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オピニオン

リクルート SUUMO副編集長 笠松 美香 氏

都度最適志向で小さい空間でも快適に

積極的な賃上げが継続する一方、光熱費や物価の上昇などが生活者の頭を悩ませている。加えて、都心部ではマンション価格や賃貸家賃が上昇の一途をたどっており、これまでよりも小さな住宅を選択肢に入れざるを得ない状況も出てきそうだ。SUUMO副編集長の笠松美香氏に話を聞くと、そうした状況の中でも「都度最適」の考え方で快適な暮らしを実現している若者世代の暮らしが見えてきた。

――単身世帯や共働きの増加、コロナ禍を経た暮らしの変化など、戦後築かれた日本の暮らし方が、20代を中心に変わりつつあるように感じます。まずは、若者世代の住宅事情を教えてください。

「住宅価格はこの3年ほどでも約3割上がっていて、20年前と比べると首都圏の新築マンションでは約15倍以上になっています。だからといって、若年層の住宅購入意欲が低いかというとそういうわけではなく、低金利かつ住宅ローン控除などを鑑み、ペアローンなどを活用して早い段階から住宅購入するケースも増えています」

――購入している物件に特徴はありますか。

「都心部の住宅価格の急激な下落を否定する見方が強いことから、自分の今の生活スタイルに合えば、2次流通を意識して少し高くても物件購入を決める人も多いです。その場合、永住を前提としていないケースも多く、誰が住んでも使いやすい間取りが好まれています」

――物件購入=永住ではない。

「現代の若い人達は『都度最適』を意識しているように思います。つまり、昔ながらの大は小を兼ねるといった選択法から、その時々の自分にとって大事な人やモノ、コトを大切にするのに最適な選択を重視する傾向があります。翻って、自分自身にとって無駄な事や時間はお金を払ってでも解消したい傾向もあり、通勤時間など高ストレス要因は高い家賃を払ってでも職場近くに住んで解消する向きもあります。そうした傾向と都市部の物件価格の高騰が相まって、ファミリー向けの新築マンションの平均面積は以前までの『3LDK75㎡』というスタンダードからどんどん小さくなっており、65㎡くらいが最近の主流となっています。駅近・都心を最優先に夫婦で35㎡程度のマンションを選ぶという極端な方もいるようです」

――35㎡ですか。快適性は犠牲にならないのでしょうか。

 「これまでの物件選びでは各自のプライベート空間を確保するため、部屋数が重視されてきました。現在はスマートフォンさえあれば自分の世界に入ることができるため、リビング中心の生活でも問題がなくなりつつあるようです。また、サブスクや電子化が進みCDや書籍を収納するスペースも大きく取る必要がなくなりました。服や季節家電、子供用品もフリマサイトなど2次流通を上手く活用すれば以前よりも小さな間取りでも都度快適な暮らしを実現できます」

――小さな住まいに合った暮らし方が生まれてきている。

「卵が先か鶏が先かはわかりませんが、今の住宅事情に合った新しい暮らし方が次々と生まれてきています。その際の重要な視点が都度最適です。例えば、自分で料理することをあまり重視していない人には食事付きの賃貸物件や冷凍宅配弁当が非常に人気です。栄養価や味にこだわったサービスが次々と出ており冷蔵庫ではなく冷凍庫と電子レンジが暮らしのベースになっているケースも増えています。また調理しながら食事が楽しめる卓上ホットプレートや材料を入れれば勝手に調理してくれる電子鍋など、時短可能な製品がヒットにつながっているのではないかと思います」

(2024年6月10日号掲載)