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西部電機、ワイヤ放電加工機が成長急

投稿日時
2025/07/25 09:00
更新日時
2025/07/25 09:00
昨年竣工したワイヤ放電加工機の新工場

新工場フル稼働、超精密へのシフト活かす

西部電機(精密機械事業部)のワイヤ放電加工機が電撃的成長を続ける。リーマンショック(08年)直後と比較すれば年間売上げで7倍ほど(前3月期約150億円)に飛躍。それ以前の年30億円強の水準時に比べても4~5倍の成長だ。フル操業続くなか、昨年9月の新工場竣工で生産能力は1・5倍に高まり、中期経営計画では、ほぼワイヤ放電加工機だけで最終27年度売上170億円を狙う。いや、社内では200億の大台も見据える。急成長のワケを追い、福岡県古賀市の工場を訪ねた。

米中貿易戦争、トランプ関税の影響が心配でしたが、中国の需要は今も落ちていません―精密機械を仕切る松下和宏事業部長が柔和に話す。同社のワイヤ放電加工機は実に売上の8~9割が中国向け。外需依存を高める工作機械メーカーのなかでも、中国一辺倒的な売上げ構成比は唯一無二だろう。

その中国市場では半導体、EV、精密コネクタ業界から同社上位機の追加注文、新規注文が止まない。なぜか?

■超精密へシフト、台湾で評価

放電加工機業界で同社は過去、2番手3番手グループの位置づけだった。実際「大手とは違う道を選ぶ」が方針にあり、ボリュームゾーンを狙うより「90年代までは大手が手をつけない特殊な放電機をさまざま作っていた」(松下事業部長)。

それが一変。機械のベース部を共通化しつつ、精密機や超精密機の製作に専念した。具現化したのが2000年から売り出したMシリーズだ。現在は全標準機の冒頭にMがつく。「ミレニアムのMですが、当時事業を指揮していた宮地(敬四郎氏、のち社長)のMともいえる」と松下事業部長。「精度にこだわった宮地のポリシーが年を経て開花した」。

高精度化では、古くから顧客の多かった台湾勢をはじめ、地元大手金型業の「厳しい精度要求を繰り返し受け」、鍛えられたことも奏功した。

そうしたなか、台湾の製造業者が中国に巨大工場を設ける例が増え、同社の中国市場開拓が進んだ。「今は台湾系だけでなく、中国のEVや半導体メーカーに広く納入しています。評判が口コミで広がり有難かった」(同)と言う。

■精度で違いを出す

高精度機を指向する中でこだわったのがピッチ精度だった。顧客要求に応えピッチ加工のノウハウを蓄積。機種によって±1ミクロンのピッチ精度を実現し「静的精度ではなく、動的精度を工場で確認して出荷し」、信頼も高めた。精度保証を継続して実施中だ。

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組立後、テスト加工で動的精度を確認する

西部製の特長を一つ、と問うと「テーブル移動構造のため精度面でアドバンテージがある」と返って来た。一般的なコラム移動型だと支点から加工点まで距離が長く、負の影響が出るが、テーブルはまさに加工物に直面する。テーブルが動くためオペレータの操作性は悪くなるものの、これは顧客にとって小事と判断したようだ。

■新工場で次のステージへ

本社敷地内に昨年9月完成した新工場は3階建てで延床約3550坪。精密機械事業部は手狭な別棟から移った。「スムーズな配送のため」出荷エリアを倍にしたが、生産ライン自体は1.2倍とさほど広がってはいない。しかし部品ユニットから最終組立までの動線を「短くコンパクトに絞り」、生産能力は1.5倍(月産80→120台)へ。「調達品もあるから実際に1.5倍にできるのは今年度後半かな」そう、松下氏が言葉を加えた。

新工場は空調管理や振動対策を徹底し、なかでも工場内部にもう一つ工場を設けた、2重に囲われた上位機組立エリアは、室温22℃±0・2℃を実現。床面のコンクリート厚は3倍にした。工場には若い人が多い。「新工場で環境がよくなりましたが、それ以上に若手が育っていることが楽しみ。工程短縮活動を自主的に行うなど彼らの熱意が強みのひとつです」(松下事業部長)。

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同社の課題は先に述べた「中国依存の際立った高さ」だ。今後インド、インドネシア、タイなどで「販売+メンテサービス」の機能を持つ企業とタイアップし、営業エリアを広げたいという。同時に海外実績を引っ下げ、国内シェアを高めることも課題になる。

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松下和宏精密機械事業部長。今秋発表予定の油仕様の新機種と

(日本物流新聞2025年7月25日号掲載)