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扉の先113/信州大学、100台のロボットが24時間体制で材料開発を自動化
- 投稿日時
- 2026/08/25 10:57
- 更新日時
- 2026/08/25 11:02
開発スピード向上で世界に挑む
信州大学松本キャンパスの一角にある「アクア・リジェネレーション共創研究センター(ARCH)」の中に設けられた通称「ロボラボ(結晶自動合成ロボットラボ)」。その空間では、人間ではなく、カワダロボティクスの双腕ロボやDOBOTの小型垂直多関節ロボなど、総勢約100台に及ぶ産業用ロボットたちが24時間体制で動き続けている。

24時間体制で材料開発を進める
ここは、AIとロボット技術を融合させ、結晶材料などの開発プロセスを完全自動化・自律化した世界最先端の拠点だ。
プロジェクトを牽引するのはアクア・リジェネレーション機構長を務める手嶋勝弥教授と、同機構の山田哲也准教授らの研究グループである。手嶋教授は「新たな材料を作るのではなく、新たな材料の作り方を作る」と、日本の科学技術が直面する研究開発のスピードアップと、深刻な労働力不足という二つの課題解決に強い意欲を見せる。
従来の材料開発、特に結晶を育てる「フラックス法」などの技術は、研究者の経験と勘に依存する部分が極めて大きかった。粉末をミリグラム単位で秤量し、最適な比率で混合し、電気炉の温度を絶妙にコントロールする。こうした「職人技」とも言えるプロセスは、再現性が低く、一人の研究者が1日に試せる実験の数にも物理的な限界があった。
「ロボラボはこの職人技を完全にシステム化し、デジタル空間へと落とし込んだ。施設内に配備された片腕型や双腕型のロボットたちは、粉末の秤量から混合、加熱設備や分析機器へのセット、さらには各工程間の搬送に至るまで、すべての実験オペレーションを寸分の狂いもなく実行する」(手嶋教授)。
ロボットをコントロールするのは、信州大学が独自に開発したAIシステム「フラックス結晶創製アプリ」だ。人間がアイデアを投入すると、AIが最適な実験条件を計算し、ロボットへ指示を送る。ロボットが夜通し実験を行って得たデータは、即座にAIへとフィードバックされ、次の実験プランが自動的に最適化される。
人間が眠っている間も、AIとロボットの「自律駆動型実験ループ」が高速で回り続けるのだ。手嶋教授は「日本の得意とする職人技の材料開発をデジタル化・自動化し、圧倒的なスピードで世界の先を行く」と話す。
■世界の水問題解決に
この革新的なシステムは、すでに大学の基礎研究の枠を飛び出し、日本の産業界を巻き込んだ一大プロジェクトへと発展している。同大学を中心に、日本のトップ企業が結集した「ロボラボ統合無機材料開発コンソーシアム」が本格的に始動している。
参画する企業には、トヨタ自動車をはじめ、東レエンジニアリング、デンソー、レゾナックといった各業界のリーダーたちが名を連ね、地元のロボットSIer・フレアオリジナルもロボットの運用面で協力する。これまで企業が個別に抱えていた材料開発の知見をロボラボのプラットフォームに集約し、産学連携によるオープンイノベーションを加速させる狙いがある。
特筆すべきは、トヨタ自動車が開発するデータ共有の仕組み「WAVEMAP」の活用だ。ロボラボで得られた膨大な結晶育成のデータを大学と企業間でシームレスに共有・解析することで、次世代の車載電池や省エネ半導体、軽量高強度な構造材料といった、次世代の産業を支える革新材料の創出を劇的に早めることが期待されている。
ロボラボが目指す究極のゴールは、材料開発の効率化そのものではない。その先にあるのは、地球規模の環境・水問題の解決だ。ロボラボでの高速開発によって生み出されている機能性結晶は、「信大クリスタル」として世界中から大きな注目を集めている。この結晶は、水の中に含まれる微細な有害物質(重金属や有機フッ素化合物など)を分子レベルで狙い撃ちして吸着・除去する驚異的な能力を持つ。
現在、この技術は水をきれいにする浄化技術だけでなく、次世代のクリーンエネルギーとして期待される「グリーン水素」の製造プロセスや、二酸化炭素の回収技術など、環境負荷を劇的に低減するソリューション「アクア・リジェネレーション」へと応用され始めている。ロボラボという「自動化された知の工場」が、持続可能な社会を実現するための鍵を握る新材料を次々と生み出す拠点となりつつある。

手嶋勝弥教授
(日本物流新聞2026年8月25日号掲載)