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連載 Rの時代~再生「Re」活用の時代へ

カフェラテは未来への投資? ── 臼杵造船所が"学生無料"の交流拠点「ウスキバース」を開いた真意

投稿日時
2026/05/27 10:00
更新日時
2026/05/27 10:13

造船のまちの「交流の波止場」が未来を創る

大分県の東海岸に位置する臼杵市は、製造業生産高のおよそ7割を海事産業が占める、国内きっての「造船のまち」だ。かつて戦国大名の大友宗麟が居城を築いた小高い丘に登ると、亀首 (かめのくび) と呼ばれる櫓跡から巨大な船がまさに形を成していく様子が見渡せる。

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臼杵城跡からドックが一望できる

この地に20258月、地元の臼杵造船所が手がけた多目的交流拠点「ウスキバース(USUKI BERTH)」が誕生した。元は整形外科だった遺構を、デザイナーの手で大胆にリノベーション。今ではゲストハウス、コワーキングスペース、社員寮、イベント会場と多彩な顔を持っている。

扉が開くと、木肌のぬくもりを活かした内装が目に飛び込む。テーブルや什器、果ては傘立てにまで転用されているのは、ドックで建造中の船を支える盤木(ばんぎ)と呼ばれる重厚な木材や、現場で使い込まれた足場板だ。風雨の中、巨大な鉄の塊を支えた木材には独特の風合いとヴィンテージ感とも言うべき“味”が宿る。「これは操舵室の図面。実は私が昔に描いたものです」と、飾られた船の図面を撫でながら、執行役員設計本部長の村山和宏さんが懐かしんだ。

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傘立てになった盤木

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あちこちの壁に様々な船の図面が飾られている

旅行者が泊まるゲストルームは、コンクリート打ちっぱなしの壁にシックな調度を合わせたモダンな空間。見上げると、天井では船の鋼材を曲げるための治具(曲げ型)が、オブジェとして柔らかな曲線を描いている。よく見ると治具には「S1782」と手書きの文字が。これは同社で建造された1782番船に用いられたことの証だ。

「造船関係者やOBが訪れると『おおっ』と声が漏れます」と村山さん。造船業のDNAが、空間の至る所に息づいている。

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旅行者が泊まれるゲストルーム

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S1782」は同社の1782番船(国道九四フェリー・涼かぜ)を表す

■学生の居場所が未来を創る

かつて診療室だった1階は壁を打ち抜き、開放的なイベントホール兼コワーキングスペースへ変貌を遂げた。アプリ登録すれば誰でも利用でき、特に地元の高校生にとっては「無料・時間制限なし・フリードリンク」という、またとない居場所になっている。

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1Fのコワーキングスペースは学生なら無料で、しかもフリードリンク

「カフェラテの減りが早くて補充が大変です」と村山さんは笑うが、その眼差しは真剣だ。背景には深刻な人材不足がある。最盛期には臼杵市の人口は約6.7万人を数えたが、足元では約3.2万人にまで減少。同社にとっても次代を担う人材の確保は重要な課題だ。

「かつてここで勉強したという思い出が、ゆくゆく、地元で働く選択肢になれば」。その思いで計画が動き出したのは数年前。自治体から「学生の居場所が少ない」という声を聞き、旅行者や学生、社員がまざり合う「交流の波止場」にしたいと、船の係留場所を表す“バース”と命名した。

上層階は家具家電付きの単身者向け社員寮に再生され、遠方からの就職でも身1つで新生活を始められる。今や造船業に欠かせない海外人材にも心地良い住環境は魅力だろう。テラスにのぼると、臼杵城跡を背景に気持ちの良い風が吹き抜けていく。ふと足元を見ると、テラスの床材まで足場板とというこだわりようだ。社内の懇親会も度々行われ、明るい声がこだまする。

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社員寮は家具家電付き

■だから造船は面白い

臼杵造船所は高度な技術を要するケミカルタンカーや、地元と四国を結ぶ「国道九四フェリー」など、様々な船を年間45隻建造する。船体設計部基本設計課長補佐兼設計DX推進室長の山本隆史さんは、造船の魅力を「一番大きな乗り物を作れること」だと語る。「一番大きな動く物は、すなわち船。しかも自分で作れば自分で乗れると当時、小学生ながらに考えたんです」

シミュレーションソフトが発達した今でも、理想の船型開発には模型試験による試行錯誤が欠かせない。水の抵抗を受ける船はわずかな形の違いで性能がまったく違う。最後は技術者の経験則、いわば勘ピューターとも呼べる直感がモノを言うことも。「でも、そこが面白いところなんです」と山本さんは言い切る。

船は航路や用途に合わせ、1隻ごとに仕様を練るオーダーメイド。しかも居住性、航行性能、積載能力、安全性とあらゆる要素が集積する総合産業だ。それぞれの専門人材が協議し、人と人のつながりが1隻の巨大で精密な船をつくる。

「思ったより大変な仕事でしたが、やはり魅力があります」。47都道府県を回るほどの旅行好きが高じて、大学時代に大分で船という交通手段に出会い、この世界に飛び込んで30年以上になる村山さんも、深く頷いた。

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左から執行役員設計本部長の村山和宏さん、船体設計部基本設計課長補佐兼設計DX推進室長の山本隆史さん

リノベーションから1年。常連だった高校3年生たちが春に卒業を迎え、取材時(4月)はちょうど館内が少し静かになっていた。ただ、徐々に新しい顔ぶれが通い始めたそうだ。学生たちは時に遊び、気が済むと机に向かったりしながら青春を送る。「また増えていくでしょう」。村山さんが穏やかに付け足した。

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砂袋を投げて穴に入れるゲーム。たまに学生が遊んでいる姿を見かけるという

政府は2035年に向けて「建造量倍増」を掲げ、国を挙げた海事産業の強化に乗り出している。今後は設備投資の補助金も予定されるが、それ以前に船の建造に必要な人の手が足りていない。それだけに地域コミュニティの心臓部を担うウスキバースへの期待も大きい。確かな足取りで航海を始めたこの拠点から、次代の担い手が生まれる日が待ち遠しくなる。



(日本物流新聞2026年5月25日号掲載)