オピニオン
共栄法律事務所 弁護士 西 祐亮 氏/共栄法律事務所 弁護士 松村 美母衣 氏
- 投稿日時
- 2025/01/23 15:18
- 更新日時
- 2025/01/24 09:08
スタートアップと大企業の共創に勝ち筋あり⁈
弁護士に聞く/課題や注意すべきポイント
日本では従来から、産学連携、大企業同士での共同開発による事業展開が行われてきたが、昨今、大企業がスタートアップ企業と共同により知的財産権の取得及び事業展開を行うことで、Win-Winの関係性を築くことができる点に注目が集まっている。西祐亮弁護士と松村美母衣弁護士は「本年も他社と連携することで知的財産権を取得し、知的財産権を利用した事業展開を行う流れは広がりをみせる」と予想する。両弁護士に聞いた。
――共創する際の課題やその対策はなんでしょうか。
西 複数企業による共創が、わが国の競争力を向上させるために重要であることは、疑いようもなく、公的な制度面での整備も進められてきてはいます。しかし、立場の弱い中小企業やスタートアップ企業側は、共創に向けて共同開発契約等を締結するに際して、不利な条件を呑まされるのではないかという不安を有していることなどから、二の足を踏み、契約には至らないケースが散見されています。
その原因として、とりわけ大企業が中小企業やスタートアップ企業と共同開発等について協議するに際して、大企業側に「対等意識」が欠如している点が指摘されています。そのため、とりわけ大企業が中小企業やスタートアップ企業に対して、共同開発等を提案するに際しては、「自社」のビジネスとして連携を提案するのではなく、「両社」で行う新たなビジネスとして、連携することのメリットを提案する必要があります。
――共創のメリットは。
松村 大企業としては、スタートアップ企業や中小企業等との共同開発等を行うことで、競合他社が着目していない視点からの新たな発明や、独自性の高いビジネスチャンスを得ることができ、当該市場における競争力を強化することに繋がります。また、そのことは、中小企業がスタートアップ企業と共同開発等を行う場合も同様であり、中小企業もスタートアップ企業との共創を積極的に検討すべきです。
大企業と共同開発を行うスタートアップ企業や中小企業等においても、実績のある企業と共同開発等を行うことで、当該企業から知的財産権の取得に関するノウハウ等の提供を受けられる他、知的財産権の共同取得、新規事業創出、販路開拓の機会を得ることができます。
――対等な契約締結が重要ということですね。
西 共同開発等を行うに際して重要な契約や合意事項はいくつもありますが、両社の対等関係を前提に契約内容を確定する必要があります。中小企業庁では、「知的財産取引に関するガイドライン」が設定される他、共同開発契約書及び秘密保持契約書等のひな型の改正版が公表されました。同ガイドラインは、大企業と中小企業との間での共同開発を念頭に記載されていますが、企業規模を問わず、有意義なものであると考えられます。
松村 共同開発契約を締結するに際して重要な点としては、(1)共同開発によって得られた知的財産権の帰属は原則として共有とし、持分比率は発明等への貢献比率を貢献に応じて、協議して決める。(2)共同開発によって得られた知的財産権の実施については、条件や費用を協議する。特に、一方当事者が不実施を誓約する場合(中小企業等を想定)には、対価を支払う。(3)取引とは直接関係なく、又は、一方当事者(中小企業等を想定)が相手の秘密情報に依拠せず独自に開発した発明は、発明した者(中小企業等を想定)に帰属する。(4)両当事者が秘密保持義務を負う。(5)技術・ノウハウに関して意に反した情報提供義務を負わないことが挙げられます。
――他社との共創で自社の競争力を強化できるのでしょうか。
西 製造業界において、知的財産権の取得を行い、自社企業の強みを確立することが必要であることは周知の事実です。共創するに際しては、事業として成功するかについて慎重な判断は求められますが、スタートアップ企業や中小企業との共同研究開発を行うことは、これらの企業が有するアイデアを知的財産権にまで昇華させることで、連携する企業にとっても、新たなシナジーの創出やコア・コンピタンスを再構築する機会となり得るものであり、そのメリットは非常に大きいと考えられます。
松村 少子化や理工系離れが進み、研究開発人材の確保が困難となっている中、既存の実績ある企業が中小企業やスタートアップ企業と連携することで、チャレンジ精神のある人材の育成や活用を図り、企業しいては日本の競争力が向上することを期待しています。
(日本物流新聞2025年1月25日号掲載)