インタビュー
寧波博威模具技術 王博威総経理
ヒューマノイド金型はレッドオーシャン懸念
- 投稿日時
- 2026/08/07 15:55
- 更新日時
- 2026/08/07 15:59
過酷な市場を見抜くEV注力の現実眼
2002年設立のダイカスト金型メーカー、寧波博威模具技術(浙江省)は、ブラザー工業をはじめ約120台の日本製工作機械と、800〜2000㌧の大型自動ダイカストライン8条を保有し、MES/ERPを駆使した高度なスマート工場化を推進する。金型設計からダイカスト成形、精密加工、表面処理までの一貫体制を強みに、近年のEV(電気自動車)シフトに伴い同分野向け事業比率を8割まで急拡大させた。
各社がヒューマノイドロボット参入へ熱視線を送る中国市場において、同社の王博威総経理の視線は冷静だ。「ヒューマノイドの外装や構造部材は自動車ほどの極限の精度や安全基準を求められず、参入障壁が低いため早期の価格破壊が起きる懸念がある」。高い技術障壁と安全規格で守られたEV領域に特化し、確かな設備安定性と技術力で生き残りを図る同社の戦略と、中国製造業のリアルに迫る。

2002年設立のダイカスト金型メーカー、寧波博威模具技術(浙江省)は、ブラザー工業をはじめ約120台の日本製工作機械と、800〜2000㌧の大型自動ダイカストライン8条を保有し、MES/ERPを駆使した高度なスマート工場化を推進する。金型設計からダイカスト成形、精密加工、表面処理までの一貫体制を強みに、近年のEV(電気自動車)シフトに伴い同分野向け事業比率を8割まで急拡大させた。
各社がヒューマノイドロボット参入へ熱視線を送る中国市場において、同社の王博威総経理の視線は冷静だ。「ヒューマノイドの外装や構造部材は自動車ほどの極限の精度や安全基準を求められず、参入障壁が低いため早期の価格破壊が起きる懸念がある」。高い技術障壁と安全規格で守られたEV領域に特化し、確かな設備安定性と技術力で生き残りを図る同社の戦略と、中国製造業のリアルに迫る。
──EV、通信・IT、産業・監視など幅広い金型・ダイカストの設計・製造を手掛けられていますね。
王 以前は幅広いカテゴリーから受注していましたが、ここ数年はEV向けに注力しており、今や生産量の約8割を占めるに至っています。残りの2割は半導体製造装置関連や通信機器向けなどです。特にブラザー工業製の工作機械を活用した、電動駆動・制御系部品の精密加工が大きく伸びていますね。 ガソリン車と比べ、EV向けのダイカスト部品は非常に高い表面品質と清浄度(クリーン度)が求められます。バッテリー重量を相殺するための徹底した軽量化と厳格な寸法公差を両立させ、高電圧回路への微細な金属異物の混入(コンタミネーション)による短絡リスクを防ぐためにも、製造工程全体のクリーン管理と高精度な削り出しが不可欠なのです。
──日系企業の設備を使うことが御社の強力な競争力になっているのでしょうか。
王 そうですね。ブラザー工業製を中心に使っていますが、中国製に比べて生産効率が約20%向上できています。中国製も精度は上がっていますが、日本製は「安定性」において圧倒的に優れています。自動化ラインでは一機でも故障で止まってしまうとライン全体がストップしてしまうため、安定性が最も重要になります。付け加えるなら、コンパクトで高効率なためエネルギーコストが下がる点も、ブラザー工業製など日系機を選ぶ大きな理由ですね。
──自動化とMES/ERPによる高度なスマート工場化も推進されています。
王 おかげさまで8条の自動化ラインはほぼ稼働率100%を達成できています。ただ、スマート工場化はまだスタートしたばかりですから、山善さんなどの日系商社を通じて日本の高度な設備やノウハウを学び、日系工作機械メーカーの力を借りつつさらに推進していきたいですね。IoTやMESによるデータの一体管理が完璧に実施できるよう、体制を整えていく段階です。
──製造現場におけるAIの活用も視野に入っていますか。
王 現状、AIの活用は管理業務にとどまっています。会議内容の分析、社内チャットの取りまとめ、オフィスワークでのタスク管理などには活用できていますが、生産現場にAIが直接入っていくという段階にはありません。金型業界の多くの経営者と話しますが、我々も含めて金型製造現場でのAI活用は進んでいないのが実情です。 既存工程のカイゼンには役立つでしょうが、現場の異常事態への処理や新しい工程設計、職人の知見の置き換えまでは、まだまだAIでは代替できませんね。
■価格競争と金型取引条件悪化
──現在の中国における金型業界の景況感はいかがでしょうか。
王 日本も同じでしょうが、世間の景気が良くても金型業界は「いつだって苦しい」(笑)。中国の国内市場自体は伸びていますが、金型メーカー同士の激しい価格競争によって利益が薄くなっています。期待された欧米への輸出市場も貿易摩擦により伸び悩み、国内の金型生産能力が余剰となって価格競争をさらに強めています。 発注元企業からの取引条件悪化も目立ちます。これまでは金型代を100%支払ってくれていましたが、最近は「金型寿命の60%に達した後のメンテナンス費用をサプライヤー側が負担する」といった厳しい条件が見られます。それでも採算が合うように当社の徹底したコストダウンがより重要になる。人手不足のうえに若い技術者も入ってこないですし、金型業界はどの国でも大変ですよ。
──過熱するヒューマノイド市場の成長とダイカストの関わりについてはどう見ますか。
王 人命を乗せ時速100㌔以上で走り、厳格な衝突安全基準を満たすことが不可欠なEVと比べれば、ヒューマノイド向けのダイカスト部品はそこまで高い精度や耐久性が求められておらず、技術力が低くても参入できるため、早期に激しい価格競争へ陥る懸念があります。参入自体はしていきますが、部品点数の多さも含めて確実に伸びていくEV分野に、今後も引き続き軸足を置いていきます。
最後に一言申し上げたい。私は「世界の未来はアジアにあり、アジアの未来は中日二国にあり」と思っています。ともに手を取り合い、モノづくりの未来を切り拓いていきたいですね。

