オピニオン
ロックダウン解除も完全回復はこれから
- 投稿日時
- 2021/12/10 13:43
- 更新日時
- 2024/08/19 13:21
JETRO (日本貿易振興機構) Ho Chi Minh Office 所長 比良井 慎司 氏
ベトナムは10月からニューノーマル(新常態)としてワクチン接種を進めることによって新型コロナの感染拡大を抑えつつ経済活動を回復させる政策を進めている。昨日(10月28日)からようやくホーチミン市で飲食店での店内飲食が解禁になった。
私も昨日、5カ月ぶりにフォー(米粉の平たい麺)を店で食べた。ただ、ホーチミン市中心部に並ぶ飲食店はシャッター街になっている。厳しいロックダウンは7月からだったが、5月の末から店内飲食が禁止されていたので経営が厳しく閉店するところが続出した。ロックダウンが解除され、経済活動が回復中だが、完全な克服とはまだ言えない。
ホーチミン市の感染者数はまだまだ多い。ロックダウン解除の10月1日に4372人の感染者が出た。人口900万の都市なので東京都1400万人に換算すると6800人になる。これだけの感染者がいるなかでニューノーマルに切り替えた。
ベトナムの経済成長率の今年の目標は前年比+6・5%(2020年は+2・9%)だった。上半期もコロナ禍の影響はあったものの1︱6月で前年同期比+5・6%と健闘していた。その後南部を中心にコロナ感染が広がり、7~9月は同▲6・2%と大きく落ち込んだ。1~9月で均すと同+1・4%に。7月に入って外出禁止が厳しくなり、工場も社会から隔離する措置をとったためだ。労働者は工場内で生産・食事・宿泊する。工場の中だけで完結させるので「工場宿泊」「工場隔離」とも言われた。それでもいいという労働者が集まれば生産は続けられるが、集まらずに操業を止める工場もあれば、集まっても50%以下で稼働する工場も。製造業はそれでも継続する術があったが、小売店は営業停止を求められ、この近くだとユニクロさんとか高島屋さんも閉まっていた。レストランは当初は店内飲食禁止でテイクアウトは許可されたが、その後それも禁止されデリバリーも止められた。
10月に入ってからはワクチンを接種した人(2回接種した人と1回接種して2週間経った人を含め)が工場で働くことは認められた。通勤ができるようになり、生産活動は回復に向かっている。私のところにもベトナムから日本へ部品が届かないという相談が9月までは寄せられたが、今はなくなった。
■3千ある日系企業
中長期的にはベトナムの経済成長が非常に期待されている。ジェトロでは日本の本社の方にどの国で事業を拡大するかを問う海外ビジネス調査を毎年実施し、ベトナムはだいたい2位で1位は中国。特に去年の今頃はサプライチェーン(SC)の強靭化・多様化が必要と言われ、ASEANを中心に生産拠点を拡大する企業に日本政府は昨年、補助金を出す制度(サプライチェーン多元化補助金)を導入した。今まで4回募集したうち3回は設備に対する補助金で、71案件のうち32件がベトナムだった。それくらいSCの多元化・強靭化にはベトナムが有望というのが企業の定着した評価だった。
ところが今回の厳しいロックダウンで日本にモノが届かない状態に。日本の貿易統計で見ると今年7~8月のベトナムからの輸入は14%減(2262億円→1943億円)。ベトナム側の統計では7月と9月を比べて日本向けが23%減。報道されているように自動車部品が届かないことにより日本で自動車生産ラインが一部停止するなど大きなショックを招いた。
ベトナムは人口規模が大きく、人件費も相対的に見ればまだ安い。若くて豊富な労働力、優秀かつ勤勉な労働者で生産拠点として非常に魅力がある。人口9600万人と市場としても魅力がある。経済成長率約7%は10年経てば経済規模が倍になるということ。ベトナムのGDP(25兆円前後)は日本の都道府県でいうと埼玉県より大きいが東京都、愛知県には及ばない規模。以前はASEANといえばタイというのが常識だった。タイにある日系企業は5~6千社と言われ、商工会議所の加盟企業だけを見てもバンコクで約1700社ある(加盟せずに独自に事業展開する会社も多い)。ベトナムはホーチミン日本商工会議所の加盟数が約1040社。ハノイ、ダナンをあわせると2千社弱で、商工会議所の加盟数はベトナムがタイを上回る。ベトナムの場合、未加盟企業を含めると日本企業は3500社くらいと言われている。
ベトナムといえば1994年にアメリカの経済制裁が解除され、そこからベトナム進出が広がった。この25年ほどで大きく飛躍し日本との貿易額で見てもASEANのなかではシンガポールもインドネシアもフィリピンも抜き、タイに次ぐ。タイと比べても政治が安定しており、市場も拡大していくので中長期的に見れば魅力が大いにある。コロナショックを経てどれくらいのスピードで元に戻るのかが私の関心事である。
(聞き手・編集部)
(2021年11月10日号掲載)