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インタビュー

山善 中国支社長 森井 郷 氏 
「稼ぐ」スマート工場を一気通貫で

投稿日時
2026/08/07 15:50
更新日時
2026/08/07 15:53

現場第一主義が支える即断即決

現在の中国について、山善・森井郷専任役員中国支社長は「景気は全体的に良いと感じる」と分析する。半導体やAI・データセンターが牽引し、EV産業も一時は投資の停滞が見られたものの、足元では復調の兆しを見せる。ただし、好調な業種と低調な業種の格差はかつてなく拡大しており、厳しい環境が続く業種も少なくない。

現在の中国について、山善・森井郷専任役員中国支社長は「景気は全体的に良いと感じる」と分析する。半導体やAI・データセンターが牽引し、EV産業も一時は投資の停滞が見られたものの、足元では復調の兆しを見せる。ただし、好調な業種と低調な業種の格差はかつてなく拡大しており、厳しい環境が続く業種も少なくない。

中国では好調な産業へ企業が一斉に参入し、短期間で供給過剰や価格競争に陥る「内巻」が起こりやすい。こうした競争が激しくなる一方で、新たな成長産業も次々と生まれており、市場環境の変化は非常に速い。

こうした環境の中、設備投資に対する考え方は二極化している。一部では、設備の品質や寿命よりも納期や価格を重視した選定も見られる。この場合、比較対象は各国製の新品機械のみならず中古機械までを含み、最終的には価格だけの勝負となる。これに対し、高付加価値産業へ社運を賭けて移行する企業は、長期にわたる安定稼働に加え、品質面で他社を凌駕して圧倒的な競争力を得ることを狙い、日本製が得意とする高精度・高信頼性設備を選択する。

山善は「機械を納めて終わりではなく、その設備によって顧客が競合を上回る品質と生産性を実現し、市場で勝てる状態をつくる。顧客が競争力を高めることが、結果として顧客の利益につながり、当社の成長につながる」(森井支社長)と考えるという。単なる物売りではない「共存共栄」の関係を築くことが同社の信条だ、と強調する。

市場を勝ち抜く最大の鍵は「圧倒的な速度感」だ。森井支社長は赴任当初、「持ち帰って検討します」と回答したことで商機を逃した経験があるという。その経験を機に意思決定のあり方を見直し、現在では自身の権限内の案件については可能な限り迅速な判断を心掛けている。

さらに、足元では需要の急拡大や原材料調達の逼迫などを背景に、設備・工具の納期長期化が進んでいる。顧客の短納期要求に応えるには、先回りした在庫の確保が欠かせない。そのために同社が重視するのが、顧客とのコミュニケーションを密にし、生産計画とサプライチェーンを深く理解することだ。実需を正確に見極めた上で必要な在庫を持ち、必要なタイミングで確実に供給する。この的確な判断を支えるのが、長年培ってきた「現場第一主義」に基づく、工具・機械部門の顧客密着のインテリジェンス(情報収集・分析力)である。

■「内巻」と「出海」に寄り添う

足元の最先端市場ではヒューマノイド需要が立ち上がっている。従来、自動車分野で培われた加工技術がロボット分野へ広がり、3軸加工機から5軸加工機への需要シフトも始まっている。ブラザー工業の小型マシニングセンタやシチズンのCNC自動旋盤の引き合いは非常に強い。今後は減速機をはじめとする歯車関連加工の活況も予想され、同社も同分野の技術力のさらなる向上を目指す。

中国では新しい産業が矢継ぎ早に立ち上がる。今日の主役が明日も主役とは限らず、常にその先を読み続ける必要がある。eVTOL(電動垂直離着陸機)などの低空経済、全固体電池、自動運転、6G通信といった次世代産業への目配りは欠かせない。

加えて、中国企業の海外進出である「出海」も加速している。グローバル展開する強みを生かし、同社では中国国内だけでなく、海外拠点との連携を通じ、クロスボーダーでの設備提案や生産移転支援にも取り組んでいく考えだ。

メーカーが商社に期待する役割も大きく変化していると森井支社長は感じている。営業担当者が現場を訪問し、顧客との信頼関係を築く従来の営業活動は今後も重要であり、その価値は変わらない。一方で、MA(マーケティングオートメーション)を活用したオンラインでのホットリード(見込み客)の獲得にも取り組む。得られた情報はメーカーと共有し、それぞれの強みを生かしながら役割を分担し、受注活動を協業していく考えだ。

商社に求められる役割の一つは、顧客へ価値ある情報を届ける手段そのものを進化させることである、と森井支社長は語る。その一つが、「ヒューマノイドの関節」といった特定ワークをテーマに、最適な機械、治具、刃物を組み合わせたウェビナーの開催だ。

商社だからこそ、各メーカーが持つ優れた製品を製造工程に合わせて組み合わせ、一つのソリューションとして提案できる。山善が各メーカーの技術や製品をつなぐことで、それぞれの強みを最大限に生かした提案が可能となるという。同社では、こうしたワーク起点のソリューションパッケージを今期中に五つ構築する計画を進めている。

提供する価値も、機械単体の販売から、自動化、測定、AMR(自律走行搬送ロボット)などのマテハン領域、さらには工場環境の改善まで含めたトータルサポートへ拡大してきた。幅広い製品や技術を組み合わせ、製造工程全体を見据えた提案ができることは、同社の大きな強みの一つである。

メーカー各社が持つ優れた設備や機器、工具に、山善が加工提案やデジタル活用などのソフト面での付加価値を加え、顧客の競争力を高める「顧客が儲かるスマート工場」を一気通貫で支援する次世代商社へ——進化を目指す考えだ。まずは中国でこのビジネスを確立することに集中するという。「そのモデルは中国だけでなく、山善グループ全体のグローバルビジネスに通じるものと考えている」(森井支社長)。




執筆:モノクエ編集部
本記事は、創刊70年超のモノづくり専門紙「日本物流新聞」の編集部が制作しています。製造業に精通した専門記者が、現場取材に基づいた正確で鮮度の高い情報をお届けします。




(日本物流新聞2026810日号掲載)