狭まる「脱炭素包囲網」

すでに深く浸透したカーボンニュートラル(CN)というワード。「またその話か」と顔をしかめる向きも多いが、実のところ取り組まないことでゆでガエル状態に陥るリスクはいよいよ顕在化しつつある。「CNに取り組んでいないために仕事の機会を失う」という事態は海の向こうに限った話ではない。今こそ対応を急ぎたい。

目の前にあるかもしれないスコープ3の崖

サプライチェーンも含めた事業活動全体の温暖化ガス(GHG)排出量を指す「スコープ3」。この情報開示が上場企業を対象に義務化されればいよいよ中小零細企業もCNへの本腰を入れた参画が必須となり、それでも後ろ向きな対応を続けるならサプライチェーンからの退場という憂き目にあうかもしれない。こうした事態が日本でも、早ければ2025年にも加速する可能性がある。そうなれば「ウチの商売は国内だけだから大丈夫」は通用しない。このリスクに目を向け、特に製造業ではCNへの対応を前向きに進める必要がある。

スコープ3という言葉がこれだけ取沙汰される理由は、すでにスコープ3に基づく情報開示の義務化が事実上の「グローバルスタンダード」だからだ。国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は23年6月に、上場企業に対するスコープ3の開示義務化を最終決定した。これを踏まえ各国は、基本的には自国におけるスコープ3開示の義務化を見据えて開始のタイミングをはかる流れになると考えられる。

日本ではサステナビリティ基準委員会(SSBJ)を中心にスコープ3に関する審議が進んでおり、3月末までに草案が公表される見込みだ。企業に負担を強いる義務化には様々な経過措置が設けられる可能性が高いが、基準が公表されれば少なくとも、現状よりスコープ3に取り組む国内上場企業は増えることが見込まれる。この影響は中小企業にも確実に波及するだろう。過剰な危機感をあおるわけではない。だが国内の商売がメインの企業にとっても「明日は我が身」だと言えるのではないか。

■脱グリーンウォッシュ

こうした「CN包囲網」が国内でも狭まる一方で、ウクライナ紛争以降、国際的なCNの推進は複雑化の一途をたどる。エネルギー転換の急先鋒だったドイツはロシアからのエネルギー供給が絶たれ、連立政権の一角をなす環境政党・緑の党も支持率が低迷。英国もガソリン車とディーゼル車の新車販売禁止を5年先送りすることを決めるなど、CNの達成に必要な現実的な「コスト」を前に足踏みしている状況だ。

直近でも米証券取引委員会が、自国の上場企業に対するGHGの「スコープ3」開示の義務化を見送ることを決めたことが報じられた。背景にはカリフォルニア州で成立した排出量開示の新法が、「過度なコスト」を企業に強いるものとして訴訟が起こされたことがある。一時は急速な義務化が進むと見られたスコープ3だが、算出方法や基準、必要なコストに課題があり、現在は国際的にはやや足踏みしている状況とも言えるだろう。

とはいえこのような状況を踏まえても、日本の企業がCNに取り組まなくとも良いということにはならない。今はあまりに性急かつ短絡的なCNの推進に対して一部から「待った」の声が上がっている状態で、気候変動が世界の最重要課題であることは依然として変わりないからだ。

近年では欧米諸国で「グリーンウォッシュ」という言葉が登場した。うわべを取り繕って良く見せることを指す「ホワイトウォッシュ」とグリーンをかけ合わせた言葉で、本当はそれほどエコでないにも関わらず実態以上に商品やサービスを環境に配慮していると見せかける行為を指す。こうした実態の伴わないかりそめのエコは、すでに欧州で訴訟対象になるなど厳しい目が注がれつつある。簡単な話ではないが、日本の企業も実直なCNへのコミットを続ける必要がある。

機械加工の展示会などではCN≒省エネといった文脈で語られることが多いが、実のところすぐに着手できて確実にCO2排出を減らせる手立ては消費電力のカットであり再エネ活用だろう。また設備ごとの消費電力を正しく把握するのは難しいが、大阪市のベンチャー企業・SIRCが15秒で設置できる高い精度の電力センサユニットを発売するなど有効な手立ても登場してきている。自社のできる活動を今こそ進めたい。

(日本物流新聞 2024年3月25日号掲載)

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