連載
けんかっ早いけど人が好き Vol.124 岩貞るみこ氏(自動車評論/作家)
- 投稿日時
- 2026/07/10 11:18
- 更新日時
- 2026/07/10 11:21
黒づくめ
人は一日に三万五千回も決断をしているという(諸説あり)。睡眠時間が七時間だとすると、起きているあいだは一・七秒に一回、なにかしら決めているということだ。昼ご飯に何を食べるかとか、皿の上の肉と野菜のどちらから食べるかなどはあるけれど、それ以外になにをそんなに悩み、決断しているというのだ?

黒い靴は汚れも目立たない。いいぞ。
そもそも私はあまり悩まない。悩むこととなくしたものを探す時間が、人生二大無駄時間と思うからだ。飲食店でのメニューも五秒くらいで決める。即決だ。
そんな私が、選ぶ(悩むではない)にあたりなにに時間をかけるかというと、着ていく服である。そもそも服に興味がない。できることなら一年中、スポーツウェアでとおしたい。しかし世間はそれを許してくれない。私の年代でスポーツウェアのまま仕事に行けば、ただの貧相でTPOをわきまえないおばちゃんになってしまう。これはよくない。仕事でちょっとした会議に行くと素敵な着こなしの同世代の女性を見かけてうっとりするのだが、いざ自分がそれを真似てみるとなんか違う。ださいのである。
そして気づいた。服の色の組み合わせが、だささを醸し出しているのだ。センスの問題である。センスか! そのことに気づくと、出がけに服の組み合わせにさらに時間がかかるようになった。きーっ、決まらない! 嫌気がさした結果、私の下した決断は『一色にしてしまえ』だ。すべて黒にすれば、色の組み合わせ問題は即時解決するではないか。
おかげで服選びはおどろくほど短時間で終わるようになった。さらに、買うときにも効果があることがわかった。買い物嫌いの私はネットで買うことが多いのだが、検索フィルターに黒を指定すると余計な服を見ないで済むのである。つまり、買い物時間も短くなる。これはいいぞ。
昨年から私の買う服も靴もすべて黒だ。黒ばかりで暑苦しい季節の今時は白だけ足している。ついでに、黒すぎて葬式風にならないよう、じゃらじゃらとしたアクセサリーもひっぱりだして重ね付けだ。いいぞいいぞ。
人生、短いのに服選びなどで時間を使っている場合ではない。スティーブ・ジョブズの言っていたことが、今ならとてもよくわかる。
(日本物流新聞2026年7月10日号掲載)
岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)
神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。国際交通安全学会会員。最新刊に『こちら、沖縄美ら海水族館動物健康管理室。』(講談社)