日本発「夢の技術」で革新導く
- 投稿日時
- 2021/01/08 16:24
- 更新日時
- 2024/08/19 13:18
軽くて剛い新素材「ATHIUM」(アシウム)
4社共同開発、マキノ機から実用化へ
牧野フライス製作所は12月24日、都内の本社テクニカルセンタで記者会見を開き、田島軽金属(埼玉県羽生市)、ヒノデホールディングス(福岡市)、日之出水道機器(福岡市)と共同開発した高剛性アルミ鋳造合金「ATHIUM(アシウム)」を発表した。
ATHIUMは軽くて剛い、新たな鋳造合金。工作機械の構造物に従来から採用されているねずみ鋳鉄に比べて60%の軽量化を実現しつつも、剛性に関してはねずみ鋳鉄と同等のヤング率(縦弾性係数:100ギガパスカル超)を実現した。
「ATHIUMは日本がモノづくり大国としてもう一度世界に打って出るための、非常に重要な技術要素。ヤング率100ギガパスカルを超える高い剛性をここまで軽量の素材で可能にした事例は過去になく、日本発の夢の技術だ」。牧野フライス製作所の井上真一社長は強い期待感を示した。
同社では工作機械のコラムや主軸台、直動軸、回転軸、主軸ボディなど可動構造部にATHIUMを採用する考え。井上社長は「工作機械はあらゆる先端技術に絡む、基幹産業。我々がインキュベーション役となり工作機械でのATHIUMの実用性を証明できれば、他産業に採用を広げる大きなきっかけになるだろう。将来的には自動車・航空機・鉄道車両など高速移動体への採用も期待している」と展望した。
■生産性と環境性を両立
工作機械へのATHIUM採用メリットは大きく、軽量化によるイナーシャ(慣性力)の軽減率は全体で約50%にもなる。牧野フライス製作所執行役員・開発本部長の土屋雄一郎氏は「可動構造部の大幅な軽量化ができ、より小さな力で俊敏に動かせる。素材自体が軽いので加減速時の衝撃が緩和される一方で、ねずみ鋳鉄と同等の剛性を持つため高速移動中のたわみも抑制できる。モータの小型化でピーク電力を45%削減でき、当社のモーションコントロール技術を駆使して小型化による揺れも抑制できる」と説明した。
同社では超大型機種以外、新機種・既存機種を問わずATHIUMの採用を進める計画にある。土屋本部長は「設計・部材の共通化などで効率化を進め、素材変更によるコストアップ分を吸収したい。来年度中をめどにATHIUM採用機種の製品化を狙い、生産性向上と環境負荷低減を両立する『GREENOVATION』を推進していく」と表明した。
JIMTOF2020で披露した新コンセプトマシン「e・MACHINE」でもATHIUMを採用してユーザーから高評価を集めており、加工テストも実施中だ。井上社長はテスト成果等から「俊敏に動くので、加減速の多いタップ穴加工などで非切削時間削減に大きく貢献できる。主軸ヘッドが揺らぎにくいため加工面も非常に良好で、金型や航空機部品の加工にも最適。軽量・小型化した主軸は旋回・傾斜軸の加速度を上げられるほか、マシンの小型化による単位面積当たりの生産性向上も導き出せる」と説明した。
■半導体、ロボットにも期待
ATHIUMの開発に当たっては、ヒノデホールディングスと日之出水道機器が金属組織の制御手法を研究し、化学成分を最適化することによって、アルミを基材にしながらも従来にない高い剛性を実現した。製品化開発は田島軽金属が担当し、高級スポーツ車のトランスミッションケースなど複雑形状の精緻な鋳造で注目を集める砂型アルミ低圧鋳造法などで培ったノウハウを活かして凝固条件を解析・設定し、形状精度を確保した。
ヒノデホールディングスの木塚勝典取締役常務執行役員は「工作機械のパイオニア企業である牧野フライス製作所での採用実績を積み、半導体製造装置のチップマウンタやアクチュエータ、ロボット等への展開を目指したい」と展望する。
また、田島軽金属の田島正明社長は、「ATHIUMの鋳造技術は中国や韓国、台湾などが真似できない」と太鼓判を押した。「10~15の複雑工程を真面目に、正確にこなせるのは日本ならでは。量産化に向けピッチを上げ、製造協力企業を広げながら日本が世界に誇れる鋳造技術に育てていきたい」と期待を込めた。
(2021年1月10日号掲載)