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インタビュー

DIC 市川 敦 氏 
触覚を増幅させるデバイスを開発

投稿日時
2026/09/30 09:34
更新日時
2026/09/30 09:37

化学メーカーのDICは、社会やエンドユーザーへ直接価値を届ける「Direct to Society」の考え方のもと、自社素材を活かしたデバイス開発に注力している。その全社的な挑戦から誕生したのが、触覚増幅デバイス「タクトハンサー(Tacthancer)」だ。電気を使わずに微細な傷や凹凸を増幅する本技術は、製造現場の課題解決と新たな触覚インターフェース創出を担う。同技術の開発を主導した新事業統括本部 インキュベーション推進ユニット AIデバイスグループ マネージャーの市川敦氏に話を聞いた。

――触覚を増幅できるデバイスを新たに開発されました。

「『タクトハンサー(Tacthancer)』は、指とワークの間に挟んだ状態でなぞるだけで、ワークの細かな傷や凹凸を増幅するデバイスです。メガネが視覚差を補正して感度を高めてくれるように、熟練の作業者しか感知できなかった微細な差を誰でも簡単に感じ取れるようにする触覚インターフェースです」

――どんな仕組みで増幅する。

「シート表面に『メカニカル・メタマテリアル』と呼ばれる特殊なセル構造を組み込んでいます。その幾何学的な構造が、ワーク表面の形状によって微小に変形または振動することによって、人の触覚が増幅する仕組みです。触覚増幅の基礎理論をベースに、DICの樹脂材料技術や3Dプリンターの知見を掛け合わせることで、現場で壊れにくく扱いやすいシートや指サック状の製品として実用化しました」

――CES2026では大きな話題を呼んだそうですね。

「『魔法のようだ』と驚かれる方もいらっしゃいました。他の展示会でも同様で、体験された方の多くが『ここまで感覚が変わると思わなかった』とびっくりされます。金型の研磨工程や塗装前の仕上げ工程などは、人の感覚に頼る部分が大きく機械化が難しいとされています。一方、現場は人材不足が深刻で、少しでも効率化・省力化・非属人化できないかと試行錯誤しています。画像検査やレーザーなどの外観検査装置も試したが、検査精度やタクトが要求に合わないと悩まれているケースも多くあるようです。その点、金属やプラスチック、曲面など対象物の素材や形状を選ばず、微細な傷や歪みを即座に体感できるタクトハンサーなら…と期待いただいています。私自身、自動車メーカーに勤務していた経験があるため、製造現場の悩みや困りごとはある程度把握し開発しているつもりでしたが、実際の市場からの反応を見て、切実な現場課題にマッチしている手応えを感じています」

――既に製品化している。

「まだ、サンプルの提供を行っている段階です。製造現場によって求められる仕様や使い勝手が異なるため、お客様の生の声を取り入れながら製品のブラッシュアップを重ねています。引き合い自体は当初想定していた自動車関連だけに限りません。食品の包装資材の検査・清掃チェックやエンタメ関連、個人的な創作活動に使用したいなど、本当に幅広い業界や用途からアプローチいただいています」

■触覚とAIを繋ぐ

──そもそも、なぜ化学メーカーであるDICがデバイス開発に取り組んでいる。

「当社は現在、顧客からの要望に応じる従来の受動的な素材供給にとどまらず、社会課題や未来のニーズを直接捉えて価値を提案する『Direct to Society(D2S)』に、全社的に挑戦しています。その中でも、DICが長年培ってきた樹脂やコンパウンドなどの素材技術、構造設計を、ロボティクスや『フィジカルAI』といった次世代領域へ融合させるデバイス・モジュール開発に注力しているのが我々AIデバイスグループです」

――タクトハンサーもAIと関連してくる。

「AIそのものに直接関連してくるわけではありませんが、視覚(画像)や聴覚(音)に比べて、触覚情報のデジタル化や標準化は未開拓の領域です。タクトハンサーが人と物理世界、あるいはロボットやAIと現実空間をつなぐ触覚インターフェースとなり、触覚情報をデータとして捉える入り口となるのではと期待しています」

──未だ開発途上にありますが、タクトハンサーで築く未来について教えてください。

「前述の通り、現状は使用いただいたお客様からのフィードバックを製品のブラッシュアップに反映している段階です。今年度中にそうしたサンプルの評価や仕様の最適化を本格化させていきたいと考えています。また、並行して、タクトハンサーにセンサーを取り付けることで、触覚データを可視化・数値化する研究開発も進めています。そこで取得したデータとAIを掛け合わせることで、製造業の省力化だけでなく、エンタメや生活者の触覚補正など、社会のさまざまな場面へ新しい価値を提供していきたいです」

DIC_写真2.jpg

ワークをなぞるだけで微細な凹凸を大きく感じることができる




ロボットフィンガーも開発


AIデバイスグループでは、タクトハンサーのほかにも素材技術とセンシングを融合させたデバイス開発を進めている。その代表例がロボットフィンガ―「MoR」だ。独自の樹脂コンパウンド技術を生かし、フィンガー上に直接ひずみセンサーを描画。カメラや外部センサーを使わず、圧力制御によって全閉全開の簡易プログラムのみで、豆腐や薄型ガラスなど壊れやすい物体を最適な力加減で保持できる。






執筆:モノクエ編集部
本記事は、創刊70年超のモノづくり専門紙「日本物流新聞」の編集部が制作しています。製造業に精通した専門記者が、現場取材に基づいた正確で鮮度の高い情報をお届けします。



(日本物流新聞2026年9月25日号掲載)