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オピニオン

日本工業大学 工業技術博物館 館長 清水 伸二 氏 (上智大学名誉教授)

投稿日時
2024/10/29 09:15
更新日時
2024/10/29 09:19

JIMTOFの歴史を振り返る

60年以上の歴史のあるJIMTOF。これまでにどんな驚きを来場者に与えてきたのだろうか。工作機械メーカー出身で大学教授でもあった工業技術博物館の清水伸二館長に振り返ってもらった。

しみず・しんじ 1948年埼玉県生まれ。上智大学大学院理工学研究科修士課程修了後、大隈鐵工所(現オークマ)で研削盤の設計部門に従事。上智大学教授などを経て2019年から現職。

展示規模が限られるJIMTOFは凝縮された新技術披露の場に

――今年のJIMTOFは32回目の開催を迎えます。清水館長のJIMTOFとの関わりはいつ頃からでしょうか。

「私が上智大学4年生だった1970年(第5回)から毎回ほぼ欠かさずに見学しています。当時の私が所属した研究室の指導教員であるお二人の教授は、工作機械と加工分野では著名な先生方でしたので、毎回『JIMTOFで実機をじっくり見てきなさい』と言われたものです。修士課程を修了した後、オークマに入社しました。その後、上智大には1978年に博士課程の学生として戻ってきたので、修士の学生と一緒にJIMTOF見学に欠かさず行っておりました。当時は東京と大阪で交互に開催され、大阪開催時には前日の夜行バスで移動して、1日見学してその日の夜にまた夜行バスで戻ってくるというハードなスケジュールでした。私が学生の頃はFMS(フレキシブル生産システム)がはやり始めた頃で、機械周りにパレチェンやローダー、ロボットなんかもあって『すっげー』と釘づけになっていたのを覚えています」

――これまでのJIMTOFの展示内容でとりわけ印象深いものは。

「1990年頃からを振り返ると、主軸回転の高速化が進められ、それに伴いツーリングはBTシャンクでは工具の主軸穴内への引き込まれ現象が起きるようになり、2面拘束形のHSKツールシャンクが登場しました。送り駆動系もリニアモーター駆動による高速送りが進められ、5軸マシニングセンタ(MC)、6本のリンクで主軸頭を6自由度に制御するパラメカ機、ターニングセンタにミーリング主軸が付いた複合加工機、それにMCにターニング機能が付いた複合加工機も登場しました。そしてレーザー微細加工機、AM(3次元積層造形)などと現在に至っています。私にとって最も印象深いのは2000年頃に製造されたパラレルリンク形のMC。JIMTOFだけでなくIMTSやEMOでも海外の各社が様々なタイプを披露しました。摺動面が要らず6本のボールねじの伸縮で主軸頭を素早く動かせるタイプの機械です(=写真)。加工精度・剛性がやや劣りますが、日本ではタイヤ金型の加工などに使われていました」

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工業技術館に動態保存するオークマのパラレルリンク形マシニングセンタ「PM-600」(2002年製造)。6本のボールねじを伸縮させることで主軸の位置と姿勢を制御する。

――パラレルリンク形ですか、今では見られませんね。

「いえいえ、昨年のEMOではパラレルリンク形MCがワーク形状に合わせて水平移動するリンクスライド式のものを欧州のメーカーが披露しました。発想が素晴らしく、大型のギガキャスト製品の加工に向いていると思いました。パラメカ機はこのようにまだまだ使い道があり、これからまた復活すると思います。でも私がいいと思うマシンは消えていくようです。見る目がないのでしょう(笑)」

■使いこなせる自動化望む

――海外の工作機械展との違いをどう感じていらっしゃいますか。

「EMOは規模が違います。欧州では企業も国も工作機械産業に投資し新しいモノができるといういいサイクルもできています。IMTSは成熟した機械をビジネスにつなげる役割を持っているようです。JIMTOFは展示規模が限られますから、新技術の出展数も限られているかと思います。その割には様々な新技術が披露されてきました。たとえば加工後の組立を考えてのセット生産方式のターニングセンタ(ヤマザキマザック)、加工空間をうまく使った4つの刃物台をもつターニングセンタ(中村留精密工業)、切屑処理が容易なベッドレスのMC(ホーコス)、コンパクトなモジュールマシンをロボットで繋ぐモジュール型生産システム(FUJI)、3つの自動盤モジュールをコンパクトに組み込んだセルマシン(シチズンマシナリー)……などが印象に残っています」

――今年のJIMTOFで最も楽しみにしていることは。

「コンクリートなど新素材を採用した工作機械が見られるかどうか、楽しみにしております。あと自動化の提案は多いでしょうが、自動化のコンセプトが大事と思います。人が何も考えなくなるようなものではなく、人のスキルのみをサポートするような自動化であってほしいですね」

――人のスキルのみをサポートする、ですか。

「AIが装置にどんどん採り入れられています。作業者はそれらを道具として自ら主体的に使いこなすというのが私がイメージする自動化の姿です。このようなかたちであれば自動化がますます進んでも作業者は自分の仕事に達成感を得ることができます」

――日本の性能を超えたと一部で高く評価される中国の工作機械メーカーもありますね。

「加工精度などの面で日本のメーカーを超えたと言われることがあり、侮れません。機構部品だけでなくNCなどソフトを含めて1社ですべて揃える勢いのあるメーカーもあります。NCがいま最も重要な要素の1つになっていますから、NC装置メーカーに丸投げではなく自社製のNCと言えるくらいに自社の制御装置としてカスタマイズして使えるレベルにする必要があるかと思います。欧州同様、中国では国絡みで工作機械産業にお金をかけます。経済安保と同じ文脈でまじめに考える必要があります」

(日本物流新聞2024年10月25日号掲載)