オピニオン
UR都市機構 西日本支社副支社長 佐藤 勝紀 氏
- 投稿日時
- 2025/06/24 13:18
- 更新日時
- 2025/06/24 13:20
IoT、AIでスマートな団地に
独立行政法人都市再生機構(UR都市機構 以下UR)は大規模な団地から超高層タワーに至るまで様々な住宅を供給し、現在、北海道から九州まで全国で約70万戸を管理。「世界最大の大家さん」とも呼ばれる。住宅設備機器の使用数も多いため、カーボンニュートラルにも積極的だ。潜熱回収型給湯器を令和5年度までに賃貸住宅20万戸に設置。賃貸住宅共用部における照明器具のLED化に取り組み、設置基数は令和5年度までに106万台を超える。西日本支社副支社長の佐藤勝紀氏に西日本を中心とした取り組みを聞いた。

――URの最近の施策や戦略を教えてください。
「URでは『社会課題を、超えていく。』というメッセージを近年掲げてきており、都市再生、災害対応支援、海外展開支援、賃貸住宅の各分野において、現在および将来の社会状況に対応してソリューションを導いていきたいと考えています」
――住宅設備機器に関する現状はいかがですか。IoT、AIの情報技術活用も。
「潜熱回収型給湯器を令和5年度までに賃貸住宅20万戸に設置しました。また、賃貸住宅共用部における照明器具のLED化に取り組み、設置基数は令和5年度までに106万台を超えています。(いずれも既存住宅での取り換え時期に合わせた更新を含みます)」
「IoT、AI等の情報技術を活用した団地暮らし「Open Smart UR」のあり方について東洋大学情報連携学部と共同研究を行い、令和4年度に旧赤羽台団地エリアに実証実験のための生活モニタリング住戸を設置し一般公開しました。ここでは、照明、エアコン、カーテン、スマートロックの連携制御機能や、温度、湿度、気圧、CO2等のデータを取得できるセンサーを導入しており、生活体験の実験で取得したデータをAI分析することで、魅力的で安心な暮らしの検証を行っています」
――またスマート、エコ、地域連携を土台に次世代モデルを目指しているように見受けられますがいかがでしょうか。
「国の施策等への対応や、事業の持続的な推進及び新たなサービス等の展開を見据え、集合住宅ストックの維持・更新・再生、災害への対応、地域活性化やコミュニティ形成等の取り組み、脱炭素・環境配慮推進及び先端技術の活用推進等、幅広い領域での技術開発、共同研究、実証実験をURの事業フィールドで実施しています」
「森之宮団地等をフィールドに、先進的なまちづくり、IoT、ロボット、自動運転、ドローン、AI、ヘルスケア、ビッグデータ等の分野を対象とした実証実験を行う団体・企業の公募を大阪商工会議所と共同で実施し、令和6年10月以降、各種実証実験(樹木管理システム構築、CO2削減装置開発、マイクロMaaS遠隔操作、健康増進、ARアート作品展示、動態検知装置開発、ドローン物流、住民ニーズ把握・コミュニティ活性化)が行われてきています」
「地球温暖化対策実行計画である『UR-eco Plan』を策定・公表し、所有するオフィスや賃貸住宅の共用部におけるCO2排出量について、基準年度の2013年度に対して2030年度までに70%削減する目標を掲げており、再生可能エネルギーの活用やLED照明の導入等により令和5年度までに32・9%削減を達成してきています。また、国の方針に基づき今後建設する住宅はZEH-M Oriented相当の仕様を標準とし、既存の住宅では国の財政支援に基づく複層ガラス化等を実施して環境性能の向上を図っています」
■少子化などの解決の一翼
――住宅価格が高騰しています。URの「市場と公共の狭間」に注目が集まっています。「民間がやらないことをURがやる」という言葉。改めてどう解釈されますか。
「民間事業においても社会貢献が行われてきていますし、URができないことを民間事業において実現されていることも多くあります」
「社会資本、公共住宅であるUR賃貸は、少子化、高齢化等の社会課題に対応する住宅政策の一翼を担う役割を持っています。その一つの柱として、団地を地域の資源として活用する地域医療福祉拠点化の取り組みがあります。地域包括ケアシステム等と連携しながら施設・住宅・サービスを提供してきており、全国約310団地で取り組んでいます。鶴舞団地では、建替事業に伴い、病院・地域包括支援センター・有料老人ホームを誘致しました。森之宮団地では、地域の病院・大学及び城東区と連携協定を締結し、特別養護老人ホーム、小規模保育、生活支援連携コンビニ等の誘致や福祉用具の活用体験モデルルーム整備などの取り組みを行ってきています」
「高齢者等への配慮として、補助手すり、人感センサー付き玄関照明、モニター付きインターホン、多機能便座、浴室ヒーター等を備えた『健康寿命サポート住宅』の供給も行っています。センサー等を設置することで住宅内の生活反応がない場合に異常を通知することができる見守りサービスも民間企業と連携して提供しています。また、地域包括ケアシステムのネットワークとつながる『生活支援アドバイザー』を順次配置してきており、高齢者相談対応、定期安否確認、外出機会・交流機会づくりのためのイベント開催等を担っています」
――UR西日本の団地を、今の20代が選ぶとしたらどこが「刺さるポイント」だと考えますか。
「西日本支社だけでも多様な団地がありますし、お選びいただく際の条件もお客様によって様々ですので一概には言えませんが、築古物件のリノベーションやDIY等でインテリアをカスタマイズして自分らしく暮らすことについては、若い方ほど抵抗なく興味を持っておられるのではないかと思います。UR賃貸にはMUJI×UR等のリノベーション住宅やDIYが可能な住宅もあります。エレベーターやオートロックがない郊外の団地が多いのですが、在宅ワークであれば通勤利便性の優先順位も下がりますし、日当たりがよい窓から緑を眺められる環境を選択肢として再発見する方もいらっしゃると思います」
「郊外団地の多くは、車が通らない安全な遊び場や歩道が整備され子育てに適した環境となっていて、多くの方が団地で育った『ふるさと』となった場所でもあります。夏祭りやクリスマス会など出会い・ふれあいの場がある団地もあります。まだ資産形成にこだわりはなく、むしろ人生前半の柔軟性に重きを置く世代の方には、是非UR賃貸の郊外団地を選択肢のひとつとして視野に入れていただければと思います」
――もし今、URが団地を作ると仮定します。「今作るならこんな団地」というビジョンはありますか。
「今でも建替事業において団地作りを継続しています。団地とは、一団の複数建築物で構成された街区のことを意味します。団地設計では、地域のコンテクストを読み地域との関係性に配慮しつつ歩行者空間・緑地等の良質な屋外空間や景観をつくること、集まって暮らす場として遊び場・広場・集会所等のコミュニティ拠点となる空間をつくること、を基本的な作法として大事にしてきましたので、今後も継承していきたいです」
「大都市圏で少子化が進む原因としては様々なことが考えられますが、子育てに適した住空間を確保する意義は小さくはないと思います。経営面では土地の有効利用、高密度化は避けられませんが、そうであるからこそ身近な遊び場や緑を確保する工夫が重要となります。そう考え私が携わった団地設計でも、設備室・駐輪場等の附属建物の屋上と地表面を階段、滑り台で立体的につないだ都市型遊び場を提案したり、既存樹木を残した配置設計の工夫を行ってきました」
「また、団地が暮らしやすい場となるためのソフトの取り組みも大切です。西日本支社の『DANCHIつながるーむ ~夏休みは団地で楽しもう!~』という取り組みでは、夏休みの子どもの居場所提供や共働き世帯などの子育て負担軽減の一環として、集会所を自習室として開放し、防災やリサイクル、自然などの学び・遊びの講座を行っています。人付き合いを煩わしく思う面もあるかと思いますし、人と人のつながりづくりは容易いことではないのですが、孤立化を防ぎ安心して暮らせる魅力的な環境づくりを地域のコミュニティ活動とも連携しながら取り組んでいきたいです」
――何かアピールがあれば
「令和5年9月に赤羽台に開館した『URまちとくらしのミュージアム』には多くの方にご来場いただいております。このミュージアムは、旧赤羽台団地の保存街区においてスターハウス他の登録有形文化財4棟と展示施設で構成する『都市の暮らしの歴史を学び、未来を志向する情報発信施設』です。同潤会代官山アパートメント等歴史的に価値の高い復元住戸6戸の他、住宅部品の実物、映像や資料等をご覧いただけます。公式サイトからの予約が必要で、入場は無料です。まだご覧になっていない方には是非ご来場いただければと思います」
(日本物流新聞2025年6月25日号掲載)