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今日本が知るべき中国製造業のAI活用「超」前線 ~AIを経営の根幹に~

投稿日時
2026/08/05 14:00
更新日時
2026/08/07 15:48

江蘇艾思飛精密零部件(SVプレシジョン)、AIを経営に使えない企業は淘汰される

「競合相手は近所のローカルメーカーだけではない。将来、極めて仮想的で想像もつかないような製造環境と競争することになる。淘汰されたくないなら今から学習と準備を進めるべきです」。江蘇艾思飛精密零部件(SVプレシジョン)の黄柏誠総経理はそう力を込めた。

江蘇省南京市で精密部品加工を手掛ける同社は、AI活用が進む中国でも異彩を放つほど、AIを経営の根幹に深く組み込んだAI先進企業としての顔を持つ。設備から人まであらゆる情報を収集する統合データ基盤を構築し、AIで状況を把握・分析、迅速な経営判断につなげているのだ。同社の競争力は高まり、近い将来に同規模の企業を対象としたAI導入支援事業も始める計画だ。「AIの応用は無限。十分な想像力さえあればいい」。黄総経理の言葉は日本企業にとっても示唆に満ちている。中国製造業におけるAI活用のモデルケースとして、一端を紹介する。


「愛小飛(アイ・シャオフェイ)、現在の我々の生産状況はどうなっている?」。SF映画に登場する宇宙船の艦橋を思わせる部屋で、SVプレシジョンの黄柏誠総経理は青白く光る巨大なモニターに手元のマイクでそう問いかけた。即座にAIエージェント(アイ・シャオフェイ)から答えが返る。ありがたいことに日本語で答えてくれた彼女(?)の回答は、極めて明確かつ詳細だった。

黄社長―②.jpg

黄柏誠総経理。背後の巨大なモニターには要請に従って様々なデータが映し出され、AIエージェントのアイ・シャオフェイが説明を加えていった

「今、稼働状況を確認しました。B班とA班の記録からまとめます。まず全体状況です。本日B班は実員〇名、計画〇台に対し稼働〇台、計画〇個に対し実績値〇個で計画を上回っています。ただし設備故障が複数発生しています。今日報告されている設備故障は以下の通りです。回転テーブルアラームが出ており現在修理中です。発信機〇番で送り軸異音が発生しこちらも修理中です。〇でコントローラーが壊れています。部品は明日届く予定です。さらに昨日の記録では精密検査の〇がありましたが、代替品で対応し現在は正常稼働中です。購買の進捗は本日議論中とのこと。あと本日は…」。

アイ・シャオフェイの回答は驚くほど細かくその後も一切の淀みなく続く。しかしこれはまだ一端に過ぎない。「出荷リスクのある製品は」「ストレスを抱えていそうな社員はいるか」――以降、黄総経理が何をたずねても一事が万事上述のように詳らかな答えが3秒もすれば返ってきて、オンラインで見学していた記者はそのたびに舌を巻くことになった。行われたすべての問答を紹介するには紙幅が足りないが、このようにAIが社内の状況をくまなく把握し、問いに即答して場合によっては自らリスクを示唆することで、黄総経理をはじめ経営陣や管理職は迅速な経営判断を下せるというわけだ。

同社の概要に触れておきたい。グループの設立は2005年で、自動車向けHVAC(暖房・換気・空調)部品などの精密加工を主力とする。タイやメキシコにも生産拠点を構え、24年のグループ全体の売上高は約3億4000万元(約82・1億円、1人民元=24・16円で計算)規模だ。26年には売上高5億元(同約120・8億円)の達成を目指しており、成長の最中にある。創業時から日系企業との取引も多く、ブラザー工業製の工作機械を中国で約300台、タイで約100台も保有し、製品設計からアルミダイカストによる成形、切削、組立までを一貫して行える体制が強み。近年は軽量化の要求が高まっているヒューマノイドやドローンの領域にも参入。事業領域を意欲的に広げている。

■虎に翼、製造業にAI

特筆すべきはあらゆる社内データを収集し、AIを経営に徹底的に落とし込む姿勢だ。冒頭のAI管理システムを構築するために、黄総経理はいくつかの段階を踏んできた。

まず、工作機械やダイカストマシンなどのあらゆる社内設備をMES(製造実行システム)に連携させ、データを自動収集した。作業員もMESを通じ作業実績などの各種データを日々登録する。なお良い報告は放っておいても集まるだろうが、悪い情報はそうはいかない。そこで同社は問題点や失敗も正直にシステムに報告するよう透明な評価制度を整え、「現場で本当に起きていること」を反映した非常に精度の高い生の一次データを収集しているという。

このうえでERP(基幹業務システム)やPLM(製品ライフサイクル管理システム)、生産計画システム等が生み出す膨大なデータを、プラットフォームを構築しすべて集約した。生産出来高に品質、設備、さらには人の動きまであらゆる情報が刻々と収集されていく。この情報基盤の上にAIを添加することを、黄総経理は「虎に翼(中国のことわざで鬼に金棒の意)」と表現した。

ユニークなのは社内コミュニケーションツールまで内製したことだ。同社はグローバル企業のため従業員の使うコミュニケーションツールもWhatsAppやWeChatなど様々。そこで独自の「協調プラットフォーム」を作り、業務システムやチャット機能を詰め込んだ。チャット記録やトラブルとその解決までの処置など、すべてがプラットフォームに記録されAIが対話ログを読む。従業員が替わっても記録は残っており引き継ぎは極めて簡単だ。

AI統合管理センター.jpg

「AI統合管理センター」の全体像。巨大なモニターの前に円卓が用意されており、会議中もAI管理システムから社内の様々な情報を引き出しつつ、迅速な判断が下せるようになっている。SF映画の宇宙船内、あるいは某ロボットアニメの指令室を思わせるスマート工場の象徴的空間だ

こうしてあらゆる情報を得たアイ・シャオフェイは、未来をも高い精度で示唆するようになった。何年分もの受注データを紐解いて「来年の業績」や「利益率の推移」を演算。これを基に設備の追加購入の時期を決められるのだ。「どれだけ優秀な経営者でも未来の予測には限界がありますが、AIの演算があれば事前に計画を立て、推進できます」と黄総経理は言う。

以前は平均70%台だったOEE(設備総合効率。設備能力に対するパフォーマンスを表す指標)は一連の施策で80%以上に改善。70日以上に膨らむこともあった在庫回転日数は42日以内へ圧縮された。今では一連の社内システムもAIでコードを書いて内製している。さらにタイに建設中の新工場では、レイアウトや動線設計をAIで評価・計画した。

■ライトアウトファクトリーに備えよ

ここまで仕組みを整えるには時間と労力が必要だ。「血の滲むような努力」と黄総経理は表現するが、こうもAI活用を徹底する原動力は何なのか。

「テクノロジーは進化し続けています。我々がテクノロジーと繋がらなければ、最後にはテクノロジーに取って代わられるでしょう」。黄総経理の言葉には覚悟が滲んでいた。「次はロボットの時代、ライトアウトファクトリー(無人工場)の時代です。製造業として我々が勝つにはどうすべきか? 競合相手は近所のローカルメーカーだけではない。将来、極めて仮想的で想像もつかないような製造環境と競争することになります。私は次の競争でも勝ち残りたい。この市場から去りたくないんです。これが答えです」

中国では昨今「AIに淘汰されるのではなく、AIを使えない人が使える人に淘汰される」という言葉が飛び交うそうだ。企業経営に当てはめれば「AIを経営に使えない企業は、使える企業に淘汰されていく」ということになる。現実としてAIは人間をはるかに凌ぐ情報処理能力、演算能力を持つ。「中国で会社を永続的に発展させるには、テクノロジーに接近し、将来の変化を想像して先手を打つ必要がある」黄総経理はそう力を込めた。

同社はさらにAIを使い倒し、あらゆる同業他社を周回遅れにしようとしている。構想は複数あり、例えば人の管理のAI化だ。

社員が毎日やるべき仕事をインプットし、標準を設定してAIに管理フレームワークを作らせる。そしてAIが各社員に「今日やるべきこと」を提示し、不足している部分があれば「どんなトレーニングが必要か」「どう問題を解決すべきか」まで指示するのだ。上司が部下の尻を叩くのではなく、AIが自動でキャリアパスを描き学習カリキュラムを提供する。

さらにはメンタル状態までAIでケアするという。作業データや報告書からストレスが高まっているとAIが察知したら、「手を止めて、深呼吸して3分〜5分休みましょう」と声をかけるようなイメージだ。上司一人で大勢のメンタルに気を配るのは難しいが、AIが管理してくれれば上司の負担はぐっと軽くなる。なんだかSF映画のような話だが、現実にそんな構想が進んでいる。

さらに部長やマネージャーごとにAIエージェントを配置する計画も進む。AIエージェントが「もう一人の優秀なマネージャー」となり、本人の業務をサポートするのが目的だそうだ。

加えて「業界では『絶対に無理だ』と言われた常識を打ち破るプロジェクトを進めている」と黄総経理は語る。一例がAIによる加工見積りだ。

同社には毎日大量の見積り依頼が届き、それをエンジニアが捌いてきた。だが加工業は「時間を売る商売」。そこでAIをCAD・CAMと連携させ、見積りを自動算出する試みだ。単なる概算見積りではない。同社が大量に保有する工作機械は大半がブラザー工業製で、1台ごとの能力や特性がデータとして蓄積されている。それを見積りシステムに組み込むことで「SVプレシジョンの現場で削った場合のリアルで正確な見積り」を瞬時に出す構想だ。既に何度も検証を重ね、「精度を極限まで高めている」という。

こうした「AIの恩恵」を同規模の企業に展開・導入支援する新事業も計画している。「イーロン・マスク氏の『第一原理主義』を取り入れ、『この仕事はこうやるものだ』という既存の枠組みを打ち破り、AIを使ってより強い方法を実現する。まさに今、血の滲むような努力でこれをやっています」。黄総経理はさらなるAI化構想を描いていることをうかがわせた。

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同社は人を排除するのではなく、エンジニアや管理職が早く正確に情報を得て、行動するのを助けることがAIの役割だとする。「AIの応用は無限。十分な想像力さえあればいい」。黄総経理の言葉は日本の企業にとっても示唆に満ちたものであり、日本の製造業が次世代の競争を生き抜くための大きなヒントとなりそうだ。




執筆:モノクエ編集部
本記事は、創刊70年超のモノづくり専門紙「日本物流新聞」の編集部が制作しています。製造業に精通した専門記者が、現場取材に基づいた正確で鮮度の高い情報をお届けします。




(日本物流新聞2026810日号掲載)