マーケットチャンスをつかめ

国内外で設備投資が復調し、景気回復への期待感が高まっている。半導体分野の好調が工作機械、ロボット、射出成形機、一般機械や電気・精密機械などに波及している。このマーケットチャンスを是非ともものにしたいところだが、注意したいのは環境性能のプレゼンスが年を追うごとに高まっていることだ。脱炭素の波に乗れるかどうかが市場ニーズを掴めるかどうかを左右すると言ってもいいだろう。

【画像1】一次エネルギー削減率100%以上の「ZEB」(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)は再エネを広める有効な手段といえる。AGC(旧・旭硝子)が2018年末に竣工した鹿島工場本事務所棟(茨城県神栖市)は窓ガラスでも発電する。
【画像2】無し
【画像3】オークマ製横形MC「MA-8000H」のECO電力モニタ
【画像4】油圧レスにした岡本工作機械製作所の成形研削盤「NPG500NC(S)」

低炭素化へ向かう企業、Z世代を巻き込めるか

0.61―。この数字だけでピンときた人はよほどの環境配慮型と言える。気象庁が1月4日に発表した昨年の気温上昇だ。2021年の年平均気温が過去30年間(1991~2020年)の平均値と比べ0.61℃(確定値)上回った。1898年の統計開始以来過去最高の20年(0.65℃高)よりは低かったものの、過去3番目の高さ。12月下旬に強い寒気が流れ込み、全国的に冷え込んだことが平均気温を押し下げた面もあるため、楽観できない状況が続いている。

政府が昨年10月に閣議決定した新たなエネルギー基本計画は、2030年度に再生可能エネルギーの割合を発電量全体の「36〜38%」(19年度実績の倍増)に引き上げた。菅前首相が一昨年秋、50年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする目標を宣言した以上、通過点ではあるがなんとしても実現させねばならない。

産業界全体で環境意識が年々高まっている。とりわけZ世代は意識が高いという。1990年代半ばから2010年頃までに生まれたZ世代は日本人口の14%程度に過ぎないが、新たな流行を生み出し、今後の消費行動の中心を担う層として多くの企業の注目を集めている。デジタルネイティブであるZ世代はテレビや新聞にあまり接しないようだが、社会貢献活動やSDGs(国連で採択された持続可能な開発目標。30年までに達成を目指す17分野の目標が示された)に積極的にかかわっていく考えをもつ。彼らが信頼するのは残念ながらマスコミ情報でなく、知り合いやフォローするインフルエンサーの口コミ。情報拡散のスピードは極めて速い。企業の多くがSNSや動画での情報発信に力を注ぐのはそんな彼らを意識している面もあるだろう(後れ馳せながら日本物流新聞社も昨年12月からSNSでの情報発信を始めました)。

高精度と省電力の両立

工作機械の環境性能が高まっている。オークマが昨秋開発した横形マシニングセンタ「MA-8000H」は「脱炭素への強力な支援」を謳う。ECO電力モニタを搭載し、「加工当たりの消費電力量やCO2排出量をその場で確認できる。機器ごとのCO2排出量を分析することで、改善が可能」と言う。また冷却の要否を機械が自ら判断し、高精度を維持したまま冷却装置をアイドルストップする。高精度と省電力の両立を実現したと言える。

オークマ製横形MC「MA-8000H」のECO電力モニタ

岡本工作機械製作所の成形研削盤「NPG500NC(S)」は、左右の駆動方式に電動ベルトモーターを採用したことで、SDGs、省エネ・環境対策につながるマシンとなった。従来の油圧駆動式で使う潤滑油や油圧油といった作動油を使用しないため、産業廃棄物の廃油処理で出ていたCO2を1kW時あたり656kg削減する。油圧ポンプをなくしたことでテーブル駆動に関するエネルギー損失を60%削減でき、年間電気使用料の節約につながる。熱変異の最大要因である油をなくしたことで業界最高峰の高精度を実現。メンテナンスの改善、規制・地方条例などに従うための工業管理の負担軽減にもつなげた。

デジタル技術に活路

業界での取り組みにも力が入ってきた。(一社)日本電子情報技術産業協会(JEITA、綱川智会長)は2050年のカーボンニュートラル実現のカギに「デジタル」の活用をあげる。カーボンニュートラル実現のためのIEAシナリオ「Net Zero Emissions by 2050 Scenario(NZE予想)」による2030年の世界のCO2排出量目標211.5億tを実現するには、各国政府の発表よりもさらに151.2億t引き下げる必要があるという。

この目標の151.2億トンの内訳は発電部門66.1億トン。それ以外の85.1億トンはデジタルを通じて削減できる可能性があると綱川会長は言う。とりわけデジタル技術によって大きな削減が期待できる分野として5分野「EV・自動運転」「ITリモート」「エネルギーマネジメント」「スマート農林業」「社会インフラモニタリング」を挙げる。これらの分野の2030年におけるCO2削減ポテンシャルは55.9億トンと見る。これは発電以外の部門の削減目標の66%にあたる。

デジタル技術に大きな可能性を考えるJEITAは昨年10月、「Green×Digital コンソーシアム」を立ち上げた。世界的な潮流の中で世界市場で戦う幅広い企業を集め、国際的なルール形成をリードする考え。現在、IT、エレクトロニクス企業のみならず、素材企業や物流、金融、サービスなど多岐にわたる分野の企業計85社が参画。サプライチェーン全体のCO2見える化に向けたデータフォーマットや開示範囲などのルールの検討を進めている。

カーボンニュートラル経営

環境分野で近年やや遅れをとったように見えた日本は巻き返しつつある。RE100(事業で使用する電力の再エネ100%化にコミットする協働イニシアチブ。参加企業は300社超)の日本の参加企業数は63社(21年12月20日現在)と国別では米国に次ぐ世界2位を誇る。

またカーボンプライシング(CO2の排出量に応じて企業や家庭に金銭的なコストを負担してもらう仕組み)の分野で先行する例も見られる。日立製作所は2019年度から日立インターナルカーボンプライシング制度(2019年度投資分から)を導入。独自に炭素排出量に価格付けし、それを経営の意思決定に反映することで組織活動を低炭素化の方向へ促すというもの。同社と100%子会社および上場子会社4社で展開中だ。

カーボンニュートラルを自社の事業に取り入れることは攻めの経営につながるとボストン・コンサルティング・グループ合同会社の丹羽恵久マネージング・ディレクター&パートナーは指摘する。

「カーボンニュートラル経営で競争優位性を構築できる。その際自社だけでなく外部パートナーと組むことが重要だ」

ただ、カーボンニュートラル経営の推進は難しい。丹羽氏は難しい理由として「影響範囲が広く、複雑で不透明で、時間軸が長い」ことを挙げる。うまく進めるには大胆な目標設定や経営トップのコミットメントなど7つの要諦があると説く。

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