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オピニオン

リンクアンドモチベーション 組織人事コンサルタント 岩崎 健太 氏

投稿日時
2025/01/23 15:09
更新日時
2025/01/23 15:12

見直し進む人事改革
製造業の人手不足を救う「人事制度改革」とは 

近年、製造業は深刻な人手不足に悩まされている。「2024年版ものづくり白書」によると、製造業の就業者数は約20年間で147万人も減少しており、34歳以下の若年就業者数も同期間で125万人程度減少してきた。このように、深刻な労働力不足に直面する製造業では、人事改革が急務となっている。

前提として、人手不足は多くの業界が抱える共通課題であり、その中でいかに企業成長させられるかが求められている。しかし、製造業は他業種と比較しても特に人手不足が深刻化している。厚生労働省の調査では2024年10月の製造業の有効求人倍率は約1.59倍。全業界の全体平均は1.16倍であり、他業種よりも深刻な状況に陥っているといえる。なぜ、製造業で人手不足が深刻化しているのか。

かつて、日本の経済成長を支えた製造業は、高専や理系大学・大学院と脈々と続くコネクションによって、技術のある人材を安定的に確保してきた。しかし、コロナ禍には大学訪問などが行えず、待遇面以外の仕事の魅力の発信や学生のフォローアップが十分にできなかった。そのため、人材獲得に対して積極的な施策を打つ他業種に競り負けるという、これまで経験したことのない状況が続いている。

また、近年企業のクチコミサイトやSNSが普及したことで、入社前に企業の実態や他業種との比較を容易に行えるようになったことも状況を難しくしている。つまり、「工場が全国にあるため、配属先を選べないのが厳しい」「エンジニアは残業時間も多く退職者が増えている」といった人事制度を含む会社組織・風土に対する不満が可視化され、金融、コンサルティング、商社などの他業種が選ばれる傾向が強まっている。

■再雇用や女性活躍に力を入れる企業も

こうした中、人的資本情報の開示が義務化されたことも相まって、大手製造業では人事制度を見直す動きが増えてきている。当社の調査によると、「人材の獲得」と「人材の定着」を軸に、4つのトレンド(ジョブ型雇用・再雇用・女性活躍・キャリア形成)が見えてきた。

(1)ジョブ型雇用 激しい市場変化に適応し、より事業成長につながる人材への投資を行うために、職務範囲を絞ってより高い専門性を発揮させることを目的としたジョブ型雇用への意向を進める企業が多くなっている。例えば、事務機器を製造するA社では、ジョブ型雇用を導入し、管理職登用については職務記述書(JD)を基に判断するほか、昇進プロセスに昇格試験を廃止した。結果、実力のある若い社員を管理職に登用できるようになり、30代の管理職が導入前と比べて4倍に増え、社員が柔軟にキャリア形成を考えることが可能となった。

(2)再雇用の仕組みの整備 人手不足への対応として、退職した社員を再雇用する「アルムナイ採用」を整備する企業も増えている。例えば、大手重工業メーカーのB社では、自己都合で退職した元社員を対象に再入社を促す制度を導入。この制度により、退職者は専用サイトで求人情報を閲覧したり、再就職に関する悩みをコーディネーターに相談することが可能なった。導入後、予想以上の反響があり、半年もたたないうちに数百人が登録し、数人の内定者も出ている。

(3)女性が働きやすい環境づくり 近年、工場で働く女性が増えていることから、女性が働きやすい職場環境を整える取り組みも進んでいる。例えば、自動車部品を製造するC社では、時間単位の有給制度を導入したことで、子育て中の女性が少しの間仕事を抜けて子供を病院に連れていけたり、保育園の行事に参加するために外出できるような仕組みづくりを行った。その他、女性管理職登用などにも積極的に取り組み、特に女性活躍の取り組みが優れている企業である「プラチナえるぼし認定」を取得。新卒・中途問わず、優秀な女性社員の採用にも良い影響が出ている。

(4)「評価制度の変更」を通じたキャリア形成機会の提供 多様な業務ができる従業員を高くする「評価制度の変更」に取り組む企業も増えている。自動車の外装部品の製造を行うD社では、従業員の多能工化を目指し、多能工化に重きを置く評価制度を設計した。結果、評価制度の変更によって、従業員自らがスキルアップの機会を求め、挑戦していく風土が醸成されるようになった。

こうした見直し自体を積極的に開示し、人材獲得や企業価値向上に繋げたい動きも見られる。一方で、2000年の創業以来、製造業の企業改革を支援してきた当社の経験からすると、制度改革のみで劇的に人手不足を解消することはできない。制度改革と併せて、社員のエンゲージメントを高める「強い組織づくり」に主軸を置く必要がある。



(2025年1月25日号掲載)