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インタビュー

ベッセル 社長 田口 雄一 氏 
海外で販路急拡大 独創的な商品で工具世界一めざす

投稿日時
2026/06/24 10:51
更新日時
2026/06/24 10:56

新製品開発バジェットは「無限大」

今年、創業110周年を迎えた老舗工具メーカーのベッセル。国内のドライバー市場などで大きなシェアを誇る同社は、田口雄一社長の舵取りのもと、就任から4年目でグループ売上高は20億円超増と急伸中。2028年の中期経営目標150億円、そして将来の400億円達成に向け、どう動き出すのか。海外市場に切り込む独創的な新商品開発から、成長の土台となる組織エンゲージメント改革まで、世界一の工具メーカーを目指す同社の現在地を田口社長にきいた。 

——今年から第二次中期経営計画がスタートしました。売上150憶円を目標に「新商品開発」を柱の一つとして掲げられていますが、昨年は手回しと電動の良さを両立したヒット商品「電ドラボール」を一新し、コンスタントに新商品を上市しています。進捗は計画通りですか?

「3年の開発ロードマップはありますが、正直に言うと計画通りにいった試しはありません(笑)。我々のモノづくりは『軽く、小さく、それでいて高強度』が求められます。試作を重ねる中でコストが見合わなくなれば、設計からやり直す。泥臭いトライアルの連続です。計画自体がかなり背伸びしたもので、それは社員に最大限の力を発揮してほしいというメッセージでもあります。新商品開発のバジェットにはあえて制限を設けていません。必要な投資や設備は柔軟に導入する。新商品開発は、ベッセルにとって創業以来の原動力そのものだからです」

——高いハードルを超えながらも、ここ3年の新製品のヒット率はほぼ外れゼロだそうですね。

「事前のマーケティングと初期からコンセプト固めすることを徹底しています。試作品を実際のエンドユーザーである職人の方や製造ラインの方に持ち込み、何度もダメ出しをもらう。その声を反映させてから最終販売へと至るプロセスが確立され、芯を外さない商品が生みだせるようになりました。私が意図して変えたわけではなく、歴代の開発陣が築き上げてきたベッセルの底力ですね」

——海外売上比率は昨年32%に達し、特に米国ではこの2年で売上2・4倍と急伸しています。認知度がほぼゼロからのスタートである海外市場を、どう切り拓いたのでしょうか。

「ドライバーやエアーニッパーは国内シェアで半分以上あり、ここから売上高400億円を狙うための大きな伸び代は海外、特にマーケットが大きく当社のシェアがまだ低い米国と欧州にあります。海外展開における最大のブレイクスルーとなったのが、手動と電動の強みを融合した『e-ASSIST』シリーズ、とりわけ『電動スリムラチェット』です。これまではアプローチすらできなかった現地の有力得意先が、この製品をきっかけに向こうから取引したい、と言ってくれるようになりました。米国の展示会では、実際に手に取った現地のユーザーから『これはまさに“ゲームチェンジャー”だ』と話題になりました。嬉しくてリーフレットのキャッチコピーに採用したほど。このキラー製品のヒットを起点に『ベッセルには他にもこんなにユニークな工具がある』と、全体のラインナップへ波及し、取引が広がっています。お客様をあっと言わせる魅力的な新商品を出すことがうちらしい状況の打開の仕方かなと」

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海外展開急伸のきっかけとなった「e-ASSIST」シリーズの「電動スリムラチェット」。通常のラチェットハンドルと変わらないサイズでありながら、電動の早回し機能と手動での締め付けが併用できる



■ 110年は通過点、「誰も辞めない会社づくり」で成長続ける

——技術面では、2000年から参入した静電気除去(イオナイザー)ビジネスでも、電気を使わない「発電ガン」のリニューアル品がヒットしていますね。

「コンプレッサーエアーの力で内部のモーターを回して発電する独自の特許技術ですが、5年かけて軽量化と風量課題をクリアし、ようやく市場に受け入れられました。当社はドライバーから始まり、ビット、エアーツール、そして静電気対策へと挑戦の歴史を重ねてきました。そして静電気除去技術の知見が、電ドラボールの誕生につながった。また空圧工具がまだまだ強い造船の現場でも、当社のエアーツールは伸びていくと期待しています」

——攻めの姿勢が目立つ一方、社内では「離職率ゼロ」を掲げ、社員エンゲージメント向上に投資されています。

「採用に苦労する時代だからこそ、私は発想を逆にしました。人が辞めない環境さえ作れば、採用への過度なエネルギーは不要になります。待遇や給与、時間単位有休や育休といった制度を整えるのも一つの手ですが、もう一つの方策として、月次の満足度調査サービス(Wevox)を導入し、現場主導で人間関係や風通しを良くする取り組みを進めています。他にも『挨拶・お礼運動』を展開しており、地道なコミュニケーションこそが組織の土台です」

「110周年を迎えることができたのは、支えてくださった代理店やお客様のおかげであり、感謝しかありません。しかし110年は通過点。それよりも、かつて8年間届かなかった売上『100億円の壁』をグループ全社で突破し、新製品を開発しながら今また150億、400億円へと全員でいきいきとチャレンジできている事実のほうが、よっぽど尊い。これからも『独創的な商品とサービスで驚きと感動を届ける』という理念を愚直に深掘りし、世界一の工具メーカーを目指します」



(日本物流新聞2026年6月25日号掲載)




執筆:モノクエ編集部

本記事は、創刊70年超のモノづくり専門紙「日本物流新聞」の編集部が制作しています。製造業に精通した専門記者が、現場取材に基づいた正確で鮮度の高い情報をお届けします。