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藤井精工、ガチの金型屋だからできる医療機器の量産

投稿日時
2025/04/30 09:19
更新日時
2025/04/30 11:04

フェムト秒レーザー加工機で付加価値 数十倍に
[精密プレス金型設計・製造、医療機器製造] 
福岡県鞍手郡

中小の製造業が集まる北九州市南部の鞍手郡鞍手町。そこに事業領域の拡大に成功した金型メーカー、藤井精工(1976年創業、社員87人)がある。2020年に本社敷地内に新設した医療工場のクリーンルームで存在感を放つのは、2台の牧野フライス製作所製フェムト秒レーザー加工機(発売前の初号機)。これらで医療機器部品を月に1万個製造する。客の95%は海外で、注文の大半はシリコンバレーから来るという。

2020年に導入した2台の牧野フライス製作所製フェムト秒レーザー加工機「LF400」

8年ほど前に眼科機器部品を手がけたのを皮切りに脳外科、循環器、心臓外科、整形外科など向けの精密部品(一部組み立てて完成品も)を製造するようになった。この仕事を担当するのは医療事業部の30人強で、スタートから売上を毎年およそ1億円ずつ積み上げてきた。

同社の最初の転機は2012年。クリーンルーム工場を新設し、九州地区で当時珍しかったミツトヨの3次元測定器を導入。1ミクロン単位で加工品寸法を保証できるようになった。つくるのは0.4ミリピッチで並ぶ基板をつなぐスマートフォン用コネクターの金型など。そんなガチの金型屋がなぜ医療分野に参入したのか。

「型売りは1カ月先(の仕事量)が見えない。これでは早晩限界がくる」

医療事業部長の蔵前法文氏は動機をそう話す。とはいえ、つくった金型を使って量産するのでは客の仕事を奪うことになる。大量生産するノウハウもない。付加価値の高い部品をそこそこ量産する仕事ならと、たどり着いたのが医療機器部品だった。

「他所ができない1ミクロンの寸法精度の加工を、しかも量産でできたのでお客様は驚かれた。100円しかしないような部品でも、フェムト秒レーザーの加工を加えると何十倍の値段に跳ね上がった」

5面【挑む加工現場】藤井精工(フェムト秒レーザー加工)P3.jpg

5mm角のアルミ材(厚み20μm)をくり抜いて10μm幅の「糸」にした蜘蛛の巣(30倍に拡大)

■型技術×微細レーザー

フェムト秒レーザー加工機はフェムト秒(1000兆分の1秒)の超短パルスで発振し、ワークの周囲に熱が伝わる前に加工を終える。導入した1台は2軸制御、もう1台はガルバノスキャナーヘッドをもつ5軸制御でストレートな切断面が得られる。ワーク材質は樹脂、ガラス、銀、銅……と何でもこい。直径0.3㍉の部品にさらに細かなゲートを設けることもある。

「機械加工だとワークが逃げて加工できないし、そもそも保持するのが難しい。フェムト秒なら無負荷で加工できるのでワークを固定する必要がない」

ただしフェムト秒を設備すれば誰でもできる仕事をするつもりはない。蔵前事業部長は「49年やってきた金型加工技術を組み合わせることで価値を生み出せる」と話す。「マシニングセンタ、旋盤、研削盤、型彫放電、ワイヤ放電とすべての加工機をまんべんなく持ち、使いこなせるのが金型屋だが、金型しかつくらないのはもったいない」とも。

課題はこなしきれない仕事量だ。だが、2億円近くするフェムト秒はそうそう買い足せない。現在は午前8時から午後5時の稼働が基本だが、今月末から2交替制にし、ゆくゆくは3交替を目指す。

仕事を吟味する必要もある。「高価な機械で簡単な加工をするわけにはいかない。出口を考えて仕事を受注する必要がある」と話し、企業連携の道も探る。

「フェムト秒の加工をつけ加えたい金型屋さんや、フェムト秒を導入したものの使い道がわからない金型屋さんがいるはず。彼らと協業できるよう当社から関連する情報を発信していきたい」

5面【挑む加工現場】藤井精工(フェムト秒レーザー加工)P2.jpg

蔵前法文・医療事業部長



(日本物流新聞2025425日号掲載)