オピニオン
愛知大学 国際ビジネスセンター所長 現代中国学部 准教授 阿部 宏忠
- 投稿日時
- 2024/11/13 09:12
- 更新日時
- 2024/11/13 09:31
消費マインドと「高品質な発展」
中国経済の減速が続いている。10月中旬に発表された第3四半期(7-9月)のGDP実質成長率は4.6%と、2四半期連続の減速となった。1-9月の同成長率は4.8%と、政府の今年の成長率目標5%を割り込んだ。
成長減速の主因は消費の低迷だ。中国政府はコロナ禍で落ち込んだ消費を回復させようと、家電や自動車の買い替え補助金など各種消費促進策を断続的に打ち出してはいるものの、消費の盛り上がりは一向にみられない。国家統計局が毎月公表している中国消費者信頼感指数をみると、9月は85.7と、ゼロ・コロナ政策解除前の2022年11月の指数値(85.5)以来の低さにまで落ち込んでいる(グラフ参照)。
長引く国民の消費マインドの低迷は、需要不足による販売不振をもたらす。物価が下落し、企業収益の悪化が続けば、企業は生産調整を余儀なくされ、賃金カットや人員整理、新規採用の抑制などを選択せざるを得なくなる。不景気を実感した国民は生活防衛のため、消費よりも貯蓄を一層優先するようになり、消費マインドはさらに冷え込んでいく。最近の中国の主要経済データは、まさにこのデフレスパイラルの定石を踏んでいるようにみえる。
■「高品質な発展」が意味するもの
習近平政権は、これまで一貫して、社会の安定を最優先とした経済運営を行ってきた。それは政府の掲げる毎年の経済成長率目標が前年水準並み(7.5%〜5%)に設定され、コロナ禍の時期を除き、ほぼ目標どおりに達成されてきたことからもうかがえる。
安定した経済成長率を維持する一方で、その中身には質的な変化を求めてきた。「高品質な発展」である。量(規模)がものをいう大国ではなく、質の高い強国を目指す戦略だ。
高品質な発展は、習近平政権が第2の百年目標(建国百周年の2049年)として定めた「社会主義現代化国家の全面建設」における最優先任務に位置づけられている。そのため、「高品質」はいまや中国のあらゆる分野の発展戦略で用いられるキーワードとなっている。9月に公布された中国共産党中央委員会および国務院「就職優先戦略の実施による高品質な完全雇用の促進に関する意見」(以下「意見」)でも用いられた。
デフレ傾向を示す中国経済にあって、就業問題の解決は社会の安定にも欠かせない最重要課題のひとつである。中国では、特に大卒者など若者の就業難が大きな社会問題となっている。国家統計局が公表した中国都市部の16—24歳(在校生は含まず)の失業率(今年7—9月)は月平均で17.8%と深刻な状況が続いている。
高い失業率の主な原因は、社会構造上の矛盾から生じている雇用のミスマッチだ。「意見」ではその解消に向け、社会ニーズに合わせた高度人材の育成と輩出、生涯にわたる職業訓練システムの改善などが提起されている。
ここで、「品質」とは何かを改めて考えてみたい。品質が高いかどうかは誰が決めるのか。それは提供する側(売り手)ではなく、受け取る側(買い手=顧客)である。提供される対象が顧客の要求や期待(事前期待)と一致すれば、顧客は一定の満足を感じ、それを価値あるものとみなすだろう。「高品質」となれば、顧客の事前期待を上回るレベルが求められる。そのためには、提供する側は顧客をよりよく理解しなければならない。
国家の発展戦略として「高品質」を掲げる中国にとって、その便益を受け取るのは中国国民にほかならない。中国政府は中国国民の事前期待をどう認識しているのか。その期待を上回るために何をなすべきか。高品質な発展が掛け声にとどまらず、真に実現していくとき、中国国民の信頼は回復し、消費マインドも自ずと高まっていくだろう。
(日本物流新聞2024年11月10日号掲載)