連載
けんかっ早いけど人が好き Vol.122 岩貞るみこ氏(自動車評論/作家)
- 投稿日時
- 2026/06/09 14:59
- 更新日時
- 2026/06/09 15:01
元祖マヨラー
きな粉が好きだ。毎朝牛乳に入れて香ばしさを楽しんでいる(健康にもいい)。子どものころから、餅はきな粉である(団子は粒あんとみたらしだけど)。私が幼いころは電子レンジなどなかったから、網で焼いた餅を熱湯にひたし、つきたてもどきにしてから砂糖をまぜたきな粉をまぶしていた。うまい。
私のきな粉好きは、祖父の影響もあるだろう。母方の祖父は山で農業をしていた。毎年、農閑期の晩秋になると山から下りてきて我が家にも数週間、滞在していた。そのときに持ってきてくれるなかに、きな粉があったのである。

きな粉はいつもストックしています。
畑で大豆を作り、乾燥させ、石臼でごりごりとひく。そのきな粉のおいしいことといったら! おそらく私が祖父のきな粉が好きだということが、母から伝えられていたのだろう。祖父は我が家につくとなによりも先に、くたくたになった黒いカバンから手作りきな粉の入った袋を出して、私に手渡ししてくれた。
ある年のこと。祖父は黒いカバンから市販のきな粉パックを取り出して言った。
「ごめんな、じいちゃん、もう作れんようになった」
幼かった私はなんのことかわからずぽかんとしていたと思う。だけど、大人になってやっとわかった。石臼は重い。私が成長するということは、祖父も歳を重ねるということなのだ。あのときの祖父のごめんなの声と、しわだらけの両手で市販のパックを差し出したときのさびしそうな笑顔は今も覚えている。買ってきた市販のきな粉も、少しでも美味しいものをと田舎の店で選んでくれたのだろう。
と、祖父とのことを思い出したのは、久しぶりにお好み焼きにマヨネーズをかけたときだ。祖父はマヨネーズが大好きだったのである。ごはんには味噌とマヨネーズ。カレーにもマヨネーズ。当時、マヨネーズは生野菜にかけて食べる物として普及していたため、ご飯にマヨネーズをかける姿は衝撃的だった。
「おいしいよ」
そういわれて食べさせてもらったらめちゃめちゃ美味しかった、というのに、祖父が山にもどったあとは母から絶対に食べさせてもらえなかった。ちぇ。60年以上前からマヨネーズが飯の友。きっと、元祖マヨラーはうちの祖父だと思う。ええ、絶対に。
(日本物流新聞2026年6月10日号掲載)
岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)
神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。国際交通安全学会会員。最新刊に『こちら、沖縄美ら海水族館動物健康管理室。』(講談社)