超人口減少時代の現場戦略

感染症の拡大に端を発し、部材不足や戦争の勃発、エネルギー価格の高騰、円安の急進など、どの企業においてもこの3年間は外部要因によって振り回されてきたと言って良い。一方で、感染症の影響や部材不足の影響が緩和し、高いエネルギー価格と円安が慢性化した現在、どこの企業に行ってもいの一番に話題となるのが「ヒト」に関する問題だ。

2050年、生産年齢人口2千万人超減

感染症の拡大に端を発し、部材不足や戦争の勃発、エネルギー価格の高騰、円安の急進など、どの企業においてもこの3年間は外部要因によって振り回されてきたと言って良い。一方で、感染症の影響や部材不足の影響が緩和し、高いエネルギー価格と円安が慢性化した現在、どこの企業に行ってもいの一番に話題となるのが「ヒト」に関する問題だ。特に人材不足や流出への懸念が多く耳にされ、「最大の敵」は転職プラットフォームだと話す企業もある。

本特集では「ヒト」に関する様々な課題に対し、課題解決につながるおすすめ製品の紹介や労働環境を見直す企業へのインタビュー、自動化設備をフル活用する中小企業へのユーザー訪問など多角的に取り上げ、迫る超人口減少時代を生き抜くヒントを探る。

2030年には634万人、2050年には2334万人。この数字は2020年からどれだけ生産年齢人口(15〜64歳)が減少するかを表したもの。総務省が発表した「高齢化白書」によれば、20年の生産年齢人口は7509万人であったが、50年には5千万人台前半まで減少するとみられている。超人口減少社会に本格的に突入したと言ってもよい状況の日本社会では既に影響が出始めている。

日本商工会議所が9月に発表した「人手不足の状況および多様な人材の活躍等に関する調査」(全国の中小企業6013社を対象に8月10日までの約1カ月間調査)においても、人手に関して「不足している」と回答した企業が68%と15年の調査開始以降最大となった。そのうちの64.1%の企業が事業経営に支障が生じている状況だと回答している。業種別にみると、製造業は「不足している」と回答した割合が58.8%と全9業種中で最も低かったが、そのうちで「非常に深刻(人手不足を理由とした廃業など、今後の事業継続に不安がある)」と回答した企業の割合が9.6%と3番目に高く、省力化や技能継承がうまくいっている企業とそうではない企業の差が大きいことがわかる。

実際、帝国データバンクが7月10日に出した全国企業倒産集計の2023年上期報のレポートでも、23年上半期(1-6月)に従業員や経営幹部の離職や退職、採用難などを理由に人手を確保できずに倒産した「人手不足倒産」は累計110件に上る。前年同期から約1.8倍に増加しただけでなく、13年に集計を開始して以来初となる年半期ベース100件を超えるなど影響は大きい。業種では建築業が45件で最も多かったが、製造業においても9件と前年同期の6件から増加傾向にあることは変わらない。

人材不足だけでなく人件費の高騰も重石となっている。同調査において物価高を理由に倒産した件数は375件と22年通年の320件を既に上回り、過去最多件数を更新している。その主因として人件費の高騰を理由とする企業は前年同期の5.2%から約3倍増え15.2%。最低賃金の上昇による人件費増加を増収分で賄えなかった企業や雇用確保のために賃金を引き上げたものの収益が伴わずに破綻した賃上げ難によるケースも一部でみられるなど、人材に関する問題が各所で噴出しているといってよい。そして、こうした状況は今年が特に悪いのではなく、対策を取らなければ、どんどん悪くなる一方であることを念頭に置く必要がある。



ロボット導入政府も支援

幸い、日本には省力化・省人化に叶う製品やサービスが豊富にあり、そうした製品を導入しうまく活用すれば、従業員2、3人分を1人でこなすことも可能だ。既にロボットなどを活用して技能継承や省人・省力化の先行事例は数多にあり、実際に本紙2023年9月30日号で掲載したロボット座談会でも「以前は品質向上やコスト削減が主でしたが熟練者不足や3密回避、製造の継続が前提になるケースが増えてきたと感じます」や「労働力不足を補いたい、熟練工の高齢化に対応したいという要望が大手から中小企業さんまであります」との声も聞こえてきている。製造業において自動化設備やロボットの導入は、付加価値を高めるための要素ではなく、それらと共存することが当たり前に求められつつある。

政府もそうした動きを推進する。10月末に発表を予定する新たな経済対策は、物価上昇対策だけでなく、先端技術の開発や規制改革を通じて未来の経済成長を目指す内容となる予定だ。製造業向けにはこれまでにも「IT導入補助金」や「ものづくり補助金」といった支援策があったが、人手不足への対応を直接の目的とする補助金はなかった。今回、経済対策の一環として盛り込まれるとみられている「省人化・省力化補助金(仮称)」には、従来の補助金では対応しづらかった省人化・省力化に寄与するAIやロボットの導入といったことにも補助が受けられるようになると見られている。

外国人材の活用については問題点も指摘されており、海外との人材の取り合いも危惧されているが、日本商工会議所の先の調査によれば、外国人材の受け入れに関しては、「既に受け入れている」が26.6%で前年よりも3.5ポイント増加。コロナ禍以前の19年には19.3%であったことを踏まえると、行動制限が解除されたことで外国人材が入国しやすくなったことだけが増加の理由ではないことがわかる。製造業だけに絞っても昨年よりも5ポイント以上増え、39.5%の企業が外国人材を受け入れており、今後受け入れる予定や検討中の企業も増加傾向にある。取材した加工現場でも「周りに外国人材を受け入れている企業が増えてきた。日本人は次の職を探すのに苦労しないため、嫌なことがあるとすぐに辞めてしまうが、外国人には日本で働く意味があるから、熱心に仕事をこなしてくれると聞いている」と耳にするなど、優秀な人材であれば日本人にこだわらない企業も増えてきている。

(日本物流新聞 2023年10月25日号掲載)

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