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【省力化・省施工化】現場改革急ぐ建設業界

投稿日時
2025/12/15 09:29
更新日時
2025/12/16 10:28

構造的労働力不足に対処せよ!

人は集まらない、残業はできない、資材は届かない──。建設現場で起きている混乱は、もはや一時的な現象ではない。高齢化と若年層の入職減が重なり、現場の担い手は細り続け、働き方改革で従来型の長時間労働に依存した工程管理も限界を迎えている。一方で、都市部の再開発投資や物流施設・データセンター投資など建設需要は高水準を維持し、需給ギャップは広がるばかりだ。転換点に立つ建設業界の今を探る。


日本の建設業界は今、急速に現場が回らなくなりつつある。長年の3K(きつい・汚い・危険)職場の印象を払拭できず、若年層の入職離れが深刻で、現場作業者の高齢化や人手不足は全産業の中でも最も深刻な水準に達している。

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帝国データバンクが11月に発表した「人手不足に対する企業の動向調査(202510月)」によると、「正社員の人手不足」を感じている建設企業の割合は70.2%にも上った(=表)。これは、情報サービス業や運輸・倉庫業を抑え、調査対象の全51業種の中で最も高い数値であり、建設業における労働力確保がすでに危機的な状態にあることを示している。国土交通省の建設労働需給調査においても、全国の主要8職種の労働力は依然として0.8%の不足となっており、特に東北などの地域においては22%もの深刻な不足が続いている。

■2024年問題が引き金に

人手不足顕在化の引き金となったのが「2024年問題」だ。昨年4月に建設業界にも適用された「時間外労働の上限規制」は、長時間の残業が当たり前であった建設業界に対し、時間外労働を年720時間以内に収めることを義務付けた。業界一丸となって機運を高めた物流業界に対し、周知活動が遅れた建設業界では244月以降、建設計画の遅れや見直しが相次いでいる。

こうした状況にさらに追い討ちをかけているのが「物流の2024年問題」だ。トラックドライバーの荷待ち・荷役作業時間の削減は、建設現場での荷下ろし作業にも求められている。竣工してしまえば現場自体がなくなる建設業界にとって、物流施設などで有効とされる自動化・省力化ソリューションは導入が難しく、職人総出でバケツリレーのような形で荷下ろし作業を手伝っている現場もあるという。

現状、有効な手段は確立されていないが、従来メーカー任せになっていた物流機能を新設し対策を取る企業も出てきた。大手サブコンの新菱冷熱工業は、SGグループホールディングスのグループ各社と手を組み、都内で進む再開発現場に対する門前倉庫の活用に昨年から取り組んでいる。

これまでメーカーの輸送網を使って都内各所の現場にバラバラと配送していた建設資材や設備を、一度、門前倉庫に集約し現場ごとに荷造りをしてから配送する。これにより、トライアル段階ではあるが現場サイドとメーカーサイドの荷受け・配送負担を大幅に軽減できることがわかってきている。

(関連記事)新菱冷熱工業、門前倉庫設置で建設現場への配送回数半減

こうした現場の労働力不足に対処できず、人件費や資材、物流費の高騰も相まって、経営が立ち行かなくなる企業も既に出始めている。先の帝国データバンクの調査においても「人手不足の影響により案件があっても受注できない」「資材高騰や人件費高騰、職人不足が進むと受注を控えなくてはならず、売り上げ減少になる可能性がある」といった具体的な声が聞かれる。実際、人手不足を起因とする倒産件数は帝国データバンクの別の調査においても年々増加傾向にあり、業界をあげて早急な対策が求められる状況まできている。

■需給バランス悪化

人手不足とコストショックに喘ぐ建設業界だが、建設ニーズ自体は衰えていない。

(一財)建設経済研究所の予測によると、今年度の建設投資(名目値)は754500億円に達し、前年度と比べても約2.5%増加する見通しだ。特に政府分野の投資は、国土強靭化計画に基づく防災・減災対策によって牽引され、2026年度には9.2%増と大幅な拡大が見込まれている。

251210建設_トップ_グラフ2.jpg民間においても東京都内では「100年に1度」と言われる大規模な再開発が進行中だ。00年代から始まった渋谷駅周辺での開発は34年度までの完工に向け急ピッチで工事が進められている。27年にもリニア中央新幹線の始発駅が設置予定の品川駅でも30年代後半まで工事が継続する予定となっている。このほかに、コロナ禍以降活発化している物流施設への投資や政府からの支援も期待できるデータセンター投資などもさらに見込める状況にある。

■特に深刻な設備業界

大阪や名古屋などでも同様の状況で、旺盛な需要に対し人的資本が間違いなく窄む中で供給能力をどうバランスするかが業界にとって最大の課題となっている。

特に重要となるのが設備業界だ。現在、電気工事士など専門技術者の55歳以上が約40%を占めており、目前に迫る「2030年問題」など熟練作業者の退職が加速し、構造的に技術継承が難しくなる崖がある。経済産業省の予測では、第1種電気工事士だけでも45年までに最大約25千人が不足するとされ、このままでは躯体が出来ても中身ができないといった状況も起きかねない。

こうした状況に対し、建築資材や設備メーカー各社は現場を効率的に回すことのできる省施工化アイテムの開発を進めている。太陽光発電施設での需要が急増している古河電気工業の「らくらくアルミケーブルシステム」も、「2024年問題」「2030年問題」を見据え現場作業者の作業負担軽減に貢献するために開発された。アルミの軽さと同社独自のアルミ導体ケーブルの取り回しをよくする技術によって、現場で必要になる人手の削減や工期の短縮などのメリットがある。物流施設や工場、大型複合施設などでの採用が進みつつあるという。

(関連記事)古河電工メタルケーブル 営業本部 営業企画部 アルミ拡販チーム 課長 佐藤 仁 氏

電気設備工事の中でも、特に労働力の不足が確実視されているのが照明関連工事だ。2027年末で蛍光灯の製造及び輸出入が禁止されることを背景とした供給不安、いわゆる「蛍光灯の2027年問題」。以前から関連団体やメーカーが呼びかけてはいるが、認知、取り組み共に十分とはいえない状況が続いている。パナソニックが9月に行った調査(全国の2070代の男女7380人)では、本問題に対する認知率は前回調査(3月実施)とほぼ変わらず6割弱にとどまる。加えて、製造・輸出入禁止を知ってからも「特に何も思わなかった、行動しなかった」が43.8%と大勢を占める。27年末に近づくにつれ、より電気工事士の確保が難しくなることが予測される。

そうした中で、パナソニックは直管の蛍光ランプからLEDランプへの入れ替え工事を行う際、吊りボルトの調節や延長が必要ない省施工化製品をラインナップする。他にも、電気工事士の作業効率化に役立つ製品群を「ハヤワザ リニューアル」とし、提案を強化している。

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(関連記事)パナソニック ライティング事業部 マーケティングセンター 非住宅推進部 課長 山中 正喜 氏

現場省力化に寄与する製品開発を進めるのは電気設備メーカーに限ったことではない。住宅設備機器メーカーのクリナップは、昨年刷新したシステムバスルーム「SELEVIA(セレヴィア)」「rakuvia(ラクヴィア)」において、組立て・設置にかかる時間を半減できる工夫を設備各所に盛り込んだ。技術ある職人によっては設置完了まで半日で終わることから、現場からの支持も厚く、狙っていたマンションリフォーム市場でも既に存在感を示しつつある。

(関連記事)【1日2台】浴室工事店CONCEPT、クリナップ超省施工システムバスで実現した工期短縮

■フロントローディング化へ業務の抜本的見直しが急務に

現場改善に有効な省力化ツールは多数出てきているが、それだけではまかないきれない時代に建設業界は既に足を踏み入れている。これまでのようにあらゆる不測の事態を現場で回収する構造自体が成り立たなくなりつつある。

物流の2024年問題はトラックドライバー本来の仕事「輸送」にできるだけ時間を割けるよう、商慣習さえ見直そうという流れとなっている。建設業界でも物探しや掃除、設計や製造の不備による現場での手直しなど、現場作業者が本来の仕事に集中できない環境がある。こうした業務負担が現場に偏っている状況を改善するためにも、現場に情報や物が入る前の前処理「フロントローディング」に改めてスポットが当たっている。

設計段階で施工性を織り込み、工程や干渉を事前に検証し、現場での迷いや手戻りを極力排除する考え方で、BIMによる3Dモデルの活用、事前シミュレーション、設備・躯体の干渉チェック、施工手順の可視化などが代表的な取り組みだ。そのためにも、設計と施工、発注者、協力会社が早期から情報を共有する体制づくりが求められる。

フロントローディングを徹底することで、既に成果を上げている企業もある。荏原製作所は10年程前から現場での3Dモデルの活用を進めてきた。現在、施工中の南摩揚水機場(栃木県鹿沼市)では3Dモデルに加えて、MRゴーグルなどを活用して仮想空間上での発注者や現場作業者との打合せを行い、手戻りの少ない高品質な施工を実現している。

(関連記事)荏原製作所、ポンプ施工にMR活用

労働力人口が縮小する社会において、建設業界は従来の延長線上のやり方では立ち行かなくなる。フロントローディングは将来の施工体制を支える基盤であり、業界全体で共有すべき共通の視点となりつつある。








大東精機、長尺材の3次元切断を省スペースで実現

製罐・プラント・造船業の省人化へ


H形鋼をはじめとした角パイプやアングル、チャンネルなどの形鋼を複雑な形状に3次元切断する。大東精機は50~500ミリ幅までの鋼材の3次元切断や穴あけ(スリーブ孔や長孔)に対応したスリムなコーピングマシン「Obi500」(オビィ500)を発売した。製罐・プラント・造船などの業種では鋼材の3次元切断を人手か高額なレーザー加工機で行う現場が大半だ。製造業の人手不足が深刻化する中、同機はそれらに代わる新たな選択肢になる。

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コーピングマシン「Obi500」(オビィ500)のイメージ。送材装置は、精度が高くより薄い材料も変形せず送れるキャリッジ方式にした。同方式の同社のドリルバンドソーでの加工からスムーズに移行する狙いもある

Obi5006軸多関節ロボットによるプラズマ切断と、鋼材の送り装置を組み合わせた自動加工システムだ。同社は従来もコーピングマシンを複数ラインナップしていたが、いずれも中~大型のH鋼などの鉄骨加工を想定しており、1000ミリ・1300ミリ幅までの鋼材に対応していたためスペース上の制約から製罐工場に導入するのが難しかった。Obi500はサイズがコンパクトで工場の規模を問わず導入がしやすい。CADデータから加工プログラムを生成できるため、教示が不要な点も利点となる。

小型化しただけでなく機能面も見直した。従来機はチャンネルやアングルを切断する際に複数のパスが必要だったが、制御の強化でワンパス切断が可能になり、美しい切断面が得られるだけでなく、加工スピードも向上。また、フランジの端落としもフィレット部(ウェブとフランジが交わる曲面部)の残りによる段差が少なく、きれいな加工面を実現できる。さらに自動キャリブレーション機能も実装し、従来は専門スタッフが訪問して補正作業を行っていたが、オペレーターでも補正が可能になった。「様々な機能を強化した次世代のコーピングマシン」と位置づける。

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さまざまな形鋼に多様な加工が行える

同社によればここまで小型のコーピングマシンは世界的にも珍しいという。プラズマ切断のためレーザーより厚い材料も切断可能だ。「人手によるガス切断作業を代替できるため、職人はより高度な作業に専念できる。機械フレームや架台製作を想定しているが、思ってもみなかった業界の需要を掘り起こせる可能性がある」と期待する。

■キャラ付けで機械に親しみを

ところで「Obi(オビィ)」という機種名は、なんとなく人名やニックネームを彷彿とさせないだろうか。実はこれは意図したもので、大東精機は現在「製造業を、あそび場に。」というフレーズを打ち出し、単調な仕事は機械に任せ人はクリエイティブに仕事をする世界観を実現しようとしている。この観点で機械も「無機質でなく愛される親しみやすいネーミング」に順次切り替える計画で、Obiはその第1弾なのだ。

帯は結び方で創造性を発揮できる日本古来のツール。コーピングマシンも切り欠き、穴あけ(スリーブ孔や長孔)、開先加工など幅広い機能を持つことから、「Obi(オビィ)」という名が生まれた。なお同社は既存機も含めた機械デザインのブラッシュアップも計画中で、20269月の国際ウエルディングショーではより洗練された見た目のObi500を披露する予定。






フジ産業、人手不足対応で複合加工機ニーズ急進

コスト競争力ある門型機シリーズ化


ドリル・エンドミル加工用の主軸と±180度旋回ノコヘッドの2軸を搭載。ノコヘッドは米国のトラックバンパーメーカーで24時間365日フル稼働させても問題のなかった耐久性の高い独自の主軸を採用

長尺加工機のパイオニアであるフジ産業は、もともと工作機械のオーバーホールと専用機製作が祖業で、窓サッシなど建材にも使用されるアルミ材の加工に強みを持つ。そのため、年々シュリンクしている住宅市場の影響を大きく受けていそうだが、「今年の売上も、過去最高だった昨年度に次ぐぐらいで堅調に推移している」とフジ産業・取締役営業本部長 東京営業所 所長の池田智之氏は話す。

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フジ産業 取締役営業本部長 東京営業所 所長の池田智之氏 

「戸建て需要は伸びておらず、大手アルミサッシメーカーが27年度を目途にアルミ製の窓枠の取り扱いをやめるといった話もあり、住宅向けのアルミ建材は過渡期を迎えている。一方で、大型ビルなどで使用されるカーテンウォール分野では軽く仕上がりの美しいアルミが好まれる。足元の景気は良くないが、カーテンウォールなどの材料の大型化や既存設備の老朽化などもあり、機械の設備需要は底堅い印象」(池田氏、以下同)

さらに加工現場の人手不足が同社製品への需要を確かなものにしている。元来、アルミ建材は複雑な形状のワークも多く、鋼材加工などに比べると人への依存度が高かった。しかし、ここにきて省力化したいというニーズが増えており、「複合加工機など以前よりも付加価値の高い製品が求められるようになってきている」という。

中でもノコ付き長尺複合加工機「FB-5000-8ATC-C」は、現場の生産性向上に直結する設備として採用が広がる。アルミ建材加工ではまだまだ汎用機や単機能機で加工をしている現場も多くあり、切断や穴あけなど工程ごとに人が付き、工程間の搬送も人が行っている。これに対し同社の複合加工機は切断から穴あけまでを一気に工程集約できる。

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ノコ付き長尺複合加工機「FB-5000-8ATC-C」

「当社の製品は母材を置いて、独自の対話型プログラムに沿ってワークの寸法や加工パターンを入力するだけで加工が済んでしまう。誰でも使いやすいので、工場に行くとパートの女性が操作しているケースをよく見かける」

■門型加工機をシリーズ化

一方、同社は長尺加工の技術を生かした門型加工機「FZシリーズ」の提案も加速する。従来は専用機として個別対応していたが、建材・車両・倉庫設備向けなど大物加工の機械化ニーズが高まっていることからシリーズ化した。

「ニーズ自体は前からあったが、加工内容が穴あけ、タップ、ちょっとした切り欠き程度で、大手メーカーの製品ではコストも性能も合わず、最終的に人で加工しているケースが多々あった」

FZシリーズは大手の2~3分の1程度の価格で導入可能。加えて、テーブルサイズは1㍍角から幅10㍍超まで自由度が高く、テーブルの種類も溝、吸着、幅広バイスなど様々に選択できる。自社にジャストフィットな機械を入れられると、「これまでも年数台ほど売れていたが、昨年シリーズ化して販促にも力を入れたところ今年は既に10台以上売れている」好調ぶりだ。

実際の引き合いは、トラックの架台・煽り、断熱パネル、倉庫スライダー材、樹脂・木質パネル、製缶品など幅広い。そのため、同社では「機械だけで加工性能を追求するのはやれることが限られる」との考えから、切削工具を手掛ける不二越と連携し、加工内容に最適な工具提案などにも力を入れる。

「工具を適切なもの、使い方に変えるだけで、タクトタイムを5分の1にできた事例もある」

現在、建設領域では施工現場での負担を軽減するため、工場などで資材の加工や仮組みを事前に行うオフサイト生産が積極的に進められている。工場の生産性向上と建設現場負担の吸収を両立するためにも、フジ産業の提案には注目がさらに集まりそうだ。


MEMO


同社の加工機は半導体製造装置の架台や半導体製造工場内の設備関係の製品加工にも使用されている。AI関係を除き長らく影が落ちていた半導体業界だが、池田氏によると「ようやく動きそうな雰囲気がある」という。






設備業界でも進むBIM活用


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オートデスク 日本地域営業統括 技術営業本部 業務執行役員 本部長の加藤久喜氏

建設DXの中心概念としてグローバルで普及が進むBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)。日本国内での活用は十分とは言えず、中でも建設設備の領域は遅れていた。そうした状況がここ数年で急速に変わりつつある。背景にはやはり深刻な施工現場の労働力不足がある。設備BIMの現在地と、今後の展望を探った。

BIMとは建物を3次元で表現するだけでなく、膨大な属性情報(スペック、性能、施工条件、保守情報など)を形状モデルに紐づけて管理できるソフトウェアである。単なる3Dの形状モデルではないため、建物の設計から調達、施工、運用・維持管理のプロセスまで一貫したデータ活用ができるようになるとされている。

既に欧米を中心に世界中で活用が進んでおり、日本でも国土交通省が2026年度からのBIM確認申請へと舵を切る方針を定めるなど政策面での後押しも始まっている。一方、建築設備業界では設備CADの普及により、意匠設計・建築施工業界と比べて3Dモデルの活用は進んでいるものの、データを活用するという意識改革については、依然として遅れを取っている。

一気通貫でデータ活用できることがBIMのメリットであるにも関わらず、なぜ建設設備業界ではBIM活用が進んでいないのか。BIMツール「Autodesk Revit」を提供するオートデスク・日本地域営業統括 技術営業本部 業務執行役員 本部長の加藤久喜氏は次のようにみる。

「建設プロセスでは、設備施工を担うサブコンは多くの場合、ゼネコンの下請けとなる。ゼネコンは建築施工領域で、3DモデルにとどまらずBIMデータを活用したプロセス変革に取り組んでいるが、設備サブコンがゼネコンから受け取るのは従来通りの指示書のみであることがほとんどのため、データ活用には至っていなかった。その結果、設備サブコンのBIM活用は、長らく従来の3Dによる収まり検討に留まっていた」 

状況が変わったのが2023年。高砂冷熱工業や新菱冷熱工業、ダイダンなど大手サブコン7社(設立当初)が「設備BIM研究連絡会」を立ち上げた。サブコン主導で、設備設計・施工プロセスの「業務効率化」と「施工品質の向上」を目指し、BIMを活用したデータベースの標準化などが業界一体で急速に進みつつある。

■設備メーカーにもメリット

建設設備業界でBIM化が進むと何が変わるのか。他の設計プロセスと分断されていることが理由で発生する手戻りなど、非効率な施工業務の改善に期待できる。加えて、加藤氏は「影響はサブコンだけでなく、メーカーの営業戦略にも直結する」と指摘する。

「設備BIM研究連絡会を通じて、設備メーカーにRevitで利用可能なBIMファミリー(ライブラリ)整備がお願いされている。データの整備を適切に行えていないメーカーの製品は選択肢にさえ挙がらなくなる可能性がある」

一見、メーカー側の手間だけが増えるように思えるがメリットもある。建設業界では施工段階での設備の見直しが頻繁に発生している。こうした状況に対し、大手空調機器メーカーは建築のBIMモデルから適切な空調機器を自動選定・配置するRevitアドオンツールを公開。労働安全衛生法の事務所衛生基準規則で規定される温度・湿度を保つための空調機器の配置や計算を自動化し、設計段階からの「スペック・イン」と設備変更がしづらいビジネス環境の構築を進めている。

こうした取り組みは照明やドアなど他の分野でも進みつつある。形状だけでなく、性能差や法規制に関わる情報などをBIMデータに入れ込むことで、「その製品でないと性能や環境を担保できない」状況を作り、施工段階で代替品への入れ替えを起きにくくする。

BIMによる業界の変革は水面下で起こっている。正しい情報を持ち、適切な手を打てるかが今後を決める。オートデスクではBIM初心者から上級者にまで役立つ情報を発信するオウンドメディア「BIM design」を運営している。「ユーザー事例やRevitの使い方などを動画やブログで紹介している。BIMに興味を持ったらまずアクセスしてみて欲しい」(加藤氏)という。










野原グループ、設計から施工まで一貫してBIM活用できる体制構築へ


セメントや鉄筋などの構造材から内装建材まで、建設に関わる幅広い商材を扱う建材商社として存在感を高めてきた野原グループは、2023年に大きな転換点を迎えた。野原ホールディングス、野原産業、野原住環境、野原産業エンジニアリングを統合し、BIMで建設業界を革新するためにBuildApp事業統轄本部を立ち上げた。今年2月、これまでβ版で提供してきたBIM設計・生産・施工支援プラットフォーム「BuildApp」を正式に上市。建設業界のBIM活用を後押しする。

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建設業界の課題は多い。就業人口の減り幅が大きく人手不足が深刻化する一方、サプライチェーンは長く複雑で非効率な慣習が未だにまかり通っている。「このままでは建物が建てられなくなる」との危機感から、野原グループは事業の軸足を大きく建設DXへと移し、特に建設業界の上流から下流まで一貫したBIM活用・普及に力を入れる。

その中核をなす「BuildApp」はBIMによって設計・生産・施工を支援するプラットフォーム。今年2月に提供を始めた「BuildApp内装建材数量・手配サービス」で、建設業界全体でのBIM活用へ一歩踏み出した。

同サービスは、従来、内装工務店の現場担当者が紙ベースの図面から手拾いしていた作業を自動化するソリューション。導入した現場の建材の所要数量拾いと手配業務に関わる業務時間を約3分の1に減らすことができるという。

「一般的に、建材の所要数量拾いは実際に使用する材料よりも10~15%程多く発注するとされていますが、本サービスは10%以下で算出できる。内装工事店さんからは業務負荷の低減だけでなく、精度の高さを評価いただいている」(同社・BuildApp事業統括本部 BuildApp営業統括部 本社営業部 部長の中田有俊氏)

バッファを小さくできれば無駄な材料コストがかからない。加えて、建設業界で課題となっているCO2排出量の抑制や搬入作業・仮置き場所の確保・廃棄作業といった無駄な資材が無ければ本来発生しない作業負荷も減らすことができる。「ゼネコンからは、現場に無駄なものが入ってこないため間接的に業務負荷低減に役立っている」と高評価を得ている。

「現在は内装壁からスタートしたが、来年には天井へと展開し、最終的には建具や鉄筋、セメントなど他工種にも広げていきたい」(中田氏)

■設備メーカーでのBIM活用も支援

3DCADBIMの最大の違いは、モデルに情報を付与できる点にある。パーツごとにメーカー名や型番、サイズ、仕様、価格、設置日などを紐づけられるため、設計から施工、維持管理まで一貫した情報活用が可能となる。しかし、これらの情報をすべて設計者やBIMオペレーターが入力したり、BIMオブジェクトそのものを作成していては、業務負荷が増し3DCADからBIMソフトにモデルを置き換えただけの「無用の長物」となりかねない。そこで重要なのが、資材メーカーからの適切なBIMデータの提供体制の構築だ。

野原グループはこの分野にも強みを持つ。15年近い歴史を持つBIMコンテンツプラットフォーム「BIMobject」を運営するスウェーデン・BIMobject社へ17年に出資。BIMobjectには世界2400社以上の製品データが掲載され、登録ユーザー数は500万人を超える。国内では、野原グループとBIMobject社が共同で設立したBIMobject Japanがプラットフォーム運営を担い、BIMコンテンツの流通基盤構築に貢献する。

同社・BuildApp事業統括本部 BuildAppサービス開発統括部 BAソリューション部の原田潤氏はBIMobjectに対し「北欧ではBIMobjectに製品データが掲載されていないと入札にさえ参加できない状況もある。日本国内もいずれ盛り上がりを見せるはず」と期待を寄せる。

そのきっかけになりそうなのが、来年度から始まるBIM図面審査であり、29年度に始まるBIM確認申請の本格化だ。実際、メーカー側も動き出しつつある。原田氏は「以前断られた企業も『そろそろやらないとね』と反応がよくなっている」と実感を話す。

BIMは難しいと感じている方も多いと思うが、BIMobjectにはBIMデータ以外に2D図面や3DCAD、画像なども掲載できる。データを提供いただければ当社でBIMモデルを作成することも可能」

原田氏は「まずは興味を持ってもらいたい」と呼びかける。




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(日本物流新聞2025年12月10日号掲載)