オピニオン
愛知大学 国際ビジネスセンター 所長 現代中国学部 准教授 阿部 宏忠
- 投稿日時
- 2022/11/08 14:12
- 更新日時
- 2024/08/19 13:21
習新指導部が直面する人口減少社会という難題
10月23日、中国共産党は今後5年間の党運営を担う政治局常務委員7名を選出した。異例の3期目となる習近平新指導部は、建国百周年(2049年)までに社会主義現代化国家の全面的建設の実現を目指す「第二の百年」目標に向かってスタートを切った。
2049年の中国はどのような社会になっているのだろうか。さまざまな見立てが可能だが、人口構成から概観してみよう。今年7月に公表された国連の世界人口推計2022年版(中位推計)によると、中国の総人口は今年から減少に転じ、2049年には現在より約1億人少ない13憶2100万人となる(表1参照)。年齢区分別では、年少人口は出生数の減少が2032年まで続くことから約1億人少なくなる。一方、高齢人口は2057年(4億3千万人)まで増加の一途をたどる。新規就労者を大きく上回る定年退職者の出現により、生産年齢人口は現在より約2億人も少ない7億8千万人弱に落ち込む。
2049年には年少人口11・4%、生産年齢人口59・0%、高齢人口29・6%の割合となり、偶然にも2022年の日本の人口構成比とほぼ一致する。筆者の住む名古屋市で考えると、今年10月1日時点の公簿人口は12・0%:63・0%:25・0%だから、ここからさらに高齢化が進んだ状態といえるだろう。
■東北三省では生産年齢人口2割減も
今後、人口減少という新たな課題を抱えることになる中国だが、2020年の全国人口センサスでは、実は省単位でみれば前回調査の2010年比で人口減少に転じた地域が6省あった。うち100万人超の減少となったのは東北三省(黒龍江省、吉林省、遼寧省)である(表2参照)。三省の総減少数は三省人口の1割以上にあたる1101万人に達した。
人口が減少に転じた原因としては、①低出生率が続く年少人口②中国トップクラスの高齢化率(遼寧省撫順市の高齢化率は30%超で都市別トップ)③厳しい冬の寒さのほか、経済不振による人口流出が拡大したことなどが挙げられる。東北三省は中国有数の大型国有企業の集積地であり、計画経済時代は中国経済の牽引役を果たしていた。しかし、改革開放政策による市場経済化が進展する中で、構造調整を迫られた結果、経済は低迷し、地域全体の活力が失われていった。
より深刻なのは生産年齢人口の減少で、三省いずれも総人口の減少数を上回る規模に達した。これは有能な若手人材や大学新卒者が、就業条件の良い北京や上海など大都市へ大量に流出していることが大きい。生産年齢人口の減少は単なる労働力不足をもたらすだけではない。個人消費の下振れ、個人所得、納税額の減少、さらには高齢人口増加に伴う医療・保健など社会保障費の増加(財政負担増)をも招いてしまう。
習近平氏が国家指導者に就任して間もない2013年、中国の生産年齢人口は10億人超に達し、ピークアウトした。企業はこの間、自分で稼いて買うことのできるこの年齢層の人々をターゲット顧客と見なし、生産力を増強し、商品・サービスを売りまくった。この年齢層の人々が定年を迎え始めた今、一大セールイベントを終えて供給過剰となった生産力の取り扱いが課題となっている。
「人口は経済を決定する」と言われる。本格的な人口減少社会の到来に対し、3期目となる習近平新指導部はどのように処方箋を提示していくのか。大きな難題を背負った船出といえそうだ。
(2022年11月10日号掲載)