インタビュー
聖和精機 代表取締役社長 泉谷 直弥 氏
重切削向け「ハイデュアルチャック」好調
- 投稿日時
- 2026/09/28 13:20
- 更新日時
- 2026/09/28 13:24
精度妥協せず生産能力2倍へ
工作機械や工具の性能向上に伴い、それらの能力を最大限に引き出すツーリングの選定が加工精度や刃具寿命を左右する時代になった。独自構造で強力な把握力と高い振れ精度を実現する「マイクロンチャック」で知られる聖和精機は、半導体業界の旺盛な需要に応えるべく生産性の向上を進めている。今年2月に就任した泉谷直弥社長に、成長戦略や今後の方針を聞いた。

今年2月に就任した泉谷直弥社長。新卒でハウスメーカーへ就職。聖和精機入社後は営業、生産、間接部門など社内の幅広い業務を担った
――2月の社長就任から半年が経過しました。足元の景況感は。
「当社は例年、期初から勢いよく立ち上がる会社ですが、今期は2、3月に少し落ち込みました。ただ、7月頃から受注が一気に動き始め、期初の遅れはほぼ取り返しています。通期では前年度比10~30%の受注増を見込んでいます。長いコロナ禍を経て、ようやく市場が本格的に動き出した。今は守りに入る局面ではありません。この流れを確実につかみ、次の成長につなげる時期だと考えています」
――どの業界が伸びていますか。
「圧倒的に半導体関連です。直近では受注の4~5割を占めるまでになっています。それに伴って新規のお客様も増えており、『マイクロンチャックに変えて加工精度が上がった』『刃具寿命が延びた』という評価を数多くいただいています。ただ、特定の業界だけに依存するつもりはありません。半導体に加え、医療、航空機といった成長分野を明確にターゲットとして定め、営業資源を集中させています。どこにでも売るのではなく、我々の技術が最も価値を生む市場を狙っていきます」
――需要を牽引している商材を教えてください。
「主力は『マイクロンチャック』ですが、現在特に勢いがあるのが重切削向けの『ハイデュアルチャック』と『マイクロンH/M/Nシリーズ』です。ハイデュアルチャックは、油圧式とメカ式、それぞれの長所を1本に集約した製品です。非常に高い把握力を持ち、工具抜けの原因となる『すりこぎ現象』を抑える。難削材をはじめとした重切削分野で評価されており、現在は生産が追いつかないほどの状況です」
「一方、小径加工ではマイクロンチャックの可能性をもう一度掘り起こしています。これまで小径工具にはコレットチャックを使うのが一般的でした。しかし、小径工具もマイクロンで直掴みすることで、刃具寿命を延ばし、結果として工具費を削減できるケースがあります」
「単に『精度が良いですよ』では売れません。コレットチャックとの比較データを示し、お客様にどれだけのメリットが出るのかを数字で伝える。製品を売るのではなく、加工現場の利益を売る。それがこれからの営業だと考えています」
■精度こそ、我々の生命線
――需要に供給が追いつかないとのことですが、どれくらい伸びていますか。
「現在の生産能力を100とすれば、180の注文をいただいているような状況です。ただし、だからといって品質を犠牲にして生産量だけを追いかける考えはありません。ハイデュアルチャックは構造が複雑で、マイクロンチャックより部品点数も多く、製作には約1.5倍の時間を要します。マイクロンチャックは振れ精度2μを保証しています(機種により変動)。この精度を支えているのが組立工程です。1本ずつ精度を追い込み、さらに別の作業者がダブルチェックする。その後、専用の振れ測定機で全数検査し、保証書を付けて出荷しています。ここまでやれば、当然時間もコストもかかります。それでも絶対に省略しません。生産効率だけを考えれば『そこまでやる必要があるのか』と言われるかもしれない。しかし、我々は精度を売っている会社です。この精度保証こそが聖和精機の生命線であり、何があっても譲れない部分です」
――精度を維持しながら、生産能力をどう高めますか。
「すでに動いています。鳥取工場では組立作業者を4割増員しました。加工設備も新たに導入する予定で、仕掛かり部品についても戦略的に在庫を積み増しています。同時に力を入れているのが自動化です。他社の協力も得ながら独自の自動化装置を開発しており、JIMTOFで披露する予定です。目標は明確です。現状の人員規模を基本に、3年以内に生産能力を2倍にする。簡単な数字ではありません。しかし、単純に人を倍にするのではなく、設備、自動化、工程、在庫の持ち方まで全部見直せば実現できる。私は十分に可能だと考えています」
――開発した自動化装置について詳しく教えてください。
「ホルダと刃物をセットしてボタンを押すだけで、設定したトルクで自動的に締め付ける装置です。焼きばめホルダでは自動着脱が進んでいますが、メカ式ホルダの着脱はまだ人の感覚に頼っている部分が大きい。そこを変えたいと思いました。この装置を使えば、作業者による締め付けのバラつきがなくなり、締めすぎによるナット破損も防げます。熟練者でなくても、誰でも速く、安定した組み付けができる。我々はホルダメーカーですが、ホルダだけを売る会社で終わるつもりはありません。加工現場そのものを変える製品を生み出したいと思っています」
――ユニークな着眼点です。
「我々の最大の武器は、技術力と開発力です。刃物メーカーから『この刃物の性能を最大限引き出せるホルダを作ってほしい』という相談をいただくこともあります。実は主力のマイクロンチャックも完成品ではありません。内部構造の見直しや長寿命化など、今も改良を続けています」
「一方で、会社として課題もはっきりしています。昔から『物は良い。でも売り込みが下手』なんです(笑)。良い物を作れば自然に売れる時代ではありません。技術力を磨くことと、その価値を正しく市場へ伝えること。この2つを両輪にして、これからはPRやマーケティングにも本気で取り組みます」
――今後の目標をお聞かせください。
「海外では、これまで地道に種をまいてきたインド市場でローカル企業からの注文が増え、ようやく成果が形になり始めました。現在の海外売上比率は2~3割ですが、最終的には5~6割まで引き上げたいと考えています」
「もう一つ重要なのが、景気の波に左右されにくい会社をつくることです。過去には自動車業界への依存度が高かった。その経験から、今後は半導体、医療、航空機など複数の成長市場へ積極的に入り込み、どこか一つの市場が落ちても会社全体が揺らがない事業構造をつくります」
「社長に就任して半年ですが、すでにいくつもの壁にぶつかりましたし、失敗もしました。でも、動いたからこそ分かったことも多い。挑戦しなければ、失敗もしない代わりに何も変わりません。社員にも『慎重になりすぎてチャンスを逃すくらいなら、なんぼでも失敗していい』と伝えています。もちろん、同じ失敗を繰り返していいという意味ではありません。挑戦して、失敗して、そこから学び、次は成功させる。そのサイクルを速く回せる会社が最後に勝つと思っています。聖和精機を“良い物を作る会社”から、“良い物を生み出し、世界へ売れる会社”に変えていく。それが私の仕事です。」

ハイデュアルチャック
新製品、着々と
JIMTOF2024では、磁力を利用してギヤレスで直交軸間にトルクを伝達するユニークなアングルヘッドを参考出品した。その後も開発を止めることなく、現在はさらなる小型化に成功。実用化に向けて着実に進化を続けている。
今秋のJIMTOFでは、このアングルヘッドに加え、大径マイクロンチャックや独自開発の自動化装置など、これまで温めてきた新製品を披露する予定だ。泉谷社長は「既存製品を売るだけでは成長できない。市場にまだないものを我々自身が生み出し、新しい需要をつくる」と力を込める。