インタビュー
オリオン機械 水素事業開発グループ 小池 和史 氏
水素生成装置でGX実現へ
- 投稿日時
- 2026/06/12 09:29
- 更新日時
- 2026/06/12 09:31
自前の水素でエネルギーの地産地消導く
――水素事業に参入した経緯は。
参入のきっかけは2013年頃に遡ります。当社はもともと産業用チラーを主力製品として持っていましたので、その技術を応用し、水素ステーション向けの超低温チラーや熱交換器の設計・製造を始めたのが最初です。その後、燃料電池の研究開発にも着手しました。水素と酸素を反応させて電気をつくる燃料電池ですね。残念ながら、コスト面で大手メーカーに追いつくことができず、製品化には至らなかったのですが、その研究を通じて得た技術・ノウハウは社内に蓄積されました。

オリオン機械 技術開発本部 水素事業開発グループ 小池 和史 主席技師
―― 製品化に至らずとも次のステップにつながった。
そうです。燃料電池の「逆反応」を使えば水素がつくれる、という発想の転換が生まれました。これは社長の片桐による着眼でした。電気と水があれば水素が生成できる―― つまり水電解の技術です。当時、水素ステーションの設置数がなかなか増えない状況も重なり、「それなら自前で水素をつくる装置を開発しよう」という方向性が固まり、数年の研究開発を経て、まずは小型機が製品化に至りました。
――今回の大型P2Gシステムはどのような位置づけですか。
小型機が研究室・実験室向けであるのに対し、大型システムは製造業などでの活用を通じてカーボンニュートラル・GXへの貢献を目指した社会実装モデルです。関東経済産業局の中小企業向け補助事業「Go-Tech」に採択され、2024年度から26年度にかけての3カ年計画で研究開発中です。
――すでに自社での実証試験を行っているが、手ごたえは。
当社の須坂インター工場には最大出力1000kWの太陽光発電設備を持ち、工場の生産電力として約600kWを使用しています。余剰分の約400kWのごく一部、32kWをP2Gシステムに供給し、水素を生成する運用を行っています。特に長野県は水資源が豊富で日照時間も十分確保できるため、このシステムとの相性が非常に良いと感じています。
―― 太陽光で発電した電気を水素に変換し、また電気に戻すのは変換ロスが生じるのでは。
おっしゃる通りで、電気→水素→電気と変換を繰り返すと、最終的に3分の1から4分の1程度になってしまいます。ですから、電気は電気として直接使うのが最も効率的です。水素への変換は、あくまでも「余った電力を捨てずに貯める」手段です。貯蔵した水素は、太陽光発電ができない夜間や曇天時に燃料電池発電として利用でき、エネルギーの平準化に役立てることができます。また、ろう付けや熱処理など工業用途で直接水素として使う場合は、変換ロスなく活用できます。
――水素の貯蔵方法にも新たな技術を活用している。
「水素吸蔵合金」を使った貯蔵方法です。金属粉末を容器に充填しておくと、水素がその金属に吸い込まれるように蓄えられます。通常の高圧ガスボンベとは異なり、1㍋パスカル未満という低い圧力帯で一定量の水素を安全に貯蔵・放出できるのが特徴です。高圧ガス保安法の対象外となるため、特別な申請や取り扱い上のハードルも低い。
P2Gシステムには円柱状タンクを8本搭載しており、合計で約40立方㍍の水素を貯蔵できます。この金属の組み合わせの研究や、繰り返し使用による粉末劣化を防ぐ技術は、千葉工業大学・信州大学との産学連携で進めています。
――日本の水素普及は遅れているが、あえて取り組む理由は。
一番は環境負荷の低減です。現時点では費用対効果がまだ成立しているとは言えませんが、2050年カーボンニュートラルを見据えれば、水素の活用は不可欠になってくると思います。今はいわば「先行投資」の段階です。国内では海外から水素を輸入するコストも高く、円安の影響もあります。自前で水素をつくることができれば、エネルギーの地産地消という観点からも意義は大きいと感じています。
――BCP対策としての可能性も視野に。
太陽光発電設備とP2Gシステムを組み合わせれば、停電時でも自立的にエネルギーを確保できる可能性があります。将来的には各自治体に1基というところまでコストダウンできれば、地域の強靭なエネルギーインフラになり得ると思います。まだ道半ばですが、コストダウンと貯蔵技術の改良を続けていきます。
―― 今後の展望を。
「水素は爆発する、危険だ」というイメージで止まっている方がまだまだ多いと思います。でも実は、身近なところやさまざまな形で使える、ということをもっと知っていただきたい。ろう付けや熱処理での工業利用、BCPへの活用、余剰電力の貯蔵など可能性は広がっています。われわれメーカーが率先して製品を出し、用途提案を続けることが大切ですし、今後はみんなで「水素をどう使うか」を一緒に考えていきたいです。
(日本物流新聞2026年6月10日号掲載)