インタビュー
グリーソンアジア 営業・マーケティング本部長 蟹江 俊靖 氏
加工機、測定機、設計ソフト、トータルソリューションで全方位に挑む
- 投稿日時
- 2026/07/13 11:45
- 更新日時
- 2026/07/14 11:30
EVの急速な冷え込み、ヒューマノイドの台頭、防衛需要の静かな拡大。2026年の歯車業界は、かつてないほど複雑な需要の交差点に立っている。こうした環境をグリーソンアジアの蟹江氏は「どの波が来ても乗れる」と前向きに語る。グローバル製造網による供給安定性、ナノ精度測定器、ISO対応の設計解析ソフトと、同社の強みは加工機にとどまらない。全方位型戦略の実像と、業界の今を率直に語ってもらった。

グリーソンアジア 営業・マーケティング本部長 蟹江 俊靖氏
——内外の景況感は。
日本国内は横這いの状況が続いていますが、グローバルでは今年は全体的に好調です。特にアメリカの自動車関連市場が牽引しており、力強い動きを見せています。中国もヒューマノイド関連の需要が旺盛で、活況と聞いています。一方でヨーロッパは、自動車産業の停滞もあってか全体的に明るい話が聞こえてきません。地域ごとに濃淡はありますが、全体で見れば今年はプラスの年になりそうです。
中国はグリーソンチャイナの管轄なので詳細まで把握しきれていませんが、担当者から聞く限りでは、かなりの引き合いがあると聞いています。東南アジアも10年前と比べれば、設備を積極的に購入してくれる企業が明らかに増えました。
ローカル資本ではなく、アメリカ資本の製造拠点が増えていることが背景にあります。航空系のメーカーなどを中心に、「本国でグリーソンを使っているから、東南アジアの工場にも同じ設備を入れてほしい」という依頼が来るケースが非常に多くなっています。グリーソンのグローバルブランド力が、そのままアジア展開の追い風になっている状況です。
——国内の防衛分野需要については。
詳細はお話しできませんが、確かにそういった需要が顕在化しています。ミサイルをはじめとする防衛関連の需要が世界的に拡大している流れの中で、グリーソンにも確実にその波が来ています。
——防衛向けの歯車とは。話せる範囲で。
求められる高精度な要求とそのサイズに対応できるメーカーは、世界でも数社しかありません。必然的に選択肢は限られ、グリーソンがその一つとして選ばれています。求められるスペックは、民生品のような静粛性よりも、精度・耐久性・信頼性です。巨大なギアが過酷な環境で長期間確実に動き続けることが求められるため、加工・品質の要求水準は非常に高いものになります。
——EV向けの精密歯車加工の需要については。
率直に言うと、現時点ではプロジェクトとして止まっています。現場レベルでは引き続き研究開発への興味はありますし、技術的な探求も続いてはいます。しかしビジネスとして動くプロジェクトは、ほとんど息をひそめている状態です。完成車メーカー各社のEV計画が停滞し、「いったいどこがEVをやっているのか」という状態です。数年前まであれほど盛り上がっていた市場が、急速に冷え込んでいます。
ただ、完全に手を引いているわけではありません。グリーソンが買収した新会社が手がけるNVH(ノイズ・振動・ハーシュネス)関連のSFTテスターは、EVが再加速したときに必ず必要になる製品です。EVは構造上エンジン音がないため、ギアのノイズが際立ちます。許容ノイズ値がどんどん厳しくなる中で、不良品を100%検知できる全数管理の仕組みは不可欠になる。コンセプトとしては非常に面白く、タイミングが来れば一気に需要が生まれると見ています。
■小径歯車向け新機種投入
——市場の停滞を受けて、新たに打ち出していきたい製品は。
直近ではパワースカイビング盤の「80PS」という、ロボット向けの小径歯車加工機を主力商品として押していきたいと考えています。リリースして間もない最新機種で、日本語パンフレットもまだこれからです。ヒューマノイドに使われる遊星歯車やハイポギアなど、小径かつ高精度な歯車の加工に特化しています。中国を中心に需要が高まっているこのセグメントで、日本市場においてもしっかりはまる製品だと期待しています。
——加工機以外で注力している製品・分野は。
歯車設計・解析ソフト「KISSsoft(キスソフト)」に今年は特に力を入れています。これは加工機とは全く別のカテゴリで、歯車そのものを設計するためのソフトウェアです。CADに近いイメージで、設計者が歯車の形状・強度・耐久性などをシミュレーションしながら最適な設計を導き出せます。何万通りもの設計パターンの中から最適解を自動で提示してくれる機能もあり、従来は1ヶ月かかっていた設計工数を2~3日に短縮できるケースもあります。
さらに大きな強みは、ISO基準に基づく強度計算の根拠がソフトウェア内に組み込まれている点です。樹脂歯車も含めた複数の材料パターンに対応しており、「この材料ではこの強度が担保されます」という根拠を明示した設計が可能です。これが顧客から非常に高く評価されています。
引き合いも増えており、これまで全く接点のなかった化学メーカーからプラスチック素材を歯車に活かしたい、という問い合わせが来たこともあります。営業マンが飛び込みで行ってもなかなか辿り着けないような顧客との接点が、ソフトを通じて生まれています。
——測定機分野ではどのような動きがありますか?
ナノ精度対応の歯車測定機の展開に力を入れています。EV向けのギアはワーク公差が2ミクロンという極めて厳しい水準が求められており、それを正確に計測するためには測定機側の精度が1ミクロン以下でなければなりません。グリーソンはその基準に応えるナノレベルの測定機を、主に自動車向けの小・中径歯車に絞って提供しています。
また、非接触(光学・レーザー)測定の分野では世界トップレベルの技術を持っています。接触式の測定は高精度ですが、1個ずつプローブでなぞる時間がかかります。非接触であればスピーディに計測できますが、光の当て方・角度・油分の有無といった条件管理が難しく、オペレーターのスキルと、取得データの解析・フィルタリングのノウハウが求められます。名古屋支店にはデモ機を設置していますので、気軽ご相談いただきたいです。
——工具(カッター類)の供給面は。
当社は材料の製造・供給拠点をドイツ・アメリカ・中国・インドの4拠点にグローバルで持っているため、価格競争力と供給安定性の両面で国内メーカーに対して優位性があります。昨今の原材料インフレや関税問題の影響で国内メーカーが相次いで値上げを余儀なくされる中でも、グリーソンは比較的求めやすい価格を維持できています。
製造拠点が分散しているためリスクヘッジが効いており、今年5月の米中関税騒動の際も、特に国内メーカー各社のタングステン素材の工具の見積もり有効期限が3〜4日という混乱の中で、大手調達部門に対してスピーディに対応できたことが差別化につながりました。中国に現地工場を持つ日系メーカーは、現地調達という選択肢も使えます。
——今後の戦略は
「オールカントリー(全方位分散)」です。特定の業界や製品に特化するのではなく、ロボット・防衛・EV・測定・設計ソフト・工具と、あらゆる分野に対して総力戦で臨んでいます。小径歯車からおよそ10メートル級の大型歯車まで、全サイズ・全用途をカバーするラインナップを持っているのはグリーソンだけです。株式投資で言えば全世界インデックスファンドのような戦略で、どの業界でどんな需要が生まれても対応できる体制を整えています。その中で今年特に注力しているのが、ロボット向けの80PSとKISSsoft、そしてナノ精度測定機の3本柱です。

小型歯車向けのパワースカイビング盤新機種「80PS」(グリーソンHPより)
MEMO
「ロクマル」連発!
加工機を知り尽くす「釣りの達人」
大間のマグロから沖縄のGTまで、あらゆるルアーフィッシングに精通する蟹江氏。その原点であり、自ら「軸足を置いている」というのがバスフィッシング。水草やエサとなるベイトフィッシュの減少で例年以上に「難しい」と言われている2026年シーズンの琵琶湖。だが蟹江氏は、5月中旬の釣行で60㌢アップ2本を含む4本をキャッチした。
状況を冷静に見極める洞察力と的確なアプローチで、タフコンディションでも正解を導き出す——その引き出しの多さは、どことなく蟹江氏の仕事スタイルにも重なる。
インドにおけるグリーソン旧モデルのオーバーホール案件において、グリーソン本社が「最後の砦」として白羽の矢を立てたのが蟹江氏。受注を請け負ったインドの工場とアメリカ本社が匙を投げる中、蟹江氏は見事に再び機械に命を吹き込んだ。本人は「たまたま古い機械の構造を知っていただけ」と謙遜するが、国内ユーザーからも厚い信頼を寄せられていることは想像に難くない。

(日本物流新聞2026年7月10日号掲載)