インタビュー
松本機械工業 社長 松本 晶久 氏
工作機械の能力を最大限に引き出す
- 投稿日時
- 2026/06/15 10:06
- 更新日時
- 2026/06/15 10:09
「先端職人経営」で挑む多品種少量生産のリーディングカンパニー
1948年創業の松本機械工業は、チャックと円テーブルの有力メーカーとして知られる。同社はコロナ禍の閉塞感が漂う2020年にSIer事業へ参入。21年に開発・発表した自動段取りロボットシステム「Smart Terrace AIO」は、夕方17時から翌朝8時までの15時間に最大32回の無人段取り替えを可能にする「1直24時間」を実現し、同社の新たな代名詞となった。第二創業ともいえる新たなスタートを切った同社の舵をとるのが、昨年11月27日に就任した松本晶久新社長だ。先般開催された「MEX金沢」の会場で、今後の経営戦略について聞いた。

松本機械工業・松本晶久社長とMEX金沢で初公開されたアドバンスモデル「Smart Terrace Adv(アドバンス)」。ロボット、ストッカー、安全カバーを一体化させることで、設置スペースを畳1枚以下に抑え、大幅な省スペース化とコスト削減を両立した。
――新社長としての経営の「軸」をどう描いていますか。
「当社はこれまでもこれからも『工作機械の能力を最大限に引き出す』という一直線の道を歩んでいきます。工作機械は欧州が先進的であり、新興国のレベルも上がっていますが、日本のモノづくりの底力はやはり凄まじいものがあります。その底力を支える工作機械一つひとつの能力を、我々の貢献によってどう高めていけるか。よくマーケティング理論で『顧客が求めているのはドリルではなく、穴である』と言われますが、その『穴』に相当する真のソリューションとは何かを徹底的に突き詰めていきます」
「時代に合わせてチャックやロータリーテーブルを進化させながら、2020年にSIer事業に参入しましたが、その根本はコア製品の能力をより向上させるためのツール(手段)であると捉えています。ハードとシステム、両面での『進化』と『深化』を続け、多品種少量生産におけるリーディングカンパニーを目指していきます」
――歴史を受け継ぎつつ、変革のスピードをさらに加速させていくと。
「私を含め社員全員が、広い視野で『世界を見ていく』ことが重要だと考えています。自社の技術に奢ることなく、まだ認知していない外部の技術を貪欲に取り入れ、技術の拡張性やイノベーションの可能性を広げたいですね。デジタル化やAI化の進展により、最先端の技術や知見へのアクセスは極めて身近になりました。最新のトレンドを即座に確認し、必要であれば自社に取り入れるというサイクルを高速で回していきます。これは開発メンバーだけでなく、どこに営業革新のヒントがあるか分からないという意味で、営業メンバーにとっても不可欠な姿勢です」
――その高速サイクルを支える基盤として、全員主役の「先端職人経営」を掲げられている。
「お客様のお困りごとの解決こそが我々の使命です。他にない唯一無二の『先端』の商品・サービスを、お客様に喜んでいただけることを念じる『職人の心』で提供していきます。そのためには、社員一人ひとりがそれぞれの現場で主役となり、創造的に取り組む必要があります。技術も人間性も研ぎ澄ませ、ニッチな領域をピンポイントで突いていくイメージですね」
「具体的な取り組みの根幹にあるのが『改善活動』です。我々自身もお客様と同じ製造業であるからこそ、日々の改善を通じて現場の悩みや苦労を肌で理解できます。それが、顧客のニーズにピンポイントで的中する尖った製品開発に繋がると考えています。前述した『世界の最先端を見る』こととの両輪ですね。当社では『先端職人学会』と名付け、各部署が改善を通じて突き詰めたニーズを年2回発表し、互いにフィードバックし合う取り組みを20年近く続けています」
――バイタリティー溢れる先代(現会長)から受け継ぐものと、新社長として変えていくものは何でしょうか。
「日本が右肩上がりで成長していた時代は、強力なトップダウンのリーダーシップで進む組織が強かったのですが、現在は変化が常態化した先の読めない時代であり、組織には『多様性』や『しなやかさ』が求められます。現在、人事考課制度の改定を進めており、ボトムアップが機能する組織へと変革させていきます。私と会長は全く違うタイプであり、私が会長の代わりになることはできません。開発や営業スタッフの『やりたいこと』や『モチベーション』を、お客様の課題解決へとシンクロさせ、全員がワクワクしながらモノづくりに挑む『自律型組織』を構築していきたいですね」
――今後のSIer事業の展望をお聞かせください。
「元々は自社製品である『クイックジョーチェンジチャック』をさらに普及させたいという思いから、ロボットシステムまで内製化したいと考えていましたが、なかなか進みませんでした。しかし、コロナ禍において『工場から人が消えるのではないか』という極端な未来すら想定される中、自動化を加速させなければならないという強い危機感と使命感が沸き起こりました。現事業部長との素晴らしい出会いも重なり、一気に事業化へと踏み切りました」
「そうして生まれた『Smart Terrace AIO』が目指すのは、大型連休があれば3日間、機械が完全に無人で勝手に動き続けているような世界観です。それをゴールに据えつつ、お客様のニーズを取り入れながら、3つ爪を面板ごと一発で交換するオートジョーチェンジや円筒研削盤で使うケレの自動交換、工具交換、ロボットハンドによる多点計測&追い込み加工システム、洗浄、バリ取り、測定……といった工程を一つずつ自動化しています。現在はメカや機構的な部分を突き詰めていますが、将来的にはフィジカルAIの取り込みやヒューマノイドの実装といったブレークスルーが訪れるかもしれません。ただ、そのためにも、まずは目の前にある地道な課題を一つひとつ地道に解決していくしかないと考えています」
(日本物流新聞2026年6月10日号掲載)