【マテハン最前線】物流改革に挑め
- 投稿日時
- 2024/12/24 09:59
- 更新日時
- 2024/12/27 16:44
〜各社の戦略は?〜
コロナ禍を経て存在感を増したマテハン業界に焦点を当てる。自動化の必要性は改めて論じるまでもなく、過熱した市場に海外企業やスタートアップ、異業種の大企業まで多くのプレイヤーが参入した。その結果起きたのはマテハン機器・システムの目覚ましい進化で、GTP(Goods To Person)を筆頭に充実ぶりは10年前と隔世の感すらある。その業界で今、どんな変化が起きているのか。本特集は前半で注目マテハン企業へのインタビューを一挙6本掲載。後半では新鋭マテハン企業の首脳4人による座談会を通じ、各社の戦略とマテハンの今、そして未来を追う。
コロナ禍のEC化率の伸長や相次ぐ大規模物流センターの新設、2024年問題への対処で近年の流通分野のマテハン投資は熱を帯びた。数十億~百億円規模の大型設備投資も相次ぎ、大手マテハンメーカーの受注残も積みあがることに。
一方、FA分野も部材不足に伴うサプライチェーンの乱れを経験したことで自動倉庫などへの投資が進み、折からの人手不足も相まって各社、自動化の推進に余念がない。もちろん今も重要なファクターではあるが、マテハン機器の導入に際してひと昔前ほどには費用対効果や投資対効果を重視しない企業が増えているとの声も多く聞く。総じて好材料が揃い需要は好調で、業界最大手・ダイフクの受注高が23年3月期に約7375億円と20年3月期(約4832億円)比1.5倍超を記録したことが好調ぶりを象徴した。
本紙の聞き取りによれば足元のマテハン需要は一時期ほど過熱感はないものの、衰えたわけではなく総じて「高いレベルで安定」した状況と言える。流通分野は24年問題に伴う中継拠点など物流施設の新規供給が一巡し、鉄などの資材費や建築費の高騰で大規模な物流投資計画が延期や見直しを迫られやや停滞気味だ。賃貸型物流施設の空室率も往時に比べるとやや高い。一方、FAは自動車や半導体、三品など業界で濃淡はあるものの比較的堅調で各社自動化に向けた投資を粛々と行っている。
ただ多くのマテハンメーカーが先述の需要のピーク期に生産能力を増やしたことで競争は激しくなっており、海外企業やスタートアップ、異業種の新規参入も増えて「海は青いが釣り人も多い」のが今の状況と言える。従って今後は旺盛な需要を捉えるための差別化戦略や製品の性能はもとより、システムも含めた包括的な提案力が重要になると考えられる。
■課題の解は市場に
そんな中にあってマテハン機器の進化は目覚ましい。ひと昔前まで自動倉庫と言えばスタッカークレーン型だったが、AutoStoreやExotec社のようなロボット型の高密度、高能力な自動倉庫が多数登場。Cuebus(1面に記事)のリニアモーター式など新たな型も続々生まれた。
固定設備を嫌う流れからコンベヤレス化も進み、AGVやAMRが人気を博す。設備の導入方法も必ずしも買い切りではなく、サブスクリプション方式で従来より気軽な導入が叶うようにもなった。これらグリーンフィールドのみならずブラウンフィールドにも適用しやすいマテハン機器の伸長が、荷主企業と比べ自動化に踏み切りにくい3PLなどの投資の呼び水になれば、日本のマテハン市場はさらなる規模の拡大も見込める。課題だったトラックへの荷積み・荷下ろしも現実的な自動化ソリューションが登場しつつある。今は目を凝らせば、市場に何らか自社の課題に合致する設備が見つけられる状況とも言える。
このようにマテハン各社はさらなる需要期に備え技術を磨きユニークな機器を揃えている。建築費の高止まりが大規模な物流投資に水を差す状況は今後も続きそうだが、人口が急激に減る日本では「2030年問題」による経験したことのない人手不足と人件費の高騰も予期され、遅かれ早かれ自動化せねば現場が回らないことは誰の目にも明らかだ。
近未来に目を向ければ、現在実証中のトラックの自動運転が一定区間で実運用され荷積み・荷下ろしの自動化を進める強力な動機になるかもしれない。マテハン機器を導入する側の企業も、足元の市況に怯まず長い目線で着実に自動化を進める必要がある。
東亜ディーケーケー、AutoStoreで計測機出荷の荷待ち0へ
水・大気・医療・ガスの計測機器メーカーである東亜ディーケーケーは、日本で初めてpH計を開発した東亜電波工業と電気化学センサーをコア技術に持つ電気化学計器が合併して誕生した。同社の測定装置は、工場の排水監視や発電所、医療関連施設、下水処理場などで活用され、製造業向けのpH計やPM2・5測定装置では国内シェア5割を超える。
左から東亜ディーケーケー・埼玉事業所長の中島信寿氏、同・生産管理部長の齋藤利男氏、オカムラ・物流システム事業本部営業部営業部長の近藤槙一氏、AutoStore System・マネージングディレクターの安高真之氏
設置場所に応じた測定装置の設計ノウハウや開発から生産、販売、アフターサービスまで一貫して対応できる体制に強みがあり、汎用品だけでなく顧客要望に応じたシステムインテグレーションに力を入れている。
そうした中、AutoStoreを導入した狭山インテグレーションセンター(SIC)は、従来からあった物流施設と東京都東大和市にあった研究開発拠点を集約したマザー工場に位置づけられる。主に、量産対応する山形工場への試作品製造やシステムインテグレートした製品の開発・生産、分析器や校正器のメンテナンス用部品の保管・配送などを行っている。
「メンテナンス用部品は在庫点数が多いだけでなく小さいものも多いので、従来の倉庫では従業員が製品を探し回っていた。従業員の労働環境の改善に加えて、多品種少量生産を行うメーカーに合った物流の姿を実現すべくAutoStoreを導入した」(同社・埼玉事業所長の中島信寿氏)
■床面を1.5m下げ高さを確保
検討当初、AutoStoreは「価格が高い」と見送っていたが、SIC内に持たせたい機能と自動倉庫に持たせたい処理能力を鑑みる中で最終候補に残った。
「2階に製造工場があるので、天井を抜くことが難しかった。そうした制約がある中でも空間効率を高めるため、床面の一部を1.5mほど下げることで専用コンテナ5段分の高さを確保した。他の自動倉庫で同様のことはできず、柔軟性の高いAutoStoreとインテグレーターであるオカムラの提案力によって、我々の求めた全ての機能を一つの建物に集約することができた」(同社・生産管理部長の齋藤利男氏、以下同)
導入からまだ半年ほどだが、既に導入効果は出始めている。
「以前は出荷作業が間に合わずドライバーを30分以上待たせることもあったが、今では16時ごろ(定時17時15分)には出荷作業が終わっており、荷待ちも従業員の残業もなくなった」
現在、導入した6740ビンの内、5000ビン程度しか使っておらず余裕がある。中島氏は「今後さらにアフターサービス事業を拡大していくためにも、AutoStoreの活用の幅を広げていきたい」と話す。
プロロジス、物流デベがスタートアップ支援
顧客の課題解決へ、共同輸送の推進も
物流施設内に設けたインキュベーション施設「inno-base TSUKUBA」のイメージ。スタートアップの検証の場になる。
物流施設デベロッパー・プロロジスが独自の歩みで日本の物流を少しずつ変えている。有望スタートアップと提携、19年に出資したタイミーは飲食から物流へ事業領域を広げて今や業界のインフラになった。物流業界の次世代のリーダーを育てるアカデミーも運営し、共同配送の実現に向けコミュニティも組成した。マネージングディレクターの谷住亜紀氏は「いずれも顧客の課題解決が目的」と強調、一連の行動で物流の様々な壁を越えようとする。
物流施設内に設けたインキュベーション施設「inno-base TSUKUBA」のイメージ。スタートアップの検証の場になる
プロロジスは日本の物流へ様々な影響を与えてきた。同社の進出前、国内の物流は施設の自社保有か3PLへの委託が主な選択肢だったが、賃貸型の物流施設の登場で借りる道が拓けた。慢性的な物流の人手不足を変えるため提供を始めた、労働環境が整う快適な物流施設も今や業界のスタンダードだ。今、同社は同じ文脈でスタートアップ支援に力を注ぐ。物流の課題を知る自社が課題解決に有用な技術を持つ新興企業を支援し「業界にとって良い物が生まれれば」(谷住氏)との思いだ。いずれの取り組みも目的は顧客の物流課題の解決で、一貫している。
物流現場に有望な技術を持つ新興企業はたとえ異分野でも支援する。タイミーがまさにその例で、19年当時は飲食が主なサービス領域だったが物流に有益だと判断、出資を決め、プロロジスのカスタマーにも紹介した。タイミーは今や誰もが知るメガベンチャーだ。同じく出資先のKURANDOには物流施設の知見を提供し、安価で導入しやすいWMSの上市に繋げた。出資に至らずとも顧客へ紹介したり、つくば市の物流施設内で運営するインキュベーションセンターへの入居を斡旋するなど支援の方法も様々。「有望企業を紹介して費用を取る狙いはない」。谷住氏はキッパリと言い「支援で物流に面白いことが起こせれば」と語る。
■行先は同じ
同社は毎年、物流業界の次世代のリーダーを育成する講座「プロロジスアカデミー」を2019年度から開講、多くの卒業生を輩出してきた。現場の課題を理解し合い、新たな気づきを促す講座を目指している。
物流業界の課題の一つである共同輸送への取り組みを促進するワークショップも行う。複数の荷主、多くの場合は競合の荷を同じ車両で運ぶ共同配送は、自前主義の強い日本の物流では抵抗感が強くなかなか広がらない。「けれど行先は同じはず」。この壁を第三者の立場で取り払いたいとの思いで同社は22年、共同配送の実現に向け協議する「共同輸送コミュニティ」を設立した。
足元の輸送費の高騰で共同配送に向けた機運は以前と比べ着実に高まりつつある。とはいえ競合企業では歩み寄りが難しいのも事実で、谷住氏は「我々のようなニュートラルな立場で音頭を取り、企業同士をマッチングするのが重要では」と考える。同社にはすでに保有するマルチテナント型施設で、入居企業を結び付けて繁閑に応じてスペースを融通し合う取り組みを進めた実例もある。
今後も共同配送に向けたコミュニティに荷主企業を勧誘し、橋渡しをする黒子の役割を果たすことでこれを実現へ進めたい考えだ。谷住氏は「個人的にもこの取り組みの先行きがすごく楽しみ」と先を見据えた。
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豊田自動織機 (トヨタL&Fカンパニー) 物流ソリューション事業室 企画管理室 ソリューション企画G グループ長 窪田 博司 氏
シャープ スマートビジネスソリューション事業本部 ロボティクス事業統轄部 ソリューション推進部 参事 宮﨑 篤史 氏
(日本物流新聞2024年12月25日号掲載)