1. トップページ
  2. オピニオン
  3. 川添 達郎 弁護士 下請法改正と製造業の未来

オピニオン

川添 達郎 弁護士 
下請法改正と製造業の未来

投稿日時
2026/04/27 15:51
更新日時
2026/04/27 15:53

いわゆる「下請法」は、法改正により、施行日である令和8年1月1日から大きく姿を変えました。正式名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」、通称「取適法(とりてきほう)」です。用語、適用対象、禁止行為などが見直された今回の改正は、名古屋圏の製造業における実務ルールに大きな影響を与えるものであると考えます。そこで、以下では、改正の要点を整理した上で、若干の私見を述べさせていただきます。

■改正の要点

改正の要点第1は、用語の改正です。「親事業者」は「委託事業者」、「下請事業者」は「中小受託事業者」、「下請代金」は「製造委託等代金」にそれぞれ改められました。上下関係を想起させる従前の呼称が見直され、対等な事業者間の取引であるという法の趣旨がより明確に示されたものといえます。

改正の要点第2は、適用対象の拡大です。従来の資本金基準に加え、新たに従業員基準が導入され、常時使用する従業員数300人超(情報成果物作成委託・役務提供委託の場合は100人超)の事業者を委託事業者とする基準が新設されました(改正法2条8項5号・6号)。したがって、減資等により資本金基準を満たさなくなった場合であっても、従業員基準を充足している事業者には規制が及ぶことになりました。また、金型に加え、木型や治具など専ら物品の製造に用いる物品の製造委託が対象に追加されたほか(改正法2条1項)、製造、販売等の目的物の引渡しに必要な運送を委託する「特定運送委託」が新たに設けられました(改正法2条5項)。したがって、製造業関連の企業・事業者が多数集まる名古屋圏では、部品メーカーのみならず、金型・治具メーカーや物流事業者にも影響が及ぶ改正といえます。

改正の要点第3は、禁止行為の追加です。改正法5条2項4号により、中小受託事業者の給付に関する費用の変動その他の事情が生じた場合において、委託事業者が、中小受託事業者から代金の額に関する協議の求めがあったにもかかわらず、これに応じないこと、又は必要な説明若しくは情報の提供をせずに一方的に代金の額を決定することが禁止されました。また、手形を交付しての支払が禁止され(改正法5条1項2号)、電子記録債権や一括決済方式(ファクタリング等)であっても支払期日までに代金相当額の現金を得ることが困難な支払手段は認められなくなりました。

改正の要点第4は、支払期日の設定に関するものです。委託事業者は、物品等を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内に代金の支払期日を定めなければなりません(改正法3条)。支払期日を定めなかった場合は受領日が、60日を超える期日を定めた場合は受領日から起算して60日を経過した日の前日が、それぞれ支払期日とみなされます。

改正の要点第5は、遅延利息の対象拡大です。改正法第6条2項により、委託事業者が、中小受託事業者に責任がないのに、発注時に決定した代金の額を減じた場合にも、年率14・6%の遅延利息の支払義務が課されることとなりました。

改正の要点第6として、公正取引委員会及び中小企業庁に加え、事業所管省庁も指導・助言を行えるようになり(改正法8条)、通報を理由とする報復措置の禁止の通報先に事業所管省庁が加えられました(改正法5条1項7号)。また、違反行為が是正済みの場合にも再発防止措置等の勧告を可能とする規定(改正法10条)も整備されています。

■法律家の視点から

今回の改正の本質は、一方的な値下げ圧力を前提とした従来の取引構造を見直し、互いの技術と役割を尊重し合う対等な協力関係へと転換する点にあります。改正法が求めているのは、数字と事実に基づく対等な関係における取引です。

実務面では、まず社内文書や契約書ひな型の用語を新法へ切り替えたうえで、自社が委託事業者、中小受託事業者のいずれかの立場に該当しないかを確認し、見積の取り方、価格改定協議の記録、支払条件の総点検を進めることが重要であると思われます。中小受託事業者の給付に関する費用の変動その他の事情が生じた場合には、中小受託事業者からの代金額に関する協議の求めに対し、委託事業者が協議に応じる義務が新設されたことから、原材料費やエネルギー費等の推移について根拠をもって説明できる体制の構築が重要になってくると思われます。なお、発注内容等の明示義務について、中小受託事業者の承諾の有無にかかわらず、電子メールなどによる明示が可能となった点(改正法4条)は、実務の効率化にもつながる改正であると思われます(ただし、電話など口頭で伝えることは認められていないことに留意が必要です)。

今回の改正は、まさに「どえりゃー」大きな転換です。自動車に例えるならば、今回の法改正はブレーキではなく、足回りの整備に相当するものです。名古屋のものづくりを支えてきた事業者間の信頼関係に「説明できる公正さ」を加える好機として、この改正を積極的に活用していただきたいと考えます。



(日本物流新聞2026年4月25日号掲載)