクハラのオイルミスト吸着捕捉装置「オイル・バスター」が好調だ。給油式コンプレッサーの圧縮空気を効率よくオイルフリー化でき、直近では半導体メーカーから約100台を受注するなど、生産が追いつかない状況が続いている。
従来型の給油式コンプレッサーは吐出空気量を多く得られコスト面で有利な半面、圧縮空気に油分が混入する課題があった。「オイル・バスター」を組み合わせれば、給油式の利点を生かしながら高品質なオイルフリーエアーを供給できる。
油分を捉える要は、高性能吸油材を充填し、空気の通過距離を大きく取った槽にある。ここを圧縮空気が通ることで、効率よくオイルミストを吸着捕捉する。処理後の油分濃度は0・0005wtppm以下とオイルフリーコンプレッサー並みの水準で、有機溶剤(VOC)も吸着できる。ドイツのTÜV Rheinlandから出口油分濃度「クラス0」のシステム認証を取得し、性能は第三者機関からも認められている。
効果は品質面にとどまらない。高い省エネ性能に加え、長期間効率よくオイルミストを捕集できる独自の吸着槽構造によって、メンテナンスコストの低減も実現する。省エネやカーボンニュートラル対応が強く求められているデータセンターにおいても採用が広がっており、販売が大きく伸長している。
ティーエムエフ、エアコンに置くだけ省エネプレート
消費電力を10~25%削減

天井埋め込みカセットタイプ
工場での夏場の暑熱対策が急務となる一方、エネルギー価格の高騰やCO2排出量削減への対応も同時に求められている。ティーエムエフが手掛ける空調用の省エネプレート「エコプレート」は、エアコン室内機の吸気口の手前に設置するだけで、空調機器の消費電力を10~25%抑えられる優れもの。累計出荷台数は10万台。
消費電力を削減する仕組みはこうだ。板に開けた多数の穴が空気の流れを絞り流速を高め、周囲の空気を効率よく取り込む。さらに、練りこまれた特殊なセラミック鉱石が空気中の水分子を細かくほぐす。吸い込みの負荷を減らしコンプレッサーの働きを助け、効率的な稼働を支える。
一枚当たりの瞬間的な効果はわずかだが、電源やメンテナンスを必要とせず、半永久的に効果が続くため、削減の積み重ねで導入コストはいずれ回収できるという。累計出荷数は10万シートで、既に大手自動車メーカーや大手住宅設備メーカーの拠点に導入されており、ある拠点では15%以上の削減効果を確認した。
価格は1枚1万2800円。導入にあたっては、まず無償提供されるサンプルを使用して、同一条件下でエコプレート設置の有無による消費電力量を実測。その結果を基に費用対効果を試算し、採用可否を判断できる。導入する場合はテストで使用したサンプル分も含め購入し、費用対効果が出ず導入しない場合は返送すれば商品代金はかからない。
(日本物流新聞2026年7月10日号掲載)