ARK、小型分散養殖で世界の食を守る
- 投稿日時
- 2026/06/04 08:00
- 更新日時
- 2026/06/04 08:00
水産養殖業界の「トヨタ」を目指す陸上養殖スタートアップがある。神奈川・湘南を拠点に陸上養殖システムを手がけるARKだ。「海を休ませるために、陸に海をつくる」を掲げ、テクノロジーと日本のものづくりを融合した独自のアプローチで市場を切り開こうとしている。
陸上養殖の世界では、欧州勢を中心に300~500億円規模の大型設備でアトランティックサーモンを大量生産するモデルが主流となっている。国内でも同様の取り組みが進んでいるが、莫大な設備コストが参入障壁とリスクになっている。
こうした状況に対しARKが打ち出すのが「小型分散型」という真逆のアプローチだ。主力製品ARK ZEROは、気密性・断熱性の高い水槽を1ユニット(3槽構造)にモジュール化した設計で、ユニットを追加するだけで生産量を段階的に拡張できる。初期投資は最少単位で数千万円程度から始められ、立ち上げまでの期間も1年以内に抑えられる(大規模施設は3~5年)。
「欧州勢は決められた道路を走る大型トラック。我々は世界の様々な場所で活躍できるランドクルーザーのような設備を目指している」
同社・代表取締役CEOの栗原洋介氏がそう話すように、気密性・断熱性の高い水槽は、一品一様のアトランティックサーモン向けの設備とは違い、設置場所や気候条件を選ばずに対応できる。実際、国内では北は秋田から南は宮古島まで22カ所・74槽の導入実績を持つ。
昨年、高市政権がフードテックを重点戦略分野に位置づけて以降、年頭挨拶で高市総理自らが「陸上養殖」に言及し、鈴木憲和農林水産大臣が同社を視察するなど政策的な追い風が続く。「商談の空気が明らかに変わってきた」と栗原氏は語る。
ただ同氏は「因果関係は逆」とみる。同社は創業以来、展示会出展以外の営業を一切行っていない。それにもかかわらず、ホームページへの問い合わせは累計4000件に達する。関心は政権の動き以前からすでに高かった。成約数が限られていたのは「設備コストや技術面でニーズに応えきれなかったため」と分析する。
「陸上養殖は政府機関の間で支援を受けにくいポジションにあった。今回の政策転換で見直しが進み、他の養殖方法と同じように支援が受けられれば、金額面がネックで踏み出せなかった方にも製品を届けられる可能性がある」
こうした国主導の動きは国内にとどまらない。現在、世界的な人口増加や中間層の拡大に伴いタンパク質需要が急増しており、早ければ2030年頃までに需要と供給のバランスが崩れる「タンパク質危機」が懸念されている。ARKは2月、アラブ首長国連邦のアブダビ食糧安全保障庁と陸上養殖を含む総合水産事業を実現するグローバルエンジニアリングに関する300億円規模の基本合意契約を締結した。
「地域の安定には食の安全保障が一丁目一番地になる。日本の『食』と『モノづくり』に対する期待は大きく、防衛産業と同じようなコンテキストで我々の技術が求められている」
栗原氏は「我々だけでできることには限界がある」と語り、FOOMA JAPAN 2026の会場では「チーム日本」としてグローバルで戦えるパートナー探しにも力を入れる予定だ。

栗原洋介氏。電通でのキャリアを経て、ITベンチャーのウフルで海面養殖のDXプロジェクトへ参画。海洋環境の変化と水産業の構造的課題に着目し、ARKを共同創業。掲げる「海を休ませるために、陸に海をつくる」には、「宇宙に行くより深海に行く方が難しいといわれるほど、人間にとって海はまだまだ未知の世界。そんな海に手を加えるより、人間が営みを陸に引き、海の自浄作用に任せるほうがいいのではと考えた」というある種の諦観がある。
(日本物流新聞2026年6月10日号掲載)