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芝浦工業大学 工学部 機械工学課程 材料強度学研究室 教授 橋村 真治 さん

投稿日時
2025/05/15 09:00
更新日時
2025/05/15 09:00

ねじ事故撲滅へ飽くなき原因追究 

ねじや歯車、ばねといった機械要素は、製品が上手く動いたり効率よく機能するために欠かせない。一方で、いまだ解明されていない事象も多く、その世界は奥深い。探求を続ける技術者・研究者にその魅力を語ってもらい、ディープでマニアックな技術のポテンシャルに光を当てる。本稿では前回(日本物流新聞4月25日号掲載)に引き続き「ねじ」に着目する。日本のモノづくりの信頼性を支えるねじだが、研究分野としては「絶滅危惧種」。ねじ研究を専門とする芝浦工業大学の橋村真治教授に、研究のこだわりやトレンドとなっている非鉄金属ねじの活用について聞いた。

「国内でねじに携わる人は沢山いますが、ねじを専門とする研究者は片手で数えるほどしかいません。研究分野としては絶滅危惧種です」

そうこぼすのは芝浦工業大学工学部の橋村真治教授。研究室の学生たちに「ねじ研究者にならないか」とは誘いにくいものの、「研究者がゼロになると企業の相談先がなくなってしまいますし、一度途絶えた研究を仕切り直すのは開発の遅れやムダが生じます」と現状に危機感を示す。

それでも橋村教授がねじ研究に熱をいれるのは、ねじが日本のモノづくりの支える「基盤技術」だから。世界では紀元前から、日本では鉄砲伝来以降活用されてきたねじ機構だが、未だにねじに起因すると見られる事故は世界で後を絶たない。加えて、その発生原因がわからず、「締結不良」で片づけられてしまうことも少なくない。

「日本製品の信頼性の高さを担保しているのは、ねじや歯車などの基盤技術。私がねじを専門に研究しているのもどこかで日本のためになればと思っているからです。我々が先人から教わってきたように、技術やノウハウを次代に繋いでいく必要があると思っています」

■鉄とは性質異なる非鉄ねじ

近年、橋村教授が研究を傾けている分野の一つが、アルミニウムやマグネシウム、チタンなどの非鉄金属製のねじ。軽量化やマルチマテリアル化の要求の高まりを受けて、活用が広がりつつある。

一般的に、いずれの素材も鋼製ねじよりも比重が軽く、比強度は高いとされる。そのため、鋼製ねじからの置き換えが検討されているが、橋村教授は「単純な置き換えは危険」と指摘する。

「鋼製ねじは基本的なパラメータや特性がほぼ出そろっており、多くの会社で求められる強度から適切なねじが選べるようになっています。一方で、非鉄金属系のねじはそうではありません。材料特性だけを見てねじを選ぶと、期待した性能が全く得られないこともあります」

例えば、単純な引張試験の結果では鉄の約2倍の比強度を持つチタンだが、橋村教授が行った実験では締結時の限界締付け力は引張り強度の半分以下まで低下した。これは、締結時のねじ部の摩擦によるもので、締付けトルクが締付け力ではなくねじれへと変換されてしまったため。アルミニウム合金でも2~3割程度の低下が見られ、求めた性能を出すには潤滑油の塗布や表面処理を適切に行う必要がある。

さらに、自動車部品などに使用される高強度の鋼製ボルトは、平均応力(=締付け力)が小さい領域では疲労強度が下がるが、ある領域を超えると平均応力が大きくなっても疲労強度が下がらないとされる。そのため、「ねじはできるだけ強い力で締めるのがいい」とされている。

しかし、A5056というアルミニウム合金のねじは、平均応力を246㌔ニュートンと上げていくと疲労強度が下がり続けてしまう。鋼製ボルトと同じようにできるだけ高い締付け力で締めつけてしまうと、製品使用時の振動などで破断してしまう危険性がある。一方で、同じアルミニウム合金でもA6056では、6㌔ニュートンまでは疲労強度が落ちるが、68㌔ニュートンに上げた際は下がらない。高強度鋼製ボルトと同様の特性を持つであろうことが橋村教授の研究でわかっている。

「材料の機械特性だけではわからないことが多々あります。『今更、ねじの研究など何かやることあるの?』と言われることもありますが、最近も学生の気付きをきっかけに新たな緩み機構を発見しました。ねじに起因した事故をなくすためにも、起こった現象のメカニズム究明と設計方法の確立にはこだわりを持って取り組んでいきたいと思います」




自作の検査装置


橋村教授の研究室には自作の検査装置がたくさん並ぶ。教授自ら設計を行っており、ここが「新しい研究や発見ができる肝」であり、「センスの要る部分」であるという。「学生には、身に着けた知識をどう応用するかが良いエンジニアや研究者になるポイントだと伝えています。つまり、得た知識をどう自分が計算できるフィールドにモデル化するか、発想力が求められます」

(日本物流新聞2025515日号掲載)